2026/06/30

独断的映画感想文:ルノワール

日記:2026年6月30日
映画「ルノワール」を見る.1_20260703141601
2025年.日本=フランス=シンガポール=フィリピン.監督・脚本:早川千絵.
出演:鈴木唯(沖田フキ),石田ひかり(沖田詩子),中島歩(御前崎透),河合優実(北久里子),坂東龍汰(濱野薫),リリー・フランキー(沖田圭司).2_20260703141601
映画の冒頭,世界中の子供が泣いている映像が次々に現れるビデオを見ているフキ.見終わるとそのビデオを紙袋に入れて,マンションのゴミ捨て場に置きに行く.その時黒いシャツを着た男に声を掛けられるが,躱して部屋に逃げ帰る.ところがその夜,フキは部屋で黒いシャツの男に襲われ,殺されてしまう.それを知らせるニュース映像,葬式の両親の沈痛な面持ち.と思ったら教室で作文を読んでいる小5のフキ,「夢で良かったです.終わり」と読み終えて若干得意げな顔をする….4_20260703141601
フキは勝気でしっかりした女の子,作文も得意だが内容は若干夢見がちである.今は自身の超能力の開発に夢中だ.父親は会社員だが末期がんで入退院を繰り返している.母親も会社員で部下も持っているが,最近部下にパワハラを申し立てられ,研修を受けさせられている.家でひとり留守番をすることの多いフキ,病院に行って父親と遊んだり,英会話で一緒の子の家に行ったり,マンションで出会った北久理子の家に行って彼女を催眠術にかけたり(彼女は最近夫を亡くした.その夫は世界中の子供が泣いている映像が次々に現れるビデオを見ていた,と久理子は言う),家に来た伝言ダイヤルのチラシの指示に従って自称大学生と電話で会話を交わしたりする.5_20260703141601
でも世界はフキの目にどう映っているのだろう.父親は怪しげな気功療法のサークルに大枚を払って参加している.母親は研修先の講師に恋心を抱いて,その知り合いがやっているという怪しげな健康食品を大量買いする.英会話の子の家の父親は浮気をしているようだ.「大学生」はフキを誘い出して自宅に連れ込んだりする.それらの大人の事情や葛藤を,フキは透明な目で観察し,また夢に見たりする.そういうフキの目を通したフキと周辺の人々のひと夏の物語.3_20260703141601
主演の鈴木唯のきっぱりした演技が印象的だ.両親を演じる石田ひかり,リリー・フランキーもリアルな芝居.時々さしはさまれるフキの夢(妄想?)と思しき画像にも翻弄されながら(時々どのシーンが夢なのか現実なのか判らなくなる時もあり),日めくりのようにフキの日々を追っていく展開に引き込まれてゆく.フキが思春期ではなくその手前の少女だというところが,この映画のポイントであり,映画が深刻にならない境界線なのだろう.最後まで面白く見た.
★★★★(★5個が満点).

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2026/06/13

独断的映画感想文:夏の砂の上

日記:2026年6月某日
映画「夏の砂の上」を見る.1_20260619152801
日本.2025年.監督・脚本:玉田真也.
出演:オダギリジョー(小浦治),高石あかり(優子),松たか子(小浦恵子),森山直太朗(陣野),高橋文哉(立山),篠原ゆき子(陣野の妻),満島ひかり(阿佐子),光石研(持田).3_20260619152801
猛暑続きで断水にまで至っている夏の長崎,小浦治のもとに妹・阿佐子が17歳の娘・優子を連れてやってくる.博多で男が出した金でスナックを開くため,しばらく優子を預かってくれというのだ.治があっけにとられるうちに強引に優子を置いて去ってゆく阿佐子,突然治と優子との二人の生活が始まる.2_20260619152801
治はかって幼い息子を事故で亡くし,以来無気力な日々を送っている.不況で勤めていた造船所は倒産した.妻・恵子は治を見限り,治の若い同僚・陣野と暮らしている.治は溶接工にこだわっているが,治の年齢では容易に仕事を見つけることはできない.優子は高校へは行かずスーパーでアルバイトを始めるが,そこの先輩アルバイト・立山が声をかけてくる….
時代の波に翻弄され周囲の人たちに置いてきぼりを喰っている治と,親に放任され人にも仕事にも関心を持たない優子との,ひと夏の物語.じりじり照り付ける太陽,転職後の過労で命を落とすかっての同僚,若い陣野は他県の造船所に職が決まり恵子は彼についてゆくという.その中で治と優子は徐々に心を通い合わせてゆく….4_20260619152801
松たか子,満島ひかり,光石研が出ているがいずれも脇役(それぞれ存在感はあるけれど).この映画はオダギリジョーと高石あかりの映画だ.特に高石あかりが面白い.無表情だった優子が一転,顔をくしゃくしゃにして治と笑い興じる土砂降りのシーンが印象的.5_20260619152801
物語は特にハッピーエンドという訳ではない.治は離婚届に判を押し恵子は去り,優子は突然帰ってきて今度はカナダに行くと言う阿佐子に連れられ無表情のまま去ってゆく.しかし優子と治は何かが変わった様だ.別れ際に優子にもらった帽子を頭に載せ,灼熱の坂道をぶらぶら歩いてゆく治のラストシーンが心に残る.映画らしい映画.
★★★☆(★5個が満点).

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2026/06/03

独断的映画感想文:アイム・スティル・ヒア

日記:2026年6月某日
映画「アイム・スティル・ヒア」を見る.1_20260611184801
2024年.監督:ウォルター・サレス.
出演:フェルナンダ・トーレス(エウニセ・パイヴァ),フェルナンダ・モンテネグロ(エウニセ・パイヴァ(老年期)),セルトン・メロ(ルーベンス・パイヴァ),ギリェルミ・シルヴェイラ(マルセロ・パイヴァ),アントニオ・サボイア(マルセロ・パイヴァ(成人期)),ヴァレンティナ・エルサージ(ヴェローカ・パイヴァ),マリア・マノエラ(ヴェローカ・パイヴァ(中年期)),ルイーザ・コゾヴスキ(エリアナ・パイヴァ),マルジョリー・エスチアーノ(エリアナ・パイヴァ(中年期)),バルバラ・ルス(ナル・パイヴァ),ガブリエラ・カルネイロ・ダ・クーニャ(ナル・パイヴァ(中年期)),コーラ・モーラ(バビウ・パイヴァ),オリヴィア・トーレス(バビウ・パイヴァ(成人期)).3_20260611184801
ルーベンス・パイヴァはブラジルの元国会議員,1964年のクーデター時に国会議員を罷免されて以降は,土木建築家として5人の子どもと妻エウニセとともに穏やかに暮らしている.左派によるスイス大使誘拐事件に対し軍事政権は急進化し,友人2名はロンドンに亡命,ルーベンスは長女ヴェラを留学名義で彼らに同行させる.
この年の1月,ルーベンスの自宅を軍の要員が訪れ,供述を求めて彼を連れ去る.そのままルーベンスの行方は分からなくなる.エウニセは夫の人身保護を申請するが,ある夜エウニセと15歳の次女エリアナが軍の要員に連行される.そのままエウニセは12日間,エリアナは24時間拘束され尋問を受けた.釈放後エウニセはルーベンスの消息を求め奔走するが,軍当局は公式の確認を拒否し続けた….4_20260611184801
1971年リオデジャネイロで発生した事実に基づく映画,原作は長男マルセロ・パイヴァの回想録.事件後,自宅を売り払ってサンパウロに移り,5人の子どもを育てながら大学に戻って弁護士となり,ルーベンスの行方を追究し続けるエウニセの不屈の戦いを描く.2_20260611184801
エウニセが,一人一人の子どもたちと向き合い,それぞれを愛情深く育てながら,時には叱咤し時にはともに涙を流すその描写が,まことに感銘的だ.ロンドンでルーベンスの死亡説が報道され,それを手紙でヴェラが知らせてくる.子供たちの前でその手紙を読みながら,その部分だけ飛ばして読むエウニセとそれに気づいたエリアナのシーンが印象に残る.25年後,軍政終了後10年以上たって国家はルーベンスの死亡を正式に認めた(ただし遺骸は行方不明のまま).また関与した5名の要員も特定されたが,彼らは訴追されなかった.5_20260611184801
この映画はブラジルで熱狂的な支持を得,また2024年のアカデミー賞国際長編映画賞を獲得した.エウニセを演じたフェルナンダ・トーレスの存在感と緊張に満ちた演技が素晴らしい.映画は2014年,既に認知症の進んだエウニセを家族が囲み,誕生日を祝うシーンで終了する.TVでルーベンスの事件の回顧が放送され,一瞬目を見張って画面を注目する老いたエウニセは,フェルナンダ・トーレスの実母でこのとき94歳の大女優:フェルナンダ・モンテネグロが演じている.蛇足ながら,この監督の映画は20年以上前に見た「モーターサイクル・ダイアリーズ」以来だ.監督の健在と活躍に拍手!
★★★★☆(★5個が満点)

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2026/06/02

独断的映画感想文:アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師

日記:2026年6月某日
映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」を見る.1_20260605145701
2024年.監督:上田慎一郎.
出演:内野聖陽(熊沢二郎),岡田将生(氷室マコト),川栄李奈(望月さくら),森川葵(白石美来),後藤剛範(村井竜也),上川周作(丸健太郎),鈴木聖奈(五十嵐薫),真矢ミキ(五十嵐ルリ子),皆川猿時(八木晋平),神野三鈴(酒井恵美子),吹越満(安西元義),小澤征悦(橘大和).2_20260605145701
映画の冒頭,脱税容疑の橘のパーティーに乗り込み対決する税務署員のさくらと熊沢,しかしその面前でわざと転んだ橘は,暴行で二人を訴えると宣言,上司の安西の指示で熊沢は橘に謝罪をすることになり,屈辱的な仕打ちを受ける.5_20260605145701
一方刑務所を出所した詐欺師マコトは早速詐欺の仕事に精を出し,中古車の架空販売で熊沢をひっかけ,80万円を騙し取る.熊沢の親友の刑事・八木の尽力でマコトを押さえた熊沢,しかしマコトは意外な申し出をする.自分とチームを組んで橘から大金を詐取できたら,自分を見逃してくれというのだ.熊沢は悩んだ末,マコトと協力して橘と対決することにするが….4_20260605145701
熊沢にはかって,同期だった税務署員が橘を告発したものの,罠にはめられ汚名を着せられ馘になり,自殺したという苦い過去があった.実直な税務署員である熊沢はマコトとその仲間とチームを組み,橘をひっかけるための準備に没頭する.準備段階は無事通過し,いよいよ不動産詐欺の本番当日を迎えるが,安西が熊沢の不審な動きを橘に通報したことで計画はバレバレになり,橘の部下・神野が通報してマコトらは急行した警察に全員逮捕される….3_20260605145701
さてこの状況からどうエンディングに持っていくかだが,映画はその大逆転を見事にやってのける.その点でエンタテインメントとしてはきっちり合格点.内野聖陽,小澤征悦の好演が期待通りだが,皆川猿時,神野三鈴らのわき役陣も良い味で素敵だった.結局,こういう映画ではプロローグであろうがエピローグであろうが,油断してはいけないと云うことを,改めて学習した次第,面白かった.
★★★★(★5個が満点).

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2026/05/01

独断的映画感想文:お坊さまと鉄砲

日記:2026年5月某日
映画「お坊さまと鉄砲」を見る.1_20260504142301
2023年.ブータン=アメリカ=フランス=台湾.監督・脚本:パオ・チョニン・ドルジ.
出演:僧侶タシ(タンディン・ワンチュク),ラマ(ケルサン・チョジェ),ベンジ(タンディン・ソナム),ロン(ハリー・アインホーン),選挙委員ツェリン(ペマ・ザンモ・シェルパ).2_20260504142301
2006年ブータンのウラ村,折しもブータン初の総選挙を控え,その模擬選挙の準備で村は大騒ぎ.国王陛下ワンチュク4世が,立憲民主制への移行と自身の退位を発表したのだ.選挙管理委員のツェリンは投票率の向上を目指し,必死の宣伝活動に歩き回っている.一方そのニュースを聞いた村のラマは,「物事を正すため」若い僧侶タシに満月の日までに2丁の銃を準備するように言いつける.タシはびっくり,しかしラマの命令は絶対だ.村中を探して銃の持ち主を探す.
その頃アメリカの銃収集家ロンはウラ村に古い銃があると聞き,ガイドのベンジーと共にウラ村にやってくる.銃の持ち主ペンジョーに会うと,銃は果たして南北戦争時代の逸品だった.ロンが7万ドル出すと云うとペンジョーは仰天,もっと安く買ってくれと懇願する.話は結局3万ドルでまとまり,金を用意して翌日取引することになり,二人は一旦帰る.入れ替わりにペンジョーを尋ねあてたタシ,ラマが銃を求めていると聞くと,ペンジョーはその場でラマに銃を供物として捧げると申し出た.模擬選挙の行方はどうなるのか.ラマが銃を求める理由は何か?銃は誰のものになるのか?….3_20260504142301
村は初めての選挙をめぐって騒然としている.小学生のユペルは父が新興実業家を公然と支持したので,保守派の支持者を親に持つ子どもたちからいじめられ,おまけに多忙な父が消しゴムを買い忘れたため先生に叱られるなど,苦難の日々を送っている.ツェリンの助手を務めるユペルの母は,そんなユペルを心配し選挙は本当にみんなの幸せにつながるものなのかと,ツェリンに訴える.4_20260504142301
ブータンの山深い村の朴訥な人々を巻き込んだ大騒動の顛末.国王の意を汲みブータンの近代化民主化に取り組む人々,「物事を正すため」に渾身の祈りをささげるラマ,この映画の登場人物には悪い人は(ほとんど)出てこない.5_20260504142301
また,ところどころに差し込まれる風刺精神も面白い.例えば,選挙管理委員は選挙は意見を戦わせる場だと云い,模擬選挙では赤か青かの対決を演出するが,開票して見れば第3の色である黄色が圧倒的多数だった.黄色は国王陛下の色なのだ.映画最後の着地点もほのぼのとしたハッピーエンドで癒される.見て損はないブータンの物語.
★★★★(★5個が満点)

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2026/04/16

独断的映画感想文:花まんま

日記:2026年4月某日
映画「花まんま」を見る.
2025年.監督:前田哲.1_20260417175401
出演:鈴木亮平(加藤俊樹),有村架純(加藤フミ子),鈴鹿央士(中沢太郎),ファーストサマーウイカ(三好駒子),安藤玉恵(加藤ゆうこ),オール阪神(三好貞夫),オール巨人(山田社長),田村塁希(俊樹幼少期),小野美音(ふみこ幼少期),六角精児(繁田宏一),キムラ緑子(繁田房枝),酒向芳(繁田仁).2_20260417175401
東大阪に住む俊樹とフミ子の兄妹,両親はすでにない.父は二人が幼い頃事故で亡くなり,母は二人を育て身体を壊し,フミ子が中学生の時に亡くなった.俊樹は両親の言いつけ通りフミ子を育て上げ,いま社会人となったフミ子は結婚も決まった.相手・太郎はカラスと会話できるという大学の研究者,いたって温厚な好青年だ.着々と進む結婚準備,フミ子の引っ越し準備も同時に進んでいる.ところがフミ子には大きな秘密があった.フミ子には繁田喜代美という亡くなった女性の記憶があり,彦根に住む喜代美の父,姉,兄との交流が続いていたのだ….3_20260417175401
6才の時フミ子に繁田喜代美の記憶が蘇った.フミ子は兄に懇願してその彦根の家に連れて行ってもらう.繁田の父・仁は7年前の喜代美の死以来,食事を摂れず苦しんでいたが,フミ子はその父に花びらで弁当をかたちづくった「花まんま」を送る.喜代美がよく作っていたという花まんまを見て,仁はフミ子が喜代美の生まれ変わりであることを確信し,食事を摂れるようになる.しかし俊樹はそれ以上のフミ子と繁田家との交流を禁じて,彦根を後にした.だがそれから22年,結婚の直前になって,フミ子が兄に隠して繁田仁と文通し,また繁田家をしばしば訪れていたことが明らかになる….4_20260417175401
死者の生まれ変わりというエピソードを絡めた,親と子・兄と妹の愛情の物語.兄妹の真情が語られるシーンや,繁田の父とフミ子のシーン,終盤の結婚式のシーンではいやというほど泣かされる.一方大阪が舞台だけあって,関西風のギャグや冗談がテンポよく飛び交い,また太郎がカラスと話して俊樹の危急を助けるというとぼけた活躍もあり,大いに笑わせられる.時々夢に共に出て来て,俊樹を激励したり,時には事情説明(?)したりする両親の幽霊も傑作.演技陣はオール巨人・阪神の師匠たちも含め文句ない活躍,特に田村塁希・小野美音子の両子役は素晴らしかった.映画の最後の着地点もまことに納得のゆく適切なもので,一見の価値ある映画.5_20260417175401
★★★★(★5個が満点).

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2026/04/15

独断的映画感想文:遠来 トモベのコトバ

日記:2026年4月某日
新宿K's cinemaへ.映画「遠来 トモベのコトバ」を見る.1_20260416210101
2026年.日本.監督:伊勢真一.
出演:友部正人,小野由美子.2_20260416210101
ジョン・レノンが亡くなった頃,友部正人はニューヨークにいた豊田勇造からハガキをもらった.そのハガキがきっかけになって,友部正人は「遠来」という唄を作った.友部自身も,子供が成人したことをきっかけに,妻とともにニューヨークに移り住んだ.ドキュメント映画の監督・伊勢真一は,その友部をニューヨークに訪ねて,その暮らしと友部の唄を撮影した.もう10年ほど前の話だ.この5~6年の世界の変化を見ながら,撮影した映像を今映画にしようと決め(その気持ちは何となく判る),この1年ほどで編集したのがこの映画だと,監督は言う.3_20260416210101
だからこの映画に出ているのは60代半ばの友部正人だ.ギターを抱えて街を歩き,セントラルパークを散歩し,そこで唄う.ワシントン・スクエア・パークに行き,西岡恭三や高田渡らの骨が埋めてあると云う(本当かしら)大きな木の下で唄う.ニューヨーク・シティ・マラソンに参加し走る.その活動に,唄う唄に,友部のいままでのフォーク歌手としての人生が刻み込まれている.5_20260416210101
友部の年を重ねたその声は,唄は勿論詩を朗読するときも魅力的だ.同じ歳の人間として,その魅力には抗し難い.友部が溶け込んでいるニューヨークの街も素敵だ.映画で聞ける曲は,「遠来」,「6月の雨の夜、チルチルミチルは」,「夜は言葉」,「日本に地震があったのに」,「朝の電話」,「一本道」.4_20260416210101
最後の曲は友部の代表曲だが,阿佐ヶ谷を舞台にしたこのフォークの名曲を自分も忘れることはできない.友部正人と自分の,この40年ほどを考えるよすがとなりうる映画.映像も美しく,音響の質も上々.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点).

