« 2005年2月 | トップページ | 2005年4月 »

2005年3月に作成された記事

2005/03/29

独断的映画感想文:アビエイター

日記:2005年3月某日
映画「アビエイター」を見る.
2004年.監督:マーティン・スコセッシ.
レオナルド・デカプリオ,ケイト・ブランシェット,ケイト・ベッキンセール.
ハワード・ヒューズの半生記だが,この人はアメリカでは子供でも知っているらしい.
何の説明も無しに映画は「地獄の天使」の撮影シーンに入るが,ヒューズが若くして親の遺産を継いで映画界に乗り込んだなんてことはアメリカの常識なのだろう.
狂騒的な1930年代を背景に,天才肌のテンションの高いヒューズが強引に映画を作りながら女優と浮き名を流し,一方で飛行機制作にのめり込んでいく導入部は,いささか騒々しすぎる.
しかし映画がこのヒューズという人の,何をするにもけた外れの行動と,その背後にある強迫神経症との苦難に満ちた闘争を追っていくとき,それに引き込まれずに入られない.
デカプリオはうまい.
若々しい童顔で怖いもの無しで映画を撮っていた青年時代,飛行機に本格的にのめり込み,パンナムとその政商との戦いに全精力を使いおでこに縦じわを刻む時代,強迫神経症との戦い等,画面から目を離すことができない.
特にパンナムの陰謀でFBIの捜索を受け,公聴会に呼び出しを受ける下りが圧巻.
この公聴会の直前には会社の試写室に閉じこもり,ほとんど精神が破綻したかと思えるほどの憔悴ぶりだったヒューズが,国家が仕掛けた逃げ場のない罠とも言える公聴会に身一つで乗り込み,敢然と戦いを挑む.
その結果は映画を見ていただきたいが,僕は心を動かされた.
キャサリン・ヘプバーンを演じるケイト・ブランシェットも出来がよい.最初はどこが似ているんだと思って見ていたが,いつしかキャサリン・ヘプバーンってこうだったんだろうなと納得してしまっているのがおかしい.
ケイト・ベッキンセール演じるエヴァ・ガードナーも美しい.この人もエヴァ・ガードナーってこうだったんだろうなと思わせる説得力がある.
「ギルバート・グレイプ」でデカプリオと共演しているジョン.C.ライリーが,彼に終生つき合う秘書役で好演.
ハワード・ヒューズはある種のオタクだったのだろうが,並のオタクとは訳が違うことは,彼が世界規模の企業を創生し成功させたことでも明らかだ.
僕が感動したのは,彼が自分の夢のためにすべてを注ぎ込み,国家にさえ戦いを挑むその潔さだ.そしてそれに勝利するその天才に敬意を表すると同時に,その為に昂進する病についには滅ぼされていったことの悲哀に心を動かされるのだ.
これはあくまでも映画でハワード・ヒューズの実像とは別物だが,それを物語としてこのように描ききったスコセッシに脱帽.
★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

2005/03/23

凍み上がり

先日NHKで,世界遺産の日本の建築物に災害を防ぐ工夫が施されていることの,特集番組が放送されていた.
宮島の厳島神社では,地形を巧みに利用した建築物が幾重にも本殿を守っている状況が,説明されていた.海上に広く張り出した「平舞台」全体も,波を静める重要な役割を担っているという.
簀の子の様な「平舞台」は巨大な筏状の構造物で,海底から突きだした石の土台に乗っているだけで固定されていない.波が来ると土台から浮き上がり,波に乗ってその波動を押さえつける.簀の子状の隙間からぴちゃぴちゃと波があふれ,そのことも波動の力を削いでいく.
平舞台の奥にある神殿の床板も,柱の回りに填め込まれているだけで固定されておらず,これも波が来ると柱の周りを上下して波動を静める働きをする.
このようにして,大波が押し寄せてもことごとく「平舞台」や神殿の床板にエネルギーを吸収され,本殿は建立以来一度も被害を受けたことが無いという.
なるほどといたく感心して(見ていて思ったのだが,自分は本当は建築物のコンピュータ解析などという仕事が向いていたのかもしれない.気づくのが35年ほど遅かったが),ついでに思い出したのが親父様が親戚と共同で建てた別荘のことである.

