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2006年5月に作成された記事

2006/05/28

独断的映画感想文:ドミノ

日記:2006年5月某日
映画「ドミノ」を見る.
2005年.監督:トニー・スコット.
キーラ・ナイトレイ,ミッキー・ローク,ルーシー・リュー,クリストファー・ウォーケン,ジャクリーン・ビセット,デルロイ・リンドー.
映画が始まると,取調室で手錠姿,傷だらけの女ドミノが,タバコをくゆらしている.FBIの取調官タリンが,淡々と質問をしていく.ドミノは自分の少女時代から,回想し始める….
物語は実話に基づいている.
ドミノ・ハーヴェイは名優ローレンス・ハーヴェイの娘である.5歳の時に父を亡くしたが,ハリウッドの上流の暮らしに飽きたらず,15歳でモデルになり,更に20歳の時にバウンティ・ハンターの世界に飛び込む.
アメリカには保釈保証人というのがいて,保釈金を手数料を取って保釈される人に貸すのだが,その人が逃亡した場合保釈金は没収される.そこで保釈保証人は賞金を掛けて,逃亡者を連れ戻すよう依頼する.その依頼先がバウンティ・ハンター,日本では賞金稼ぎと訳される.
ドミノはこの業界での師匠格エド,その相棒チョコ,運転手のアフガン人アルフと組み,その美貌と才覚でめきめき頭角を現していく.
ところが,役所の情報取りを担当している保釈保証人クレアモントのグループが,仲間の娘の治療費を稼ぐため企んだ現金輸送車の保険金詐欺が,思わぬ手違いから別のマフィアを巻き込み,その犯人逮捕を担当したドミノ達はマフィアに命を狙われるピンチに陥る.
この空前のピンチは突破できるのか?
CM出身の監督らしく,映像は斬新でスリリング.映像は赤みがかった(コダカラーの色をもっと派手にしたような)色調で,コマ落とし,高速撮影,重ね合わせを多用した目の眩むようなもの,僕の年齢にとってはけたたましいとさえ感じる.
そこに乗せられるロックのリズム,展開はスピーディーでテンポが良い.
時折差し挟まれる静かな場面の印象が,逆に心に残る.特に,ドミノがずっと愛していてくれたチョコと結ばれる砂漠の場面は,美しく哀切である.
映画は時に意味不明のところもあるが(特に砂漠に突然現れた牧師は,何だったんだろうか?),そんなことを吹き飛ばす映画のエネルギーに,圧倒される.
キーラ・ナイトレイが美しい.カリビアン・パイレーツやキング・アーサーのお姫様なんぞ役不足.ミッキー・ロークが身体を絞りマッチョになってのエド役はなかなかのもの.
見て損はない映画,★★★★(★5個が満点)
なお,映画の最後に本人,ドミノ・ハーヴェイが顔を出している.笑顔の美しい魅力的な女性.しかしこの人は映画公開直前に自宅で亡くなったという.
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2006/05/22

独断的映画感想文:蝶の舌

日記:2006年5月某日
映画「蝶の舌」を見る.
1999年.監督:ホセ・ルイス・クエルダ.
フェルナンド・フェルナン・ゴメス,マヌエル・ロサノ(子役),ウシア・ブランコ.
ぜんそく持ちのモンチョは,8歳で小学校に行くことになる.
既に字は読めるモンチョだが,学校になじめるかどうか心配で堪らない.登校したモンチョは,皆にからかわれ思わずおしっこを漏らしてしまう.
教室から逃げ出した彼は,森に隠れ,村中の捜索を受ける事態に.翌日グレゴリオ先生が現れ,決して生徒を叩く様なことはしないから,とモンチョを連れ出す.教室では隣席のロケが,自分は初登校の日にうんこを漏らしたと告白するのだった….
心の温かい老教師グレゴリオ先生は,教室では詩を朗読させ,春になると野外に出て,蝶やクワガタを採集して回る素晴らしい教師だった.
時は1936年,スペインは共和派が選挙で多数派を占めたものの,資本家と軍部は王党派として対抗し,教会を巻き込んで一触即発の状況を呈していた.グレゴリオ先生は共和派であることを隠さず,教会にも行かない.
モンチョはその先生を敬愛しつつ,友達と喧嘩し,また仲良しになり,兄と共に村の楽団に参加して演奏旅行に出かけ,と元気な毎日を過ごしていく.
しかし,グレゴリオ先生が定年で退職した頃から,村の空気はおかしくなっていく.そして遂にある日,大きな悲劇が村を襲うのだった….
スペイン内戦の悲劇は様々に語られてきたが,これもまた1つのそのエピソード.
グレゴリオ先生の部屋をモンチョが訪れ,先生から「宝島」の本をもらうシーン,先生の手には無政府主義者クロポトキンの「麺麭(パン)の略取」がある.日本では幸徳秋水が訳したもの.先生が無政府主義系の共和派であることが暗示される(この時代,共産主義者というのは,スターリン主義者ということだ).
数の上では多数派の共和派に,権力と暴力で対抗する王党派,この状況で引き起こされる内戦の残酷さに胸が痛む.
状況が一挙に急を告げる映画の最後の15分間,裏切りと絶望が渦巻く中,モンチョはどういう行動を取るのか.この数ヶ月をグレゴリオ先生に導かれて生きてきたモンチョの,痛切な振る舞いが,そして最後の呼びかけが,深く印象に残る.
映画は同じ作者の3編の短編から脚本を起こしたもの.間のエピソードは従っていささか散漫になるが,大して気になりません.
音楽は「オープン・ユア・アイズ」「アザーズ」「海を飛ぶ夢」の監督,アレハンドロ・アメナーバル,多才な人です.
美しい映像と音楽,そして胸に残る結末.映画らしい映画.
★★★☆(★5個が満点)

