« 2006年3月 | トップページ | 2006年5月 »

2006年4月に作成された記事

2006/04/29

独断的映画感想文:蝉しぐれ

日記:2006年4月某日
映画「蝉しぐれ」を見る.
2005年.監督:黒土三男.
市川染五郎(7代目),木村佳乃,今田耕司,ふかわりょう,緒方拳,原田美枝子,柄本明,加藤武,佐津川愛美.
藤沢周平の名作の映画化.
文四郎とふくは隣同士の幼なじみ.文四郎の父は誠実かつ胆力のある郷方廻りの武士だったが,藩の派閥争いに巻き込まれ切腹の沙汰を受ける.
文四郎は禄を落とされ母と共に長屋住まいの身となるが,ふくは江戸の藩邸に勤め,やがて藩主の子を身ごもる….
過酷な運命をたどった二人の物語である.
音楽と映像は極めて美しい.
連なる山々を背景に緑の水田を耕す百姓達の姿,きらめく川面に影を落とす満開の桜,落日に照らされ波打ち寄せる浜辺,文四郎達が郷方廻りで歩く稲穂の揺れる田園.
しかしその中で展開される人間のドラマには,失望せざるを得ない.
時間がないせいか,ドラマにとって必要と思われる伏線や事情もばっさり切られているので,よく分からぬことが多い.
例えば同じく切腹を命じられた藩士の美しい未亡人淑江は,物語の後半で果たす役割を削られた結果,遺族の集団の中で意味なく顔がアップで写されるだけの存在となっている.
キャスティングにも問題が多い.
文四郎の少年時代を演じる石田拓也は,身長が染五郎と大して変わらないように見える.ならば何故染五郎が最初から演じなかったのだろうか.
お笑いの今田耕司,ふかわりょうが文四郎の親友役を演じるに至っては論外である,映画を舐めるなと言うしかない.
俳優で良かったのは,木村佳乃,緒方拳,佐津川愛美であろうか.シーンとしては父の遺骸を運ぼうと文四郎が車を引き,ふくが後押しして坂を上がる有名な場面,文四郎と最後にふくが会う場面の木村佳乃などが良かったが,その他は見るべきもの少なし.
NHKTV版の「蝉しぐれ」(内野聖陽・水野真紀)が素晴らしかったので,この映画のあまりにも貧弱な内容は,原作に照らしてがっかりせざるを得ない.
★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (1)

2006/04/24

独断的映画感想文:きみに読む物語

日記:2006年4月某日
映画「君に読む物語」を見る.
2004年.監督:ニック・カサヴェテス.
ライアン・ゴスリング,レイチェル・マクアダムス,ジーナ・ローランズ,ジェームズ・ガーナー,サム・シェパード.
ノース・カロライナの湖水を望むシーブルック.夕暮れの中一人ボートを漕ぐ男の影から映画は始まる.
そのボートが寄っていく大邸宅,その窓に浮かび上がる老婦人が主人公のアリーである.
映画が始まると,このアリーは認知症で老人ホームで暮らしているらしい.同じホームに暮らすデュークという男は,彼女に物語の読み聞かせをかって出ているようだ.
昔々40年代のこと,シーブルックに夏休みに来ていたアリーという娘とノアという青年の物語.
カーニバルに来ていた裕福な家の一人娘アリーに一目惚れしたノアは,製材所で働く貧しい青年だった.やがてアリーとノアは愛し合うようになる.
子供時代の最後のような,大人の始まりのような輝かしい夏の日に,二人の恋は燃えさかるが,ある夜アリーの両親の介入で二人は引き裂かれる.やがてアリーはニューヨークの大学へ,ノアは志願して第2次大戦のヨーロッパ戦線へ.アリーは病院で知り合った負傷兵ロンに求愛され,彼と婚約する….
デュークはこのようなノアとアリーの物語を読み聞かせ続けるのだ.
アリーはデュークの話に引き込まれる.
ノアとアリーの物語はどうなるのだろう.この老婦人アリーは物語のアリーらしいが,ではノアはどうなるのか.映画はノアとアリーの物語を紹介しながら,アリーとデュークの物語を巧みに語っていく.
淡々とした物語の果てに用意されている静かな奇跡.
人生の歓び,哀しみはタペストリに織り込まれた文様の1つ1つのようだ.
アリーとノアを演じる俳優がいずれも良い.大好きなサム・シェパードも良かった.
二人を引き裂いた母親を演じたジョーン・アレンが見事な演技.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (3) | トラックバック (2)

