2017/07/20

独断的映画感想文:裸足の季節

日記:2017年7月某日
映画「裸足の季節」を見る.1
2015年.監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン.
出演:ギュネシ・シェンソイ(ラーレ(末っ子の五女)),ドア・ドゥウシル(ヌル(四女)),トゥーバ・スングルオウル(セルマ(次女)),エリット・イシジャン(エジェ(三女)),イライダ・アクドアン(ソナイ(長女)),ニハール・G・コルダシュ(祖母),アイベルク・ペキジャン(エロル).2_2
トルコの田舎町に住む13歳から20歳の5人姉妹,両親を事故で失い,今は祖母の家から学校に通っている.
或る日学校の帰りに男子学生と共に海辺で遊んで帰ると祖母が怒っており,姉妹は折檻を受ける.肩車をしていたことを,近所の未亡人から男の首に性器をこすりつけて遊んでいたと通報された為だった.
伯父のエロルが更に激昂,姉妹は学校を止めさせられ,処女検査を受けたうえ家に監禁される.家の塀や窓は鉄格子で覆われ,姉妹は化粧品もPCも電話機もおしゃれな服も全て取り上げられる.3_2
代わりに伝統的な服を着せられ,料理や縫い物等の伝統的家事を教え込まれる.
家を抜け出してサッカー見物に行ったことがバレ,姉妹は上から順に見合い・結婚を強制されるが….
学校は西欧的なのに家は因習的,都会は開放的なのに田舎は閉鎖的,トルコ社会の一面を描いたこの映画は衝撃的である.
長女はボーイフレンドの親から自分に求婚させることに成功するが,次女はその日会った男性とその場で婚約する羽目になり,3女には更に悲劇的な運命が待つ.
4女の結婚に至って残された2人は必死の闘いを繰り広げる….4_2
美しく魅力的な姉妹や青春期特有の明るい挙動の描写と,彼女たちへの因習的な取扱の対比が著しく,映画の問いかけを重く受け止めざるを得ない.
オーディションで採用された5人の少女達が素晴らしく,またカメラ・音楽が美しく映画としての魅力に満ちている.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:悪童日記

日記:2017年7月某日
映画「悪童日記」を見る.
0
2013年.監督:ヤーノシュ・サース.
出演:アンドラーシュ・ギーマント(双子),ラースロー・ギーマント(双子),ピロシュカ・モルナール(祖母),ウルリク・トムセン(将校),ウルリッヒ・マテス(父),ジョンジュヴェール・ボグナール(母).3
一部ネタバレあります.
ハンガリー国境沿いの村に疎開してきた双子の兄弟,母親は彼等を不仲の実母(おばあちゃん)に預けて首都に去る.おばあちゃんはかって夫を殺したと疑われ,人々が「魔女」と密かに呼ぶ女,双子はその日からこき使われる.
双子はおばあちゃんの手伝いを確実にしてのけると共に,自学自習し,困難に耐える訓練を自分たちに課し,戦争で荒みきった社会をしたたかに生き抜いていく….4
アゴタ・クリストフの1986年のベストセラーを映画化した作品,原作で今ひとつ実感の湧かなかった双子が見事に具現化された.
大人の様で子供,一人の様でふたりの双子の主人公が,誠に効果的に描かれている.
全体の雰囲気が,寓意性のあるスラブ民話の様になっているのも印象的.音楽が素晴らしいと思ったら,最近「メッセージ」や「ボーダーライン」でお馴染みとなったヨハン・ヨハンソンだった.2
また双子の父親で惨めな兵士を演じているウルリッヒ・マテスは,「ヒトラー 〜最期の12日間〜」でゲッベルスを演じていた人である(何となく皮肉な感じを受ける).
映画全体としては,原作の衝撃的内容を良く表現し得ている.只,原作でもその理由が良く判らなかった,最終場面での双子の別離の理由は,映画でも観客の想像に任されている様だ.
★★★☆(★5個が満点)
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2017/07/10

