独断的映画感想文:父と暮らせば
日記:2004年8月某日
ネタばれあります.
映画「父と暮らせば」は重い映画である.
黒木和雄監督,宮沢りえ,原田芳雄,浅野忠信.
被爆後3年の夏,生き延びて図書館に勤める娘は被爆状況を調べている学者と出会いお互いに惹かれあう.しかし娘は,自分は恋などしてはならない,決して幸せになってはならないと堅く心に誓っている.
見るに見かねて(?)被爆死した父親の幽霊が現れ,その決心を何とか翻そうと奮闘する.
恋はすまいと堅く心に誓っているものの,24歳の娘は学者への恋に激しく心を動かされている.その葛藤の中,父と娘は語り合い被爆時の状況が次第に明らかになっていく.
まさに娘の言うように死ぬことが当たり前で生き延びることが異常であったその状況.次第次第に明かされる一人一人の死の状況.
井上ひさしの戯曲をほぼそのまま映画化したと言うこの作品は,台詞がよく練れていて緊張感に貫かれ,幕開けから幕切れまで一気に進行するが,合間に挟まれる井上ひさし独特のユーモアもあって,時間の経つのを忘れる.特に宮沢りえの素晴らしさ.主人公になりきってその嘆き,笑い,喜び,悲しみを演じきっていることに感動する.
最終場面で,学者との恋が成就しそうになったことに気後れし,逃げようとする娘を父が決死の(?)迫力で説得し,遂に娘は前向きに生きようと決意する.学者を迎えるための料理を作るまな板のとんとんという音.平凡な幸せの象徴のようだ.父親は口実を設けて姿を消す.その後ろ姿に娘が「おとったん.ありがとありました」と言う.
深い感動が後まで残る名作である.★★★★☆(★5個が満点)
コメント