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2026/04/02

独断的映画感想文:海潮音

日記:2026年4月某日
映画「海潮音」を見る.19801
1980年.日本.監督・脚本:橋浦方人.
出演:池部良(宇島理一郎),荻野目慶子(宇島伊代),山口果林(女),泉谷しげる(菊永征夫),浦辺粂子(宇島図世),上月左知子(吉井収子),近藤宏(吉井淳治),野上祐二(五島隆史),烏丸せつこ(吉井さちこ).
荒波の打ち寄せる能登半島の海辺の村.旧家の主:理一郎は,ある朝波打ち際に倒れている若い女を助ける.自宅にあげて介抱するが,回復した女は過去の記憶を失っていた.
理一郎は母:図世,15歳の娘:伊代との3人暮らし,毎日運転手と家政婦の吉井夫妻が,通いでやってくる.女は当面宇島家に逗留することになった.伊代の母は彼女が4歳の時に身体をこわし亡くなった.母の弟で東京から戻ってきた征夫が,伊代の良い話し相手だ.伊代は高校を出たら征夫の様に東京に行ってもう戻ってこないと打ち明けるが,征夫は理一郎も若いころ同じように言ってこの村を出ていったのだと云う.19802
伊代は女に少女らしい心遣いを見せるが,やがて女をめぐって理一郎と征夫は言い争うようになる.ある嵐の夜,理一郎は女と深い仲になった.征夫は独り再び東京に旅立つ.男たちの確執と事態の進展に激しく動揺した伊代は,父の書斎のライフルを持ち出す….
思春期の少女の不安定な心身の動きを,荻野目慶子が躊躇いなく演じ切って存在感あり.ラストシーンで,荒波寄せる突堤を夕陽を浴びて疾走する伊予の姿は,まことに印象的だ.池部良はじめ他の演技陣はやや大人しめ,泉谷しげると烏丸せつこは元気が良かった.19803
★★★☆(★5個が満点).

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2026/03/08

独断的映画感想文:十一人の賊軍

日記:2026年3月某日
映画「十一人の賊軍」を見る.1_20260331185901
2024年.日本.監督:白石和彌.
出演:山田孝之(政),仲野太賀(鷲尾兵士郎),尾上右近(赤丹),鞘師里保(なつ),佐久本宝(ノロ),千原せいじ(引導),岡山天音(おろしや),松浦祐也(三途),一ノ瀬颯(二枚目),小柳亮太(辻斬),本山力(爺っつぁん),野村周平(入江数馬),長井恵里(さだ),木竜麻生(溝口加奈),西田尚美(溝口みね),玉木宏(山縣狂介),阿部サダヲ(溝口内匠).2_20260331190001
1868年戊辰戦争の渦中にいる新発田藩,本心は官軍に寝返りたい.官軍は国境に迫っており,一方新発田藩の出陣を求めて奥羽列藩同盟の軍が城下に入っている.列藩同盟の軍をやり過ごし官軍を迎え入れたいが,そのためには官軍を国境で足止めしなければ,城下がそのまま戦場になり大変なことになる.一計を案じた家老・溝口内匠は,数名の藩士を決死隊とし,その下に死刑囚の囚人たちを「成功したら無罪放免」の約束でつけて,国境の砦に送り込む.奥羽列藩同盟が城下から出ていくまでの間,官軍を足止めするのがその任務だ.3_20260331185901
こういう設定で,官軍に対する非正規部隊の奇想天外な戦いが描かれる.主要な人物以外はその罪状や生い立ちが説明されることはほとんどなく,また画面は暴力的でグロテスク,プロットにもご都合主義やスキが目立つが,俳優たちのエネルギーに満ちた熱演で引き込まれていく.山田孝之,仲野太賀,尾上右近が好演,本山力の殺陣が見事だった.でも155分の長尺はいくらなんでも長すぎる.5_20260331190001
★★★(★5個が満点).
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2026/02/22

独断的映画感想文:ビーキーパー

日記:2026年2月某日
映画「ビーキーパー」を見る.1_20260302105501
2024年.アメリカ/イギリス.監督デヴィッド・エア.
出演:ジェイソン・ステイサム(アダム・クレイ),エミー・レイヴァー=ランプマン(ヴェローナ・パーカー),ジョシュ・ハッチャーソン(デレク・ダンフォース),ボビー・ナデリ(マット・ワイリー),ミニー・ドライヴァー(ジャネット・ハワード),フィリシア・ラシャド(エロイーズ・パーカー),ジェレミー・アイアンズ(ウォレス・ウエストワイルド).2_20260302105501
養蜂家のクレイは,自分を受け入れ納屋を貸してくれた隣人エロイーズに,深い敬意を払っている.ところがエロイーズはある晩フィッシング詐欺に引っかかり,自身の財産と管理していた慈善団体の資産を一瞬にして失ってしまう.エロイーズは失意のうちに自殺するが,事件現場をたまたま訪れたクレイはエロイーズの娘でFBIのヴェローナに逮捕される.しかし自殺であることが明らかになりクレイは釈放,更にフィッシング詐欺にあったことも判明する.4_20260302105501
クレイは実は元「ビーキーパー(養蜂家)」と呼ばれる秘密組織の凄腕の工作員,FBIの担当者が探しあぐねた詐欺集団の実態をビーキーパーの助けを借りて突き止め,詐欺組織UDGの拠点ビルに乗り込む.警備員を倒し本拠地のビルを炎上させたクレイ,UDGの上部団体ダンフォース・エンタープライズCEOデレクの指示で養蜂場が急襲されるが,クレイは返り討ちにしてダンフォース傘下の中核企業を襲う….3_20260302105601
まあとにかく強いジェイソン・ステイサムのアクションを楽しむ映画.ビーキーパーの実態は荒唐無稽なものだが,その工作員としてのクレイが持つ原則的観点がはっきりしていて面白い.ダンフォース等との争闘でも,警備する中の金で雇われた私兵には容赦はないが,FBI等の公的機関の要員の命は取らない.善と悪がはっきりし過ぎて,そういう点では深みはない.ジェレミー・アイアンもこんな役をしていてはつまらないな.5_20260302105501
★★★(★5個が満点).
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2026/02/14

独断的映画感想文:斬る(1962)

日記:2026年2月某日
映画「斬る」を見る.1_20260302091801
1962年.日本.監督:三隅研次.脚色:新藤兼人.原作:柴田錬三郎.
出演:市川雷蔵(高倉信吾),藤村志保(山口藤子),渚まゆみ(高倉芳尾),万里昌代(田所佐代),成田純一郎(田所主水),丹羽又三郎(千葉栄次郎),友田輝(庄司嘉兵衛),柳永二郎(松平大炊頭),天知茂(多田草司).
映画の冒頭は,侍女藤子による飯田藩主愛妾殺しの場.飯田藩主愛妾は政治に介入をし,城代家老の密命で藤子が愛妾を刺殺したのだった.藤子は処刑されるが,一人の赤子が小諸藩主牧野遠江守に届けられる.牧野遠江守はその子を股肱の家臣・高倉信右衛門に預けわが子として育てるよう命じる.その子高倉信吾は成人し,父と藩主の許しを得て3年間の武者修行に出る.2_20260302091801
3年後信吾は無事帰参し,藩主の命で水戸の剣客庄司嘉兵衛と立ち会い,三弦の構えという秘剣で勝利した.しかし嘉兵衛に御前試合で敗れた隣家の池辺父子は,これを妬んで高倉家を襲い,高倉信右衛門と妹・芳尾を斬殺する.信吾は二人を追って討ち果たすが,そのまま脱藩して浪人となった.牧野遠江守はこれを憐れみ,新悟を追わないよう家臣に命じる….4_20260302091801
ここまでが映画の前半,数奇な星のもとに生まれた信吾の数奇な半生を描く物語.柴田錬三郎の原作に拠るが,設定はかなり複雑で何もこうでなくってもという気がする.しかしこの映画の魅力は何といっても市川雷蔵.出生直後に実の母を実の父に処刑され,最愛の義妹と養父を突然斬殺されるという運命にもかかわらず,藩主と養父のおかげで爽やかな青年剣士に育った信吾,しかし彼を襲った運命は余りに苛酷なものだった.3_20260302091801
信吾を演じる雷蔵の,爽やかな剣士でありながら寄る辺ない身でもあるそのありようが,印象的であり共感もできる.また,いかに信吾が天下無双の剣士であっても,歴史の大乱の中に飲みこまれざるを得ない映画の終盤も印象的.市川雷蔵という得難い俳優の素晴らしさを,改めて認識する映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2026/02/05

独断的映画感想文:黒の牛

日記:2026年2月某日
映画「黒の牛」を見る.1_20260208211001
2024年.日本,台湾,アメリカ.
監督:蔦哲一朗.出演:リー・カンション(狩猟民の男),ふくよ(牛)(黒い牛),田中泯(禅僧),須森隆文,ケイタケイ.
映画の冒頭は山火事,狩猟民の男は焼け出され丸裸の状態で意識を取り戻す.里に下りるという一族と別れ放浪していた男はその冬,里の外れに住む老女に拾われ里の暮らしのしかたを教わる.春が来て老女の田に無事に水を入れた後,老女は息を引き取った.2_20260208211001
その後男は山野を放浪する中,行倒れた人とそのそばにたたずむ黒い牛を見つける.逃げる牛を力づくで里の家に連れ帰った男,餌を与えて牛小屋に入れるが,翌朝牛は姿を消していた.大声で叫び牛を探し求める男,翌日探しあぐねて家に戻ると,牛は牛舎に戻っていた.
その後立ち寄った禅僧の指導で,牛を使った荒起こしや代掻きを学んだ男は,老女から受け継いだ田を耕し,また牛を連れて里の人の田を耕しに行ったり,禅僧の斡旋で牛を牛飼いに貸して銭を得たりして,生活は落ち着くかと思えた….3_20260208211001
禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した『十牛図』にインスパイアされた映画.主人公の男には台詞はなく,男の自然との付き合いや牛との格闘が映像で描かれる,映像詩と言って良い映画だ.映画は『十牛図』の各図にのっとった形で物語を進めてゆく.
『十牛図』として1.尋牛(じんぎゅう)牛を探す(本当の自分を探し始める),2.見跡(けんせき): 牛の足跡を見つける(教典や師の教えでヒントを得る),3.見牛(けんぎゅう): 牛の姿を見る(真の自己(悟り)の入り口を垣間見る),4.得牛(とくぎゅう): 牛を捕まえる(悟りを体得するが、まだ自分のものになっていない),5.牧牛(ぼくぎゅう): 牛を飼いならす(執着をなくし、修行を続ける),6.騎牛帰家(きぎゅうか): 牛に乗って家へ帰る(悟りを得て心安らかな状態),7.忘牛存人(ぼうぎゅうぞんにん): 牛を忘れる(悟りも手放し、素の自分になる),8.人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう): 人も忘れる(絶対的な無、執着がない状態),9.返本還源(へんぽんげんげん): もとに還る=あるがままの自然な世界,が各章のテーマとして掲示されるが,もとより映画は禅の教えを講じるものではない.映画はあくまでテーマに沿った男と黒牛の物語を語って行く.4_20260208211001
牛はなかなかの働き者で,男も惜しみなく働き牛の世話をする.牛と男の関係は互いに信頼し気を許した者同士のそれに見える.ところがこの関係は突然破綻する.これ以降はネタバレなのだが,翌年の祭りの時期にまた牛飼いに牛を貸し出したところ,ある日牛飼いがやって来て黒牛は死んだと云う.その証拠として牛飼いは牛の鼻輪を男に渡し,わずかの見舞金を払って去って行った.男はその後一人で暮らし死ぬ.映画は人間のいなくなった集落と,牛の群れがさ迷う海岸の情景をえがいて終って行く.6_20260208211001
いろいろなことを考えさせる映画であった.現世的にはこれで一安心と思える,暮らしが軌道に乗った時は「悟りを得て心安らかな状態」ではあるが,まだこの後にその状態自体を手放し,あるがままの自然な世界に戻る過程があるのだ.映画はそのあるがままな世界にはもう人間は不在であると言っているようでもある.
主演のリー・カンションと黒牛=ふくよの演技が素晴らしい.黒白の画面(最後の滅びの場面ではカラー・70ミリ)は墨絵の様で,訴える力に満ちている.台詞はほとんどない映画だが,自然音を含めた録音の効果も圧倒的.冒頭とエンドロールを彩る坂本龍一の音楽も素晴らしい.時のたつのを忘れてこの映画に見入った.5_20260208211001
監督の蔦哲一朗は,生まれ故郷の徳島県三好市池田町に関わる作品を撮り続ける.祖父は池田高校野球部監督・蔦文也.ところで映画に出てくるのは十牛図のうち第九図までの様だが,実はエンドロールの最後に10.入鄽垂手(にってんすいしゅ): 町に現れ手を垂れる=慈悲の心で人々を救済する,が登場する.そのコメント(この映画としてのコメント)がまた傑作.
★★★★(★5個が満点).
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2026/02/01

独断的映画感想文:アイミタガイ

日記:2026年2月某日
映画「アイミタガイ」を見る.
2024年.日本.監督:草野翔吾.1_20260202170601
出演 :黒木華(秋村梓),中村蒼(小山澄人),藤間爽子(郷田叶海),安藤玉恵(稲垣範子),近藤華(中学生の梓),白鳥玉季(中学生の叶海),吉岡睦雄(車屋典明),松本利夫EXILE(羽星勝),升毅(福永),西田尚美(郷田朋子),田口トモロヲ(郷田優作),風吹ジュン(綾子),草笛光子(小倉こみち).2_20260202170601
腕利きのウェディングプランナー梓は9才の時両親が離婚,母のもとで育ったが母も数年前に亡くなった.親友叶海はプロカメラマン,その叶海が出張先の海外で事故に遭い命を落とす.梓はその死が受け入れられず,付き合っている澄人のことなどを以前通りに叶海のトーク画面に送り続ける.3_20260202170601
叶海の両親:優作と朋子は,叶海が生前とある児童養護施設と交流していたことを知る.また朋子は叶海の遺品である携帯に送られてくるメッセージに気付いていた.梓の叔母・範子がホームヘルパーに通っている女性・こみちは93歳,梓が顧客の金婚式のイベントに出演する,高齢でピアノが弾ける女性を探していると知った範子は,梓にこみちを紹介する.こみちに会った梓は,昔叶海と共にこみちのピアノを聞いた記憶を思い出した….5_20260202170601
叶海の死をめぐる喪失と再生の物語を,彼女と関わりのあった人々の意外な結びつきを通じて,群像劇風に描いてゆく映画.
主人公の梓は両親の離婚とその後の転居でいじめの対象となったところを,叶海に救われ無二の親友となった.今は澄人と付き合っているが,両親の記憶から結婚にいま一歩踏み出せないでいる.その気持ちを綿々と叶海の携帯宛に日々綴っていくのだが,映画の終盤そのメッセージに一斉に「既読」が付き,「行っちゃえ!」と返信が帰るシーンはなかなか感銘的だ.4_20260202170601
疎遠になりかけていた叶海の両親が,児童養護施設での叶海の足跡をたどることで,再び手を取り合って生きていく展開も素敵.そのシーンの西田尚美と田口トモロヲの演技も感銘的で素晴らしかった.俳優では黒木華の魅力がやはり圧倒的だ.
名古屋から桑名,四日市,津に至る映画の舞台の風景も印象的で,冒頭のシーンで桑名駅付近の二つの路線の合流点を走って行く近鉄線の列車の俯瞰がなかなか良い.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点).
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2026/01/14

独断的映画感想文:サハラ戦車隊(1943)

日記:2026年1月某日
映画「サハラ戦車隊」を見る.19431
1943年.アメリカ.監督:ゾルタン・コルダ.
出演:ハンフリー・ボガート(ジョー・ガン),ブルース・ベネット(ワコ・ホイト),ロイド・ブリッジス(フレッド・クラークソン),レックス・イングラム(タンブル),J・キャロル・ネイシュ(ジュゼッペ),ダン・デュリエ(ジミー・ドイル),クルト・クリューガー(ドイツ空軍士官).19433
第2次大戦の北アフリカ戦線.故障のため本隊から落後したM3戦車の米軍兵士3名は,ようやく故障の修理を終え,本体からの撤退命令を受けガン軍曹の指揮のもと南下することになる.その途上,原隊にはぐれ野戦病院にいたハリディ軍医大尉以下5名の英軍兵士・自由フランス軍兵士を,さらにその先でイタリア兵捕虜ジュゼッペを護送中のスーダン兵タンブルを収容する.一行はドイツ空軍の戦闘機に襲撃され,英軍兵士1名が戦死するが,戦車の機銃が接近してきた戦闘機を撃墜,落下傘降下したクリューガーを捕虜にする.19434
タンブルの案内で井戸のある地点にたどり着くが,そこの水は枯れていた.さらに南下を続ける一行,井戸のある廃村にたどり着く.そこの井戸も枯れているかに見えたが,井戸の底にわずかに滴下する水があり,一行はそこで水を確保するために滞在することになった.一方無線が通じ,トブルクがドイツ軍の手に落ちたことが明らかになる.更にドイツ軍機械化部隊500名が,彼らのあとからやはり水を求めて迫って来ていた.その先遣隊を捉えたガン軍曹は,水と食料を交換するという提案を持たせて独軍兵士を帰らせ,皆と図ってこの廃村で敵を迎え撃つことにし,更に敵から奪った先遣隊のジープでワコを救援要請に走らせた….19435
水におびき寄せられこの廃村攻略を目指す独軍,甚大な被害を与えながら迎え撃つ兵も一人また一人と倒れてゆく.後年の西部劇「アラモ」を思わせるような展開であるが,陽気な米英兵らは不屈のかつ奇想天外の戦いで,独軍を翻弄する.1943年制作の戦意高揚映画でありながら,よくできたプロット,俳優らの好演で優れたエンタテインメント作品となった.
冒頭の「トブルク陥落」という状況は,1942年6月の出来事で(この時点では米軍戦車隊は,実際には北アフリカ戦線に参戦していない),一方ラストシーンでの「エル・アラメインで独軍を止めた」というのは1942年7月から10月の状況と思われ,本作のプロットは1942年後半の事実をもとに作られ,映画は1943年に公開されたと推定される.内容的にも,独軍士官クリューガーは卑怯冷血でスーダン兵を公然と差別する存在と描かれるが,イタリア兵ジュゼッペは市井の人であり,ヒトラーを非難してクリューガーに殺害される.英軍・自由フランス軍兵士はそれぞれ如何にもその国の人らしく描かれ,移民の国アメリカらしい気遣いが見て取れる.19432
1942年から43年と云えば,アメリカはヨーロッパと太平洋で独・日と戦いその勝敗の帰趨はまだ見えていなかった時代,アメリカという国のこういう力はたいしたものだと云わざるを得ない.ハンフリー・ボガートが流石の好演,英軍兵士を演じたロイド・ブリッジスは,ジェフ・ブリッジスの父親だそうだ.
★★★★(★5個が満点).
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2026/01/13