番外:独断的歌舞伎感想文 歌舞伎6月大歌舞伎 夜の部 鎌倉三代記/御所五郎蔵/一本刀土俵入

日記:2017年6月某日
「歌舞伎6月大歌舞伎 夜の部」を見る.Img_20170625_1555172
「一、鎌倉三代記(かまくらさんだいき) 絹川村閑居の場」.出演:佐々木高綱(幸四郎),時姫(雀右衛門),三浦之助義村(松也),阿波の局(吉弥),讃岐の局(宗之助),富田六郎(桂三),おくる(門之助),長門(秀太郎).「河竹黙阿弥 作 二、曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵」.出演:御所五郎蔵(仁左衛門),傾城皐月(雀右衛門),子分 梶原平平(男女蔵),同  新貝荒蔵(歌昇),同  秩父重助(巳之助),同 二宮太郎次(種之助),同 畠山次郎三(吉之丞),花形屋吾助(松之助),傾城逢州(米吉),甲屋与五郎(歌六),星影土右衛門(左團次).「長谷川 伸 作 村上元三 演出 三、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」.出演:駒形茂兵衛(幸四郎),お蔦(猿之助),堀下根吉(松也),若船頭(巳之助),船戸の弥八(猿弥),酌婦お松(笑三郎),お君(市川右近),庄屋(寿猿),老船頭(錦吾),河岸山鬼一郎(桂三),清大工(由次郎),船印彫師辰三郎(松緑),波一里儀十(歌六).
なかなか充実した番組で,時代物,世話物,新作それぞれの楽しさを堪能した.
鎌倉三代記は元来筋が良く飲み込めず,時姫と三浦之助のやり取りが終いに苛々してくるのだが,雀右衛門の時姫は流石の貫禄,短い出だったが秀太郎の長門が印象的な演技だった.
幸四郎は相変わらず何を言っているのか判らない.
御所五郎蔵は仁左衛門の五郎蔵が秀逸.
五郎蔵は素寒貧のパッパラパーとしか思えないこの物語だが,仁左衛門が演じると,左團次の土右衛門の対応とも良く合って,美しい男伊達の破滅の物語に見えてくるから不思議.
米吉の逢州が健闘.
一本刀土俵入りは,今更に良く出来た芝居だと感心する.
最初の場,お蔦の猿之助は殆ど正面を向かない横顔と背中の芝居で,ほろりとさせる.茂平の朴訥な応答もしんみりする.
後半は10年後の物語だが,10年間のお蔦と茂平の変貌が説得力があって面白い.
やくざ茂平の貫禄と実力が圧倒的なら,お蔦もしっかり子供を守る女房になっている.これを演ずる幸四郎・猿之助がいずれも素敵.
船戸の弥八を演じる猿弥も良かった.中間の川べりの場がのどかな雰囲気で好きだが,ここでの錦吾,由次郎等も良かった.
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番外:独断的歌舞伎感想文 歌舞伎6月大歌舞伎昼の部 名月八幡祭/浮世風呂/弁慶上使

日記:2017年6月某日
「歌舞伎6月大歌舞伎昼の部」を見る.Kabukiza_201706ff_dad53efc912c9a257
「池田大伍作・池田弥三郎演出・大場正昭演出一、名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」.出演:縮屋新助(松緑),芸者美代吉(笑也),藤岡慶十郎(坂東亀蔵),魚惣(猿弥),魚惣女房お竹(竹三郎),船頭三次(猿之助).「木村富子 作 二、澤瀉十種の内 浮世風呂(うきよぶろ)」.出演:三助政吉(猿之助),なめくじ(種之助).「三、御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち) 弁慶上使」.出演:武蔵坊弁慶(吉右衛門),侍従太郎(又五郎),卿の君/腰元しのぶ(米吉),花の井(高麗蔵),おわさ(雀右衛門).
名月八幡祭は,田舎者新助の悲劇,芸者美代吉も遊び人三次もさほどの悪ではないし,新助が騙されたと言っても金をだまし取られた訳ではない.魚惣の言ったとおり『呆れてものも言えねえ』というのが正解.
松緑の新助は,あまりにぺこぺこしすぎではなかろうか?しかし魚惣の窓から美代吉を見るシーン,最後の本水を使った斬殺シーンは良かった.猿弥の魚惣も素敵.
浮世風呂は猿之助の軽妙自在な踊りが好ましい上,種之助のナメクジが純情可憐で可愛らしい.
この踊りの発想そのものが実にしゃれていてこころ楽しいものがある.最後ナメクジがスッポンに落とされて上から塩をまかれちゃうのも,傑作.
弁慶上使は子殺しもの,嫌いなタイプである.吉右衛門はアフロのカツラで熱演,雀右衛門・米吉も良かったが,物語の後味は悪い.
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2017/07/04

