日記:2005年2月某日
映画「みなさん,さようなら」を見る.
2003年.監督:ドゥニ・アルカン.仏/カナダ.
レミ・ジラール,ステファン・ルソー,マリ=ジョゼ・クローズ.
享楽的な社会主義者を自称するレミが病気のため死期が近い.
別居状態の妻はロンドンの息子ゼバスチャンに連絡,やり手のトレーダーの彼は,ほとんど口を利いたこともない父の病床に現れる.
レミが亡くなるまでの数日間を描いたこの作品は,同じ俳優で作製された「アメリカ帝国の滅亡」(1986年)の続編らしい.前作でアメリカを批判し倒した(らしい)登場人物が,再度死期を迎えたレミのもとに集まりその最期を見とる.
相変わらずレミは現代文明(特にアメリカ)を罵倒し(原題の「野蛮人の侵略」は西欧人の新大陸への侵略を指しているようだ),一方息子のセバスチャンは父の最後の環境を整えるため働き出す.
個室獲得のため病院理事長と組合に金を掴ませ,別病院で検査をして結果を友人に診断させ,麻薬で鎮痛が必要となるとヤク中の女の子を手配してヘロインを入手するその手際の良さ.そのヤク中のナタリーは彼の幼なじみで,「アララトの聖母」のシリア役,宝生舞を渋くしたようなマリ=ジョゼ・クローズ.
社会主義者の父とその旧友,腕利きの資本主義者のセバスチャンとヤク中のナタリー,彼らがレミの最後の日々を過ごす湖畔の別荘のシーンは何ともいえず心に残る.
現代文明を罵倒する一方で死が怖い,未だ覚悟ができていないと言うレミ.しかし最後の時を迎え彼の決断が示される.
登場人物それぞれの特徴がうまく示され,大きな起伏のない会話中心のドラマを飽きさせない.
最後のナタリーとセバスチャンの別れも印象的.
レミは1950年生まれという設定で僕と一つ違いというのも親近感を覚えること.実はこのドラマもある点で父と子の関係の再構築の物語で,その意味では「海辺の家」と似ている.
ただ,「海辺の家」を見ていたときの僕の視点はかなり一般的で,父の立場でも息子の立場でもなかった.この「みなさん、さようなら」の場合ははっきりレミの立場で映画を見ている.それはなんと言っても彼が僕と同年代だと言っているからだ.
死というものといずれは向き合うという意味で,レミの悩みは我が悩みでもある.
この年になれば,何時かは人のであれ自分のであれ,死について決断を下すときが来る.そのことをこの映画は教えてくれる.
その力を与え給え
勇気を与え給え
(オフ・コース:生まれくる子供たちのために)
★★★★(★5個が満点)
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