独断的映画感想文:2度目のはなればなれ

日記:2026年1月某日
映画「2度目のはなればなれ」を見る.21_20260113144201
2023年.イギリス.監督:オリバー・パーカー.
出演:マイケル・ケイン(バーナード(バーニー)),グレンダ・ジャクソン(レネ),ダニエル・ヴィタリス(アデル),ヴィクター・オシン(スコット),ウィル・フレッチャー(若き日のバーナード),ローラ・マーカス(若き日のレネ).22_20260113144101
2014年夏.バーニーは愛する妻レネと共に老人施設で暮らす,89歳の海軍退役軍人.この夏開催される,ノルマンジー上陸作戦70周年記念式典への団体ツアーには,申し込みが遅れ参加できなかった.バーニーはレネの勧めもあって,式典に単独で参加することを決意する.
式典の前日,バーニーはひそかに施設を抜け出し,ドーバー海峡をフェリーで渡ってノルマンジーを目指す.フェリーで友人となった空軍退役軍人のアーサーの世話で,ホテルも確保し式典への参加チケットも手に入れた.一方施設では行方不明となったバーニーの捜索を警察に依頼,89才の退役軍人がノルマンジー70周年の式典めざし単独で出発したというニュースは,瞬く間に全英に広まった….23_20260113144201
バーニーはノルマンジーで,自分が参加した作戦地点のソード海岸を目指す.海岸に立ち思い出にふけるバーニー.バーニーには,そしてアーサーには痛切な大戦中の記憶があった.
バーニーはソード海岸を攻撃する強襲艦に乗り組んでいた.知り合いとなった戦車兵のダグラスは怯えきっており,自分の故郷の煙草の缶に恋人への手紙を入れてバーニーに託す.バーニーはダグラスを鼓舞して送り出すが,上陸した戦車はバーニーの目の前で被弾し大破炎上した.一方,アーサーは大陸を空襲する任務に就いており,彼の兄は大陸で負傷しレジスタンスにかくまわれていた.その都市をアーサーの編隊が空襲し,兄は命を落とす.アーサーは,自分が兄を死なせたとのトラウマに苦しんできたのだ.バーニーは強引にアーサーを誘い,共にダグラスとアーサーの兄が眠るバイユーの戦争墓地を訪れる….24_20260113144201
映画は若き日のバーニーとレネがめぐり逢い恋に落ちる過程を織り交ぜながら,バーニーの旅を追ってゆく.バーニーがバイユーの戦争墓地で,「皆無駄死にした!」とつぶやくシーンには涙を禁じ得ない.その前に,バーニー達が,同じソード海岸を守備していた旧ドイツ兵の一団と遭遇し,互いに無言で敬礼し合うシーンも感銘深い.
一方,イギリスに帰ってきたバーニーがとんでもない数の取材陣に翻弄され,ほうほうのていでレネの待つ部屋にたどり着いて,二人で同じベッドにもぐりこむシーンがなかなかにユーモラス.マイケル・ケインとこれが遺作となったグレンダ・ジャクソンの,飄々とした演技が素晴らしい.特にマイケル・ケインは,ユーモアをちりばめた老紳士のたたずまいが何とも好ましい.25
もう残り少ない日々を過ごしている老夫婦の,時に哀しみを帯びつつもユーモアを忘れずに日々を生きていくラストシーンは,忘れ難かった.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/12/23

独断的映画感想文:チャンス(1979)

日記:2025年12月某日
映画を「チャンス」を見る.
1979年.アメリカ.監督:ハル・アシュビー.19791
出演:ピーター・セラーズ(チャンス),シャーリー・マクレーン(イブ・ランド),メルヴィン・ダグラス(ベンジャミン・ランド),ジャック・ウォーデン(大統領),リチャード・ダイサート(ロバート医師).19792
朝目が覚めてベッドの中からリモコンでTVをつける主人公チャンス.画面ではオーケストラが「未完成」を演奏している.チャンスは「じいさま」のお屋敷に住み込みで雇われている庭師.着替えていつもの様に食堂に出ると,家政婦のローズが「じいさま」が亡くなっていると云う.それが理解できないチャンス.
いつも通り庭の手入れをしていると,弁護士がやって来て屋敷からの退去を申し渡される.仕方なく「じいさま」からもらった上等の服を着てトランクを持ち,帽子をかぶってドアを開けるチャンス,屋敷の外に出るのは初めてなのだ.バックにはデオダートのアレンジ・演奏による「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れる.19793
ワシントンDCの一角にあるお屋敷だが,門外は荒れ果てたスラムに面している.チャンスは街をさすらううちに,車に轢かれる交通事故に遭う.車の持ち主イブは心配し,チャンスを自宅に招く.幸い怪我は軽傷で,チャンスは暫くイブのもとに滞在することになるが,屋敷の主は重病に苦しむ米国経済界の大立者・ランドだった.19794
おだやかな人柄と率直な気遣いを示すチャンスにランドは心を許し,見舞いに訪れた米国大統領にもチャンスを紹介する.大統領が焦点の経済政策について尋ねた質問に,「根が良ければ時期さえ来れば必ず花は咲く」等と庭師の心得を答えたチャンス.大統領は我が意を得たつもりで,記者会見でチャンスのこの言葉を紹介する事態となった….19795
チャンスは知的障害者,読み書きもできずお金を使ったこともない.「じいさま」の元で庭師として育てられ庭師として働いてきた.そのチャンスの言葉(それを紹介する大統領の言葉)に踊らされる米国の政界・経済界,チャンスの経歴はどう調べても判らず,これはCIAとFBIの陰謀論に発展する.噂がうわさを呼んでチャンスの声望は高まるばかり,イブはチャンスに恋心を抱きそのベッドを訪れる.一方ランドはチャンスの見舞いの言葉に心を安んじ,チャンスの手を握り静かに世を去るのだった….19796
ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」を下敷きにした小説「庭師 ただそこにいるだけの人」が原作というと,映画の構成が良く判るだろう.寓話的映画だが,演じるピーター・セラーズ,シャーリー・マクレーン,メルヴィン・ダグラスらが,必要にして充分・的確な演技で最後まで緊張感のある物語をつないでいく.ランドの葬儀の場から離れたチャンスがそのまま湖の水面を歩いていく,神の子を思わせるラストシーンが印象的.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点).
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2025/11/15

独断的映画感想文:宝島

日記:2025年11月某日
アップリンク吉祥寺へ,映画「宝島」を見る.1_20251121165501
2025年.日本.監督:大友啓史.
出演:妻夫木聡(グスク),広瀬すず(ヤマコ),窪田正孝(レイ),中村蒼(小松),瀧内公美(チバナ),尚玄(タイラ),木幡竜(ダニー岸),奥野瑛太(謝花ジョー),村田秀亮(とろサーモン)(辺土名),デリック・ドーバー(アーヴィン・マーシャル),ピエール瀧(喜舎場),栄莉弥(ウタ),塚本晋也(徳尚),永山瑛太(オン).2_20251121165501
1952年の沖縄,米軍基地から物資を盗み出し住民に配賦する「戦果アギャー」と呼ばれる若者たちがいた.幼馴染のグスク,レイ,ヤマコ等を率いるリーダーのオンは,ただ物資を盗み出すだけでなく,沖縄の未来を見据え学校を作るという夢を語る.オンの恋人ヤマコは,それなら自分は教師になると云うのだった.
ある日の襲撃時,思わぬ敏速な米軍の追跡が始まり命からがら逃げのびた「戦果アギャー」,しかしその晩からオンは忽然と姿を消す.ヤマコはチバナが経営するバーの女給をしながら教員免許を取り教師に,グスクは刑事に,レイはヤクザになってそれぞれオンを探し続けた.3_20251121165501
1958年,グスクは女性を暴行殺害した米兵を追って捜査,容疑者を確保するが米軍のMPが来て容疑者を連行してしまう.この一件でグスクは米軍諜報部高官のアーヴィンと情報交換をする協力関係を結ぶ.ヤマコの勤める小学校には米軍機が墜落,パイロットは脱出したが多数の児童らが亡くなった.その後もオンを探してその情報を求めるグスクは,米軍諜報部の手先ダニーに捕まり傷めつけられる.ベトナム戦争が本格化し,荒れた米兵たちの犯罪が激しくなる.一度決裂したアーヴィンとの関係を修復したいとの迎えがあり,ダニーが運転する車に乗ったグスクは,コザ市街で発生した米軍兵士による交通事故をきっかけとした暴動に巻き込まれた….5_20251121165501
戦果アギャーの夜から20年にわたる壮大な叙事詩をえがく,3時間を超える長編映画.コザの英雄オンの面影を軸に,教師であり祖国復帰運動の活動家となるヤマコ,そのヤマコを慕いつつそれぞれにオンの行方を追及し続けるグスクとレイの悪戦苦闘が描かれる.その裏に展開する密輸集団,那覇ヤクザ,コザヤクザの暗躍,米軍関係者らの動きも織り込まれ,物語の行方は予断を許さない.
物語の山場コザ暴動の現場の高揚感,グスクの哄笑,チバナのアジテーションには,見ているこちらも興奮を抑えきれない.その現場で出会ったグスク,レイ,ヤマコの面前に一瞬オンらしき人影が垣間見え,仲間とともに突き進んでいく.思わず背筋が粟立つ一瞬だ.4_20251121165501
暴動の隙をついて基地に潜入するレイ,それを追うグスク.レイは暴力で対抗しなければ暴力に拠る相手には話が通じないと主張し,グスクは暴力に暴力で対抗しては人間は駄目になってしまうと訴える.まさに駄目になりつつある世界にいる自分たちには,何が云えるだろう.訴える力は強く,深い感銘を受ける映画.
沖縄方言の台詞が聞き取りにくく,細かい事情などが判り難い部分はあったが,全体の感動が損なわれることはない.妻夫木聡,広瀬すず,窪田正孝,永山瑛太,瀧内公美らの熱演は見事.群衆エキストラとその叫び声の圧倒的迫力にも感動した.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/11/10

独断的映画感想文:旅と日々

日記:2025年11月某日
映画「旅と日々」を見る.1_20251111181801
2025年,日本.監督・脚本:三宅唱,原作:つげ義春(「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」).
出演:シム・ウンギョン(李),河合優実(渚),高田万作(「夏男」),堤真一(べん造),斉藤陽一郎,松浦慎一郎,足立智充,梅舟惟永,佐野史郎.2_20251111181801
アパートの一室で脚本家・(李)が眉間にしわを寄せながら脚本を書いている.その脚本通りの画面が展開し始め,海辺の町で渚と夏男が出会う.いつしか言葉を交わすようになった二人,翌日も会おうということになったが翌日は大時化,しかし土砂降りの大波が寄せる海で二人は泳ぎ始める.
という映画が終わって監督と二人,上映会の質疑応答に臨む李.その後恩師の教授が急逝し,失意のうちに当てのない旅に出る.その旅で泊まる羽目になった宿は,やる気のない主人:べん造が一人いるだけの雪に潰されそうな民家.べん造と二人でいろりの横に布団を敷いて寝ることになるが….3_20251111181801
前半の映画(海辺の叙景)は,全体から云えば劇中映画ということになる.どういう設定かもどういう登場人物かも判らないが,河合優実(とそのビキニスタイル)の存在感が圧倒的.渚の指示通りに荒海を次第に沖に向かって泳ぎ続ける夏男のシーンはスリリングだ.4_20251111181801
後半は李の一人旅,何もない宿の主人との二人暮らしが気に入ったのか,李は連泊しべん造との会話が続く.べん造がなかなかツボを突いた質問をしたり,その作る料理が下手くそだったり,李のストレスがほどけていって畳に寝ながらひくひく笑っていたりするシーンが面白い.やがてある事件が起こって二人はともに婦警さんに油を搾られることになるのだが,この場面も傑作.5_20251111181801
つげ義春の原作らしい,緩いけれどどこか本質的なところのある物語展開が生かされている.もの静かだが豊か,真面目だがユーモラスな映画.劇中映画から本筋のシーンへ移行していく場面の映像処理なども印象的.
★★★★(★5個が満点).
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2025/10/26

独断的映画感想文:碁盤斬り

日記:2025年10月某日
映画「碁盤斬り」を見る.1_20251030190301
2024年.日本.監督:白石和彌.
出演:草彅剛(柳田格之進),清原果耶(お絹),中川大志(弥吉),奥野瑛太(梶木左門),音尾琢真(徳次郎),市村正親(長兵衛),斎藤工(柴田兵庫),小泉今日子(お庚),國村隼(萬屋源兵衛).2_20251030190301
古典落語「柳田格之進」に「文七元結」を少し足して,自分を陥れ妻を死に追いやった旧同僚への仇討ちを本筋に加えた物語.主人公柳田格之進は今は浪人の身,碁の名手で真面目一方,平生は穏やかな人柄だが,不正に対しては容赦のないところがある.共に暮らす一人娘・お絹は,父と二人の貧乏暮らしにも何一つ不平を言わず,縫物で生計を支え父の世話に勤めている.5_20251030190301
とあることでやはり碁の好きな萬家源兵衛と知り合った格之進は,源兵衛の屋敷で度々碁を打つようになる.月見の晩に萬家に招待を受けた格之進は,やはり遅くまで碁を打って帰ったが,源兵衛と二人で碁を打っていた部屋から50両が消える事件が起きる….6_20251030190301
主人源兵衛に無断で番頭・徳次郎は,手代の弥吉をやって格之進に50両の心当たりを尋ねさせる.疑いを受け一度は切腹を覚悟した格之進だが,そこにかって仕えた旧藩から使者が来て,旧同僚・柴田兵庫が格之進を讒言により陥れたこと,また格之進の妻を凌辱しそのため妻が自害したことが明らかになり,柴田兵庫は逐電したことが知らされる.格之進はお絹を旧知の遊郭の女将・お庚に預け50両の金を作るとこれを弥吉に渡し,長屋を引き払って柴田兵庫の後を追った….3_20251030190301
時代劇としての映像や映画の骨格はしっかりしている.草彅剛,清原果耶,中川大志,小泉今日子,國村隼がいずれも期待通りの好演で,見応えあり.プロットがやや隅々にしっくりしないところがあり,映画を見終わった後で,さてあれは何故だったのだろうなどと思いつくことはあったが,映画全体の雰囲気は素敵だ.最終局面での「碁盤斬り」のシーンはなかなかの迫力だった.
★★★☆(★5個が満点)4_20251030190301
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2025/10/06

独断的映画感想文:ゴースト・ドッグ

日記:2025年10月某日
映画「ゴースト・ドッグ」を見る.
1999年.アメリカ,日本,フランス,ドイツ.1_20251008160801
監督・脚本・製作:ジム・ジャームッシュ.製作:リチャード・ゲイ.
出演:ゴースト・ドッグ(フォレスト・ウィテカー),レイ・ヴァーゴ(ヘンリー・シルヴァ),ソニー・ヴァレリオ(クリフ・ゴーマン),レイモンド(イザーク・ド・バンコレ),ルーイ・ボナセリ(ジョン・トーメイ),パーライン(カミーユ・ウィンブッシュ),ルイーズ・ヴァーゴ(トリシア・ヴェッシー),ハンサム・フランク(リチャード・ポートナウ).4_20251008160801
主人公は凄腕の殺し屋:ゴースト・ドッグ,淡々と殺しをこなす.連絡は伝書鳩でしか行わない.日本の武道書「葉隠れ」を愛読しており,その内容に忠実に生きている.マフィアの一員ルーイに若い時命を救われたことがあり,以来ルーイを主人・自分は家来とみなしている.
ある日ルーイの指示でマフィアのフランク殺害を請け負ったゴースト・ドッグ,フランクはボス:レイの溺愛する娘・ルイーズとできてしまい,殺すよう指示が出たのだ.ゴースト・ドッグはフランクの部屋に乗り込み仕事を済ませるが,手違いから部屋にはルイーズがいた.ゴースト・ドッグはそのまま引き上げるが,フランク殺しが父親の命令だとルイーズに知られるのを恐れたレイは,ゴースト・ドッグを始末するよう組織に命じる….3_20251008160801
一風変わった殺し屋の物語.レイの組織はかなりのポンコツで手下はロートルばかり,溜まり場の家賃をためて大家に叱られる始末.そのロートルたちが,「屋上に伝書鳩を飼っている黒人の大男」を次々に襲う.留守中に伝書鳩を皆殺しにされたゴースト・ドッグは,ついに反撃に転じた.ポンコツヤクザ対葉隠れ殺し屋の戦いの行方は如何に….6_20251008160801
映画のテイストも少し変わっている.ゴースト・ドッグの唯一の親友はハイチ人のアイスクリーム屋だが,彼はフランス語しか話せず言葉は通じない.ルイーズの愛読書は「羅生門」で,フランク殺しの時ゴースト・ドッグはルイーズにこの本を貸してもらう.ゴースト・ドッグは謎のハイテク機器を持っており,この機器のボタンを押すと他人の車のドアは開いてエンジンがかかる.すると彼はCDを取り出して音楽を聞きながら殺しの現場に向かう.5_20251008160801
少しおかしなエピソードが,少しずつヴァリエーションを起こしながら淡々としたテンポで進んでゆくのに,だんだんはまって行く映画.一方で殺し屋としてのアクションは,眼を見張るほど鮮やかだ.映画の終盤,マフィアの意地をかけたルーイとの1対1の決闘シーンは見応えあり.最後に一羽残った鳩が舞い降りてくるのにも泣かされた.映画らしい映画,一見の価値あり.2_20251008160801
★★★☆(★5個が満点).
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2025/09/29

独断的映画感想文:高野豆腐店の春

日記:2025年9月某日
映画「高野豆腐店の春」を見る.1_20251005185601
2023年,日本.監督・脚本:三原光尋.
出演:藤竜也 (高野辰雄),麻生久美子(春),中村久美(中野ふみえ),徳井優(金森繁),竹内都子(金森早苗).
時は平成30年ごろ,舞台は尾道.高野辰雄は出もどりの娘・春と豆腐屋を営んでいる.辰雄の豆腐はこだわりの豆腐で,自身の店で売る他はスーパー1カ所に卸しているだけ.
ある日医師から心臓に問題があると告げられた辰雄,春の将来を思い悪友らの勧めに従って春のお見合いを画策するが,実は春は心に思う人がいた.一方辰雄は,同じ病院に通う中野ふみえが,スーパーで働いていることから知り合いとなる.身寄りもなく独り暮らしのふみえを,辰雄は気遣うようになっていった….2_20251005185601
親子それぞれのロマンスの行方を描くヒューマンドラマ.藤竜也,麻生久美子,中村久美の演技がそれぞれに見ごたえあり.脇を固める徳井優,菅原大吉,山田雅人らのコミカルな演技も素敵.5_20251005185601
ところでこの映画は単にコミカルなヒューマンドラマではなく,その背後に戦争と原爆というものがあることが,映画の中盤から明らかになっていく.ふみえが天涯孤独の身(親類と云えば,彼女の土地と家を狙っている姪夫婦しかいない)で病を得ているのも,辰雄が妻を早くに亡くしているのも,その背後には戦争と原爆がある.4_20251005185601
それを踏まえた映画の終盤は心に響く.辰雄の胸で春が子どもの様に泣くラストシーンには涙を禁じ得なかった.ロケ地・尾道の風景や人の言葉も心地よい.
★★★★(★5個が満点).3_20251005185601
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2025/08/30

独断的映画感想文:西部戦線異状なし

日記:2025年8月某日
1930年版の映画「西部戦線異状なし」を見る.19301
1930年.監督:ルイス・マイルストン.
出演者:ポール(リュー・エアーズ),カチンスキー(ルイス・ウォルハイム),ヒンメルストス(ジョン・レイ),カントレック(アーノルド・ルーシー),フランツ(ベン・アレクサンダー),アルバート(ウィリアム・ベイクウェル).音楽:デヴィッド・ブロークマン.19302
第1次大戦のさなか,ドイツ軍の行進に沸き返る市民たち.窓の外にその光景が広がる中,高校教師のカントレックは祖国のために戦う名誉と栄光を叫んでポール達学生を煽り立て,ついに学生たちは軍に志願することに決し,教室を出て外の行進に合流していく.兵営では,つい最近まで町の郵便配達だったヒンメルストスが,予備役を招集された下士官として,新兵たちに猛烈な訓練を強いる.やがて前線に配属されたポールらは,古参兵のカチンスキ―等に戦場で生き延びる方法を教えられながら,泥沼の塹壕戦に投入されてゆく….19305
原作は大戦後の1928年に30歳のレマルクによって書かれた小説.ろくな食料もなく砲撃に怯えながら塹壕に立て籠もる日々.神経を病んでゆく兵や,やがて双方の突撃により次々倒れてゆく兵,凄惨な白兵戦の様子も描かれる.19303
負傷し野戦病院から幸運にも復帰できたポールは,休暇を得て故郷の街に戻り,家族との再会を果たす.母校を訪れると,相変わらず更に年下の学生たちを煽り立てているカントレック.後輩に何か喋ってほしいと云われたポールが,命を大切にするようにと話すと,後輩たちからは臆病者と罵声を浴びる始末.父親と酒場に行けば,父親の同僚たちからはもっと頑張ってパリを制圧しろと発破をかけられる.前線の状況からドイツの劣勢を感じていたポールはいたたまれず,休暇を切り上げ前線に戻る….19304
大戦のわずか10年後にもかかわらず,それまで人類が経験したことのなかったこの凄惨な総力戦をリアルに描き切り,現代にいたる戦争映画の基本形を示したこの作品は,驚嘆に値する.窓を通して屋内と屋外の状況を俯瞰的に描くカメラワークが随所に見られ,これも魅力的.特に主義主張を描くことはない映画だが,次々に倒れて行く兵士たちの描写が,事実を持って戦争の無残さ愚かしさを語っている.
ラストシーンで行進していく兵たち,ポールをはじめとして死んでいった兵たちが,一人一人カメラを振り返ってまた歩み去ってゆく.その映像に重ねて,見渡す限りに林立する無数の白い十字の墓標.忘れられない映像だ.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/08/28