独断的映画感想文:ボーダーライン

日記:2017年6月21日
映画「ボーダーライン」を見る.1
2015年.監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ.
出演:エミリー・ブラント(ケイト・メイサー),ベニチオ・デル・トロ(アレハンドロ),ジョシュ・ブローリン(マット・グレイヴァー),ヴィクター・ガーバー(デイヴ・ジェニングス),ジョン・バーンサル(テッド),ダニエル・カルーヤ(レジー・ウェイン).
FBIの女性捜査官ケイトは,チームと共に麻薬関連の誘拐組織の拠点を急襲するが,仕掛けられた爆弾で犠牲者を出す.2
その後,ケイトはメキシコの麻薬組織「ソノラ・カルテル」撲滅の為の特殊チームに選抜され,志願する.チームのリーダー・マットはCIAで,同行する案内人アレハンドロの所属は不明.
チームは国境を越えメキシコのファレス市で組織の幹部ディアスの弟のギレルモを引き取るが,帰路の渋滞で車列は組織の襲撃を受け,マットのチームは一般車のいる車道での銃撃戦で襲撃者を壊滅させる.ケイトも襲ってきたメキシコ警官に応射する.3
アレハンドロはギレルモを拷問してディアスの居所を聞き出し,更にマットのチームは不法移民者の尋問から密輸トンネルの場所を特定,トンネルへの攻撃を準備する.
ケイトの選抜は,CIA単独では禁止されている捜査を,FBIとの連携を大義名分に行う為だったと判明,ケイトは上司にマットの違法捜査を報告するが….
法と秩序ではどうしようもない麻薬戦争の凄惨な現場を,ケイト,マット,アレハンドロという3者の視点から描く.プロットは複雑で,誰が誰の味方なのか敵なのか,判断しきれないまま物語は進行する.
4
しかし画面の緊張感は高く,壮烈な争闘のシーンがテンポ良く展開されていくのが印象的.3者の演技がそれぞれに良いが,何と言っても謎の殺し屋アレハンドロを演じるベニチオ・デル・トロの存在感が凄い.
また,監督と「メッセージ」でもコンビを組んでいるヨハン・ヨハンソンの,第88回アカデミー賞音響編集賞及び作曲賞にノミネートされた音楽が素晴らしい.見応えのある映画.
★★★★(★5個が満点)
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2017/06/28

独断的映画感想文:ヒメアノ~ル

日記:2017年6月某日.
映画「ヒメアノ~ル」を見る.0
2016年.監督:吉田恵輔.
出演:森田剛(森田正一),濱田岳(岡田進),佐津川愛美(阿部ユカ),ムロツヨシ(安藤勇次).
何という満足もなく日々を暮らしている清掃会社のバイト・岡田は,先輩の安藤から喫茶店のバイト・ユカへの恋のキューピッド役を強制される.1_2
一緒に行った喫茶店で高校の同級生・森田と再会した岡田は,ユカから森田がストーカーらしいと相談を受ける.安藤先輩は自分らがユカを守ると色めき立つが,安藤先輩の告白を伝えた岡田に,ユカは岡田が好きだと打ち明ける.
安藤先輩との関係に悩みつつ,岡田はユカと深い仲になってしまうが,それを知った森田は岡田を殺そうと動き始める.森田は高校生の時,自分をいじめ抜いた同級生を襲って殺した過去があった….
コミックを原作とした映画.2
前半はちょっと気味の悪いラブコメかと思いきや,後半は猟期連続殺人事件となる.原作がコミックのせいか,登場人物のキャラクターがいちいち極端すぎて,穏やかな気分で画面を見ていられない.
一方でそのキャラクターを演じる俳優はいずれも好演,特に画面に登場した瞬間から強烈な違和感を発散する森田剛,こういう先輩とだけはつき合いたくないと思わせるムロツヨシは,見応えあり.安藤先輩はむしろ,更に尖って活躍した方が良かったと思うが,意外な結末となったのは残念.
面白かったが生理的には見辛い映画.
★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:クリミナルズ

