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2005/03/23

凍み上がり

先日NHKで,世界遺産の日本の建築物に災害を防ぐ工夫が施されていることの,特集番組が放送されていた.
宮島の厳島神社では,地形を巧みに利用した建築物が幾重にも本殿を守っている状況が,説明されていた.海上に広く張り出した「平舞台」全体も,波を静める重要な役割を担っているという.
簀の子の様な「平舞台」は巨大な筏状の構造物で,海底から突きだした石の土台に乗っているだけで固定されていない.波が来ると土台から浮き上がり,波に乗ってその波動を押さえつける.簀の子状の隙間からぴちゃぴちゃと波があふれ,そのことも波動の力を削いでいく.
平舞台の奥にある神殿の床板も,柱の回りに填め込まれているだけで固定されておらず,これも波が来ると柱の周りを上下して波動を静める働きをする.
このようにして,大波が押し寄せてもことごとく「平舞台」や神殿の床板にエネルギーを吸収され,本殿は建立以来一度も被害を受けたことが無いという.
なるほどといたく感心して(見ていて思ったのだが,自分は本当は建築物のコンピュータ解析などという仕事が向いていたのかもしれない.気づくのが35年ほど遅かったが),ついでに思い出したのが親父様が親戚と共同で建てた別荘のことである.

別荘というと軽井沢とか箱根とかにある,籐の椅子がベランダにあって居間の暖炉で火が燃えて…等というのが通常のイメージだが,残念!うちのはそういうものとは厳然と一線を画す.
我々の別荘はいわば合宿所のような造りで,畳敷きの部屋4部屋と台所,後は風呂と便所という合理的な構造を持ち,暖房は掘り炬燵という純日本式の慣習を尊ぶ1960年頃の建築物である.
その愛らしい建物は信州柏原の野尻湖畔にあり,夏は避暑と水泳の,冬はスキーの拠点として永年にわたって活躍してきた.自分は兄弟・従兄弟達と小学生から大人になるまで,毎夏時には冬もここを訪れ,素晴らしい時を過ごしてきた.ここに来ると誰もが,自分は一時の漂流者としてここに来ているのであり,ここにいる限りは文明とは切り離されて生きていくのだと,自分に言い聞かせるのがルールだった.

さて,この別荘は湖畔の湿地帯にあり,コンクリートの1メートルほどの杭の上に建てられている.
この構造というものについては長いこと自分は無頓着だったのだが,ある年(もういい大人になっていた)初めてその特徴について,管理をしていたYさんから聞いたのだった.
この地方は豪雪地帯で,冬の間に別荘の周りに雪はしんしんと降り積もる.降った雪はやがて溶けては凍ることを繰り返し,建物の下の雪は凍るたびに建物を押し上げる.ここが肝心なのだが,建物はコンクリートの杭の上に乗っているだけで固定されてはいない.凍った雪に押し上げられた建物は杭から離れ,氷の上に乗った状態になる.これを「凍み上がり」と言うのだそうだ.

冬の間凍み上がって土台の杭から離れ空中にあった別荘は,春が来て雪が溶けるともとの杭の上に無事鎮座し,何喰わぬ顔をして自分たちを夏迎えるのだ.自分たちは夏来たときにも,また冬に来たときにも,そんなことには全く気がつかなかった.
もちろん湖畔に向かって傾斜している別荘の土地では,氷河というと大げさだが凍った雪が湖畔に向かってずれていくことがある.その場合別荘は凍み上がっている間にわずかに土台からずれ,春着地するときには杭の端っこに鎮座している場合がある.永年の間にはそういう事情によって杭を増設し,調整をする必要もあったようだ.
自分が感動するのは,こういういいかげんな建築がこの地方の環境に良く合って,40年以上にわたって健全を保っていることだ.この安普請の別荘のコストを考えると,我々の別荘は厳島神社に匹敵する名建築なのではあるまいかと思える.

子供時代から親しんだこの不思議な建物が今後も健全であることを願う.冬の間「凍み上がり」春にはまた土台の上に戻り,僕らを迎えて欲しい.世界遺産のテレビを見て,そのことが日本の建築技術の伝統に繋がる様に思え,大いに愉快だった.
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