別荘というと軽井沢とか箱根とかにある,籐の椅子がベランダにあって居間の暖炉で火が燃えて…等というのが通常のイメージだが,残念!うちのはそういうものとは厳然と一線を画す.
我々の別荘はいわば合宿所のような造りで,畳敷きの部屋4部屋と台所,後は風呂と便所という合理的な構造を持ち,暖房は掘り炬燵という純日本式の慣習を尊ぶ1960年頃の建築物である.
その愛らしい建物は信州柏原の野尻湖畔にあり,夏は避暑と水泳の,冬はスキーの拠点として永年にわたって活躍してきた.自分は兄弟・従兄弟達と小学生から大人になるまで,毎夏時には冬もここを訪れ,素晴らしい時を過ごしてきた.ここに来ると誰もが,自分は一時の漂流者としてここに来ているのであり,ここにいる限りは文明とは切り離されて生きていくのだと,自分に言い聞かせるのがルールだった.

さて,この別荘は湖畔の湿地帯にあり,コンクリートの1メートルほどの杭の上に建てられている.
この構造というものについては長いこと自分は無頓着だったのだが,ある年(もういい大人になっていた)初めてその特徴について,管理をしていたYさんから聞いたのだった.
この地方は豪雪地帯で,冬の間に別荘の周りに雪はしんしんと降り積もる.降った雪はやがて溶けては凍ることを繰り返し,建物の下の雪は凍るたびに建物を押し上げる.ここが肝心なのだが,建物はコンクリートの杭の上に乗っているだけで固定されてはいない.凍った雪に押し上げられた建物は杭から離れ,氷の上に乗った状態になる.これを「凍み上がり」と言うのだそうだ.

冬の間凍み上がって土台の杭から離れ空中にあった別荘は,春が来て雪が溶けるともとの杭の上に無事鎮座し,何喰わぬ顔をして自分たちを夏迎えるのだ.自分たちは夏来たときにも,また冬に来たときにも,そんなことには全く気がつかなかった.
もちろん湖畔に向かって傾斜している別荘の土地では,氷河というと大げさだが凍った雪が湖畔に向かってずれていくことがある.その場合別荘は凍み上がっている間にわずかに土台からずれ,春着地するときには杭の端っこに鎮座している場合がある.永年の間にはそういう事情によって杭を増設し,調整をする必要もあったようだ.
自分が感動するのは,こういういいかげんな建築がこの地方の環境に良く合って,40年以上にわたって健全を保っていることだ.この安普請の別荘のコストを考えると,我々の別荘は厳島神社に匹敵する名建築なのではあるまいかと思える.

子供時代から親しんだこの不思議な建物が今後も健全であることを願う.冬の間「凍み上がり」春にはまた土台の上に戻り,僕らを迎えて欲しい.世界遺産のテレビを見て,そのことが日本の建築技術の伝統に繋がる様に思え,大いに愉快だった.
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2005/03/21

独断的映画感想文:オール・アバウト・マイ・マザー

日記:2005年3月某日
映画「オール・アバウト・マイ・マザー」を見る.
1998年.監督ペドロ・アルモドバル.
セシリア・ロス,ペネロペ・クルス他.
スペイン映画の魅力とは何だろう?この映画でも素晴らしい色彩感覚にびっくりする.
それとスペイン語の響きが美しい(アメリカ映画でメキシコ人がしゃべっているスペイン語とは,全く違うその響きはどうだ).そして登場人物の魅力.
主人公マヌエラは,息子エステバンを17歳の誕生日に交通事故で失う.父親のことを話すという彼との約束は,果たされないままだった.
マヌエラは息子の父親と別れたバルセロナを訪れ,ふとしたことからエステバンがその大ファンだった舞台俳優ウマ・ロッホのもとで働くことになる.
彼女の昔の仲間おかまのアグラードや,おかまと愛し合って妊娠した修道女ロサ等が現れ物語は混沌として進んでいく.やがて死と生が訪れ,マヌエラは新しい命を抱いて生きていくことになる….
ある時点から登場人物は全員女性になるが,そのうち二人はおかまである.しかしその人物像の魅力的なこと.特にマヌエラとアグラードの固い友情には感動する.
日本人には想像もつかない設定の映画だが,そこで紡がれる物語には何の違和感もない感動がある.
一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