日記:2017年6月某日.
映画「クリミナルズ」を見る.1
2011年.監督:ガブリエル・ペルティエ.
出演:ピエール=フランソワ・ルジャンドル(アンドレ・シュプレナン巡査部長),ブリジット・ポゴナ(サボワ巡査),ノルマン・ダムール(ジングラ巡査部長),ミシェル・ラピリエール(アセリン),ステファニー・ラポワント(ロザリー).
フランス語圏カナダの映画.一部ネタバレあり.
海に囲まれた孤島で,地元市長の娘が殺害・暴行される事件が発生,地元警察のアンドレ巡査部長と派遣されてきた殺人課の刑事が,互いを意識しながら捜査を進める.
捜査の常道を進める刑事と地元ネットワークを駆使して容疑者をリストアップしていくアンドレ達地元勢.アンドレは別居中の妻と同居している娘がおり,娘は被害者とも夜遊び仲間だったらしい.
相棒のサボワ巡査はアンドレに心酔しているが,アンドレは水を見るとパニック障害になる持病もあって,悩みは絶えない状況.
映画の方は本格的ミステリーで,謎解きの面白さを追求する展開だが,登場人物は多く話は込み入っていて,殺人事件に並行して麻薬の密輸という事件も絡んでおり,事件背景もいまいち掴みにくい.
結果はアンドレの推理が的中してめでたしめでたしとなるかと思いきや,犯人逮捕という結果にはならず,やはりアンドレは詰めが甘い.あまりすっきりとはしない結末だった.という訳で★★☆(★5個が満点).
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2017/06/23

独断的映画感想文:クー嶺街少年殺人事件

日記:2017年6月某日
映画「クー嶺街少年殺人事件」を見る.
1991年.監督:エドワード・ヤン.1_2
出演:チャン・チェン(小四(シャオスー)/張震),リサ・ヤン(小明(シャオミン)),ワン・チーザン(王茂/小猫王(ワンマオ/リトル・プレスリー)),クー・ユールン(飛機(フェイジー)),タン・チーガン(小馬(シャオマー)),ジョウ・ホェイクオ小虎((シャオフー)),リン・ホンミン(ハニー),チャン・ホンユー(滑頭(ホアトウ)),ワン・ゾンチェン(二條(アーティアオ)),タン・シャオツイ(小翠(シャオツイ)),ヤン・シュンチン(山東(シャンドン)).2_2
国民政府が大陸から台湾に撤退して10年たった1960年,台湾国内はまだ安定せず社会は不安に覆われていた.
上海から移住した張家の次男・小四は夜間中学に通っている.小四の同級生・王茂(ワンマオ),飛機(フェイジー),滑頭(ホアトウ)らは「小公園」という不良グループに属していたが,リーダーのハニーは対立グループ「217」のボスを殺して台南に逃げたらしい.
小四が学校で知り合った少女小明は,ハニーの女だという.小明と親しくなった小四は,ある日対立グループ217に見つかり因縁をつけられるが,転校生で軍の指令官の息子小馬に助けられる.
217グループとの抗争,学校の隣の映画スタジオへの潜入,小明や小馬を中心とした級友達とのつき合いに,小四の生活は過ぎて行くが,或る日ハニーが台南から戻ってくる.一方,小四の父はある晩突然,秘密警察に連行される….3_3
国民政府がまだ大陸反攻を呼号していた1960年代の台湾を舞台に,中学生による殺人事件とその社会的背景を描く映画.
中学とは言え,夜間部だけにかなり年かさの生徒や様々な境遇の生徒がいるうえ,国家の締め付けも厳しく学生生活は緊張感に満ちている.
そのなかで比較的真面目に過ごしていた小四が,ハニーと出会ったことで受けた影響が,思わぬ悲劇に繋がっていく展開が印象的だ.4_2
小四を演じたチャン・チェンはこの映画の後「レッドクリフ」の孫権役等で活躍している.小明は母子家庭の貧しい娘で,大人と子供の両面を持つ複雑なキャラクターだが,演ずるリサ・ヤンはやや魅力不足だったか.いずれにしろ登場人物が大勢で,その人間関係を掴むのも一苦労だった.
本編は4時間に及ぶ長尺で,映画そのものに退屈はしないが,3時間を越すあたりでは中座する客が出始め集中を削がれた.
映画の中でラジオから「潮来笠」の台湾語バージョンが流れていたり,この時代の台湾の風景も興味深い.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ハドソン川の奇跡