2006/04/23

独断的映画感想文:NANA

日記:2006年4月某日
映画「NANA」を見る.
2005年.監督:大谷健太郎.
中島美嘉,宮崎あおい,松田龍平,玉山鉄二.
矢沢あいのコミックの映画化,但し漫画は読んでいません(おじさんですから).
雪の日,上京する特急で同席となった20歳同士の小松奈々と大崎ナナ.偶然同じアパートを紹介された2人は,ルームメイトとして暮らすことになる.
あなた任せで自分本位の奈々は,ロックヴォーカリストとして目標に向かって生きているナナから「イヌのようだ」と酷評され,「ハチ」と命名されてしまうが,二人は妙にウマがあって共同生活を続けていく.
やがてナナは本格的にバンド活動を開始,一方奈々は彼氏との間が怪しくなる….
というバンドと青春と友情の物語.僕は基本的にバンド青春ものにはハードルが低いから,この映画も気に入りました.
特に中島美嘉と宮崎あおいが良い.
映画の中で次第に明らかになる,ナナと今人気絶頂のバンド・トラネスのギタリスト蓮との因縁,この物語をつづる中島美嘉の表情が素敵.
特にずっと突っ張り系で濃いアイラインのメイクで画面に出てきたナナが,殆どノーメイクで素直な受け答えに徹する蓮とのバスタブのシーン(2回あります)は,美しい.
毅然と何事にも立ち向かっていくナナが,その心情が意外にももろいものだと言うことが,次第に判っていく.
一方何事も自分で決められず人に助言を求め,彼氏を失ってもただ泣くだけの奈々が,意外と図太いことも映画の進展と共に判ってくる.
この二人の類型的ではあるがコンビネーションの魅力が,2人の女優によってうまく演じられている.
中島美嘉の歌は魅力的だが,バンドシーンはもっと音の迫力があっても良かった.
原作漫画は長編らしいが,映画は続編があるのだろうか?
ナナと蓮の結末がやや中途半端なのが,そのあたりの事情とどう絡むのか,よく分からなかった.
松田龍平は優作の息子と言うよりは小林旭の息子という感じなのは,気のせいか.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

2006/04/16

独断的映画感想文:ソウ

日記:2006年4月某日
映画「ソウ」を見る.
2004年.監督:ジェームズ・ワン.
ケイリー・エルウィズ,ダニー・グローバー,モニカ・ポッター.
水中で目覚める男.夢中で起きあがると,どことも知れない闇の中である.
やがて灯りがつくとそこは広いバスルーム,男アダムはその一角に配管に鎖で足首をつながれている.
対角線の角に医師ゴードンがやはり鎖でつながれている.部屋の中央には拳銃自殺した男が,テープレコーダーを握って倒れている.
二人はやがて指令のテープを見つけ再生するが,指令によると,ゴードンは6時までにアダムを殺さなければ,妻と娘を殺される.
やがて二人は指令に基づいて金鋸を見つけるが,それでは鎖は切れないことが判明する.二人はどのようにしてこの死地を脱出することが出来るのか.何故二人はこのような目に遭うのか.
医師の回想により,この事件はジグソーと呼ばれる連続ゲーム殺人犯の仕業であることが,推測される….
恐ろしい映画である.緻密な計算,隙のない構成,どんでん返しに次ぐどんでん返し,謎が解けると現れる謎.
この詳細については樺沢紫苑氏の「『ソウ』の完全解読」に詳しいから,ここで付け加えることは何もない(間違っても映画を見る前にこれを読まないように).
映画の出来はと聞かれれば,素晴らしいと答えよう.
しかし僕はこの映画を見るべきではなかったと思っている.映画を見て得られるものは絶望と嫌悪のみである.もっとゲーム感覚で見るべき映画なのかも知れないが,僕にはそれが出来ない.
映画に深く引き込まれ,その汚辱感と人間に対する悪意,絶望感に圧倒された.
監督ジェームズ・ワンに対しては殺意さえ感じる.その意味ではこの映画は成功しているのだろう.
しかしこれほど見て後悔した映画も珍しい.こういうものをエンタテインメントの中に入れることは,僕には出来ない.
☆なし(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (3)