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2006/05/15

独断的映画感想文:メゾン・ド・ヒミコ

日記:2006年5月某日
映画「メゾン・ド.ヒミコ」を見る.
2005年.監督:犬童一心.
オダギリジョー,柴咲コウ,田中泯,西島秀俊.
塗装会社で働く吉田沙織は,借金に追われているらしい.
彼女のもとに岸本という男が来て,休日だけ老人ホームで働かないかと言う.その老人ホームは,沙織の父でゲイバー卑弥呼の2代目ママとして成功した,吉田照雄が引退と同時に開設したもの.照雄は今末期癌に冒されているという.
沙織にとって,照雄は自分と母を捨てた男だった.しかし沙織は法外な給料と照雄の遺産という岸本の誘いに乗って,そのゲイの老人ホーム,メゾン・ド・ヒミコで働く様になる.
最初はおかまへの嫌悪感でいっぱいだった沙織だが,少しずつ彼らの心の裡が分かってくる.セックスに対する感覚には辟易しながらも,彼らの優しい感性や世間から身を潜めて生きる寂しさを次第に理解していくのだ.
しかし照雄に対する彼女の気持ちは頑なだった.
彼女の抱える借金は,捨てられた母が癌で死んだときの治療費によるものだったし,照雄は沙織達に全く手を差し伸べようとしなかったのだ.
照雄の恋人である岸本が,沙織の会社の若社長細川や,照雄の愛人だった半田老人と平気で寝るのも,沙織を苛立たせる.
しかし照雄の死が近づいた盆の迎え火の夜,沙織は照雄の口から意外な事実を知らされることになる….
良い映画である.特にオダギリジョーと柴咲コウは素晴らしい.
岸本の見た目の格好良さと屈折した愛情の持ち方.沙織の怒りに燃えた,刺す様な視線と,時に見せる皮肉な笑顔,そして泣き顔.照雄を演じた田中泯も圧倒的な存在感がある.
照雄の枕許で,沙織が心の堰が切れた様に父への非難をぶつけ続け,それに対し照雄が「でもあなたが好きよ」と言う,死の床のシーンは感動的である.
服飾マニアの山崎の女装願望を叶えるべく,盛装した老人達がうち連れてディスコに出かけ,他の客と一緒に踊りに興じるシーンの開放感も素敵.
最後の落ちもほのぼのとしてなかなか宜しい.これまた一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ストレイト・ストーリー