日記:2017年6月某日
映画「ハドソン川の奇跡」を見る.1
2016年.監督:クリント・イーストウッド.
出演:トム・ハンクス(Chesley 'Sully' Sullenberger),アーロン・エッカート(Jeff Skiles),ローラ・リニー(Lorraine Sullenberger),アンナ・ガン(Elizabeth Davis).2
2009年1月15日に発生した,USエアウェイズ1549便ハドソン川着水航空事故の顛末.
840mの低空で鳥の群れと遭遇,両エンジン停止という事態に直面したサレンバーガー機長は,冷静で敏速な判断でハドソン川への着水を敢行,乗員乗客155名は全員無事だった.
機長は一躍国民的英雄ともてはやされたが,国家運輸安全委員会の事故調査には左エンジンには推力があったというデータと,コンピュータシミュレーションではラガーディア空港に帰還可能だったという資料が提出され,機長は厳しい追及を受ける….3
95分間の作品.
この物語の経過と結末は誰もが知っているので,国家運輸安全委員会の結論や各委員の発言等に,大きな脚色は加え得ないと思われる.その為,委員会の結論がどうなるかというドキドキはらはらは感じない.
一方,困難な状況とPTSDとも思える事故後の不安の中で,機長が事故に対処しその後の委員会への対応もきっちりしていたことが示され,感銘的だ.
4
サレンバーグ機長という,アメリカ人が安心して賞賛できるヒーロー像を過不足なく描いて,映画として成功している.
★★★☆(★5個が満点)
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2017/06/10

独断的映画感想文:グランド・フィナーレ

日記:2017年5月某日
映画「グランド・フィナーレ」を見る.1
2015年.監督:パオロ・ソレンティーノ.
出演:マイケル・ケイン(フレッド・バリンジャー),ハーヴェイ・カイテル(ミック・ボイル),レイチェル・ワイズ(レナ・バリンジャー),ポール・ダノ(ジミー・ツリー),ジェーン・フォンダ(ブレンダ・モレル).
2
英国の世界的作曲家・指揮者フレッドは現役を引退し,スイスのリゾートホテルで優雅に休暇を過ごしている.
親友で映画監督のミックは,現役最後の映画を撮ろうと同じホテルで脚本を制作中,主演と頼む女優ブレンダの到着を待っている.
3
フレッドのもとに,皇太子の誕生日記念に彼の名曲「シンプル・ソング」を指揮する様,女王陛下の依頼の使者が来るが,フレッドは何故か断り続ける….
高級リゾートホテルで繰り広げられる,フレッドとミック2人の人生の終盤を語る物語.4
凝りに凝った映像,美しい音楽(特に「シンプル・ソング」は,期待に違わぬ美しさだ),マイケル・ケインの殆ど動かない静謐の演技と,ハーベイ・カイテルの淡々としながらも決然とした演技は,いずれも素晴らしい.5
映画はリゾートホテルでのエピソードを積み重ね,物語が動くのは最終局面に入ってからだが,全く退屈することはない.
最後の演奏場面が終わった後の深い感銘が心に残る映画.
★★★★(★5個が満点)
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2017/06/07

独断的映画感想文:ひつじ村の兄弟

日記:2017年5月某日
映画「ひつじ村の兄弟」を見る.
1
2015年.監督:グリームル・ハゥコーナルソン.
出演:シグルヅル・シグルヨンソン(グミー),テオドール・ユーリウソン(キディー),シャーロッテ・ボーヴィング(カトリン).
2
日本では珍しい製作国:アイスランド/デンマークの映画.
アイスランドの辺境の地でひつじを飼うキディー・グミーの兄弟.優秀なひつじの育成に心血を注ぎ,品評会では常に優勝争いを演じる2人だが,「もう40年も口をきいたことがない」という極端な不仲.
ところがある年,優勝したキディーの羊が疫病に冒されていたことが判明する.5
村の羊は全頭殺処分と決まり,村は悲嘆のどん底に突き落とされるが,老兄弟にとって優れた血統の羊を失うことは,特に厳しい痛手だった.
当局から羊の殺処分と飼料・飼育施設の可燃部分の全面廃棄を命じられた二人だったが….
アイスランドの辺境を舞台に,牧羊への執念と老兄弟の絆を描く映画.
兄弟の不仲の原因は余りはっきりしないが,キディーの性格を嫌った父親が,全ての土地をグミーに相続させたことが原因らしい.3
映画は厳しいアイスランドの自然と不仲の兄弟を描きながら,何とも言えないゆったりした時間の流れと,そこはかとないユーモアが魅力的.
兄弟は口をきかない為,キディーの牧羊犬を互いに使って手紙を伝えあう.この牧羊犬が愛嬌があって可愛い.
またこの地の人達の頑健さも印象的で,飲んだくれて雪の中に倒れ凍りかけていたキディーをグミーの家に担ぎ込み,熱い湯船に放り込むと元に戻る,というシーンにも吃驚.4
終盤の展開は,人間の絆と容赦のない自然の猛威が共に描かれ,余韻に満ちたエンディングとなる.映画の魅力に満ちた作品.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:鶯

