独断的映画感想文:エリ・エリ・レマ・サバクタニ
日記:2006年1月某日
テアトル新宿で映画「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」を見る.
2005年.監督:青山真治.
浅野忠信,中原昌也,宮崎あおい,筒井康隆,岡田茉莉子.
2015年,レミング病というウィルス疾患が蔓延する地球.このウィルスは発病した人を自殺させる.
ミヤギは,二人の若者が創造する「音」が,発病を防ぐことを突き止め,感染した孫娘ハナのために探偵を雇い彼らを捜す.
その二人,ミズイとアスハラは,とある漁村に住み,「音」を探すのに余念がない.ある時は廃屋の自殺者の傍らからがらくたを拾い集め,ある時は貝殻や野菜を集めて音を収録する.
遂に彼らの所在を突き止めたミヤギは,ハナや探偵とナビのペンションに滞在し,彼らに演奏してくれる様懇願する….
地球が滅亡の縁に立たされ,個人がその救いの鍵を握るという点では,1986年のタルコフスキーの傑作「サクリファイス」を思い出す.この映画も「サクリファイス」同様に美しい映像でつづられるが,その描く世界はそれほど深刻には見えない.
街も普通だし(時々電柱に首をつった死体がぶら下がっている程度),パニックが起こっているわけでもない.ラジオでは軽薄なDJが,日本で300万人がもう死んだって等と言っているが,死の影が迫っている気配はない.
しかしミヤギ達の到着後に起こった一つの事件が状況を動かし,目の前に死が突きつけられる.そしてミズイは,ハナのために演奏をする決意をする.
果たしてその演奏はハナを救うことが出来るのか.
映画の中盤にも音源のシーンがある.
このシーンでは,廃物から作ったスチール弦が弓で弾かれ押しつけられ叩かれて,すさまじい音を出す.このシーンは延々と続けられ,僕にはほとんど耐え難かった.
ところが最終局面のライブシーン,浅野忠信演じるミズイが様々な音源を駆使しながらギターを弾き,かきむしり,すさまじい音響で演奏し続ける.草原の中央でスピーカーに囲まれじっと聞き続けるハナ.
この何時までも続く「音」が,僕にはついに「音楽」に聞こえてきたのだった.言葉で説明するのは難しい,不思議な感動が胸を満たす.
ミヤギが失った近親者のことをナビと話すシーンが良かった.「死んだときは神は何ということをするのかと思いました.ところが死んでみると…」「かえって,いつもそばにいる様に感じるんでしょう?」「そうなんです」
後に引きずる映画である.
★★★★(★5個が満点)
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