独断的映画感想文:月とキャベツ

日記:2006年4月某日
映画「月とキャベツ」を見る.
1996年.監督:篠原哲雄.
山崎まさよし,真田麻垂美,鶴見辰吾.
バンドを解散したミュージシャン花火は,充電期間として山の中にこもりキャベツ作りをしながら曲作りに専念しているが,思うように曲は出来ない.
ある日草原で出会った女の子ヒバナは花火のファンで創作ダンスに夢中,花火の住んでいる廃校に押しかけてきて,住み着いてしまう.
しかしあくまで花火の音楽と創作ダンスが好きなヒバナの純粋さに,花火の心は徐々に解きほぐされていく….
ミュージシャン山崎が主演らしく,音楽の創作にかかわる主人公の懊悩が淡々と描写されていく.これに絡んでいく創作ダンスの好きなヒバナ,彼女のひたむきな花火への敬愛が心を打つ.
それにしても彼女は不思議な少女だ.どこから来たのか,どうして花火のところに来られたのか,家族は・友人はいないのか?
映画は悲恋に終わるが,エピローグに位置づけられる最後の10分間に,素晴らしい奇跡が用意されている.
僕は彼のファンではないが,山崎まさよしファンはたまらんであろう.
美しい余韻の残る映画.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2006/04/09

独断的映画感想文:リバティーン

日記:2006年4月某日
映画「リバティーン」を見る.
2004年.監督:ローレンス・ダンモア.
ジョニー・デップ,サマンサ・モートン,ジョン・マルコビッチ,ロザムンド・パイク.音楽:マイケル・ナイマン.
17世紀のロンドン,リチャード2世の治世下,放蕩でならすジョン・ウィルモット・ロチェスター伯爵は,酒と女にふけっては卑猥な言葉だらけの詩や脚本を発表し,国王から追放されている身である.
しかし彼の才気を愛し,何かの役に立つと考える国王に追放を解かれ,ロンドンに帰ってきたジョンは,女優のリジーを見てその秘められた才能に驚く.やがてジョンはリジーの演技指導を行うようになり,リジーはその驚異的な才能を開花させていく….
映画は,蒼ざめた暗い色調で進行し,これは最後まで変わることはない.この映画では明るい太陽や暖かい燭台の灯火が現れることはないのだ.
この暗鬱な色調の中,あくまでも破滅的に生きるジョンの運命が,緊張度高く描かれる.
特に物語の中心はジョンとリジーとの恋だろう.二人ともその心をお互いに明かそうとしないにもかかわらず,この二人が如何にお互いを愛する対象として求めていたかは,画面からひしひしと伝わってくる.
最終局面で再会し,お互いの心を確かめるリジーとジョンのシーンは感銘的である.
ジョンは放蕩無頼の生活の挙げ句梅毒で死期を迎えるが,死の直前妻のもとに帰り,また国王のために議会で熱弁をふるい彼の政治的危機回避に貢献した.これは彼の「改心」と言えるのだろうか?
また,映画の中では妻,リジーをはじめ娼婦達に至るまで,誰もが彼を心から愛している.これもこの時代に「放蕩無頼」と言われた彼の人間性を伺わせるものだろうか?
ジョニー・デップとサマンサ・モートンが素晴らしい.17世紀ロンドンの情景描写はリアリティがある.
マイケル・ナイマンの音楽は今回も素敵.
骨太なコスチューム・プレイであった.
★★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:リンダリンダリンダ

日記:2006年4月某日
映画「リンダリンダリンダ」を見る.
2005年.監督:山下敦弘.ペ・ドゥナ,前田亜季,香椎由宇,関根史織.
文化祭前日になってギタリストの負傷で演奏不能になった女子バンド.ヴォーカルを捜し何をやるかから立て直さなければならない状況となる(その辺ちょっと説明不足だけど,まあそのあたりはおいといて).
たまたまという感じでやるのはブルーハーツのコピー,ヴォーカルは通りかかった日本語も不自由な留学生のソンちゃんということに決まる(その辺ちょっと唐突だけど,まあそのあたりはおいといて).
この4人のそれぞれが彼氏に告白されたりしたり,一緒に手料理を作ったり,学園祭の他の出し物の担当をしたりしながら,最終日のライブに向けてひたすら練習に打ち込む.そしてお決まりのピンチを乗り越え,果たして本番ライブはどうなるか….
ブルーハーツを熱唱する最後のライブ場面はもちろん感動するが,この映画は等身大の女子高生バンドメンバー一人一人を描いて,成功している.
同様な作品として扱われがちな「スイング・ガール」と違うのはその点である(「スイング・ガール」は,一人一人はどうだったかあまり印象に残らないが,最後のライブシーンがすべて,そこでの音楽的感動がすべてであった).ジャズの楽器担当と違い,バンドってドラムやベース,ギター,ヴォーカルとそれぞれの担当で個性が際だつではないか,この映画の4人の描写はその辺でうまくいっているのだろう.
というわけで特に秀逸なのはソンちゃんのキャラクター.
彼女が練習の合間に体育館(翌日のライブ会場である)のステージに立ち,韓国語でメンバー紹介のMCをやってみるシーンは感動的. 他にも,一人でブルーハーツを練習しようとカラオケに行き,店員にドリンクを取らなきゃ歌えないと言われ「おかしいよ」と抵抗する場面や,そのカラオケで結局自分の好きな歌を歌っているシーンが傑作.
他に指の負傷でバンドを離れた萌ちゃんが,バンドが来るまでの時間つなぎにアカペラでうたう歌(アイルランド民謡”The Water Is Wide”というのだそうです)が,聞き覚えがあって懐かしい.
あれやこれやで魅力満載の素敵な映画.
★★★★(★5個で満点)
人気blogランキングへ