日記:2017年5月某日
映画「」を見る.
1938年.監督:豊田四郎.Uguisu
出演:御橋公(人事主任三好),伊達信(尺八流し),鶴丸睦彦(卯之吉),押本映治(村会議員),北沢彪(小野崎訓導),藤輪欣司(鶏泥棒),汐見洋(医師),霧立のぼる(百姓女),清川虹子(百姓女の母),堤眞佐子(鶯を売る女),村井キヨ(林檎売り),文野明子(ハル),杉村春子(産婆八重),水町庸子(ヨシエ),藤間房子(キン婆さん),堀川浪之助(司法主任),江藤勇(刑事主任),恩田清二郎(齋藤巡査).
15年戦争が始まって8年経っている割には,のどかほのぼの一色の映画.
冒頭は駅の待合室後半は警察署が舞台だが,登場人物には身売りされようとする少女,子連れで長万部まで行こうという男やもめ,むかし曲馬団に売られた娘を探している老女,モグリの助産師,死んだ赤子の香典をすべて飲んで泥酔した尺八吹き等が出てくる.
貧しいものたちの群像劇というわけだが,彼らの問題は全て,鉄道の駅員や警官たちの温情溢れる対応や説諭によって解決する.世の中はこういう映画を求めていたのだろうか.
グランドホテル形式のハッピーエンドで,知っている俳優は清川虹子,杉村春子くらいだが,俳優はいずれも安定した演技で映画としては見応えあり.
農村の風景は(「爛漫」の法被を着たひとが出てくるので,秋田県らしい),自分が小学生だった1960年代前半と基本的には同じ様で,懐かしかった.
★★★☆(★5個が満点)
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2017/06/04

独断的映画感想文:マンチェスター・バイ・ザ・シー

日記:2017年5月某日
映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を見る.1_2
2016年.監督:ケネス・ロナーガン.
出演:ケイシー・アフレック(リー・チャンドラー),ミシェル・ウィリアムズ(ランディ),カイル・チャンドラー(ジョー・チャンドラー),グレッチェン・モル(エリーズ・チャンドラー),ルーカス・ヘッジズ(パトリック).
4_2
ボストンに住むリーは独り身の便利屋,腕は良いが客あしらいは悪く,おまけに酒場では時に暴力事件を引き起こす.
そのリーに,ボストンから北東にある漁村マンチェスター・バイ・ザ・シーに住む兄ジョーが倒れたとの連絡が入る.リーは急行するが,既に兄は死亡していた.2_2
兄の一人息子パトリックとは,以前リーがマンチェスター・バイ・ザ・シーに住んでいた頃良くつき合った仲だった.パトリックを学校に迎えに行き,兄の死を告げるリー.
翌日弁護士のもとを訪れたリーは,心臓病を抱えた兄が遺言で,リーをパトリックの後見人に指定していたことを知って驚く.リーには,マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻って来る訳にはいかない,辛い過去があったのだが….
映画は,過去にリーがマンチェスター・バイ・ザ・シーでパトリックや自分の家族と仲良く暮らしていた時の追憶を交えつつ,パトリックと話し合いながら身の振り方を考えるリーの様子を淡々と描いていく.
3_2
アメリカ映画で描かれる,マサチューセッツ湾周辺の漁村の風景は,いつも美しい.その漁村を舞台にかってあった悲劇が今もリーを苦しめる.
リーを演じるケイシー・アフレックの寡黙な演技がまず素晴らしい.
16歳でホッケーとバスケで活躍しながら2人の女の子とつき合いバンドもやり,且つ父の跡を継いで漁師として暮らすつもりのパトリックが魅力的で,演じるルーカス・ヘッジズも素敵.このキャラクターのユーモアで,悲哀に満ちたこの映画の印象がバランスされている.5_2
音楽も良い.
アルビノーニのアダージョをバックに,リーの直面した事件の回想が描かれるシーンは,圧倒的な悲劇的印象を与えるだろう.
アカデミー賞(主演男優賞・脚本賞)受賞に相応しい見応えある作品.
★★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:マネー・ショート 華麗なる大逆転

