独断的映画感想文:美しい夏キリシマ
日記:2004年8月某日
池袋へ,新文芸坐で映画「美しい夏キリシマ」を見る.
黒木和雄監督,柄本佑,原田芳雄,左時枝,石田えり,中島弘子,小田エリカ,香川照之.
終戦直前のキリシマ,グラマンの編隊が低空で悠々と通過していくが,戦時下でもここ霧島地方は美しく穏やかだ.しかし6月に沖縄が奪われ,駐屯する軍隊はたこつぼを掘って竹槍訓練を繰り返し,ヒロシマ,ナガサキと都市が忽然と消えていき,身の回りには戦争と死が満ちあふれている.ついでに言えば,何かと言えば激昂して人を殴り倒す憲兵が横行している.
主人公日高康夫は勤労動員先の空襲で目前に友を失い,自分が生き残った後ろめたさを抱えて肺浸潤の身を祖父母宅で療養している.
特に中心となるドラマがあるわけではないが,戦時下で必死に生きていく人々のそれぞれの暮らし,その中での青春,終戦を境に変わっていく人々と変われない人々,それらが丁寧に描かれる.
夜の湖畔に流れる夢とも現実ともつかない不思議な美しい歌声のシーンも印象的.登場人物一人一人に存在感がある.
祖父母の小作人の娘で,日高家の女中なつ子が,頭に来ると履き物を脱ぎ,それを地べたに叩きつけて裸足で駆け去っていくのは,この子の癖なのかこの地方の普遍的表現なのか?2回ほど繰り返されるこの行為が引っかかる.一度宮崎県人N君に聞いてみよう.
淡々と美しい中で戦争を考えさせる作品,★★★★(★5個で満点)
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