| コメント (2) | トラックバック (1)

独断的映画感想文:チャーリーとチョコレート工場

日記:2006年4月某日
映画「チャーリーとチョコレート工場」を見る.
2005年.監督:ティム・バートン.
ジョニー・デップ,フレディ・ハイモア,クリストファー・リー.
原作は高名な児童小説と言うことだが,それは読んでいない.
両親と2組のおじいちゃんおばあちゃんと仲良く暮らしているチャーリー,しかし父親は失業中で一家の食事は毎日キャベツのスープである.
近くにそびえるチョコレート工場には,この15年一度も人が出入りしていないのに,世界中に出荷するチョコレートが製造されている.
ある日そのオーナー,ウィリー・ウォンカ氏が,世界から5人の子供を工場に招待すると発表,チョコレートに仕込んである世界でたった5枚のゴールドカードを巡る争奪戦で,世界中は騒然となる.奇跡的にゴールドカードを手にしたチャーリーは,おじいちゃんと共に工場を訪れた.ウォンカ氏は5人の子供のうちの一人に素晴らしい賞を与えようと言う….
というわけでこの工場の中を巡る見学旅行とその顛末を描く奇想天外な映画.
このチョコレート工場の奇想天外さには好みがあるだろう.
工場で働くウンパ・ルンパ(という種族の人達なのです)の繰り返される踊りも,嫌いな人には嫌いとしか言えまい.ユーモアはブラックで,ある意味情け容赦のない残酷さがあるが,そのセンスが通用しない人もいるであろう.退屈のあまり寝てしまったり,腹を立てて怒鳴ったり,画面につっこみを入れる人もいるかも知れない.僕の場合は前半の一部で寝てしまいました.
俳優では「ネバーランド」に続きデップと堂々の競演を果たしたフレディ・ハイモアがかわいい(美山加恋ちゃんに似てないかしら).
デップってやらせればどんな役でもしちゃうんだってことにも感心した.
途中,「2001年宇宙の旅」や「ベン・ハー」のパロディが出てくるのが楽しい.でも好きな映画じゃないな.脳がしびれた.
★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2006/04/07

独断的映画感想文:ヒトラー ~最期の12日間~

日記:2006年4月某日
映画「ヒトラー ~最期の12日間~」を見る.
2004年.監督:オリバー・ヒルシュビーゲル.
ブルーノ・ガンツ,アレクサンドラ・マリア・ラーラ,ユリアーネ・ケーラー,ハイノ・ヘルヒ.
ヒトラーを中心とした群像劇で描く第三帝国崩壊の日々.ヒトラーの個人秘書を務めたトラウドゥル・ユンゲがその語り部である.
総統官邸の地下要塞で,崩壊の断末魔にあえぐヒトラーとその帝国の人々の最後の日々が描かれる.
その様子は何と狂気に満ちたものだろう.
ヒトラーが死守を命じたため,既に2万人の若い将校が戦死したと,将軍がヒトラーに詰め寄る.ヒトラーは驚いて反論する.「しかしそれが彼らの使命だろう?」
地下要塞に避難してきたゲッベルスの一家,ヒトラーの死後ゲッベルス婦人が子供達に眠剤を飲ませる.ぐっすり寝入った6人の子供達に,婦人は青酸カリのアンプルを投与する.その口を開け,アンプルを噛ませて頭と顎を押さえる.アンプルが割れ,毒薬が喉に落ち絶命する子供達.映画はその6人の最後を一人一人映し出す.非ナチの世界で子供達が教育されることには耐えられない,と婦人は言う.
一方この狂気の世界の,ある面での魅力的なことはどうだろう.
例えばエヴァ・ブラウンが冷酷な総統のもとで共に働くスタッフを慰めるために心を砕く,その立ち居振る舞いの何と魅惑的なことか.
軍需相アルベルト・シュペアーが危険を冒して地下要塞にやってくる.ヒトラーの命じた焦土指令を実行しなかったと告白した後ヒトラーと別れ,総統官邸の瓦礫に覆われた壮大なドームを見上げて(それは彼が建築を手がけたのだ)暗闇に消えていく,その何とも言えない寂しい後ろ姿.この感覚はどういうことだろうか.
強いてあげれば,オウム真理教の恐ろしさに震撼しながらも,時になにがしかの魅力を感じてしまう瞬間があるのと似ているだろうか?
そういえばナチの指導者も皆若いのだった.ヒトラーは56歳で死んだ.シュペアーはその時まだ30代だった.彼らが戦争という例えようのない程大きな狂気に世界を引きずり込んだのは,何故だったのだろうか.
こういうことを感じさせる,希有な映画.紛れもない力作である.
★★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (2)