日記:2017年5月某日
映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を見る.1
2015年.監督:アダム・マッケイ.
出演:クリスチャン・ベール(Michael Burry),スティーブ・カレル(Mark Baum),ライアン・ゴズリング(Jared Vennett),ブラッド・ピット(Ben Rickert),メリッサ・レオ(Georgia Hale),ハミッシュ・リンクレイター(Porter Collins),ジョン・マガロ(Charlie Geller),レイフ・スポール(Danny Moses),ジェレミー・ストロング(Vinnie Daniel),フィン・ウィットロック(Jamie Shipley),マリサ・トメイ(Cynthia Baum).
実話に基づく物語.2
2005年,投資ファンドを主催するマイケルは,サブプライムローンを組み込んだ住宅債権がバブル化し,近い将来破綻することを予測するが,その予測は銀行,政府機関,他の投資筋も全く受け入れなかった.マイケルはこれに対し,“クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)”という,バブル崩壊時に保険金が入る契約を結び,巨額の保険金を支払うこととする.3
同様に銀行家ジャレット,ファンドマネジャーのマーク,引退したトレーダー・ベンに師事する若い投資家チャーリーとジェイミーもCDSへの投資を行うが….
出だしは経済・金融用語の嵐に途惑い,話は全く頭に入ってこなかった.4
しかし4つのCDS投資グループがはっきりしてきた後は,バブルの状況,格付けの変化,バブル崩壊の勃発と進むドラマを没頭できるようになる.
この映画は,リーマンショックに至る経過での,ウォール街の狂乱,不正,腐敗を指摘し,CDS投資グループの勝利を描くが,それと同時に巨額の損失,年金の喪失,多数の失業といったリーマンショックの悲哀を併せて指摘することを忘れない.登場人物中のマーク,ベン等もその苦悩を表明する.

5
その点で邦題の「華麗なる大逆転」という惹句は不適切・不穏当だろう.
経済・金融用語の飲み込みと多数の登場人物の整理がハードルだが,面白い映画.
★★★☆(★5個が満点)
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2017/05/31

独断的映画感想文:マネーモンスター

日記:2017年5月某日
映画「マネーモンスター」を見る.1_2
2016年.監督:ジョディ・フォスター.
出演:ジョージ・クルーニー(Lee Gates),ジュリア・ロバーツ(Patty Fenn),ジャック・オコンネル(Kyle Budwell),ドミニク・ウェスト(Walt Camby),カトリーナ・バルフ(Diane Lester),ジャンカルロ・エスポジート(Captain Powell).3
人気財テク番組「マネーモンスター」のリーは,軽妙な語り口で株価の動きや財務指標を紹介する人気MC.折りしも堅調に株価を上げ続けていた大企業アイビスの株が暴落,番組では社長・キャンビーとのインタビューを予定していたが,キャンビーは連絡がつかず広報のダイアンが待機していた.
ところが生放送中のスタジオに侵入したカイルが,銃を突きつけリーに爆弾ベストを着せ,株暴落の真相を明らかにするように要求する.カイルはリーが「アイビス株は銀行預金より確実」といった言葉を鵜呑みにし,なけなしの母親の遺産を失ったのだった.2
ディレクターのパティはカイルを宥めるようリーのイヤフォンに指示を出し続けると共に,要求に従い広報のダイアンと連絡を取り,株価暴落の真相を調べる.ところがアイビス社の主張する株購入システムのバグはあり得ないということが判明して….
生放送中の番組ジャックと対応する敏腕ディレクター・話術に長けた司会者コンビ,同時進行で暴かれる大企業の闇というプロット自体は悪くない.どう進行するのかのハラハラどきどきはそれなりにある.4
ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの演技を見るのも楽しかった.
しかしどうも映画全体としては詰めが甘いというか,緊張感に欠ける.
まず登場人物が,犯人カイルを含め皆良い人過ぎる.その一方で株暴落を策謀したアイビス社のガードが甘すぎる(戻ってきた社長を,みすみすダイアンとパティの手中に奪われるなど,あり得ない).警察は右往左往するばかりで存在感がまるでない.5
終わってみれば,後に残るもののないエンタメ作品というところ.
★★★(★5個が満点)
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番外:独断的歌舞伎感想文 團菊祭5月大歌舞伎 夜の部 対面/伽羅先代萩/浅草祭

