« 2004年9月 | トップページ | 2004年11月 »

2004年10月に作成された記事

2004/10/30

独断的映画感想文:じゃじゃ馬ならし

日記:2004年10月某日
映画「じゃじゃ馬ならし」を見る.
1967年.監督:F.ゼフィレッリ.
リチャード・バートン,エリザベス・テイラー.
シェークスピアの原作は読んでいない.
イタリアはパデュアの富豪バプティスタの2人の娘,姉のカテリーナはとんだじゃじゃ馬で貰い手がない.妹のビアンカは美人で気だてがよい(と思われている)が,父親は姉が嫁かない限り妹は嫁にださんと宣言.妹争奪戦の渦中にあるホーテンシオの友人で,持参金があればどんな女でもいいという変わり者のペトルーキオがカテリーナの婿に名乗りを上げる.
ペトルーキオは荒れ狂うカテリーナをまさに野生馬を調教する呼吸でてなずけ,最後にはカテリーナは夫に仕える妻の心得について大演説をしてペトルーキオをびっくりさせるという大団円.
この幕切れはモーツァルトのオペラや歌舞伎にも似たものだが,びっくりするのはこのカテリーナのじゃじゃ馬ぶり.何の理由もなく部屋で荒れ狂い家具を壊し妹を鞭打ち怒号咆哮している.そのカテリーナを関節技を使って取り押さえ,無理矢理結婚に持ち込むペトルーキオなのだが,何故カテリーナが結婚に同意したかは最大の謎だ.
ただ結婚した以上は離婚の認められない当時のことだから,夫を支配するか夫に支配されるかの勝負となるわけで,この場合は夫が勝利した.
ペトルーキオがカテリーナを支配できた最大の理由はカテリーナの上をいったことである.つまりこの夫婦は2人とも日本人の僕から見れば野獣といわざるを得ない.ペトルーキオの方がより野獣だったのでカテリーナは屈服したのである.
登場人物が野獣であることや,この時代のヨーロッパの不潔きわまりない生活と狂騒的な祝典の模様は,とてもついていけないが,リチャード・バートンとエリザベス・テイラーの演技(と美しさ)はやはり一見の値打ちあり.エリザベス・テイラーの息を呑む美しさは素晴らしい(御年35歳くらいか?).ニーノ・ロータの甘美な音楽も魅力.
翌年あの傑作「ロミオとジュリエット」を撮るゼフィレッリのすてきな映画である.ホーテンシオ役のビクター・スピネッティは,どこかで見たことがあると思ったら,ビートルズの初期の映画にでていた(「ア・ハード・デイズ・ナイト」のTVディレクター役,「ヘルプ!」にも出ている)懐かしい人である.★★★☆(★5個で満点)

| コメント (0) | トラックバック (0)

2004/10/26

独断的映画感想文:ブラス!

日記:2004年10月某日
映画「ブラス!」を見る.
1996年.監督:マーク・ハーマン.
ユアン・マクレガー,タラ・フィッツジェラルド.
サッチャー政権下でつぶされていく炭坑(「リトル・ダンサー」を思い出します),その会社の労働者が作るブラスバンドの物語.
全国大会に出る程の腕前だが,暮らしは苦しく皆希望を失っている.街出身のタラがバンドに加わって活気が出るが,組合は会社案の受け入れ投票に敗北,炭坑閉鎖が決まる.ひとびとの生活とコミュニティの崩壊である.その中バンドの指揮者ダニーが塵肺で倒れるのだが….
バンドの各メンバーを丁寧に描いているのに好感,炭坑街の映像もイギリス映画らしい粗い粒子の画像で見事に描いている.
最後にダニーが大会の聴衆に向かって,「生きる希望を失っている炭鉱労働者に,アシカや鯨に与える同情以上の理解を」と呼びかけるシーンは印象的.苦境における勇気とは何かという点で,得るところの多い映画だった.★★★★(★5個が満点)
なお,音楽はこの物語のモデルになった実在の炭坑バンドが担当しているとのこと.ダニーが入院している窓の外にメンバーが集まって演奏する「ダニー・ボーイ」,最後を飾る(これはもうお約束)「威風堂々」など,素晴らしい演奏である.
この映画はバンドとその音楽が主人公なのだと言うことを,しみじみと感じさせる.