日記:2006年5月某日
映画「ストレイト・ストーリー」を見る.
1999年.監督:デヴィッド・リンチ.
リチャード・ファーンズワース,シシー・スペイセク,ハリー・ディーン・スタントン.
監督デヴィッド・リンチというからどんな怪作かと思ったら,極めてストレイトなストーリーでびっくりした.実話に基づくロード・ムービー.
アルヴィン・ストレイトはアイダホに住む73歳の老人.引退した農業労働者らしく,今は年金で暮らしている.
一度家で倒れて病院に担ぎ込まれたのだが,医者の勧める検査も受けず,節制もせず,唯一受け入れたのは1本だった杖を2本使うことにした程度.同居する娘のローズは少し「トロい」と言われているらしい.
この頑固な爺さんのもとに,兄ラウルが脳卒中で倒れたという連絡が入る.
この兄との間には因縁があるという爺さんは,しかし周囲の反対にも拘わらず自力で兄の住むウィスコンシン州に行こうとする.
芝刈りに使っていた小柄トラクターにトレーラーを連結し,勇躍出立するが,何とトラクターはすぐにエンコし,爺さんはトラックに積まれて街に戻る羽目になる.
トラクターは再起不能,爺さんはライフルを取り出して自分を裏切ったこのトラクターを一撃でお釈迦にすると,なけなしの年金をはたいて「新しい」(1966年製の中古である)トラクターを購入,再度旅に出るのだった.
この旅で出会うアメリカの人々は何と善人ばかりなのだろう.
再度トラクターが故障したとき,裏庭に置いてくれて,テントまで張ってくれた見知らぬ街の住人.この街の別の老人はアルヴィン爺さんをバーに誘ってくれた.
あるいは墓地に勝手に入り込み野営したアルヴィン爺さんに,「焚き火が見えたから」と言って夕食を差し入れてくれた牧師さん.9/11以前の映画ならではの牧歌的なアメリカがここにある.
しかしアルヴィン爺さんはただのどかに生き,旅をしているわけではない.
バーに誘ってくれた老人とは戦争の話になった.欧州戦線での体験談,老人は苦しい闘いの挙げ句にようやく温かい食事をとれることになった寸前,ドイツ軍の爆撃により部隊が全滅した話をする.
アルヴィン爺さんは狙撃兵だった.その彼が,敵陣近くゆっくり動く人影を将校と思い狙撃し,翌朝そこに味方の偵察兵が倒れていたことを告白する.
皆若くして死んだのだと,二人は言う.自分が長く生きれば生きるほど,戦友が失った時間は長くなるのだと爺さんは言う.
平凡な人達の淡々とした人生に隠された深い傷跡.
そういえば,爺さんの家族もそうなのだ.ローズが抱える深い傷跡は,映画の中で象徴的に示される.その美しい画面はどうだろう.
爺さんは,目的地まで車で送れば一日で行けると勧められても,頑なに拒否する.それには理由があるのだ.
一緒に育った兄とは,10年前に決別した.その兄ともう一度星を見上げたいと思う.そのために自分の自尊心を捨てられるだろうか?それを試す試練がこのほぼ40日間となる旅なのではないだろうか?
その結果は映画の最後に示される.
兄ラウルを演じる,「パリ・テキサス」のハリー・ディーン・スタントンの存在感に感激.俳優はアルヴィン爺さんもローズも素晴らしい.
トラクターは時速5マイルで進み,中西部の穀倉地帯はどこまでも続く.日は毎日地平線の果てに沈む.
しかしこの映画に退屈することはない.のどかで淡々とした,時にユーモアを含んだ,しかし緊張感の維持された好編.見て損はない.
★★★★(★5個が満点)
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2006/05/14

独断的映画感想文:(ハル)

日記:2006年5月某日
映画「(ハル)」を見る.
1996年.監督:森田芳光.
深津絵里,内野聖陽,戸田菜穂.
パソコン通信を通じた恋愛物語.
この映画は1996年の作品である.当時はメールはパソコン通信と言って今ほど手軽なものではなかったのだが,まあ内容に大きな違いはない.チャットもあれば1対1のメールもある.
映画フォーラムで出会った(ハル)と(ほし),どこか心引かれるものがあってお互いのパソコン通信が始まる.仕事はうまく行かず,恋人は離れていくという(ハル)は,本名速水昇,一方当初東京に住む男性ということだった(ほし)は,実は盛岡市に住む女性藤間美津江,高校時代からの恋人を交通事故で失い,もう恋をすることなど二度とないと思っている.
実生活では仕事が変わったり,言い寄る異性が出来たり,新しいことを始めたりする2人だが,パソコン通信ではそのことを報告したりしなかったり,あるいは誇張して言ったり.
(ハル)にはオフでつきあい始めた女性がいたが,その女性ともパソコン通信上ではかなり際どいことを言ったりする.パソコン通信ってこんなものだったかしら.
観客は一方で二人の実生活を見ながら,お互いのパソコン通信内容を見ることになる.お互いの実生活での友人や恋人とのつきあいに対し,パソコン通信での二人のつきあいはどうなるのだろうかと気をもむのだ.
ところが中盤映画は動き始める.お互いを見たいという話から,出張で(ハル)が新幹線で通過する盛岡近くの畑の路上に(ほし)が出かけハンカチを振ることになる.お互いをビデオカメラで撮る二人.このときから何かが動き始めた様だ.
やがて帰省してきた妹から,(ほし)は意外な話を聞くことになる….
パソコン通信上ではいろいろ言うが,実は極めて誠実で臆病とも言える実生活を送っている(ハル)と(ほし)を,内野聖陽と深津絵里が好演.
淡々と進む東京と盛岡の日常の映像が美しい.
映画の3割ほどはパソコン通信の内容を表示する画面なのだが,似た様な表示をした「リリィ・シュシュのすべて」に比べて遙かに見易かった.最近こういうオーソドックスな恋愛映画に貴重感を感じるのは何故だろう.
★★★☆(★5個が満点)
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