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2004年11月に作成された記事

2004/11/23

独断的映画感想文:チャイナタウン

日記:2004年11月某日
映画「チャイナタウン」を見る.
1974年.監督:ロマン・ポランスキー.
ジャック・ニコルソン,フェイ・ダナウェイ,ジョン・ヒューストン.
1930年代のL.A.チャイナタウン.
タフガイの私立探偵ニコルソンが依頼を受けて水道施設部長の浮気を調査するが,依頼人は偽物で調査結果は何故かマスコミに漏れ,本物の施設部長の妻ダナウェイが現れ,施設部長は殺される.
窮地に陥ったニコルソンの反撃が始まり,幾重にも深い事件の謎が次々に明らかになって行く.
フィリップ・マーロウを思わせるニコルソンの探偵ぶり,鋭い勘と推理力,権力と金に負けない硬骨ぶりはなかなか魅力的である.
ところで結論を言うとこの映画はハッピーエンドではない.犯人は逮捕されず,ニコルソンとダナウェイは幸せになれず,警察は腐敗し,ニコルソンは苦い敗北を味わう.順調に進んでいた捜査からこの結末への転調はいささか唐突だが,解かれた謎はあまりにも忌まわしかったという他はない.
最後のシーン,チャイナタウンの路上に長く響くクラクションの音が印象的である.
若いダナウェイの不思議な美しさが魅力的.ハードボイルドの味をよく表現した名作,★★★★(★5個が満点).

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2004/11/21

独断的映画感想文:TOMORROW 明日

日記:2004年11月某日
映画「TOMORROW 明日」を見る.
1988年.監督:黒木和雄.南果歩,桃井かおり,佐野史郎,仙道敦子.
原作は井上光晴の「明日・1945年8月8日・長崎」.監督の戦争レクイエム3部作(この後「美しい夏キリシマ」,「父と暮らせば」)の第1作.
被爆1日前の暑く美しい長崎に暮らす人々の姿を描いている.
街で遊ぶ少年少女.ささやかな結婚式を挙げ初夜を迎える娘と男.男は娘に母の形見の指輪を贈る.娘の姉は明け方男児を出産する.
妹は恋する大学生の招集を知る.二人会う夜の草原に聞こえる歌声は,「美しい夏キリシマ」の夜の湖のシーンで流れた不思議な歌声(「波の子守唄」)の様だ.
男の親友は捕虜収容所の通訳として,捕虜の病死を救えなかったことを悔やんでいる.
そして9日の昼前,これらの人々は(名前もまだ無い赤子も含めて)皆原爆の惨禍に消えていくのだ.
この映画はそれに対する哀しみの表明であり鎮魂である.その感情を,見るものは映画と共有する.静かな感動をもたらす映画である.9.11の後の米国の反応を僕が嫌悪する原点は,ここに関わる.★★★★(★5個が満点)

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2004/11/15

独断的映画感想文:死ぬまでにしたい10のこと

日記:2004年11月某日
映画「死ぬまでにしたい10のこと」を見る.
2002年.監督:イザベル・コヘット.制作は「トーク・トゥ・ハー」のペドロ・アルモドバル.
原題は「私のいない我が人生」,題名からコメディだと思っていてだまされた,原題の方がよいと思うのだが….
17で結婚,2児をもうけた23歳のアンが,余命2ヶ月のガンと宣告される.
彼女は母にも夫にもそれを告げず,死ぬまでにしたい10のことをメモし,それを実行に移す.
自分のことを誰にも言わない彼女の驚異的な精神力に驚くが,彼女が10年後の17歳の娘に向けメッセージを残す場面は感動的.
彼女のしたいことの内の最大のポイントは23歳の時点での恋だろう.夫を愛しながらも彼女は別の男と恋に落ちる.この微妙な状況が,死を目前にしているという前提では全く違和感がない.
主演のサラ・ポーリーが美しい.★★★☆(★5個が満点)

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独断的映画感想文:狼たちの午後

日記:2004年11月某日
映画「狼たちの午後」を見る.
1975年.監督:シドニー・ルメット.
アル・パチーノ,ジョン・カザール.
原題は直訳すると「真夏の午後」ではないか(dog dayは真夏のことらしい).題名から暗殺ものかと思ったがだまされた.原題の方が良いと思うのだが….
閉店直後の銀行に押し入った3人組,ところが一人は銃を出した段階でびびって降りてしまう.金庫室は現金を運び出した後でカラ同然,締まらないことおびただしい.
おまけにいつの間にか警官隊に包囲されている(何故そうなったかは説明不足).
残された2人は人質を取って立てこもるが,包囲の中でいつの間にかストックホルム症候群が….
結局2人はジェット機での脱出を要求,空港に車が到着したところで結末を迎える.
ベトナム帰還兵の2人,アティカの刑務所暴動で囚人看守数十名が殺された事件の直後で警官への反感も多い,ある面で気の良い犯人は人質や野次馬に人気を得ていく.
途中の動きの少ない展開はちょっと辛いが,アル・パチーノとジョン・カザールの名演は素晴らしい.
サル(カザール)はほとんど口をきかず,能面のような無表情さ,ベトナムでは優秀な兵隊だったろうことが射撃姿勢からも見て取れる.帰還後は刑務所にも入ったらしいが,「刑務所には二度と戻らない」と訴える目つきが尋常ではない.
ソニー(アル・パチーノ)は妻子があり且つ男性とも結婚し,彼を女にしてやりたいというのが強盗の動機.彼の妻も母もゲイの妻も,皆自分のことを主張するだけで彼の話に耳を傾けない.犯行中,野次馬や人質の支持を得るも,それは束の間の栄光に過ぎない.彼が心を許せるのはこの世にサルしかいないのではないか.
最後のシーンで人質に去られ,サルを失い,警官に囲まれてあたりを不安げにきょろきょろと見回すソニーの姿が印象的である.
実際にあった事件の映画化とあるが,犯人像の描写が良くできていて面白かった.★★★☆(★5個が満点)