独断的映画感想文:教皇選挙

日記:2025年8月某日
映画「教皇選挙」を見る.1_20250829202601
2024年.アメリカ=イギリス.監督:エドワード・ベルガー.
出演:レイフ・ファインズ(ローレンス),スタンリー・トゥッチ(ベリーニ),ジョン・リスゴー(トランブレ),セルジオ・カステリット(テデスコ),ルシアン・ムサマティ(アデイエミ),カルロス・ディエス(ベニテス),イザベラ・ロッセリーニ(シスター・アグネス).6_20250829202601
教皇が急死した.首席枢機卿トマス・ローレンスは教皇選挙(コンクラーベ)を開催するべく準備を始める.やがて世界から集まった100人を超える候補者たちはシスティナ礼拝堂に集い,最終候補が過半数の票を得るまで続く,長い長い教皇選挙に臨む.ローレンスは一度枢機卿の辞意を教皇に願い出たこともあり野心はなかったが,立場上選挙を取り仕切ることになった.議場閉鎖の直前,新しい枢機卿としてカブール教区のベニテスが登場する.誰も知らない存在だったが,教皇の書類が確認され投票に加わることとなった.3_20250829202601
第1回投票ではナイジェリア教区のアディエミが優位となり初の黒人教皇の誕生も予想されたが,アディエミに若き日のスキャンダルがあったことを知ったローレンスは,アディエミに退くよう勧告する.一方でアディエミのスキャンダルの相手を,選挙期間にシスタースタッフの中に入れるべくわざわざ呼び出した人物がいることも判明する.それは誰か.4_20250829202601
また,モントリオール教区のトランブレが,教皇からその死の直前に罷免を申し渡されていたという証言がもたらされたが,トランブレはそれを事実無根と否定する.リベラル派のベリーニの票は伸びず,超保守派で排外主義的なテデスコが票を伸ばす中,ローレンスは信念に従って思い切った行動に出る….2_20250829202601
権謀術数渦巻く教皇選挙の状況を,重厚なカメラワークと見事な物語展開で描く好編.野心はないようにふるまっていても自分の票が伸びないことに苛立つ候補,ローレンスに票が入っていることに対しローレンスに野心があると攻め立てる候補,物証のない中で不正と対決する勇気を持てない候補,投票の度に揺れ動く各候補の姿に,ローレンスは自分が起つほかないかと思い定めるが,その後意外な出来事が情勢を根底から覆す.おもわぬところで決定的な証言を切り出す,シスター・アグネスの動きも印象的だ.全ての謎が解けるラストシーン,ローレンスの心に平安は訪れたのだろうか.見応えのある好編だ.5_20250829202601
★★★★(★5個が満点).
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2025/08/26

独断的映画感想文:小さき麦の花

日記:2025年8月某日
映画「小さき麦の花」(原題:隠入塵煙/RETURN TO DUST)を見る.1_20250827150801
2022年.中国.監督・脚本:リー・ルイジュン.
出演:ウー・レンリン(マー・ヨウティエ),ハイ・チン(ツァオ・クイイン),ヤン・クアンルイ(チャン・ヨンフー),チャオ・トンピン(マー・ヨウトン),ワン・ツァイラン(ヨウトンの妻),ワン・ツイラン(クイインの兄嫁).6_20250827150801
2011年、中国西北地方の農村.ヨウティエは農家の4男,両親長兄次兄は亡くなり,3男の家で小作同然に暮らしている.そのヨウティエに,体に障害のあるクイインとの縁談が持ち上がる.両家から厄介払いされる形の二人だったが,空き家に落ち着き,ロバ1頭と共に新生活が始まる.3_20250827150801
新婚早々クイインはおねしょをするが,ヨウティエは咎めずクイインを労わって暮らす.村の豪農チャンは地代も水道代も滞納する嫌われ者だが,父が入院し輸血が必要となり,そのRh-の血液型を持つヨウティエに献血を求める.クイインは心配するがヨウティエはそれに応じ,チャンがクイインに買ってやったコートの代金もいずれ返すと言う.5_20250827150801
ヨウティエとクイインは次第に心を通わせ,ヨウティエは伴侶を得て仕事に没頭するようになる.空き家整理に補助金が出ることになり,二人が使っていた空き家の持ち主が都会から飛んで来て二人は追い出される.二人は別の空き家に引っ越したが,ヨウティエは自分の家を持つ決心をして,日干し煉瓦を作り始めた.二人は麦を植え,トウモロコシを植え,野菜を作り,卵を借りて孵化させて鶏を育て,来る日も来る日も働き続ける….2_20250827150801
ヨウティエとクイインが,互いに相手を助け大事にし,心を通わせながらつましく暮らしていく日常が淡々と描かれる.とはいえ平凡な暮らしではない.日干し煉瓦を作れば雷雨が襲い,度々献血に呼び出され,自分たちは結婚式も上げられなかったのに実家の息子の新婚家具を荷車で運ばされたりする.しかし二人は何事にも不服を言わず,ロバや鶏も労わって穏やかに暮らす.幸い新居は完成し,その年の麦は豊作で,クイインはヨウティエに,その人生初めての幸せをしみじみと語るのだった.
しかしその幸せはある日突然絶たれる.やがて二人の作った生活は跡形もなく失われてしまう.終盤の30分間は哀切極まりない.見終わった後には深い悲しみが残るが,同時にヨウティエとクイインへの深い共感も残る.4_20250827150801
本作は中国の中央の政策に右往左往する人々が描かれるが,何より厄介者同士として扱われたヨウティエとクイインの,つましく愛情に満ちた暮らしの描写が素晴らしい.ヨウティエ役のウー・レンリンは本作の舞台である甘粛省の農夫で,監督の叔父にあたる.日干し煉瓦つくりや農作業の腕は本物だったのだ.ロバの好演も特筆に値する.
題名の「小さき麦の花」は二人が互いの手に麦の実を押し付けて作る花形の模様のこと.原題の「隠入塵煙」は,監督インタビューによれば,何気ない毎日の中に大事なものが隠れているという意味.英語題名のRETURN TO DUSTは,映画の最後のシーンを象徴しているように思える.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/08/15

独断的映画感想文:カラオケ行こ!

日記:2025年8月某日
映画「カラオケ行こ!」を見る.
2023年.監督:山下敦弘.1_20250816185301
出演:綾野剛(成田狂児),齋藤潤(岡聡実),芳根京子(森本もも),橋本じゅん(小林),やべきょうすけ(唐田),八木美樹(中川),坂井真紀(岡優子),宮崎吐夢(岡晴実),ヒコロヒー(和子),加藤雅也(田中正),北村一輝(祭林組の組長).2_20250816185301
岡聡実は中学合唱部の部長,美しいボーイソプラノの持ち主.合唱部はコンクールは3位で敗退し,秋の合唱祭を最後に3年は引退ということになった.ところがそのコンクールの帰路,祭林組若頭補佐の成田狂児にカラオケに連れ込まれ,歌の指導を懇願される.近々催される祭林組のカラオケ大会で最下位になると,恐ろしい罰ゲームが待っているらしい.しぶしぶ引き受けた聡実は狂児に付きあい,歌い方を指導したり音域にあった歌を探したり,次第に交流を深めていく.一方で聡実は変声期のため高音が出にくくなるという事態に直面していた….5_20250816185301
漫画を原作とした映画.聡実は真面目でおとなしい性格だが,時に毒舌を吐きブチ切れることがある.一方狂児は倶利伽羅紋紋を背負った正真正銘のヤクザながら,聡実には意外に素直な一面を見せる.カラオケの聡実の「教室」には一時狂児以外の組員も大挙押し掛け,大変な盛況になる.聡実は狂児という名前が本名であることを知って,狂児に同情も覚え親交が深まってゆくのだった.この聡実と狂児のアンバランスな友情が何とも愉快.綾野剛と齋藤潤の組み合わせが絶妙である.3_20250816185301
聡実が抱える合唱部内の,大人の様で子どもっぽい人間関係や,狂児に絡むヤクザ同士の確執(もっとも祭林組組員同士はみな仲良しであんまりヤクザらしくない)が適度に描かれ,その対照もなかなか面白い.声の出ない聡実の合唱祭と,祭林組のカラオケ大会は奇しくも同じ日の同じ時刻,さあどうなるか.ちょっとしたどんでん返しもあって,結果は見てのお楽しみ.4_20250816185301
★★★☆(★5個が満点).
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2025/07/14

独断的映画感想文:アンダーカレント

日記:2025年7月某日
映画「アンダーカレント」を見る.
2023,日本.監督:今泉力哉.脚本:澤井香織,今泉力哉.音楽:細野晴臣.1_20250717140201
出演:真木よう子(関口かなえ),井浦新(堀隆之),リリー・フランキー(山崎道夫),永山瑛太(関口悟),江口のりこ(菅野よう子),中村久美(木島敏江),康すおん(田島三郎),内田理央(藤川美奈).3_20250717140201
家業の月之湯を亡父から引き継いだかなえ,ところが夫・悟は1カ月前に組合の慰安旅行先で失踪してしまった.組合を通じて従業員を募集し,パートの木島と営業を再開したかなえ,ある朝堀と云う男が応募してやってくる.その日から堀は住み込みで働き始め,常連客も徐々に戻ってきた.暫くして堀はアパートに移り通いで働くことになった.常連の田島老人とも将棋を打つ中になったが,堀は無口で自分のこともほとんど話さない.2_20250717140201
かなえはある日スーパーで赤ん坊を連れた旧友・菅野と出会う.悟とも知り合いの菅野に,かなえは悟の失踪を打ち明け,菅野は知人の探偵・山崎を紹介してくれた.山崎はちょっと変わった胡散臭い風体,しかし悟のことをかなえから聞き取り,調査に取り掛かることになる.ところが最初の調査報告で,悟の両親は2年前まで健在だったことが分かった.悟からは自身が交通遺児で施設で育ったと聞いていて,母を早くに亡くした自分と心が通うところもあると思っていたかなえは呆然とする.ある日,月之湯の常連客・藤川美奈の8歳の娘が帰宅せず,ランドセルが路上で発見されるという事件が起こる.かなえはそれを聞いて気を失ってしまう….4_20250717140201
かなえは子どものころさなえという自分によく似た少女と親友だった.しかしさなえはある日事件に巻き込まれ近くの池で死んでしまう.かなえは以来,自分が首を絞められ水の中に沈んでいく夢を見るようになったのだった.かなえの心に残ったのはどういう傷なのか.悟は何故かなえに嘘をついていたのか.悟は何故失踪したのか.堀はどういう人物なのか.映画は終盤に向けその謎を明らかにしてゆく.5_20250717140201
コミックが原作の映画,登場人物は何となく物語の展開に都合のいい人物が多い.それを腕利きのベテラン俳優たちが何とかリアルな存在に感じさせるように奮闘している印象があって,面白い.真木よう子が,強気の様で繊細,てきぱきしているようで童女のような感じの主人公をうまく演じて見応えあり.田島を演じた康すおんも面白かった.嘘をつく悟,自身に封じられた記憶のあったかなえ,自分を語らない堀,この3人がどうなるのか.映画のあと味は悪くない.0_20250717140201
★★★☆(★5個が満点).
蛇足:この映画のポスターは,ジャズピアノの名人ビル・エヴァンスと同じくギターの名演奏家ジム・ホールの1962年のコラボレーションアルバム「アンダーカレント」のジャケット写真(右の写真)に,ヒントを得たものと思われる.ともに良いセンス.
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2025/07/08

独断的映画感想文:ミツバチと私

日記:2025年7月某日
映画「ミツバチと私」を見る.1_20250709152101
2023.スペイン.監督・脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン.
出演:ソフィア・オテロ(Lucia),パトリシア・ロペス・アルナイス(Ane),アネ・ガバライン(Lourdes),イツィアル・ラスカノ(Lita),マルチェロ・ルビオ(Gorka).2_20250709152101
フランス・バスク地方に住む8才のアイトールは朝から不機嫌.出かけなければいけないのに服が気に入らない,行きたくないと怒る.アイトールと呼ばれることがそもそも気に入らなくて,姉も兄も彼をココ(フランス語で可愛い子という一般名詞)と呼ぶが,その呼び方さえ嫌がるときもある.今日は皆で列車に乗りスペイン・バスク地方のお祖母ちゃんの家に夏休暇に行く.父ゴルカは留守番,母アネは亡父の工房で塑像を作成し,美術学校教員試験の提出物とするつもりだ.男の子の友達のいないアイトールは,同年齢の親戚のニコと仲良くなって心を許すが,祖母からはもっと男の子らしくするよう注意される.その中でミツバチを飼う叔母のルルデスはアイトールの気持ちを認め,女の子として接してくれる….3_20250709152101
男の子として生まれながら,自分の性自認に不安を覚える主人公の,葛藤と決意を描く.お祖母ちゃんや親戚の人たちは,髪の毛を切り少年らしくするようにと云う.父も髪を伸ばし中性的な服装を許すのは甘やかしだと考えている.母は当面は好きにさせておけば良いと考えているが,自身の塑像作成に打ち込んでアイトールのことに気が回らない.4_20250709152101
ルルデスは,一緒にミツバチの世話をしながらアイトールの不安に耳を傾け,そのままのアイトールを肯定する.ルルデスと共に行った礼拝堂で聖ルシア像を見たアイトールは,自分の名前はルシアがいいと言うのだった….5_20250709152101
幼くて自分の性自認に悩み,自分なりの結論を出す主人公に,感銘を受けた.映画の終盤,いなくなったアイトールを親戚が総出で探す場面で兄と母が「ルシア!」と呼んで探すシーン,ルシアが夕暮れの養蜂場で蜂の箱を一つずつ杖でノックしながら「蜂さん,蜂さん,ルシアですよ」と云って回るシーンが印象的.この困難な役を見事に演じたソフィア・オテロが,第73回ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞を史上最年少で受賞したのもうなずける.深い感動を得る映画.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/07/04

独断的映画感想文:鉄道員 ぽっぽや

日記:2025年7月某日
映画「鉄道員 ぽっぽや」を見る.1_20250706213401
1999年.監督:降旗康男,撮影:木村大作.
出演:高倉健(佐藤乙松),小林稔侍(杉浦仙次),大竹しのぶ(佐藤静枝),広末涼子(佐藤雪子),奈良岡朋子(加藤ムネ),田中好子(杉浦明子),安藤政信(吉岡敏行),志村けん(吉岡肇),吉岡秀隆(杉浦秀男).2_20250706213201
北海道を舞台とする物語.佐藤乙松は,盟友杉浦仙次と共に,機関助手(釜焚き)からたたき上げ,機関手を経て今は幌舞駅の駅長を務める.幌舞はかっては炭鉱町で石炭列車が往来したが,閉山後の今は町もさびれ,本数も少ない幌舞線の終点を乙松が始発から終着まで一人で守る.4_20250706213201
乙松の妻静江は病弱でなかなか子どもに恵まれなかったが,17年目にようやく雪子を授かった.しかし雪子は生後2カ月で病死,静枝もその後病気で亡くなった.乙松は駅を離れられず,いずれの時も最期を看取れなかった.仙次は幌舞線の始点・美寄駅長,定年後は関連企業への就職が決まっている.仙次は乙松の定年後を心配するが,乙松は自分は鉄道員以外のことはできないと取り合わない.幌舞線の廃線が決まり,乙松の退職も迫るある日,駅に不思議な少女が現れる….3_20250706213201
高倉健主演映画の傑作の一つ,佐藤乙松の幌舞駅での最後の数日を,過去の追憶を織り交ぜて描く.舞台はほとんど幌舞駅と駅前のだるま食堂が中心だが,北海道の山河を背景に走る列車キハ40の映像が随所に挿入され,特に冬季の雪原を走る姿は感銘的だ.実直な乙松の駅長勤務の描写の中,喜び・哀しみのそれまでの人生が振り返られる.1_20250706213201
寡黙で涙を見せることさえ控えめな乙松を演じる高倉健が素敵だ.小林稔侍,大竹しのぶも好演.特に終盤の広末涼子と高倉健のシーンには,涙を禁じ得ない.広末涼子にはやはり特別な輝きがある.奥田民生作詞・坂本龍一作曲の主題歌も素晴らしい.数十年ぶりに見たがやはり色褪せない映画だ.
★★★★(★5個が満点).
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2025/07/03

独断的映画感想文:駅 STATION

日記:2025年7月某日
映画「駅 STATION」を見る.Station1
1981年.監督:降旗康男,脚本:倉本聰,音楽:宇崎竜童,撮影:木村大作.
出演:高倉健(三上英次),いしだあゆみ(三上直子),大滝秀治(相場),池部良(中川警視),寺田農(力石),烏丸せつこ(吉松すず子),根津甚八(吉松五郎),宇崎竜童(木下雪夫),北林谷栄(三上昌代),藤木悠(三上一郎),永島敏行(三上道夫),古手川祐子(三上冬子),田中邦衛(菅原),小松政夫(菅原義二),草野大悟(柳),平田昭彦(大田黒警視),織本順吉(留萌署長),小林稔侍(辰巳刑事),倍賞千恵子(桐子),室田日出男(森岡茂),佐藤慶(対策本部長).
北海道を舞台とする物語.1968年,刑事三上英次は離婚し,銭函駅で妻直子と息子を見送る.オリンピックの射撃の選手でもあった三上は,直子の一度の過ちも許せなかった.直後の検問で,英次の上司であり射撃の師匠でもある相馬が,連続射殺犯指名22号・森岡に射殺される.三上は犯人追及を志願するが,五輪優先との道警の命令で許されなかった.Station2
1976年連続通り魔殺人犯を追い,三上らは増毛駅前の風待食道を張る.従業員のすず子の兄・吉松五郎が犯人と目されたためだ.増毛の対岸は三上の故郷・雄冬だ.三上は五輪のコーチを兼任していたが,道警の命令でコーチを外され,捜査に従事することになる.すず子の愛人・雪夫の手引きで五郎は逮捕された.1979年暮れ,三上は雄冬への里帰りの帰路,欠航のため増毛の居酒屋・桐子に立ち寄った….
高倉健主演映画の傑作の一つ,スタッフ,キャストとも充実し見ごたえのある映画となった.往年の名優たちと若手の俳優たちが,高倉健を中心に好演している.宇崎竜童が,日本アカデミー賞助演男優賞を獲得した一方,この映画の音楽を担当し同最優秀音楽賞を獲得したのも素晴らしい.
三上と桐子が酒場で過ごす3夜に,いずれもTVから八代亜紀の「舟唄」が流れ,そのシチュエーションがどれも異なるという場面が心に残る.特に最後の夜,目を合わすこともできない二人の心情は哀切で,まことに印象的.数十年ぶりに見たが色褪せない映画だ.
★★★★(★5個が満点).
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2025/07/01