| コメント (0) | トラックバック (0)

2004/10/18

独断的映画感想文:ヤァヤァシスターズの聖なる秘密

日記:2004年10月某日
映画「ヤァヤァシスターズの聖なる秘密」を見る.
2003年.監督:カーリー・クーリー.
サンドラ・ブロック,アシュレイ・ジャッド.
故郷を離れ劇作家として成功しているシッダがタイム誌のインタビューで,母から少女時代に叩かれたことを話し記事になってしまう.
故郷に住むエキセントリックな母ヴィヴィは激怒,親子の縁を切るという決裂状態に.
この危機に8歳の頃からのヴィヴィの盟友「ヤァヤァシスターズ」の3人の熟女がN.Y.に乗り込み仲裁に取りかかるが何とシッダを眠らせルイジアナへ拉致してしまう.そこでシッダは彼女たちから「ヤァヤァシスターズ」とヴィヴィの若い頃からの出来事を知ることになった.
母と娘の葛藤の物語だが(これだけで中年男にはなかなか難しい),キャスティングが絶妙,「ヤァヤァシスターズ」は少女・青春・現在の3人の俳優が,シッダは幼女・少女・現在の3人の俳優が演じているのだが,これが違和感なく繋がるところが傑作.
ヴィヴィのエキセントリックさは半端ではなく,また「ヤァヤァシスターズ」の大半はアル中治療経験ありというのはお国柄か.
美しい場面・感動的な場面がちりばめられた佳作と言えるだろう.しかし気になるところがある.よーく考えるとやっぱりこのヴィヴィはおかしい.
ヤァヤァシスターズは「あの娘は何も判っちゃいないよ」等と如何にヴィヴィが苦労したかを強調するが,シッダの方が判っているという気がする.ヴィヴィは明らかに普通の母親としての一線を越えている.
シッダと母の葛藤はシッダの結婚というゴールインでめでたく解決するのだが,それはそれで良いのだが,結局これはおとぎ話になってしまったということであろう.
シッダの弟妹たち,特に弟がその後どういう人生を送ったかについては,暗澹たる思いがわき上がってくる程で,オイオイこれでハッピーエンドかよって気になるところである(もっともこの程度のDVなぞ,きょうび特にドラマにもならん,というなら話は別であるが).
それほどアシュレイ・ジャッド演ずる若きヴィヴィはめちゃくちゃであった.その点気になって★★★(★5個で満点).

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:コールドマウンテン

日記:2004年10月某日
映画「コールドマウンテン」を見る.
2003年.アンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」)
ジュード・ロウ,ニコール・キッドマン,レニ・ゼルウィガー.
南北戦争を巡る純愛ドラマである.
ニコールはジュードと恋に落ちるが,たった一度の口づけをしただけでジュードは出征してしまう.このとき自分の写真を撮っていってジュードに手渡すニコールの乙女心がいい.
寒村コールドマウンテンから若者は出征し,後には「義勇軍」が組織されて村を統制し,最終的には脱走兵の摘発と匿った者の処罰で村を恐怖支配する.
戦況が圧倒的に不利な中で支配と略奪を続けるこのミニナチどもは,一体何を考えているのだろう.とはいえ戦争になると必ずこの手のミニナチが出現するのだ.
ニコールはこの中で父の牧師を失い,義勇軍の頭目に目をつけられながらも一人で生き続けるが,飢えにさらされる.
ジュードは重傷を負って入院した病院で半年前に投函されたニコールの苦境を伝える手紙をようやく手にし,たまらず脱走して故郷に向かう.
途中一夜の宿を貸してくれた戦争未亡人(ナタリー・ポートマン)から,何もしないで隣に寝て欲しいと懇願され,その求めに応じる場面の哀しさ.
一方ニコールの家には村人の世話で身よりのないレニーが同居,レニーが農作業をニコールに教え二人の生活はようやく落ち着いていく.
やがて帰郷するジュードと待ち受ける義勇軍,死と生のクライマックスとなる.感動を呼ぶ結末.
役者が皆落ち着いた静かな演技で好ましい.物語の強烈なアクセントとなるレニーのキャラクターも素敵である.
南北戦争という市民戦争としての内戦が,いかにアメリカを傷つけたかがひしひしと感じられる映画.現にアメリカは戦争をしている.その中でこの戦争を真っ向から否定する映画を撮ってヒットさせられるのは,救いと言えるのだろうか.★★★★(★5個が満点).
僕の劇場の映写機(液晶プロジェクター)がおかしくなり,前半40分ほど白黒で見る羽目になってしまい,頭に来る.それはそうと,ノースカロライナ州コールドマウンテンの自然は美しい.カメラを賞賛したい.