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独断的映画感想文:嗤う伊右衛門

日記:2004年11月某日
映画「嗤う伊右衛門」を見る.
2003年.監督:蜷川幸雄.
唐沢寿明,小雪,香川照之,椎名桔平.
京極夏彦の原作は未読.
田宮家の一人娘岩は,美貌で気が強く激しい気性を持ちながら,病の為ふた目と見られぬ傷を顔に負う.
一方,ながの浪々の身で貧乏長屋に暮らす境野伊右衛門は,生真面目な性格だが浪人暮らしの辛酸を舐め尽くし,笑いを忘れた沈痛な男である.
偽願人坊主又市と按摩宅悦の計らいで田宮家の入り婿となった伊右衛門だが,二人は衝突しながらもやがて深く愛し合うようになる.
しかし病気前の岩に執心していた筆頭与力伊藤喜兵衛は,岩に偽りを吹き込んで身を引かせ,自分の妾を伊右衛門の妻に押しつけるのだが….
暗くおどろおどろしい画面,楽しいことうれしいことの全くないドラマの展開,何とも気の滅入る映画だが,伊右衛門と岩の心が通い出す辺りから引きつけられる.
真相を知った岩が狂乱して宅悦を打ち殺し長屋を走り出るシーンの迫力,隠亡堀で伊右衛門に出会った岩が「うらめしや,伊右衛門殿」と呟きながら二人抱き合うシーンの美しさ哀しさ.
見応えのある映画,一見の価値あり.★★★☆(★5個が満点)

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独断的映画感想文:隠し剣鬼の爪

日記:2004年11月某日
映画「隠し剣鬼の爪」を見る.
2004年.山田洋次監督.
永瀬正敏,松たか子,吉岡秀隆,田畑智子.
時代劇ファンとしては満足感の高い一編である.
この時代の息づかいが手に取るように見えてくる.道の狭さ,行き交う人々の服装,歩き方,家屋の小ささ,夜の暗さ.誠に過不足なく描いている.
ドラマの方は妹同然に育った女中のきえが,嫁ぎ先で虐待され病に臥せっていたところを助け出す「雪明かり」と,同門の剣士が謀反の疑いで入牢後脱走したのを上意討ちする「隠し剣鬼の爪」が一つの脚本にまとめられ,この脚本の出来が良い.
原作にない洋式軍隊や砲術の訓練という縦糸を入れているところがみそで,最後のシーンで主人公達が新しい時代に向け動き出す伏線になっている.
役者は永瀬正敏を始めうまいが,松たか子は少々このヒロインとは合わないのではなかろうか?
松たか子はきりっとした若さにあふれた俳優で,原作の女性の(と言うかこの時代の女性の)何かあれば死んでしまうのではないかという儚げなところが感じられない.松たか子では姑にいびられたらいびり返すだろうにという感じがしてしまうのだ.
神戸浩の下僕直太は,「たそがれ清兵衛」と全く同じ役で,彼以外に直太役はあり得ないと思うほどのでき.
隠し剣とは何かという最も大きな謎が明らかにされるタイミングがドラマの最高潮となっていて,この時の永瀬の演技も秀逸である.
緊張と緩和がうまく噛み合った映画で一気に終わりまで見た.★★★★(★5個で満点)

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2004/11/07

独断的映画感想文:ワイルドバンチ

日記:2004年11月某日
映画「ワイルドバンチ」を見る.
1969年.監督:サム・ペキンパー.
ウィリアム・ホールデン,ロバート・ライアン,アーネスト・ボーグナイン.
パイク率いる中年強盗団が鉄道の拠点を襲う.鉄道側は罠を仕掛け,パイクのかっての仲間ソーントンが率いる賞金稼ぎどもが銃列を敷いて待ち受ける.敬虔なクリスチャンの行進を巻き込んだ壮烈な銃撃戦が始まる.
情け無用の強盗団,ハイエナのような賞金稼ぎ,人の命など何とも思わぬ鉄道家.
スローモーションを多用した美しく凄惨な死のショット.緊張感あふれるテンポの良い画面.サム・ペキンパーの面目躍如の滑り出しである.
映画はその後も快調に展開,最後のマパッチ将軍との決闘に至るまで息もつかせない.
アメリカ社会の金と暴力が全てという骨格は大っ嫌いだが,その中でこうしか生きられないという男たちのある種の潔さと勇気,哀しさのドラマは見応えあり.
最後生き残ったロバート・ライアンとエドモンド・オブライエンが性懲りもなく「また一仕事しよう」と去っていくあたりは痛快.
全体としては些か長く(145分)疲れたが★★★★(★5個が満点)

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