独断的映画感想文:コンペティション

日記:2025年7月某日
映画「コンペティション」を見る.1_20250702121601
2021年.スペイン・アルゼンチン.監督:ガストン・ドゥプラット,マリアノ・コーン.
出演:ペネロペ・クルス(ローラ・クエバス),アントニオ・バンデラス(フェリックス・リベロ),オスカル・マルティネス(イバン・トレス),ホセ・ルイス・ゴメス(ウンベルト),イレーネ・エスコラル(ダイアナ),マノロ・ソロ(マティアス),ナゴレ・アランブル(ジュリア),ピラール・カストロ(ビオレッタ),コルド・オラバリ(ダリオ).3_20250702121601
80歳になった大富豪ウンベルトは,自分の名声を高めようと映画に出資することにした.大枚をかけ映画化権をわがものにしたノーベル賞作家の小説を,パルムドール受賞監督のローラに託す.主演は映画界の大立者フェリックスと,舞台俳優の大御所イバン.この3人が揃って本読みが始まるが,本読みの段階から厳しいダメ出しや奇想天外なエクササイズを強要するローラと,奔放なプレーボーイであるフェリックス,理論家で教育者でもあるイバンの息は全く噛み合わない.制作現場には困惑と混乱が広がるが….4_20250702121601
映画はほぼこの3人の会話劇と云っても良いが,ローラの飛んでる場面設定や両俳優のそれぞれの演技が面白くて全く退屈しない.両俳優が主導権を得るために或いは相手を貶めるために,とんでもない行動に出たり嘘をついたりする展開も可笑しい.映画にはいろいろな伏線があり,それらの思いがけない回収のしかたも意表を突かれる.2_20250702121601
スペイン映画らしいおしゃれな建物やインテリア,原色鮮やかな家具や絵画をあしらった映像も美しく,ベートーベンやショパン,サティ,更にキーズ・ジャレット等を用いた映画音楽も素敵だ.本作はシニカル・コメディと称しているがその通り,結局はコメディなので気楽に最後まで見ていられるが,それぞれの場面は充分にスリリングで魅力的.見て損はなし.5_20250702121601
★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/28

独断的映画感想文:千夜、一夜

日記:2025年6月某日
映画「千夜、一夜」を見る.1_20250630181601
2022年.日本.監督:久保田直.
出演:田中裕子(若松登美子),尾野真千子(田村奈美),安藤政信(田村洋司),ダンカン(藤倉春男),白石加代子(藤倉千代),平泉成(若松俊雄),小倉久寛(入江春弼).2_20250630181601
佐渡の漁港の水産工場で働く登美子,夫は失踪したまま未だに行方が分からない.拉致されたのではないかとの観測もある中,登美子はビラを配ったりできる限りの活動をしてきたが,何も判らぬまま30年がたった.同じ漁港で漁師をしている春男は,ずっと登美子と所帯を持ちたいと云ってきているが,登美子は応じることはない.
同じ街の病院に勤める奈美も2年前に教師だった夫が失踪した.奈美の相談に応じ,登美子は事情を詳しく聞き捜索に協力する.奈美は夫の失踪の理由を見出し,自身のけじめをつけたいと考えている.一方登美子は,夫の母親の葬儀に訪れた本土の町で,思いがけず奈美の夫・洋治を見かけ佐渡に連れ帰るが….4_20250630181601
登美子はいまだに夫の肉声が録音されているカセットテープを,繰り返し再生して聞いている.登美子の亡き父は,戦争から帰ってからは人が変わり,登美子を認めずその結婚も許さなかった.登美子には父への激しい反感が今もある.春男をめぐっては,その母(白石加代子)や漁協の幹部らが,いい加減に春男を受け入れよと説得するが登美子は受け容れず,春男は自分の小舟に乗って失踪してしまう.一方奈美は,病院の後輩職員から思いを寄せられ,彼との生活に傾きつつある.3_20250630181601
失踪した男を待つ女の葛藤を演じる女優二人が秀逸.特に田中裕子の演技は素晴らしい.帰宅したが奈美に追い出され,雨の夜に登美子の家を尋ねた洋治を受け入れた晩,一瞬洋治を夫と混同する場面の登美子は迫力がある.実母の葬儀で天涯孤独となった登美子が(喪主側の席には登美子以外誰もいない),棺に実母が保管していた父親の義足を入れようとして(「これも持って行ってもらおうと思った」)火葬場に断られるシーンのおかしさも素敵だ.春男を演じるダンカンは,こんな男と所帯を持つのは絶対嫌だと思わせる迫真の演技が良かった.5_20250630181601
プロットには必ずしも共感しない部分はあるが,俳優陣の演技に満足.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/15

独断的映画感想文:ナミビアの砂漠

日記:2025年6月某日
映画「ナミビアの砂漠」を見る.1_20250616170601
2024年.監督・脚本:山中瑶子.
出演:河合優実(カナ),金子大地(ハヤシ),寛一郎(ホンダ),新谷ゆづみ(イチカ),中島歩(東高明),唐田えりか(遠山ひかり),渋谷采郁(葉山依),澁谷麻美(吉田茜),倉田萌衣(瀬尾若菜),伊島空(三重野),堀部圭亮(林恒一郎),渡辺真起子(林茉莉).2_20250616170601
カナは脱毛エステのスタッフとして働く21歳.友人のイチカと会い,彼女が同級生が亡くなったという深刻な話をしているのに,カナはその話に集中できない.隣の席で話している男たちの方に注意が向いている.帰りたくないというイチカと,先ほどのとなりの席の男性たちと一緒に飲むことになるが,カナはさっさと途中で帰ってしまう.帰った先はホンダと同棲しているアパート,ホンダは甲斐甲斐しくカナの世話を焼き,寝かしてくれる.カナはハヤシとも二股をかけている.ハヤシからは今の男と別れて一緒に暮らしてくれと云われる.ホンダが北海道出張で誘われて風俗に行ったと告白したことをきっかけに,カナはホンダの留守中に引っ越しを敢行,ハヤシとともに新しいアパートに移ってしまう.カナは鼻ピアスを,ハヤシはタトゥーを入れ愛を誓うのだった.4_20250616170601
ハヤシは物書きで自宅で仕事をするタイプ,自宅で暇を持て余すカナと衝突が始まる.喧嘩でアパートを飛び出し,階段から転落して怪我をするカナ,ハヤシはカナの世話をしてくれるが,回復すると喧嘩はまたエスカレートしていく.カナはハヤシの荷物にあった胎児のエコー写真を突き付け,その子はどうなったと激しく詰め寄る….
カナがハヤシと云う男と向き合っていく過程の物語.ホンダといたときはカナは何もしなくてもホンダが仕えてくれた.ハヤシと付き合って初めて,カナは自分がハヤシからどう見られるかを意識する.ハヤシの両親からバーベキューに招かれたときに,「非常識だと思われたくない」と服装を気にするカナ(しかし鼻ピアスはそのままだ).3_20250616170601
カナは母親が中国人というルーツがあり,そのことも改めて意識にのぼってくる.またカウンセラーからはある点での規範意識が強すぎるという指摘を受ける.隣の部屋の英会話教師ひかりからも助言を得る.それまでとりとめもなく過ぎていった日々が,少しずつ変わっていく様だ.終盤またもやハヤシと組んずほぐれつ取っ組み合いの大喧嘩をしているカナ,しかしその喧嘩はそれまでと違って明るい,アスレチックのような雰囲気がある.5_20250616170601
河合優美が何とも魅力的,自分勝手で手の付けられない女だが爆発的な魅力を持つ女・カナを見事に演じている.ラストシーンはナミビアの砂漠のライブカメラの映像.水場の周りに集まってくる動物たちが,微妙な距離をお互いにとって入れ替わり水を飲んでいる様子が映し出される.★★★★(★5個が満点).
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2025/06/12

独断的映画感想文:国宝

日記:2025年6月某日
映画「国宝」を見る.0_20250613214801
2025年.監督:李相日.撮影:ソフィアン・エル・ファニ.音楽:原摩利彦.
出演:吉沢亮(立花喜久雄),横浜流星(大垣俊介),高畑充希(福田春江),寺島しのぶ(大垣幸子),森七菜(彰子),三浦貴大(竹野),見上愛(藤駒),黒川想矢(喜久雄(少年時代)),越山敬達(俊介(少年時代)),永瀬正敏(立花権五郎),嶋田久作(梅木),宮澤エマ(立花マツ),中村鴈治郎(吾妻千五郎),田中泯(小野川万菊),渡辺謙 (花井半二郎).4_20250613214801
長崎に珍しく雪が降った1964年元旦,立花組は料亭で盛大な新年会を開き,組長の息子で15歳の喜久雄は余興の舞踊「関の扉」を,招待客の歌舞伎役者・花井半二郎の前で見事に踊った.ところがその直後,ヤクザの抗争によって父は殺される.喜久雄は花井半二郎に引き取られ,同い年の半二郎の息子俊介と共に,歌舞伎の修行に明け暮れることになった.2_20250613214801
仲も良く互いに切磋琢磨しながら成長していく二人,21歳の時,二人で踊った舞台を見た興業会社の社長の口利きで,二人は京都の歌舞伎の大舞台で,二人道成寺を踊ることになる.踊りは大成功,二人は一躍人気者となる.ある日半二郎は交通事故で,予定していた曽根崎心中の舞台に立てなくなった.代役に誰を立てるのか?半二郎が選んだのは喜久雄だった….3_20250613214801
原作は吉田修一のベストセラー.数奇なめぐりあわせから生涯のライバルであり盟友となった,御曹司俊介と芸の天才喜久雄との,波瀾万丈の運命を描く3時間の大作.この作品の魅力は,なんといってもその構造にある.スクリーンの上で,俳優の演じる歌舞伎役者が,その個人の葛藤を孕みつつ役の性根を演じきって行く.観客は曽根崎心中のお初に感動しつつ,お初を演じる喜久雄の芸に(そしてそれを演じている吉沢亮の演技に)心を動かされている,そのメタ構造がスリリングで魅力的.5_20250613214801
歌舞伎役者役を演じる吉沢亮,横浜流星,渡辺謙,田中泯がいずれも素晴らしい.その他の俳優たちもそれぞれに魅力的.宮澤エマの美しさ,寺島しのぶの存在感,またクレジットされていないが終盤に現れる瀧内公美も素敵.6_20250613215001
そしてこの映画のもう一つの魅力は映像と音楽だ.「アデル、ブルーは熱い色」で見たソフィアン・エル・ファニの,ワンシーンワンカットをゆるがせにしないカメラは実に見事.また,原摩利彦の感情をゆすり上げるような音楽も,素晴らしい.映画としても物語としても重厚・骨太な作品,見応え充分.1_20250613214801
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/10

独断的映画感想文:あんのこと

日記:2025年6月某日
映画「あんのこと」を見る.1_20250613182701
2024年.監督・脚本:入江悠.
出演:河合優実(香川杏),佐藤二朗(多々羅保),稲垣吾郎(桐野達樹),河井青葉(香川春海),広岡由里子(香川恵美子),早見あかり(三隅紗良).2_20250613182701
事実に基づく物語.覚醒剤使用の容疑で取り調べられる21歳の杏,無表情で尋問には抵抗する.代わって取り調べに入った多々羅刑事は,一風変わったアプローチで杏の心をつかむ.杏は祖母と母との3人家族,母の命令で小学生のころから万引きをし,12歳からは売春を強要された.この日も「覚醒剤を買う金があったら家に入れろ」と殴る蹴るの暴行を受ける.4_20250613182701
杏は多々羅の指示に従って覚醒剤を絶つための会:サルベージに参加し,介護施設に就職する.初給料は20日働いて僅か5万円だったが,杏は家族にケーキを買って帰る.しかしその初給料は酔っ払って男と帰ってきた母親にすべて奪われた.杏は実家を出てDVシェルターに移り,理解ある介護の職場を得て働き始める.やがて夜間中学で勉強を始め(杏は漢字は読めず算数もできない),時たま多々羅とサルベージを取材している雑誌記者・桐野と3人でラーメン屋に行くのが日課となった.世界は徐々に杏の頭上に開いていく様だった.しかしこの時,コロナのパンデミックが世界を襲う….3_20250613182701
夜間中学は閉校し,ラーメン屋も閉店した.職場は非正規を解雇することになり,杏は仕事も失う.更に多々羅が女性会員に性的暴行をしたことが桐野の取材で判明し,多々羅は逮捕されサルベージは閉鎖となった.一方,DVシェルターの隣家の女性が,男から逃げるため1歳の子・隼人を無理やり杏に預け姿を消す.杏はやむなくその子の世話に没頭しているところを母親に見つかり,子供を人質に取られて売春を強要された….5_20250613182701
重たい題材を描くが映画は骨太だ.杏は多々羅や桐野に会うまでは一方的に奪われる存在だった.彼らに会って実家から出た時,ようやく与えられる存在となることができた.隼人を預かって世話をしている時,初めて杏は与える立場となることができた.しかしその関係性も,母親に破壊されてしまう.主人公杏のその過程を演じる河合優美がなんといっても素晴らしい.義務教育も満足に受けられなかった21歳の女性の,必死に生きていく姿が胸に迫る.周辺を固める俳優たちも申し分なし.見終わった後暫く心から離れない映画だった.
★★★★(★5個が満点).
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2025/06/09

独断的映画感想文:キンキーブーツ

日記:2025年6月某日
映画「キンキーブーツ」を見る.1_20250610145301
2005年.イギリス.監督:ジュリアン・ジャロルド.
出演:ジョエル・エドガートン(チャーリー・プライス),キウェテル・イジョフォー(ローラ),サラ=ジェーン・ポッツ(ローレン),ジェミマ・ルーパー(ニコラ),リンダ・バセット(メル),ニック・フロスト(ドン),ユアン・フーパー(ジョージ).4_20250610145301
イギリスの田舎町ノーサンプトンの伝統ある靴メーカー「プライス社」の跡取り息子チャーリーは,靴製造の技術を仕込まれたが本人の希望はロンドン暮らし.しかし晴れてロンドンに着いたその日に父が亡くなり,チャーリーはやむなく父の後を継ぐことになる.しかも父が隠していた納品先の倒産が明るみに出て,チャーリーは在庫処分のためロンドンへ.その夜チンピラに絡まれていた美女を助けようとしてノックアウトされ,気がつくと美女の楽屋に.美女はドラァグ・クイーンのローラことサイモンだった.ローラは,女性用の靴が自分の体重を支えられず,すぐに壊れると愚痴をこぼす.3_20250610145301
ノーサンプトンに戻ったチャーリーは辛い思いで15人の従業員をクビにするが,15番目にクビにした若い事務員ローレンに「ニッチ市場を開拓しろ」と発破をかけられる.そこでチャーリーはローレンを再雇用し,ローラの言っていた丈夫なハイヒールブーツを,『危険でセクシーな女物の紳士靴 (Kinky Boots)』として開発することにする.期待を胸に工場にやって来たローラをコンサルタントとして,チャーリーはブーツの生産に着手するが,従業員は必ずしもその路線に賛同していなかった….2_20250610145301
チャーリーはこの新作をミラノの靴見本市に出品する決意を固めるが,従業員の気持ちはなかなか一つにならない.一方チャーリーの婚約者ニコラは,工場を売り払ってその金をもとにロンドン暮らしをしようと主張していたが,チャーリーがミラノ見本市のために自宅まで抵当に入れたことを知って激怒する.しかしニコラは裏で不動産業者とできていた.それを知ったチャーリーは激昂し,ミラノでモデルを務める予定のローラと喧嘩してしまう.この混とん状態のままチャーリーとローレンたちはミラノに行けるのか…?5_20250610145301
実話をもとにした映画(らしい).優柔不断のチャーリーがローラとローレンと云う相棒を得てオトコになって行く物語でもあり,プライス社の従業員たちが偏見から目覚める映画でもある.「それでも夜は明ける」の名優キウェテル・イジョフォーの筋骨たくましいドラァグ・クイーンぶりは傑作,彼がステージで歌う懐かしい歌の数々も素敵だ.イギリス流のユーモアも随処にあり,最後に落ち着く大団円は心温まるものだ.なお,この映画をもとに,シンディ・ローパー作詞・作曲で作成されたブロードウェイミュージカルが2013年に上演され,その舞台をシネマ化した映画「キンキーブーツ」が2018年に作成された.ややこしいけどお間違えの無いように.
★★★★(★5個が満点).
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2025/06/04

独断的映画感想文:丘の上の本屋さん

日記:2025年6月某日
映画「丘の上の本屋さん」を見る.
2021年.イタリア・ユニセフ共同制作.監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ.1_20250607183001
出演:レモ・ジローネ(リベロ),コッラード・フォルトゥーナ(ニコラ),ディディー・ローレンツ・チュンブ(エシエン),ピノ・カラブレーゼ(教授),フェデリコ・ペロッタ(ボジャン),アンナマリア・フィッティパルディ(キアラ).2_20250607183001
イタリアのとある田舎町(ロケ地はイタリアの最も美しい村の一つとされているチヴィテッラ・デル・トロント),丘の上のテラスに面し,一軒の古本屋がある.店主のリベロは老人,訪れる町の人々との,穏やかな日々が描かれる.壁にはスペインのベストセラー小説「風の影」で作者,カルロス・ルイス・サフォンが述べた言葉「持ち主が代わり,新たな視線に触れるたびに,本は力を得る」が掲げてある….3_20250607183001
ある日,本屋の前に佇むブルキナファソからの移民の少年・エシエンに気付いたリベロは,お金が無いから本を買えないというエシエンに,只で本を貸すことにする.少年はすぐに本を読んでしまい,リベロは次々にエシエンに本を貸し続ける.それらの本は,コミック,イソップ物語,星の王子様,白鯨,シュヴァイツァー伝,アンクル・トムの小屋,ロビンソン・クルーソー,白い牙,ドン・キホーテ,世界人権宣言.最後の本は,リベロがエシエンにプレゼントした.4_20250607183001
この物語を軸に,映画は隣のカフェのウェイター・ニコラと家政婦・キアラのロマンスや,本屋の個性的な客たちを描いていく.心温まる佳作だが,ちゃんと最後のドラマはある.世界人権宣言を抱えて,エシエンがリベロからの手紙を読むラストシーンが,印象的だ.5_20250607183001
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2025/06/02