日記:2017年5月某日
歌舞伎座で「團菊祭5月大歌舞伎 夜の部」を見る.Kabukiza_201705fff_6eed1d26d3b89aad
初代坂東楽善 九代目坂東彦三郎 三代目坂東亀蔵 襲名披露狂言.六代目坂東亀三郎 初舞台.「一、壽曽我対面(ことぶきそがのたいめん) 劇中にて襲名口上申し上げ候」.出演:工藤祐経(菊五郎),曽我五郎(亀三郎改め彦三郎),近江小藤太(亀寿改め坂東亀蔵),八幡三郎(松也),化粧坂少将(梅枝),秦野四郎(竹松),鬼王家臣亀丸(初舞台亀三郎),梶原平次景高(橘太郎),鬼王新左衛門(権十郎),梶原平三景時(家橘),大磯の虎(萬次郎),曽我十郎(時蔵),小林朝比奈(彦三郎改め楽善).「二、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ) 御殿 床下 対決 刃傷」.出演〈御殿〉:乳人政岡(菊之助),八汐(歌六),沖の井(梅枝),松島(尾上右近),栄御前(魁春).〈床下〉:仁木弾正(海老蔵),荒獅子男之助(松緑).〈対決・刃傷〉:細川勝元(梅玉),山名宗全(友右衛門),大江鬼貫(右之助),黒沢官蔵(九團次),山中鹿之助(廣松),渡辺外記左衛門(市蔵),渡辺民部(右團次),仁木弾正(海老蔵).「戸崎四郎:補綴 三、四変化 弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり) 神功皇后と武内宿禰 三社祭 通人・野暮大尽 石橋」.出演:武内宿禰/悪玉/国侍/獅子の精(松緑),神功皇后/善玉/通人/獅子の精(亀寿改め坂東亀蔵).
対面は彦三郎の口跡音量共に天晴れで,堂々たる舞台.亀蔵も素晴らしかった.楽善の朝比奈は訛りに愛嬌があって楽しい.亀三郎はまだ幼く,づらが重いのか平伏すると丁髷が床についてしまうのが可愛い.菊五郎が流石の貫禄で口上を勤めた.
先代萩はやはり昨年の玉三郎:政岡/菊之助:沖の井に比べると,構成や緊張感が今ひとつ.梅枝や右近の佇まいももう一工夫欲しいところである.海老蔵の弾正は,怪異な雰囲気が良かった.梅玉は快刀乱麻の趣ある台詞が素敵.
最後の浅草祭はこの夜一番の出来.長い舞台だが観客を飽きさせない構成と,松緑・亀蔵の見事な踊りが印象的だった.二人のコンビネーションが良く如何にも楽しげな雰囲気,また最後の石橋での素晴らしい迫力の毛振りがでやんやの喝采となったのも当然と思われる.
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2017/05/21

独断的映画感想文:メッセージ

日記:2017年5月某日
映画「メッセージ」を見る.1
2016年.監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ.
出演:エイミー・アダムス(ルイーズ・バンクス),ジェレミー・レナー(イアン・ドネリー),フォレスト・ウィテカー(ウェバー大佐),マイケル・スタールバーグ(ハルペーン),ツィ・マー(シャン将軍).
ルイーズは大学で教鞭を執る言語学者,娘ハンナを病気で失い,その思い出に浸る日々を過ごしている.
ある日突然世界12カ所に出現した宇宙からの飛行物体(「殻」と呼ばれる)は,そのまま静止を続ける.ルイーズは軍の要請で,アメリカに出現した殻のもとを訪れ,物理学者イアンと共に彼等が地球に来た目的を探る.2
ルイーズの発案で文字を使ったコミュニケーションを図ったことで,彼等(7本足の彼等はヘプタポッドと呼ばれる)の文字が解読され,会話が少しずつ進み始めた.地球来訪の目的を聞かれたヘプタポッドは,「武器の提供」と答える.3
この言葉は困惑を巻き起こし,幾つかの政府は殻に対し宣戦を布告,アメリカも殻の周辺からの撤退を決定した.核攻撃の期限が迫る中,ルイーズはヘプタポッドの最後のメッセージの解読に成功する….4
この映画は活劇ではない.言語学と時間の概念に関する論理的な映画である.それと同時に,ルイーズの思い出を巡る哀切な映画でもある.
この2つの特徴を結びつける為に使われる映画的などんでん返しは,誠にスリリングで且つ感動的だ.5
「サピア・ウォーフの仮説」(言語が知覚のあり方をかたちづくるという考え)への言及,ハンナ(Hannah)が左右対称な名前であること等,伏線も有効.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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