2005/03/20

独断的映画感想文:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

日記:2005年3月某日
映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を見る.
1984年.監督:セルジオ・レオーネ.
ロバート・デ・ニーロ,ジェームズ・ウッズ,エリザベス・マクガバン,ジェニファー・コネリー,ジョー・ペシ.
堂々たるアメリカの叙事詩,227分を全く長く感じさせない.
ギャング映画というよりは,チンピラ時代から一緒にやってきた仲間たちの友情と裏切りの物語.
1915年頃と1930年頃,1965年頃の3つの時代を子役と大人の俳優のダブルキャストで描く.このうちエリザベス・マクガバンがデ・ニーロに一生愛される女性デボラで,その子供時代がジェニファー・コネリー.二人とも美しい(僕は美人に弱い).
映画の冒頭デ・ニーロは仲間3人をサツに売った男として追われている.
阿片窟に潜み辛くも追っ手から逃れたデ・ニーロは姿を消すが,35年後何ものかから手紙を受け取ってニューヨークに舞い戻る.
彼が裏切った仲間は誰か,彼は何故裏切ったのか,彼を再びニューヨークに呼び出したのは誰か?映画はこの謎を,2つの時代の回想シーンと現在を交錯させる複雑な構成で,解き明かしていく.
この映画で印象的なのは,隅々まで行き届いた映画としての完成度の高さだ.例えば老けメーク.日本映画の老けメークはもう少し何とかならないだろうか?デ・ニーロの老けメークの見事さ,マクガバンが35年ぶりにデ・ニーロと会って,泣きながら舞台メークを落としていく,その下から現れる老けメーク等,実に丁寧である.
それからオープンセットや大道具の見事さ.ブルックリン橋を遠景に入れた煉瓦作りの建物群や,延々と並ぶクラシックカーの群れに圧倒される.
そしてエンニオ・モリコーネの素晴らしい音楽と,劇中に使用される「アマポーラ」「サマー・タイム」等の構成の見事さ.映画を楽しむとはこういうことかと,満足すること請け合いです.
ボーナスで入っているドキュメントも興味深い.
この映画の脚本作りは12年間かかったこと,その精緻に組み上げられた構成を最初の公開時に会社は時代順に編集し直してしまったこと(馬鹿である),デ・ニーロの出所シーンで雨が欲しかった監督が「アクション」と叫んだら本当に雨が降ってきたこと,監督の頭の中には現場が既にできあがっていて,セットが出来る前にセットを横切る間しゃべっているには後10語台詞が必要と注文し,その通りだったこと等,面白い話が一杯.
ずっと見たかった映画がこんなに素晴らしい映画で,本当に良かった.
最後のシーンは何故か阿片窟,阿片を吸って眠りに落ちたデ・ニーロは夢を見たのだろうか微笑んでいる.この長い映画は「一炊の夢」だったのかも知れないと,監督は言っているのか?
★★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

2005/03/15

独断的映画感想文:レディ・キラーズ

日記:2005年3月某日
映画「レディ・キラーズ」を見る.
2004年.監督:イーサン・コーエン,ジョエル・コーエン.
トム・ハンクス,他.
コメディである.
黒人未亡人の住む家を白人「教授」が訪れ,言葉巧みに下宿を申し込むと同時に,古典音楽の練習場に地下室を借りる.
実際は教授一味は犯罪者(みえみえ),彼らはこの地下室からカジノの金庫室にトンネルを掘るのだ.
コメディだから犯罪サスペンスはどうでも良く,犯罪はあっさり成功するが,その途中も成功後も,この家の敬虔なクリスチャンである未亡人と犯罪者の繰り広げるどたばた喜劇が物語の中軸.
ワンパターンの繰り返しや,そんなアホな!というギャグが繰り返される.
何か事件が起こるたびに微妙に表情を変えている壁に掛かった未亡人の夫の肖像画.禁煙を叫ぶ未亡人が登場するたびに,火の点いたタバコを飲み込む「将軍」(このことがまた最後のギャグに繋がる).過敏性大腸の爆破のプロ(その設定自体ありえねーよな)と同じ病気の逞しい愛人.
と,仕掛けはいろいろあるのだが,言い忘れたがこれはブラックコメディである.
最後は皆死んでしまう.
というわけで途中のコメディは思いっきり笑わして欲しいのだが,残念!!途中眠ってしまいました.どうせ最後はブラックなら,もっとサービス精神でとことん笑わして欲しいものである.
★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (2)