独断的映画感想文:過去を負う者

日記:2025年6月某日
映画「過去を負う者」を見る.
2023年.監督・脚本:舩橋淳.1_20250603171901
出演:辻井拓(田中拓),久保寺淳(藤村),平井早紀(市川),田口善央(三隅善央),紀那きりこ(森文),みやたに(永田),峰あんり(島あんり),満園雄太(若尾雄太),伊藤恵(長谷川),小林なるみ(被害者の母).5_20250603171901
受刑者向けの就職情報誌「CHANGE」編集チームは,出所者の就職あっせんと更生支援をしていた.チームのひとり藤村(35)は,ひき逃げによる殺人罪で10年服役した田中(34)を担当し,中華料理屋に就職させたもののキレやすい性格でトラブル続き.女子児童へのわいせつ行為により2年服役した元教師・三隅(37)は,職に就いたとたんすぐ消息を絶ち,チームを落胆させる.薬物常習で2年服役後出所した森(30)は清掃会社で働くものの,長年続くコミュニケーション障害でなかなか社会にフィットできない.社会復帰に向けてもがき苦しむ元受刑者を目の当たりにした藤村らは,アメリカの演劇による心理療法・ドラマセラピーを提案.元受刑者たちと稽古を重ね,舞台『ツミビト』を公演するまでに至る.舞台初日の観客の反応は,彼らにとって全くの予想外だった…(公式サイト「ストーリー」より).3_20250603171901
本作は台本を用意せず,現場で俳優と演技を煮詰めてゆくドキュメンタリー×ドラマの演出手法によって撮影された由.その映像のリアルさ,この人たちはどうなってしまうのかという息を呑むドラマの展開が,生々しい迫力をもたらす.特に終盤,ドラマセラピーによる舞台「ツミビト」の公演後の観客との話し合いで思わぬ激しい批判・非難にさらされ,元受刑者が切れたり或いは観客に懇願したり,スタッフも元受刑者も打ちひしがれるシーンは,見ていてどうしようもない感情に襲われる.重たいテーマで,元受刑者,支援者,犯罪被害者,第三者のどこにも正解がないことが,思い知らされる場面だった.ラストシーンの救いに癒される.こんな映画は初めてだ.2_202506031719014_20250603171901
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/05/30

独断的映画感想文:ヤジと民主主義 劇場拡大版

日記:2025年5月某日
映画「ヤジと民主主義 劇場拡大版」を見る.Photo_20250602213501
2023年.監督:山崎裕侍.ナレーション:落合恵子.
2019年7月15日,札幌で遊説中の安倍晋三首相(当時)に向けヤジを飛ばした市民複数が,警官・私服刑事らにより拘束され現場から排除された.また安倍政権に抗議するサインボードを持った市民が警官らに包囲され,安倍首相の視界に入らないよう規制された.本件は各方面から北海道警への抗議を呼んだが,道警は適法との立場をとり,ヤジを飛ばした市民2名が北海道を相手に国家賠償を求める裁判を起こした.この映画は本件を取材したHBCのドキュメンタリーの,劇場映画版である….3_20250602213501
訴訟を起こした大杉氏は,第1現場でヤジを飛ばしたところ横にいた自民党員に小突かれ,直後に警官らによって排除された.これを道警は,大杉氏に警職法4条1項(なんらかの危険があって当人を守るために必要があるときは、警察官が必要な限度で当人を引き留め、移動させることができる)を適用したとした.一方第2の現場で大杉氏を拘束・排除したのは,大杉氏が街宣車に近づこうとし右手を前に突き出した行為に対し,警職法5条(犯罪など他者に危害・損害を与えるおそれのある行為が行われようとしているときで、急を要する時には、警察官がその行為を制止することができる)の適用とした.もう一人の桃井氏は,ヤジを叫んでいたことに対し警職法4条1項を適用したとした.4_20250602213501
映像はHBCの取材映像と2人のスマホの映像だが,これによると大杉氏は第1現場では数人がかりで羽交い絞めにされ,後ろ向きのまま排除されている.小突いた方の自民党員が注意され或いは規制された様子はない.第2現場では警察官が大杉氏に「迷惑だからヤジをやめろ」と発言しており,犯罪行為を予測していないことは明らかだ.桃井氏に対しては警官らが両手を掴んで排除した後,桃井氏に長時間付きまといその行動を規制している.一見して事実関係は道警による首相演説へのヤジに対する強制排除ということが明らかである.5_20250602213601
警察の立場として,首相の来訪に対し治安維持のためヤジも含めて取り締まった,ということはありうるだろう.しかし映像に残った警察の行為は明らかに違法だ.札幌地裁判決は大杉氏,桃井氏の全面勝訴となった.ところが高裁は上記の北海道警の屁理屈をそのまま認め,大杉さんの訴えは棄却とした.問題は道警が違法警備を報道陣のカメラの前で公然と行ったこと,高裁が道警の屁理屈を認めたことにあると思われる.元道警の警備担当者がインタビューで,「道警はマスメディアが道警に不利な報道をする訳がないと,舐めているんです」と語っている.この映画とTVドキュメンタリーは,HBCのそれに対する答えだ.そういうものとしての緊張感ある映像が印象的.一見の価値あり.2_20250602213601
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/27

独断的映画感想文:止められるか、俺たちを

日記:2025年5月某日
映画「止められるか、俺たちを」を見る.1_20250531153201
2018年.監督:白石和彌.音楽:曽我部恵一.
出演:門脇麦(吉積めぐみ),井浦新(若松孝二),山本浩司(足立正生),岡部尚(沖島勲),大西信満(大和屋竺),タモト清嵐(秋山道男(オバケ)),毎熊克哉(小水一男(ガイラ)),満島真之介,渋川清彦,高岡蒼佑(大島渚),高良健吾,寺島しのぶ(前田のママ),奥田瑛二(葛井欣士郎).2_20250531153201
事実に基づく映画.1969年3月から1971年9月までの若松プロダクションの軌跡を,新入りの女性助監督めぐみを中心に描く.若松監督は元ヤクザのチンピラ,気が荒く短い.暴力的で金にうるさい.現場では喧嘩腰で,しくじったスタッフは出ていけと罵倒される.
若松は70年安保前後の疾風怒濤の時代を背景に,低予算ながら迫力ある映像のピンク映画を量産し好評を得た.1971年カンヌ国際映画祭の帰路パレスチナへ渡り,パレスチナゲリラとともに軍事訓練を受けると同時に,『赤軍-PFLP 世界戦争宣言』を足立正生と共に制作し,帰国後はその上映運動に奔走する….3_20250531153201
めぐみは若松組の撮影現場の厳しさに耐えながら2年後にはチーフ助監督を務めるようになる.スタッフには頼りにされながらも,映画監督として自身は何を目指すのかが見えないまま,政治にのめり込んでいく若松との距離も感じていた….5_20250531153201
本作の監督は若松組出身の白石和彌,若松監督役は,やはり若松組の井浦新,めぐみ役の門脇麦も好演.めぐみが初めて生い立ちや映画への思いを語るシーン,睡眠薬を飲んで母親に電話をかけるシーンなどが感銘的だ.またクレジットのない役に錚々たる俳優たちが名を連ねる.4_20250531153201
この当時の沸き立つような高揚感,ひりひりする疾走感とともに描かれていく撮影現場や東京の街並み,人びとの交流が印象的,1970年前後の時代の匂いがするようだ.若松孝二という人の熱さ・迫力を改めて感じた.曽我部恵一の音楽も素敵.
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/26

独断的映画感想文:オッペンハイマー

日記:2025年5月某日
映画「オッペンハイマー」を見る.1_20250528175501
2023年.アメリカ.監督・脚本:クリストファー・ノーラン.
出演:キリアン・マーフィ(J・ロバート・オッペンハイマー),エミリー・ブラント(キティ・オッペンハイマー),マット・デイモン(レズリー・グローヴス),ロバート・ダウニー・Jr(ルイス・ストローズ),フローレンス・ピュー(ジーン・タトロック),ジョシュ・ハートネット(アーネスト・ローレンス),ケイシー・アフレック(ボリス・パッシュ),ラミ・マレック(デヴィッド・L・ヒル),ケネス・ブラナー(ニールス・ボーア),トム・コンティ(アルベルト・アインシュタイン),ゲイリー・オールドマン(ハリー・トルーマン).2_20250528175501
映画の冒頭,1920年代.原子核の不思議に魅了される若きオッペンハイマー.ヨーロッパの大学でニールス・ボーア,ハイゼンベルクら当時の最高の物理学者の指導を受け,理論物理学者としての名声を勝ち得て行く.1930年代,アメリカに戻ったオッペンハイマーは量子力学の講座を開き,学生は徐々に増えていった.
一方オッペンハイマーは弟に誘われて共産党や組合活動のグループと付き合うようになり,恋人ジーンや後に結婚するキティも共産党員だった.1942年,グローヴス大佐の訪問を受けたオッペンハイマーは,原爆開発の国家計画(マンハッタン計画)への参加を要請される.オッペンハイマーは自身の出身地に近いロス・アラモスの砂漠に新たな町を作り,全米から最高の科学者を集めて原爆開発に没頭することになる….3_20250528175501
映画は重層的な構造を持って進行する.一つは経時的な事態の経過を描き,一方で1954年,アメリカ原子力委員の資格更新をめぐる聴聞会でのオッペンハイマーへの厳しい追及と証人及び本人の回答を描く.最後に白黒の画面で1959年の米国商務長官に指名されたストローズの公聴会の模様を描く.ストローズは1947年にオッペンハイマーを原子力委員会顧問・プリンストン研究所長に招聘した責任者だった.4_20250528175501
オッペンハイマーは優れた科学者であり感受性に満ちた指導者でもあったが,自身の思想信条についてはあけっぴろげ,女性との付き合いは奔放,敵を作る結果となることに無頓着だった.映画はそのようなオッペンハイマーが苦心の末マンハッタン計画を成功させる姿を描く.オッペンハイマーは一躍国民的英雄となったが,一方戦後の冷戦構造の中で政府や軍部における権謀術数の渦に巻き込まれてゆく.その渦中でのオッペンハイマーと妻キティの悪戦苦闘,誰が味方で誰が敵かも判らない政争,そしてマンハッタン計画が実現してしまった核戦争世界への科学者としての苦悩が描かれてゆく.5_20250528175501
個人的にはドイツが降伏したのに日本に原爆を落とす必要があるのか,という科学者たちの論争が印象的.結局軍部の原爆投下が日本の降伏を早めるだろうという主張通りになったのだが,確かに日本の指導者は原爆が投下されなければ8月15日に無条件降伏はしなかったかもしれない.3時間に及ぶ重厚な映画だが,実に見応えあり.
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/13

独断的映画感想文:君たちはどう生きるか

日記:2025年5月某日
映画「君たちはどう生きるか」を見る.1_20250520175001
2023年.監督・脚本・原作:宮崎駿.
出演(声):山時聡真(牧眞人),菅田将暉(青サギ・サギ男),柴咲コウ(キリコ),あいみょん(ヒミ),木村佳乃(夏子),木村拓哉(勝一),滝沢カレン(ワラワラ),竹下景子(いずみ),風吹ジュン(うたこ),阿川佐和子(えりこ),大竹しのぶ(あいこ),國村隼(インコ大王),小林薫(老ペリカン),火野正平(大伯父).2_20250520175001
空襲による病院の炎上で母親を失った眞人は,軍用機製作に従事する父に従い母の実家に疎開する.その時父はすでに母の妹・夏子と暮らしていて,夏子は身ごもっていた.疎開先の学校の子らに受け入れられなかった眞人は,自らを傷つけ登校をやめてしまう.
屋敷の池に来る青サギは眞人の生活を覗き見し,眞人を屋敷の古い塔に誘う.眞人の大伯父は以前この塔に入ったまま忽然と姿を消し,母は塔の付近で行方不明になったが,暫くして突然元気な姿で現れた.ある日夏子が姿を消す.夏子が塔に向かう姿を見かけた眞人は老女中キリコと共に塔に入り,夏子を探すことになる.4_20250520175001
塔から入り込んだ「下の世界」では若きキリコに出会い共に生活するうち,謎の少女ヒミに遭遇する.眞人はヒミの協力を得て夏子を探す中,この世界を創造した大伯父に会うことができた….
本編は,1937年に吉野源三郎が書いた小説「君たちはどう生きるか」が原作ではない.映画の中で亡き母が眞人に送った本の中に「君たちはどう生きるか」が出てくるが,映画の原作は宮崎駿である.3_20250520175001
印象的なのは,眞人のまっすぐな性格と行動力だ.わずかにベッドの中で母のために涙を流すシーンがある他は,彼はほとんど感情を露わにすることなく,何事もためらわずに突き進んでゆく.この行動力は母譲りなのか.大伯父が創造し今や風前の灯火となっている「下の世界」の精神を引き継ぎ,夏子とともに元の世界に戻る決意をする過程が,まさに「君たちはどう生きるか」のテーマなのであろう.ジブリ世界らしいエピソードに溢れた好編,次々に展開する内容に最後まで引き込まれそれを楽しんだ.5_20250520175001
★★★☆(★5個が満点).
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2025/04/29

独断的映画感想文:落下の解剖学

日記:2025年4月某日
映画「落下の解剖学」を見る.1_20250502164901
2023年,フランス.監督:ジュスティーヌ・トリエ.
出演:ザンドラ・ヒュラー(サンドラ),スワン・アルロー(ヴァンサン),ミロ・マシャド・グラネール(ダニエル),アントワーヌ・レナルツ(検事),サミュエル・タイス(サミュエル),ジェニー・ベス(マージ).
映画の冒頭,雪に覆われたグルノーブル山麓の家で,作家・サンドラが学生のインタビューを受けている.ところが耳を聾するほどの大音響の音楽が聞こえてきて,インタビューどころではない.夫サミュエルが屋根裏で作業をしているのだと云う.学生は諦めて帰って行った.息子ダニエルは犬のスヌープを連れて散歩に行く.帰ってくるとサミュエルが血塗れで家の前に倒れている.音楽はまだ鳴り続けている.ダニエルの叫び声にサンドラが飛び出してくるが,サミュエルはすでに死んでいた.4_20250502165001
この様に始まるミステリー,サンドラはサミュエル殺害の容疑で訴追され,法廷に立つことになる.サミュエルの死因については検察は左額の打撲が致命傷とし,鈍器で殴られたと主張するが凶器は見つかっていない.一方サンドラの弁護士・ヴァンサンが依頼した鑑定人は,物置の壁の血痕が残るにはベランダからはるかに乗り出して打撲を受ける必要があり,サンドラにはなし得ないと主張.額の打撲は転落時に物置のひさしに激突したためであり,そこにDNAが無かったのは日差で融けた雪に流されたためと主張する.5_20250502164901
検察はサミュエルのPCから入手した情報を法廷で公開,サンドラがバイセクシャルで過去に浮気して女性と寝たこと,サミュエルが録音していた事件前夜の激しい夫婦げんかの内容を暴露する.法廷はダニエルの証言を最後に終結するが,判決はどうなるのか….
この映画は事件の真相を明らかにするものではない.サミュエルの事件は殺人・転落事故・自殺のどれであるかは,結局明らかにされなかった.サンドラはドイツ人ですでに売れている作家,サミュエルはフランス人で小説修行中の教員.一家は最近夫の故郷グルノーブルに移ってきた.ダニエルはバイクにはねられた事故で視覚障がい者となった.そのことについてサミュエルは責任を感じている.2_20250502164901
これらの状況から考えると,サンドラがサミュエルを殺害する理由は乏しいように思える.前日激しいいさかいを起こしたからと云って当日サンドラが激昂する必然性はない.検察の主張は余りにも主観的である.そもそも視覚障がい者のダニエルと暮らしながら,耳を聾するような音量で音楽をかけるサミュエルには,幼児性さえ感じられる.
むしろこの映画はダニエルの映画であろう.連日傍聴し証言をすべて耳にしたダニエル,父と母の実像を知りそれをどう受け入れるのか.自身の証言の前夜,何が真実か判らないというダニエルに,裁判所から派遣されてきてダニエルに付き添うマージが次のように助言する.「どちらが真実か判らないときは,一方を信じると心に決めるの」.その言葉に従ってダニエルの下した結論には,共感できる.3_20250502164901
緊張感高く,スリリングな映画,長尺だが最後まで一気に見た.劇中(ダニエルが弾くのだ)とエンドロールで流されるショパンの前奏曲op28第4番が美しい.★★★★(★5個が満点).
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2025/04/03

独断的映画感想文:52ヘルツのクジラたち

日記:2025年4月某日
映画「52ヘルツのクジラたち」を見る.1_20250413183201
2024年.監督:成島出.原作:町田そのこ.
出演:杉咲花(三島貴瑚),志尊淳(岡田安吾),宮沢氷魚(新名主税),小野花梨(牧岡美晴),桑名桃李(少年),金子大地(村中真帆),西野七瀬(品城琴美),真飛聖(三島由紀),池谷のぶえ(藤江),余貴美子(岡田典子),倍賞美津子(村中サチエ).2_20250413183201
三島貴瑚は大分の亡き祖母の家に独り移り住んできた.ある日海を見に行った帰りに倒れてしまう.彼女に傘をさしかけてくれた口をきかない少年を家に連れて帰るが,少年には体中にあざがあった.4_20250413183201
喜瑚は再婚した母親の連れ子として,養父にも実母にも虐待されて育つ.高校卒業後は,倒れた養父の介護を3年間一人で担い,疲れ果て死を覚悟して歩いていたところを,高校時代の親友:牧岡美晴とその同僚:岡田安吾に救われる.安吾は親身に貴瑚を養父・実母のもとから救い出し,自立の環境を整える.社会人として自立した貴瑚は,勤め先の専務で社長の息子:新名主税と付き合うようになるが….5_20250413183201
町田そのこの2021年本屋大賞受賞作を映画化,題名は,「52ヘルツという高音で鳴くため仲間に気付いてもらえないクジラ」から取られている.児童虐待,介護の他,トランスジェンダーや性的ハラスメント等の諸問題が取り扱われている.3_20250413183201
物語はかなり複雑で映画的にはもう少し整理が欲しいところ,しかし主演の杉咲花と志尊淳が素敵.また,老齢の登場人物を演じる余貴美子と倍賞美津子も良かった.海と人物を魅力的に取るカメラも良い.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/03/26

独断的映画感想文:侍タイムスリッパー

日記:2025年3月某日
映画「侍タイムスリッパー」を見る.1_20250327204801
2023年.監督・脚本・撮影:安田淳一.
出演:山口馬木也(高坂新左衛門),冨家ノリマサ(風見恭一郎),沙倉ゆうの(山本優子),峰蘭太郎(殺陣師関本),庄野崎謙(山形彦九郎),紅萬子(住職の妻節子),福田善晴(西経寺住職),井上肇(撮影所所長井上),安藤彰則(斬られ役俳優安藤),田村ツトム(錦京太郎).4_20250327204801
高坂新左衛門は会津藩士,同志と共に長州藩士・山形彦九郎と対決中,雷に打たれ昏倒する.目覚めたところは京都撮影所,オープンセットでの殺陣シーンに紛れ込んだ高坂は助監督・山本優子に叱られ追い出されるが,撮影機材で頭を強打,病院送りとなる.2_20250327204801
病院で気がついた高山は,幕府滅亡から140年経っていることを知り愕然.優子の世話で,奇しくも140年前にその門前で彦九郎と対峙した西経寺に拾われ,寺男として居候となる.やがて撮影所の斬られ役として働きだした高坂は,剣術の腕と真面目な人柄を認められ,殺陣師関本の許しを得て斬られ役集団「剣心会」入門を許される….3_20250327204801
インディーズとして製作され商業劇場で上映されるや人気爆発し,一気に全国チェーンでの上映に拡大した傑作時代劇.とにかく脚本が無茶苦茶に面白い.出だしの雷に打たれタイムスリップという展開はともかく,高坂が出現したのが京都撮影所という経過,一度は時代劇を捨てた大御所・風見恭一郎が時代劇復帰に際し高坂を相手役に指名した謎,クライマックスの高坂・風見の直接対決シーンのド迫力等,映画としての見どころに満ちている.エピローグの落ちも秀逸.5_20250327204801
「10名たらずの自主映画のロケ隊が時代劇の本家、東映京都で撮影を敢行する前代未聞の事態」の中できあがった本作だが,全編が映画愛に満ちていて感動した.助監督役の沙倉ゆうのが,現場では俳優兼任で実際の助監督だったという嘘のような本当の話も,面白い.見て損はなし,お勧めです.
★★★★(★5個が満点).
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2025/03/24