| コメント (0) | トラックバック (1)

独断的映画感想文:午後の遺言状

日記:2004年10月某日
映画「午後の遺言状」を見る.1995年 新藤兼人監督.
杉村春子,音羽信子,観世栄夫.
夏の日,山荘にやってきた老女優と管理人,訪れた昔なじみの女優とその夫の物語.
退屈で寝てしまう.杉村春子のぺらぺら喋る芝居は元来大っ嫌いである.それだけでこの映画はほとんど受け入れがたい.
観世栄夫夫婦の道行きもあまりピンと来ない.山荘の周りの雑木林を移すカメラも美しくなくうっとうしい.
この映画は賞をいくつも取った傑作だということだが,僕には生理的にだめであった.
要するにここに出てくる老人を,僕は老人として受け入れがたいのだ.こんな老人になるのはまっぴらごめんだ.杉村春子のような老女とは金輪際つき合いたくないし,朝霧鏡子のような呆け方は絶対したくない.まして観世栄夫・朝霧鏡子夫婦のような道行きをしたいとも思わない(何故道行きなのかも映画からはさっぱり判らないが).
この映画を映画として受け入れるには,僕の精神年齢はちょっとだけ若すぎるのかもしれない(まあ相手は90歳の監督ですからね).新藤兼人監督特有のこだわりにはついて行けないという感じを持った.
笑ったのは,石を巡るエピソード.冒頭,山荘の下草刈りをしていた老人の自殺と残した石が話題になり,杉村春子はそれに感銘を受け,音羽信子に河原から同じ石を拾わせ,それを大事にすると言う.
ところが映画の最後では彼女はあっさりそれを忘れ,女優業に戻って行ってしまう.音羽信子がその石を河原に持って行って投げ捨てる.無言の音羽信子の芝居が好ましい,★★(★5個が満点)

| コメント (0) | トラックバック (0)

2004/10/09

独断的映画感想文:天国の門

日記:2004年1月某日
映画「天国の門」を見る.主演:クリス・クリストファーソン.
知らなかったがDVDはオリジナル版で何と3時間39分の長さ.しかし見始めたら止められない.映画評では悪評も多いがとんでもないことである.
この作品はM.チミノ監督が巨額の制作費を惜しげもなくつぎ込み,かつアメリカの恥部を描いた映画として意図的な酷評キャンペーンが張られ,おかげでユナイテッド・アーチスト社が倒産壊滅した作品として,つとに有名.
監督の前作「ディア・ハンター」同様のゆったりした時の流れ,しかしだれずに展開していく美しい画面.卒業式の華麗なダンスシーンは,ソ連映画「戦争と平和」のそれを意識したのだろうか?
映画は19世紀末のアイオワのジョンソン郡の内戦を描くものだが,前作「ディア・ハンター」同様虐げられるのはスラブ系移民であり,これを排撃する牧場主たちとの衝突が物語の展開となる.
何事も金と力で解決するアメリカ人の典型的なやり方が描かれる.
傭兵たちが移民を襲い,反撃した移民に包囲され全滅の危機に陥った傭兵を,政府の指示で圧倒的兵力の騎兵隊が救援する.
移民の街は全滅状態のまま.壮絶死するクリストファー・ウォーケン(若い)が良い.
見終わるとこの長尺映画はこう撮るしかなかったのだと思える.
エラ役のイザベル・ユペールも良いが,後年「ピアニスト」を撮ることになるとは予想もつかないことである,★★★★(★5個が満点).
*今年1月の感想ですが,「天国の門」が最近また話題になっているので掲載しました.

| コメント (0) | トラックバック (0)

コーヒーフィルター

コーヒーが好きだ.
コーヒーを自分で淹れるときはメリタを使い,コーヒーフィルターはコーヒーを入れる前に必ずお湯を通す.それはコーヒーフィルターに残る紙の粉っぽい臭いを除去するためだ.
このことを教えてくれたのは昔の同僚のA君だった.
僕がまだ独身で,勤め先で自分でコーヒーを淹れていたとき,やはりコーヒー好きだったA君がそれを教えてくれた.それ以来今日に至るまで,コーヒーフィルターは必ずお湯を通してから使う.