2006/04/03

独断的映画感想文:トップガン

日記:2006年4月某日
映画「トップガン」を見る.
1986年.監督:トニー・スコット.
トム・クルーズ,ケリー・マクギリス,ヴァル・キルマー,トム・スケリット,メグ・ライアン.
アメリカ海軍は戦闘機の空中戦能力向上のため,優秀パイロットを集めてトップガンという特別教習課程を設ける.
インド洋上の空母勤務から送り込まれたマーベリックは天才パイロット,しかしその行動は亡き父の影響を受け,僚友はその飛行の危険さを憂慮していた….
単純明快なパイロットものである.危険と背中合わせの勤務,勇気と技量の競い合い,僚友との友情,栄光と挫折.トム・クルーズの単純な演技がこれほどはまった映画も少ないであろう.
この映画の最大のポイントはリズム.
冒頭のインド洋上の航空母艦のシーン,ゆったりしたリズムの序奏風の音楽が流れる中,甲板上のスタッフが作業を続ける.戦闘機のスタンバイが進んでいき,徐々に準備が整って,やがて戦闘機のエンジンが咆吼,オレンジの炎が排気口から吹き出す.同時に序奏風の音楽のリズムは倍にアップし,ロックンロールとなって轟き渡る.航空母艦から飛び出した戦闘機はそのまま敵機とのドッグファイト(空中戦)に突き進む,その格好良さ.
この映画のもう一つのポイントはその構成である.
栄光と挫折のドラマが終わって再び冒頭と同じインド洋上の航空母艦のシーン.同じようにゆったりしたリズムの序奏風の音楽が流れる中,甲板上のスタッフが作業を続ける.戦闘機のスタンバイが進んでいく.やがてエンジンが咆吼し,オレンジの炎が排気口から吹き出す.次々に飛び立っていく戦闘機,そこからこの映画最後のドッグファイトが展開される.
まさに物語は始まったところで終わるのだ.
と言うわけでこの映画は(類型的な)青春映画であり,スポ根映画だ.日本であればさしずめ甲子園映画と言ったところか.
そういうスキームに現役ジェット戦闘機のドッグファイトという目を見張る映像を貼りつけた.そういう点でコマーシャルには評価されるべき映画である.
映画評を見るとアメリカの軍事礼賛映画という評が結構あるのに逆にびっくりする.この映画を見て「テロ」との対決を決意する人はいないと思うけどな.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:デーヴ

日記:2006年4月某日
映画「デーヴ」を見る.
1993年.監督:アイヴァン・ライトマン.
ケヴィン・クライン,シガニー・ウィーヴァー,ベン・キングズレー.
大統領に瓜二つのデーヴは,一夜限りの影武者を依頼されるが,その晩大統領は浮気中の女の上で脳出血を起こして倒れる.デーヴは不本意ながら身代わりを務める羽目になるが,その大統領ぶりは本物より遙かに良くって….
という大統領ものの典型的パターンの物語.しかし演ずるケヴィン・クラインが素晴らしい.設定は,あり得ないというつっこみがいくらでもありそうだが,それを切り抜けるケヴィン・クラインのお茶目でユーモラスな偽物ぶりが秀逸.
大統領を嫌い抜いているファースト・レディとの関係の進展も面白い.
大統領というのは,アメリカン・ドリームの最たるものなのだろうが,実際の大統領の価値というものが地に落ちている現在は,こういう物語がもう一つのアメリカン・ドリームであることは,疑い得ない.
後半のつじつま合わせが成功するかどうかのどきどきも楽しかった.
一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年3月 | トップページ | 2006年5月 »