独断的映画感想文:瞳をとじて

日記:2025年3月某日
映画「瞳をとじて」を見る.
2023年.スペイン.監督:ビクトル・エリセ.1_20250326213001
出演:マノロ・ソロ(ミゲル),ホセ・コロナド(フリオ),アナ・トレント(アナ),マリア・レオン(ベレン),マリオ・パルド(マックス),エレナ・ミケル(マルタ),ホセ・マリア・ポウ(レヴィ).2_20250326213001
映画の冒頭,男が「悲しみの王」という名前の古い邸宅に入ってゆく.屋敷の主,ユダヤ人のレヴィは男・フランクに,昔上海で生まれた自分の娘を探して連れてくるように依頼する.フランクは承知して出発する.
これは「別れのまなざし」という映画の初めのシーン,フランクを演じた俳優・フリオはこの映画の撮影中に突然失踪し,以降姿を現さなかった,もう22年前の話だ.監督第2作目の「別れのまなざし」が打ち切りとなり,以後二度と映画を撮らなかった監督・ミゲルはフリオの親友.TV局の「未解決事件」という番組でこの件を取り上げることになり,ミゲルは担当プロデューサー・マルタと会う.4_20250326213001
番組のためにフリオの一人娘・アナや,当時の編集担当者で旧友のマックスと会い,フリオと共に過ごした若い頃や自分の来し方を追想するミゲル.番組がオンエアされると,フリオと似た男が高齢者施設にいるとの情報が寄せられた….5_20250326213001
中盤までフリオはどうなったのかに焦点があてられるミステリ仕立ての映画.ミゲルとフリオは水兵時代からの親友で,一緒に刑務所に入ったこともある.女と酒を切らすことのなかった人気俳優フリオは,なぜ撮影中に失踪したのか.後半の焦点は高齢者施設にいた男・ガルデルはフリオなのかどうか.ミゲルはアナをガルデルに面会させ,更にマックスの協力を得て「別れのまなざし」の上映会を開く….3_20250326213001
映画の中で映画が撮影され上映されるメタ構造の映画.長く映画を撮っていないミゲルの追想は,本作監督エリセの追想と重なる.演じる俳優がそれぞれ存在感があって魅力的.またその俳優の貌がアップで強調されるカメラワークも素敵だ.6_20250326213001
ゆっくり進む物語,程よい各エピソードの紹介,伏線が回収されていくが最後の結論は観客に投げかける構造,映画というものの魅力が詰まった好編である.特にプロローグとエピローグに使われる「別れのまなざし」の映像はまことに魅力的.2時間半を超える長尺だが一気に見た.映画らしい映画,お勧めです.
★★★★(★5個が満点).
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2025/03/05

独断的映画感想文:名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN

日記:2025年3月某日
映画「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」を見る.A-complete-unknown1
2024年.監督:ジェームズ・マンゴールド.
出演:ティモシー・シャラメ(ボブ・ディラン),エドワード・ノートン(ピート・シガー),エル・ファニング(シルヴィ・ルッソ),モニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ),ボイド・ホルブルック(ジョニー・キャッシュ),ダン・フォグラー(アルバート・グロスマン),ノーバート・レオ・バッツ(アラン・ローマックス),スクート・マクネイリー(ウディ・ガスリー).A-complete-unknown3
1960年から1965年までのボブ・ディランを描く.この時期のディランを描いた映画には,既にマーティン・スコセッシ監督の3時間半にわたるドキュメンタリー映画「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム」がある.本作は歴史的事実を追ったものではなく,ひたすら詩人でありミュージシャンであり続けようとしたディランの,60年代前半の愛と音楽の物語と言えようか.A-complete-unknown2
映画はN.Y.に出てきたディランが憧れのウディ・ガスリー,ピート・シガーと出会うところから始まる.俳優自身によって歌われるこの時期の音楽が懐かしく素晴らしい.ピート・シガーがライブで聴衆と共に歌う「ライオンは眠っている」も素敵だったが,ディランになり切って唄い演奏するティモシー・シャラメがとにかく最高.ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロも素晴らしい.A-complete-unknown4
時代背景のキューバ危機,ワシントン大行進,ベトナム戦争,ケネディ大統領暗殺等もバランスよい緊張感で描かれ,ディランがフォークアイドルからミュージッシャンとして飛躍を遂げようとする意志と,フォーク原理主義者ともいうべき人達との葛藤がよく理解できる. 1965年7月のニューポート・フォーク・フェスティバルの迫力ある経過は,クライマックスに相応しく,その後のウディ・ガスリーとのエピローグに泣かされた.見ごたえある映画.A-complete-unknown5
★★★★☆(★5個が満点).
蛇足:この映画の題名も,マーティン・スコセッシのドキュメンタリーの題名も,名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」から取られている.最後にこの曲のリフレインの歌詞を載せてボブ・ディランに敬意を表しておこう.
How does it feel, how does it feel?
To be on your own,
with no direction home
a complete unknown,
like a rolling stone
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2025/03/03

独断的映画感想文:コット、はじまりの夏

日記:2025年3月某日
映画「コット、はじまりの夏」を見る.1_20250305203601
2022年アイルランド映画.監督・脚本:コルム・バレード.
出演:キャリー・クロウリー(アイリン),アンドリュー・ベネット(ショーン),キャサリン・クリンチ(コット),マイケル・パトリック(ダン).
アイルランドの片田舎,コットは貧しい農家の四女.弟はまだ小さいうえ母親は臨月,コットは親からも姉たちからもかまってもらえない.9歳のコットは口数も少なく,未だおねしょもしている.学校でも友達に馴染めず,コットは居場所がなかった.2_20250305203601
いよいよ母親の出産が近づき,夏休みの間コットは母の従兄妹・アイリンとショーンの夫妻に預けられることになる.車でコットを送ってきた父は,その日の賭けに夢中で上の空,コットの着替えを渡すのも忘れて去ってしまった.アイリン夫妻には子供がいない.かって居た男の子の部屋が寝室となり,コットは暫く少年の服を着替えに着ることになる.アイリンがコットをお風呂に入れてくれ,ほったらかしの髪も梳いてくれた.おねしょも治り,コットは農家の手伝いをしながら次第にこの家に馴染んでいく….3_20250305203601
父親は酒好きの博打好き,農作業もとかくおろそかになり子どもたちへの愛情も感じられない.子だくさんで貧しい家庭は,騒然として風が吹き抜ける様だ.
アイリン夫妻は勤勉で物静か,お互いを思いやる様子が見て取れる.コットは本もつづりを教わりながら読むようになり,自分というものを考えるようになる.コットは元来寡黙だが,アイリン夫妻も物静か,映画自体も寡黙なうちに映像がいろいろなことを明らかにしていく.4_20250305203701
アイリン夫妻のいまはいない男の子は事故で亡くなったのだった.アイリン夫妻はそのことに触れないが,近所で葬儀のあった日,コットと二人きりになった近くのお喋りの主婦がコットとアイリン夫妻の生活を根掘り葉掘り尋ねたうえ,男の子が事故死したことを言ってしまう.どんな事故だったかまで話して聞かせたのだった.そのことを知ったアイリンは打ちのめされ,部屋から出てこない.ショーンは寡黙なのは良いことだとコットに言う.5_20250305203601
映画は寡黙なコットがそのアイデンティティを得て成長していく様子を,しずかに描いていく.映画のラストシーン,夏休みが終わり実家に帰ったコットが,アイリン夫妻に別れを告げる場面が忘れられない.原題はTHE QUIET GIRL,しかし邦題も悪くない.
★★★★(★5個が満点).
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2025/02/27

独断的映画感想文:愛を耕す人

日記:2025年2月某日
新宿ピカデリーで映画「愛を耕す人」を見る.1_20250228215301
2023年.監督:ニコライ・アーセル.音楽:ダン・ローマー.
出演:マッツ・ミケルセン(ルドヴィ・ケーレン),アマンダ・コリン(アン・バーバラ),シモン・ベンネビヤウ(フレデリック・デ・シンケル),メリーナ・ハーグベリ(アンマイ・ムス),クリスティン・クヤトゥ・ソープ(エレル),グスタフ・リンド(アントン),ヤコブ・ローマン(トラポー).2_20250228215301
18世紀の半ば,ルドヴィ・ケーレンはドイツ陸軍に25年勤め大尉で退任した.故郷のデンマークに戻り,ユトランド半島の未開の荒地を自己資金で開拓すると申し出る.成功報酬は爵位とそれにふさわしい領地・使用人だった.ユトランド半島荒地の開拓は国王の悲願であり,財務省はケーレンに国王決裁の許可を出す.4_20250228215301
ケーレンは荒地の各地で土壌の調査を行い,ここと決めた箇所に家を建て「王の家」と名付ける.牧師アントンの斡旋で逃亡小作人のヨハネス,アン・バーバラの夫妻を雇い,また森に住むタタール人の一族を雇って土壌の改良に努める.
一方,この地方の貴族で地方裁判所判事を兼ねるシンケルはケーレンを呼び出し,この地方の未開拓の荒地はすべて自分の領地なので,自分の小作人となる旨の契約書に署名するようケーレンに求める.ケーレンは荒地は国家すなわち国王の所有であり,自分は国王に仕える身だとして,シンケルの要求を一蹴する.これ以降シンケルのケーレンへの攻撃は激化し,逃亡小作人のヨハネスを逮捕して殺害,タタール人の雇用は違法としてタタール人を追放する.ケーレンはアン・バーバラとタタール人の孤児:アンマイ・ムスと共に開拓を続けるが,資金も尽き冬が目前に迫ってきた….5_20250228215301
ケーレンには切り札があった.ドイツから取り寄せたジャガイモである.ユトランド半島の荒地でもジャガイモは育つと,ケーレンは確信していた.越冬のさなか種芋を食べ病気のアンマイ・ムスを救おうと言うアン・バーバラを止め,ヤギを屠って種芋を確保したのはケーレンの見識である.ケーレンは開拓1年目の終わりに,国王にジャガイモ80袋を献上することができた.国王はケーレンを測量士に任命し,この地に入植者の派遣を認める.3_20250228215301
しかしシンケルは諦めず,犯罪者を雇って入植者を襲わせその子供や多数の家畜を殺害した.更に反撃したケーレンを殺人者として報告,ケーレンはシンケルに逮捕され処刑の危機に直面する….
ケーレンは貴族の使用人であった母親の私生児である.つまり貴族の庶子であるが,貴族自身は認知せずケーレンは軍隊に送られた.ケーレンは爵位を得る手段として開拓を申し出たのだが,思いがけない結果としてアン・バーバラとアンマイ・ムスとで獲得したジャガイモ畑の暮らしは,ケーレンに新しい人生の意義を与えたようだ.6_20250228215301
映画の後半,ケーレンは開拓の努力を認められ,爵位を得て新たな入植者受入れの許可も得る.しかしそのすべてをなげうってケーレンはある行動に出る.それは観客全ての共感を得るものだろう.自分はそのシーンに涙を禁じ得なかった.
007映画で活躍したマッツ・ミケルセンの寡黙な演技を始め,俳優陣の好演が素晴らしい.ケーレンの艱難辛苦と真っ向から闘う人生と,アン・バーバラやアンマイ・ムスとの生活を経て,爵位も金も越えて大事なものに命を懸ける人生が心を打つ.ダン・ローマーの音楽も劇的で大好き.まことに骨太な映画で,見応え十分だ.原題のBASTARDENは「私生児」「ロクデナシ」という意味,ケーレン大尉のことでもありシンケルのことでもあるという二重性を持つ.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/02/26

独断的映画感想文:岸辺露伴 ルーヴルへ行く

日記:2025年2月某日
映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を見る.1_20250303154001
2023年.監督:渡辺一貴.出演:高橋一生(岸辺露伴),飯豊まりえ(泉京香),長尾謙杜(岸辺露伴(青年期)),安藤政信(辰巳隆之介),美波(エマ・野口),白石加代子(露伴の祖母),木村文乃(奈々瀬).2_20250303154001
人の心や記憶を本として読みまた書き込みもできる能力を持つ漫画家・岸部露伴.絵画のオークションに参加した露伴は,漆黒の絵に魅せられ落札する.ところが持ち帰ったその絵を狙って賊が侵入,絵は取り戻せたがその謎を追って露伴はルーブルに取材に行くことになる.漆黒の絵には露伴の実家にまつわる思い出があり,若い時実家で漫画修行に明け暮れていた時,露伴は下宿人の奈々瀬にあこがれる.奈々瀬は露伴に「この世で最も邪悪な黒い絵を知っているか?」と聞いたことがある….3_20250303154001
荒木飛呂彦原作のコミックの映画化.物語は絵画の模写を利用した盗品売買と,江戸時代の日本画家・山村仁左右衛門の描いた「黒い絵」の呪いを織り交ぜて展開.結局はオカルトもので,あまり良い趣味とは思えなかった.助手・泉京香役の飯豊まりえのペラペラしゃべりまくる薄べったいキャラが共感できず.高橋一生,木村文乃もさして魅力なし.4_20250303154001
★★(★5個が満点).
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2025/02/17

独断的映画感想文:唄う六人の女

日記:2025年2月某日
映画「唄う六人の女」を見る.1_20250221184601
2023年.監督:石橋義正.
出演:竹野内豊(萱島),山田孝之(宇和島),水川あさみ(刺す女),アオイヤマダ(濡れる女),服部樹咲(撒き散らす女),萩原みのり(牙を剥く女),桃果(見つめる女),武田玲奈(包み込む女),大西信満,津田寛治,白川和子,竹中直人.4_20250221184601
萱嶋は恋人と暮らすカメラマン,幼い時に離婚で別れた父の訃報が届く.山中の実家では不動産屋が待っていて,彼らの勧めるまま萱嶋は父の家屋敷の売却契約に応じる.その帰路,不動産ブローカーの宇和島の運転する車で送られる途中,落石事故に遭遇する二人,気が付くと萱嶋は縛られ古い民家に寝かされていた.時折現れ無言のまま食事を出したりする6人の女たち,彼らが何者なのか皆目見当がつかない.隙を見て脱出した萱嶋は,同じく縛られ逆さづりにされていた宇和島を発見して,共に逃げ出す.しかし森の中をどれだけ歩いても元のところに戻ったり,どうしても麓にたどり着くことができない.そのうちに萱嶋は,宇和島が不動産売買に際し,何か隠していたことに気が付く….2_20250221184601
萱嶋と宇和島の扱いの差を見ても,明白に萱嶋=善玉・宇和島=悪玉であり,宇和島自身もその悪党ぶりをすぐに発揮する.6人の女たちの正体もだんだんわかってくるが,物語の着地点はどこか?混沌としたまま映画は終盤へ.
この映画はファンタジーと考えられるが,その割に血生臭い描写が多く,観客にとっては落ち着きが悪い.物語にも相当難があって,そもそも萱嶋の両親がなぜ離婚したかも一切不明,エピローグもあまりに唐突な内容で受けいれ難い.題名に「唄う」とあるが,彼女らは口も利かないし唄うことも一切ない.3_20250221184601
但し6人の女たちそれぞれが森の精霊だということは判るし,彼女たちの魅力はそれなりに楽しめる.自然の映像も美しい.しかし映画としては未完性,穴だらけの作品.5_20250221184601
★☆(★5個が満点)
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2025/01/24

独断的映画感想文:敵

日記:2025年1月某日
映画「」を見る.1_20250129205601
2023年.監督・脚本:吉田大八.
出演:長塚京三(渡辺儀助),瀧内公美(鷹司靖子),黒沢あすか(渡辺信子),河合優実(菅井歩美),松尾諭,松尾貴史,中島歩,カトウシンスケ,松永大輔.
渡辺儀介は77歳,退職した大学教授で既に妻信子は20年前に亡くなっており子供もいない.庭のある古い住宅に一人住み,家事を完ぺきにこなし時に客を招いて料理でもてなすこともある.講演料や原稿料もわずかにあるが,生活の質は落とさず,預貯金を使い果たしたら自裁しようと考えている.4_20250129205601
教え子の鷹司靖子,椛島光則が時折訪ね,またデザイナーの湯島定一とはバー・「夜間飛行」で飲み交わす仲,「夜間飛行」でマスターの姪・菅井歩美と話すのも楽しみだ.規則正しくそれなりに充実した日々,しかしある日パソコン通信に「北の方から敵が来ると言って皆が逃げはじめています」という記事が載るようになる….
筒井康隆の1998年の小説を,モノクロ映画化した作品.映画の前半は自宅で暮らす儀介の起床,洗面から食事の準備,食事,珈琲,来客等々日々の生活を詳細に描写する.このしっかりした生活を,儀介は死ぬ日まで続けようと思っているのだ.しかしパソコン通信に「敵」が現れるようになった頃から,画面の様子が少しおかしくなる.5_20250129205601
亡き妻・信子がしきりと現れる.ある時は儀介とともに入浴したり,時には来客としてきた鷹司靖子に下心があると非難したりする.あるいは来客として来ていた鷹司靖子が思いがけず儀介に身体を許す.慌ててことに及べば最後の瞬間靖子は消え失せ,夢であることがわかる.パソコン通信の「敵」の記述は続き,ある時は自宅内に真っ黒に汚れた難民がひしめいていたりする.敵とは何か?何が現実で何が妄想なのか.3_20250129205601
この原作を書いた時筒井康隆は63歳だった.63歳の筒井が描いた77歳の儀介の不安のリアルさに驚嘆する.77歳の元大学教授・儀介には様々な不安がある筈だ.自分は元専門家として,教え子(鷹司靖子)や現役の仏文科の学生(菅井歩美)に可笑しなことを喋ってないだろうか?自分は街なかに出るときに妙な格好をしていないだろうか?妙な臭いがしていないだろうか?自慰として処理している自分の性欲は,ひとの知るところとならないだろうか?そのような不安にどう立ち向かえばいいのだ!?2_20250129205601
画面には規則正しく今までの生活を送る儀介の一方で,パジャマにカーディガンを羽織ったままカップラーメンを掻き込む儀介も描かれる.どちらが儀介の妄想なのか?79歳の長塚京三の存在感が素晴らしい.女優陣では瀧内公美,河合優美が素敵.淡々と進むモノクロの画面に共感して映画は終わる.
★★★★(★5個が満点).
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2025/01/22

独断的映画感想文:ロスト・キング 500年越しの運命

日記:2025年1月某日
映画「ロスト・キング 500年越しの運命」を見る.5001
2022年.監督:スティーヴン・フリアーズ.
出演:サリー・ホーキンス(フィリッパ・ラングレー),スティーヴ・クーガン(ジョン・ラングレー),ハリー・ロイド(リチャード3世/ピート),マーク・アディ(リチャード・バックリー).5003
フィリッパは難病のME(筋痛性脳脊髄炎)を抱えた女性.自宅に同居する2人の息子を,離婚して別居している夫ジョンと共に育てている.仕事はベテランなのに人事で評価されずストレスのたまる日々,息子と一緒に見た「リチャード三世」の舞台に感銘を受け,身体障害ゆえに性格も歪んだと評価されるリチャード三世の生涯に興味を持つ.5005
仕事も休みがちにリチャード三世の文献を読破し「リチャード三世協会」にも加入するフィリッパ,リチャード三世の墓の場所が不明なことを知り,レスター市の現地調査も行う.墓地となったグレイフライアーズ修道院は今跡形もないが,神聖な場所は空き地のままにされることが多いということを知り,その場所に該当する社会福祉事務所の駐車場で彼女は激しく心を動かされる….5004
事実に基づく物語であるとそう最初にテロップが出るが,実際は事実に基づいたファンタジーと言って良い.フィリッパのもとには昼も夜もリチャード三世の幻が現れ,彼女を支え励ます.遂に遺骨が見つかったという知らせに現場に急行する彼女を先導して,白馬にまたがったリチャード三世が疾駆するシーンはなかなか素晴らしい.5002
当初は彼女の発掘プロジェクトを嘲笑し,約束した資金も途中から引き揚げたレスター市の広報課長が,遺骨発見以降はレスター大学に栄誉を独占させるために奔走する姿が描かれる.一方,「新しい恋人」に夢中だった元夫ジョンは,最終的には献身的に彼女を支え続けた姿が描かれ(スチール写真を見ると,結局ジョンが彼女のリチャード三世だったことが示されている),全体としては素敵な仕上がりの映画となった.サリー・ホーキンスが流石の好演.
★★★★(★5個が満点).
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2025/01/12