独断的映画感想文:世界の中心で、愛をさけぶ

日記:2005年3月某日
映画「世界の中心で、愛をさけぶ」を見る.
2004年.監督:行定勲.
長澤まさみ,森山未来,大沢たかお,柴崎コウ,山崎努.
良い映画である.ベストセラーの映画化で雑音が多いのだろうが,素直に感動する.
長澤まさみと森山未来が良い.
物語は純愛が片方の不治の病で終わる話だから,ありがちな話しといえばそれまでだが,きちんと作ってある.
現在と思い出が交錯する作りの映画だが,現在の主人公が昔のカセットに導かれて高校の体育館を訪れ,恋人の幻と抱き合い,それが過去のカップルに入れ変わって彼女の不治の病の告白が語られる場面は感動的.果たされぬ恋とその幻ほど,今生きる人を苦しめるものはない.
それを演じる二人の俳優は素晴らしい.
一方その二人に喰われたか,現在のカップルを演じる柴崎コウと大沢たかおは,いささか空回り.泣きと笑顔の演技以外も工夫しなきゃ,高校生カップルに対抗できないよね.
舞台が四国なのにその地方の言葉が全く使われなかったのは,何故だろう?
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (6)

2005/03/12

独断的映画感想文:完全なる飼育

日記:2005年3月某日
映画「完全なる飼育」を見る.
1999年.監督:和田勉.脚本:新藤兼人.
竹中直人,小島聖,渡辺えり子,塚本晋也,北村一輝,泉谷しげる.
男が少女を誘拐して自室に監禁,完全なる愛と共に結ばれることを目指すと宣言する.少女は手錠をかけられ足を縛られ,口にはガムテープを貼られる監禁モードで男の留守を過ごす.監禁の間に二人の間には親近感が芽生え,やがて温泉旅行の帰り遂に二人は結ばれる….
と言う物語だが,いろんな点で変.
まず少女は何故逃げないのか(逃げるチャンスはいくらでもあるし,「監禁モード」で過ごす毎日は半端でなく辛いはず).逃げないのには何か事情があるのだろうがそんなことは全く説明されない.
男は誘拐罪は死刑と思いこんでいるのに(それだって変だけど),このかったるい態度は何だろう.「完全なる愛と共に結ばれる」前に捕まったら死んでも死にきれないだろうに,この緊張感のない日常は何だ.
また少女は何故男を愛するようになったのか,親近感を持つのと愛し合うようになるのとでは天地の違いがある.
温泉旅行の帰りに男に処女を奪われて以来,少女はまるで肉欲に溺れるように(いかん,顔が赤くなってきた)男と抱き合い続けるが,これが「完全なる愛と共に結ばれる」状態だとは思えない.
つまり竹中演じる男はいわば変質者なのに,ちっとも変質者らしくなく「完全なる愛」を求めたりする.
この辺がこの映画の物語がリアルでない原因だろうか?
この映画で比較的リアルさを感じたのは温泉旅館の場面である.
男は入浴中「久しぶりに」と言って少女に手錠をかける.変わって少女が入浴するとき,少女は「ごっこだから」と言って男に手錠をかけ風呂場に姿を消す.男が後ろ手錠に苦労して煙草をくわえ,ふと見上げると着替えた少女が立っている.はっとする男.
このシーンには緊張感があった.
アパートの住人は,上に記したような面々で,この配役だけで別に一本映画が撮れてしまいそうだが,そいつ等の取り扱いも中途半端.
監督・脚本家は押しも押されもせぬ巨匠.彼らが作ったこの映画が,老人の妄想だとはあまり思いたくないが,まあ,そうなのかも知れない.
竹中直人の扮する男の最後のシーン,弁護士に何事か聞き取れないことを呟き続ける表情のクローズアップは,竹中らしい芝居ではあるが意味不明,この映画最後の「変」な謎だった.
☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2005/03/06