A君が死んだのは1983年1月1日である.勤務先の診療所で彼は前年の大晦日から年越しの事務当直を勤めた.翌1月1日の9時に僕と交代して彼はつなぎに着替え,オートバイに乗って診療所を出た.
診療所の前の駐車場につなぎにヘルメットをかぶって出てきた彼は,オートバイをアイドリングしていたが,やがて軽やかなエンジン音を残して街に出て行った.それが彼を見た最後である.
その元旦の夕方,今となっては記憶は定かでないが,茨木警察署から事故の連絡が来た.A君が自損事故を起こして救急病院に搬送されたとのことである.急いで関係先に連絡を取るうち,追いかけるようにA君死去の知らせが入る.病院到着時に彼は既に死亡しており,遺体は茨木警察に安置されたとのことだった.
診療所の事務日直の交代要員を電話で呼び出して依頼し,僕は茨木警察に急いだ.診療所の他の職員も集まってくる.当直の警官が事故の概要を説明してくれ,ご家族を待つことになる.やがて到着したご家族と共に安置所で彼の遺体と対面することができた.
遺体が安置してあったのは,警察署の裏の駐車場の一角にある狭いガレージのようなところだった.その薄暗い中に小柄でいつもにこにこしていた彼は,少し困ったような顔をしてつなぎを着たまま冷たく横たわっていた.
警察の話では事故現場はT字路で,彼のオートバイは他の車と接触した跡もなく,まっすぐに突き当たりの金網につっこんだと思われる.時間帯は4時頃,金網の向こうの薄暮の空に,彼はいったい何を見たのだろうか.

コーヒーは大体毎朝飲む.
コーヒーフィルターにお湯を注ぐと,A君のことを思い出す.コーヒーの粉を入れお湯を注ぐと,豊かな香りが胸にあふれ,淹れたコーヒーを飲みながら僕はまた今日の現在に引き戻される.
コーヒーを淹れるたびによみがえるA君の面影は変わらない.僕はいつの間にかこんな年だ.
あっはっはA君!僕はもう五十過ぎだよ.今度君に会うときは,ずいぶんと気まずい思いをするのだろうか?
(2004年10月3日)

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:阿修羅のごとく

日記:2004年10月某日
映画「阿修羅のごとく」を見る.
監督森田芳光.大竹しのぶ,黒木瞳,深津絵里,深田恭子,仲代達也,中村獅童,板東三津五郎.
典型的向田邦子の世界である.
女優陣は皆うまい.深津絵里と獅童のコンビにはほろりとさせられる.深田恭子は可愛い.
4人姉妹の物語であるが,3人兄弟の次男である僕としては全く想像のらち外の世界である.
しかも父は浮気,長女は夫死別後生花師匠として出入りしている料亭の旦那と不倫,次女は善人でしっかり者のおっちょこちょいだが夫が浮気,三女は29で少女のように恋をして獅童と結婚,4女は同棲していたボクサーが一瞬のスター状態から一転して植物状態という,ただごとではない一家である.とても平凡な我が家としては太刀打ちできない.
テンポが緩く映画は長いが,原作の雰囲気がこういう雰囲気なのかとも思う.
仲代はけしからん父親の役をしているが,彼の娘に対する気持ちには共感するところが多くそれが印象的.いずれにしろ,作り物という感覚が強い映画だった.
両親の自宅近くのお社は,東京の自宅の近くのあのお社をロケしたのではないのか?とローカルな興味も交え(お社のたたずまいとお向かいの事業所の敷地がそっくりである),★★★☆(★5個が満点).

| コメント (0) | トラックバック (2)

« 2004年9月 | トップページ | 2004年11月 »