独断的映画感想文:Cloud クラウド

日記:2025年1月某日
映画「Cloud クラウド」を見る.Cloud-1
2024年.監督・脚本:黒沢清.
出演:菅田将暉(吉井良介),古川琴音(秋子),奥平大兼(佐野),岡山天音(三宅),荒川良々(滝本),窪田正孝(村岡),赤堀雅秋(殿山宗一),吉岡睦雄(矢部),三河悠冴(井上),山田真歩(殿山千鶴),矢柴俊博(北条),森下能幸(室田),千葉哲也(猟師),松重豊.Cloud-2
吉井良介は工場勤務の傍ら,ハンドル名・ラーテルで転売で稼いでいる男.倒産寸前の町工場から定価20万の健康器具を3千円で買受け,10万円で売り抜けることに成功する.Cloud-3
勤務先の上司滝本は吉井を評価し管理職になるよう勧めるが,吉井はあっさり退職し,恋人秋子とともに山の中の一軒家に転居して,地元の青年・佐野を助手に雇い入れ転売事業に専念する.その後の事業の展開がはかばかしくない一方,ラーテルに偽ブランドを掴まされた等の投稿が一人歩きを始め,ラーテルを狩立てようというゲームがリアルに動きだ….Cloud-4
後半は吉井を襲ったチームとの間のリアル銃撃戦,襲撃時には事態が冗談だとしか思っていなかった吉井を佐野が救援し,凄惨な殺し合いとなる.リアルな殺し合いとなった時点で,ホラー映画というカテゴリーではなくなった本作,この監督らしくないと言えば言えるかも知れない.Cloud-5
自分としてはこの転売ヤーに必ずしも悪意を感じなかったので,襲ったチームの不条理性は感じたが,銃撃戦はネット上の悪罵の投げ合いがリアルな銃弾となっただけとしか思えなかった.むしろ一番怖かったのは,この銃撃戦に便乗して金を奪う為吉井を殺そうとする,秋子の悪鬼の形相だ.意外な素顔を現す佐野を演じた奥平大兼が良かった.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/01/11

独断的映画感想文:市子

日記:2025年1月某日
映画「市子」を見る.1_20250119184901
2023年.監督:戸田彬弘.
出演:杉咲花(川辺市子),若葉竜也(長谷川義則),森永悠希(北秀和),倉悠貴(田中宗介),中田青渚(吉田キキ),石川瑠華(北見冬子),大浦千佳(山本さつき),渡辺大知(小泉雅雄),宇野祥平(後藤修治),中村ゆり(川辺なつみ).2_20250119184901
小さなアパートで長谷川と暮らす川辺市子,同棲して3年となる.この夜,長谷川が結婚を申し込み書類を渡すと,市子は涙を流して喜んだ.しかし翌日忽然と市子は姿を消す.3_20250119184901
市子を探して警察にも行く長谷川,しかし彼を訪れた刑事後藤は,川辺市子という人物の戸籍はないと言う.後藤は生駒山中で発見された身元不明の難病患者死体遺棄事件の担当だった.長谷川と後藤の調べで次第に明らかになっていく市子の人生,市子の幼馴染みは小学校入学時には彼女は月子と名前が変わっていたと言う.月子の家は貧しい母子家庭で,妹は難病で寝たきり,母親が水商売をしていたが福祉の担当者に体を許してもいた….4_20250119184901
市子は母親の離婚後に生まれた為,母親は父親の暴力から逃れるため市子の戸籍登録を行わなかったらしい.その為市子は小学校入学時には,妹月子の学籍を使った.しかし月子が死去した後市子は無戸籍者として暮らして来た.免許も取れず病院にも行けない生活を強いられた.
この3年市子は長谷川との小さいながら安定した暮らしに喜びを感じ,またケーキ屋のバイト先で親しくなった子と,将来独立してケーキ屋を営もうと誘われてもいた.一方で市子の周辺では2件の死亡事件が発生しているのだ.市子はどういう存在なのか,この後市子はどうなるのか.5_20250119184901
市子を演じる杉咲花の,虚無的でときに激情を爆発させる演技が魅力的.周りの演技陣も達者で物語に入り込める.物語に希望はなく結末はやりきれないが,印象に残る映画.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/01/03

独断的映画感想文:線は、僕を描く

日記:2025年1月某日
映画「線は、僕を描く」を見る.1_20250119183201
2022年.監督:小泉徳宏.
出演:横浜流星(青山霜介),清原果耶(篠田千瑛),細田佳央太(古前巧),河合優実(川岸美嘉),矢島健一(国枝豊),夙川アトム(滝柳康博),井上想良(笹久保隆),富田靖子(藤堂翠山),江口洋介(西濱湖峰),三浦友和(篠田湖山).3_20250119183201
法学部の学生青山霜介は,アルバイトで行った水墨画展で椿の絵に魅せられる.それが縁となり水墨画の巨匠:篠田湖山に弟子入りを勧められるが,霜介は生徒として水墨画の勉強を始めることにし,高弟の西濱と共に湖山の身近に仕えて技術を学んでいく.5_20250119183201
椿の絵を描いた湖山の孫:千瑛は,湖山の厳しい指導を受けてスランプに陥っているらしい.千瑛にも教えを受けながら水墨画に魅せられていく霜介,しかし来賓が来た水墨画の実演会で湖山が倒れるという事態が発生する….4_20250119183201
湖山は回復したが右手は不自由になった.湖山は左手で描いて行くと言い,一方で千瑛と霜介への厳しい指導は変わることがない.霜介には独り住まいに旅立つ日に家族と喧嘩し,直後に実家が洪水に呑まれるという辛い過去があった.千瑛は期待された展覧会で落選して以来の焦りがある.二人は霜介の家族の命日に共にその実家の後を訪れ,自分と向き合い対象の本質を追求していこうとかたりあう.2_20250119183201
本屋大賞第3位の原作の映画化.水墨画の世界を紹介してなかなかに興味深い.物語や音楽は平均レベルで瞠目するまでのものではないが,今旬の主演の二人:横浜流星と清原伽耶が魅力的だ.この2人を楽しむ映画.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/01/01

独断的映画感想文:金の糸

日記:2025年1月某日
映画「金の糸」を見る.1_20250102221801
2019年.ジョージア・フランス.監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ.
出演:ナナ・ジョルジャゼ(エレネ),グランダ・ガブニア(ミランダ),ズラ・キプシゼ(アルチル).2_20250102221701
ジョージアのトリビシの古い集合住宅に住むエレネは作家,今日は79歳の誕生日なのに誰もそれを覚えていない.同居する娘夫婦から,姑のミランダにアルツハイマーの症状が出てきたため,この家に引き取り一緒に暮らすと云ってくる.そんなところへ昔の恋人アルチルから,誕生日おめでとうの電話がかかってくる.今は車いす生活のアルチルからの電話に,心ときめくエレネ.
一方同居を始めたミランダは,ソ連時代は政府の高官だった.ともに食事をとりながら,上から目線で当時の政府の政策について話したり,客にエレナもそれなりに名の通った作家だったと話したりする.エレネは心穏やかではない….4_20250102221701
ある日アルチルからかかった電話を盗み聞きしたミランダは,アルチルが昔自分に言い寄ったことがあったと話す.またエレネが若いころ発行した著作が発禁を喰らい長い間キャリアを棒に振ったことに対し,その発禁を指示したのは自分だったと話す.しかし一方でミランダが恒常的に障碍者のために寄付をしていることもエレネは知るのだった.しかしその頃ミランダは,重要会議に自分を出席させるために来るはずの公用車を探して,街をさまよっていた….3_20250102221701
長い人生のあいだにはいろいろなことが起こる.この映画の物語は,特定の事件を取り上げその当事者が対決したり,決着をつけたり,和解したりするというものではない.それをするにはお互いにすでに年を取り過ぎている.残り少ない人生をよりマシにより美しく生きていくにはどうしたらよいのだろう.5_20250102221701
「金の糸」とは日本の金継ぎ技術のことである.エレネは孫に金継ぎされた陶器の写真を見せながら,壊れたものを別の価値を持つものとして蘇らせる,日本の技術だと説明する.エレネが今住む集合住宅の住民たちとの交流や,元気なアルチルとダンスを踊る過去の映像を挟みながら,淡々と進む物語は見応えあり.カメラが映し出すショットは神経が行き届いた美しさ,音楽も素晴らしく一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2024/12/30

独断的映画感想文:シビル・ウォー アメリカ最後の日

日記:2024年12月某日
映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を見る.1_20241231153301
2024年.監督:アレックス・ガーランド.
出演:キルステン・ダンスト(リー・スミス),ワグネル・モウラ(ジョエル),ケイリー・スピーニー(ジェシー・カレン),スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン(サミー).2_20241231153301
近未来のアメリカ,政府に反旗を翻した西部勢力(WF)・フロリダ同盟所属の19州が分離独立を表明,激しい内戦が勃発する.政府軍は劣勢でワシントンDC陥落は目前となっている.ニューヨークのベテランカメラマン・リーと記者ジョエルは,大統領への直撃インタビューを狙い,リーの師匠である老記者サミーと駆け出し写真家ジェシーを伴って,ピッツバーグからシャーロッツビルを経由しワシントンDCを目指す旅に出る.5_20241231153301
水も電気も不足するニューヨークは暴動と衝突が続き,路上には死者が横たわる.途上の街はいずれも無政府状態,略奪者を私刑にしてガソリンスタンドを守る武装地元住民や,反政府民兵に処刑される政府軍捕虜,敵の正体も判らぬままにらみあい撃ちあう狙撃兵たち.途上,合流してきた知り合いのアジア系ジャーナリストとジェシーが,軍服を着た所属不明の武装兵に捕まってしまう….3_20241231153301
ジャーナリストの活躍・成長譚を縦軸に構成される映画だが,描かれるのはむき出しの暴力が制圧するアメリカの状況.内戦を戦う正規軍とは別に,無政府状態下,暴力を握るグループが好き放題に好ましくない敵対者・気に入らないマイノリティを殺戮していく.この映画が描く半歩手前の状態までもうアメリカは来ているという感覚が,この映画がヒットする前提にあるのだろう.6_20241231153301
ジェシーを守るために,サミーもリーも命を落とす.ジェシーは生き延び野心に燃える戦場カメラマンになって行く.何とも言えない結末に呆然とする.
★★★☆(★5個が満点)
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2024/12/29

独断的映画感想文:PERFECT DAYS

日記:2024年12月某日
映画「PERFECT DAYS」を見る.Perfect-days0
2023年.監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース.
出演:役所広司(平山),柄本時生(タカシ),中野有紗(ニコ),アオイヤマダ(アヤ),麻生祐未(ケイコ),石川さゆり(ママ),田中泯(ホームレス),三浦友和(友山).Perfect-days3
平山はきわめて寡黙な男,アパートの一室に一人住み暮らす.毎朝決まった時刻に起き,支度してカセットテープを聞きながら軽トラで出勤する.仕事はシフトの相方タカシと分担して幾つかの公衆トイレを清掃することだ.昼休みは近くの神社で昼食を摂り樹々の写真を撮る,仕事が終わると銭湯で汗を流し浅草で一杯飲む.帰宅すると文庫本を読みながら眠りに就く.Perfect-days2
休みの日にはコインランドリーで洗濯し,撮ったフィルムを現像に出しできた現像を受け取る.古本屋に行って文庫本を購入する.馴染みの居酒屋に行って常連客とママさん相手に一杯飲む.判で押したような同じことの続く日々,しかし平山は一つ一つの日常のことに喜びを見出している.Perfect-days1
時には事件が起こるときもあり,タカシが入れあげているガールズバーの女アヤにアタックするための資金をせびられたり,そのタカシが急に仕事を辞め独りで倍の仕事をする羽目になったり,姪のニコが家出してきてアパートに転がり込んだりする….
平山がどういう家庭に育ちなぜ今一人住まいなのか,妻子はいるのか,何時からトイレ清掃を生業としているのか等は一切判らない.家出したニコを迎えに来た妹の話から,平山が父との確執があって家を飛び出し今の生活に入っていることが,僅かに判るのみだ.しかし役所広司の素晴らしい演技から,平山の人生がどういうものかは直に心で理解出来る.Perfect-days4
平山が毎晩見る夢も含め,映像詩のようなカメラが美しい.カセットテープから流れる音楽も良い.冒頭はアニマルズの「朝日のあたる家」,その他オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」も素敵.休みの日に行く居酒屋で,ママさんが常連客(あがたもりお)のギターで歌う,浅川マキ版の「朝日樓(朝日のあたる家)」には涙が出た.Perfect-days5
そのママさんの元夫と逢った翌日,いつもの様にカセットテープを聞きながら平山が出勤していく.朝日を浴びながら時に微笑み時に涙ぐみ車を運転していく長回しのラストシーン.まことに映画らしい映画,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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2024/12/09

独断的映画感想文:川っぺりムコリッタ

日記:2024年12月某日
映画「川っぺりムコリッタ」を見る.1_20241210153901
2021年.監督・脚本・原作:荻上直子.
出演:松山ケンイチ(山田たけし),ムロツヨシ(島田幸三),満島ひかり(南詩織),吉岡秀隆(溝口健一),江口のりこ(中島),柄本佑(堤下靖男),田中美佐子(大橋),笹野高史(運転手),緒形直人(沢田),知久寿焼,薬師丸ひろ子.2_20241210153801
刑務所から出て富山の海辺の町で塩辛工場に就職した山田.社長の沢田はまっすぐな熱血漢,紹介された川っぺりの古いアパート・ムコリッタに落ち着く.入浴していると,隣室の島田が「給湯器が壊れたので風呂を貸してほしい」と言って来るが,断って追い返す.休日に金に余裕のない山田が自室で転がっていると,アパートの空き地で野菜を作っている島田が野菜を差し入れしてくれた.ようやく給料が出て飯を炊き食事をしていると,島田が風呂を貸せと入ってくる.止める間もなく入浴した島田は上がってくると,茶わんと箸を出してそのまま山田の飯を食べ始める.それから彼らはたびたび山田の飯と味噌汁と塩辛,島田の野菜と漬物という食事を共に摂るようになる….3_20241210153801
山田が幼い時両親は離婚,高校生の時に母親は山田を捨てて男と逃げた.山田は食うためにバイトをした結果刑務所に入ることになった.役所から父の死の知らせが届く.父は孤独死で発見され,役所が火葬してくれた.山田は迷った挙句遺骨を引き取るが,遺骨とどう向き合ったものか心は定まらない.アパートには他に,毎日喪服を着て売れない墓石のセールスに歩き回っている溝口親子がおり,また山田は花の手入れをしている老婦人と言葉を交わすが,その人はもう何年も前に亡くなった岡本さんだという.次第にムコリッタの人々と交流できるようになった山田は,両親に捨てられ前科者になった自分を,見つめ直すようになっていく.4_20241210153801
少し調子のおかしな住人たちに彩られた青年の再生の物語.おだやかな画面,降雨や夕焼,虫の声やヤギの鳴き声までが物語を進めていく様で心が癒される.アップの画面を少しずつ角度を変えながら回していくカメラも魅力的.終盤の松山ケンイチと満島ひかりとの長回しのシーンには泣かされる.5_20241210153801
俳優は癖の強い腕利きの役者が揃っていて,見応えあり.薬師丸ひろ子がどこに出ているのかが話題になったが,彼女は「いのちの電話」の担当者で科白のみの出演だった.他に川っぺりに住むホームレスのギター弾きとして「たま」の知久寿焼が出ている.彼は顔は出すが科白はない.蛇足:ムコリッタ(牟呼栗多)とは、仏教における時間の単位のひとつで、1日(24時間)の1/30,48分を意味する言葉.
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2024/12/02

独断的映画感想文:ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ

日記:2024年12月某日
映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」を見る.Vs1
2022年.監督:リー・ダニエルズ.
出演:アンドラ・デイ(ビリー・ホリデイ),トレヴァンテ・ローズ(ジミー・フレッチャー),ギャレット・ヘドランド(ハリー・J・アンスリンガー),ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(ロズリン),ローレンス・ワシントン(ミス・フレディ),ロブ・モーガン(ルイス・マッケイ),ナターシャ・リオン(タルーラ・バンクヘッド),トーン・ベル(ジョン・レヴィ),エリック・ラレイ・ハーヴェイ(ジェームズ・モンロー),タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ(レスター・ヤング).Vs5
1947年から亡くなる1959年までのビリー・ホリデイを描く.これ以前に彼女は「奇妙な果実」を歌い人気を博していた.公民権運動への影響を恐れた政府は,ビリーの麻薬癖に目を付け,麻薬取締局長官アンスリンガーは黒人捜査官ジミー・フレッチャーを採用してビリーを逮捕するチャンスをうかがう.1947年彼女は麻薬所持で逮捕され,懲役1年の刑を受ける.出所後ビリーはカーネギーホールでのコンサートを成功させたが,ニューヨークでの労働許可証を没収され,ニューヨーク以外で働かざるを得なかった.Vs4
前夫モンローと別れ彼女はジョン.レヴィにマネージメントを任せるが,彼はビリーの稼ぎをほとんど吸い上げ彼女を暴力で制圧した.アンスリンガーの指示でジョン・レヴィはビリーの部屋着に麻薬を仕込み,そこに捜査官が突入してビリーは逮捕されるが,裁判では証拠不十分で無罪となる.ビリーはその後バンドと共にツアーに出るが,ジミー・フレッチャーはアンスリンガーの指示でそのツァーの後をずっとつけていった.元来ビリーに好意を抱いていたジミーは(ビリーの最初の服役時に,自分が彼女の有罪に関与したことを謝罪していた),そのツァー中に彼女と恋仲になる….Vs2
描かれるビリーの苛烈な人生が心に残る.アンスリンガーは終生彼女を付け狙い,彼女の死の床に乗り込むことまでするが,一方彼女の男たちも彼女を支配し搾取する.ジミーとの関係は唯一対等な男女の恋愛として描かれるが,そのジミーと別れビリーは以前のマネージャー:ルイス・マッケイとよりを戻す.ビリーはジミーに,支配し君臨する男でないと不安だと語るのだ.その中で強い信頼感のもとに共演していた,サックス奏者:レスター・ヤングとの友情は印象的だ.彼はビリーが亡くなる4カ月前に亡くなっている.Vs3
主演のアンドラ・デイはR&Bシンガー,初めての演技経験らしいが素晴らしい存在感,歌もまことに見事で聴きごたえたっぷり.映画は正統派伝記映画ではなく脚色された物語となっているようだが,ビリー・ホリデイの生涯の苦闘は感銘的だった.蛇足:題名は原題通りだが,もうちょっと何とかならなかったのだろうか.長すぎるしイマイチぴんと来ない.
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