独断的映画感想文:ラウンド・ミッドナイト

2005年3月某日
映画「ラウンド・ミッドナイト」を見る.
1986年.監督:ベルトラン・タヴェルニエ.
デクスター・ゴードン他.
アル中のサックス奏者デイルは,ニューヨークを離れパリにやってくる.自分のプレイはニューヨークの客には通用しないというおそれが彼にはあった.
パリで酒に手を出さないよう見守る仲間たちのおかげで,彼は演奏に自信を取り戻すが,それでも時々酒に手を出す.
しかし彼を尊敬するイラストレイター,フランシスと出あってからは,彼とその娘ベランジュールのために酒を断ち,命を削るような日々の演奏に打ち込んでいく.
フランシスは彼のために3人で同居できるアパートを借りる.そこで過ごす至福の日々,しかしやがて別れの時が来る.
激しいドラマはないが,しかし日々の演奏がジャズマンにとっては最大のドラマなのだろう.
ジャズのもたらす感動をこの映画も確かに伝えている.
登場人物が凄い,デイルはデクスター・ゴードンが演じ,相方のピアニストはハービー・ハンコック,他にウェイン・ショーター,ジョン・マクラフリン,トニー・ウィリアムス,ロン・カーターetc.興行師役で出ていたのが,マーティン・スコセッシだとは知らなかった.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

独断的映画感想文:三文役者

日記:2005年3月某日
映画「三文役者」を見る.
2000年.監督:新藤兼人.
竹中直人,荻野目慶子,吉田日出子,二木てるみ.
俳優殿山泰司の伝記映画.
映画の舞台は昭和20年代から彼の死去までの約40年間.放蕩無頼,酒と女とジャズとミステリという「タイちゃん」のキーワードが心地よく描かれる.実際の映画の殿山泰司や乙羽信子のシーンが挿入され,懐かしい.
僕がちゃんと見た彼の主演映画は「裸の島」くらいだが,これが昭和35年制作.
竹中直人の殿山泰司は,(特にそのしゃべり方が)いつの間にか本人と混同してくるくらいにうまい.
その上を行くのがキミエ役の荻野目慶子.この人の実人生も波瀾万丈らしいが,この映画のキミエ役の魅力的なこと.17歳で38歳のタイちゃんにやられて以来,心底タイちゃんに惚れて人生を共にする.
だからタイちゃんが鎌倉の本妻(吉田日出子,うまい)の所に行ったり女のアパートにしけ込んだりすると,たちどころに感知して現れ,ちゃぶ台をひっくり返したりスーツケースをまとめたりブチ切れる.この痛快なキャラクターの演技の見事さ.引き込まれ,泣いたり笑ったりして見るのが楽しい.
二木てるみさんが出ていて,相変わらず美しい.この人はデビュー作「赤ひげ」以来のファン.
ところで乙羽信子が本人役で出ている.
彼女は平成6年に亡くなっているから,この映画ができた平成11年は没後5年である.ということは,殿山泰司が亡くなった平成1年以降この映画の企画と脚本が準備され,既に死ぬことが判っていた乙羽信子のシーンを先に収録し,全体はこの乙羽信子のシーンと合わせて平成11年に完成したということだ.
あでやかな笑みを浮かべて観客やタイちゃんに語りかけている乙羽信子を見ると,乙羽信子と新藤兼人ご両人の映画に賭ける執念に圧倒される思いがする.
それやこれやで★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2005/03/01

独断的映画感想文:恋愛適齢期

日記:2005年2月某日
映画「恋愛適齢期」を見る.
2003年.監督:ナンシー・マイヤーズ.
ジャック・ニコルソン,ダイアン・キートン,キアヌ・リーブス,フランシス・マクドーマンド,アマンダ・ピート.
若い女の子としかつき合わないというハリーは,新しい友人マリンと週末に彼女の別荘にやってくる.そこで彼女の母のエリカ,叔母のゾーイと鉢合わせ,気まずく夕食を共にするが,その夜心臓発作を起こしてしまう.
エリカはやむなく彼の看病をする羽目に.ところが有為転変紆余曲折,この二人は嵐の夜(見え見えの設定)結ばれてしまうのでした.
ハリー62歳,エリカはおそらく50代真ん中.何とも心ときめくではござらんか.
ところがこれで話が終わったわけではなく更に二転三転,めでたくハッピーエンドに収まるまで物語は混迷を極める.
ちょっと変わったラブコメだが,俳優が皆良いのと悪人が出てこないのとちょっとほのぼのして少し泣けるところが良い.実際今時の殺伐としたアメリカ映画では,貴重な作品である.
ダイアン・キートン(御年57歳)の全裸絶叫シーンは何と言ったらいいのかしら,ま,「アバウト・シュミット」のキャシー・ベイツのそれには比べものにならないと言っておきましょう.しかしみんなようやるわ.
★★★☆(★5個で満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (6)

« 2005年2月 | トップページ | 2005年4月 »