日記:2006年6月某日
映画「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」を見る.
2005年.監督ジェームズ・マンゴールド.
ホアキン・フェニックス,リース・ウィザースプーン.
音楽映画にはいつもハードルが低い.この映画には更にハードルが低くなる理由が幾つかある.
その1,カーター・ファミリーという名前への親近感.主人公ジューンのバンドカーター・ファミリーは,いわゆるカーター・ファミリー・ピッキングで昔から日本でも有名である.親指でベースラインあるいはメロディを弾き,人差し指でストロークを弾くのがカーター・ファミリー・ピッキング,ジューンはこのファミリー・バンドのオリジナルメンバーの第2世代にあたる.
その2,ジョニー・キャッシュといえば大スターである.映像としては1974年の刑事コロンボで,妻殺しの犯人役を演じたくらいしか見た覚えはないが(旅先の筈なのに,殺人に使うための車のキーを持っていたのが,空港の金属探知器で引っかかったのだ),音楽的には聞き覚えのある曲がいっぱいある.その二人が結ばれるまでの長い長い物語って,それだけで胸が躍るではありませんか.
物語が始まるのは1944年,既にジューン・カーターはファミリー・バンドの一員としてラジオで活躍している.それに耳を傾ける兄弟,兄のジャックは優等生,弟のジョニーは歌がうまい.しかしジャックはその年,製材所の事故で命を落とす.
父親はこのとき,「悪魔はできる子の方を奪った」と叫び,これがジョニーのトラウマとなる.
兵役後ジョニーは売れないセールスマンを務めながらメンフィスでバンドを組み,1954年,自作の歌を歌ってレコーディング・スタジオのオーディションに合格し,翌年レコード・デビュー.この後,彼らはヒット曲を連発,そのツアーでジョニーはジューン・カーターと運命の出会いを果たす.しかしスターダムにのし上がったジョニーは,酒と女,薬に蝕まれていくのだった….
物語はこの状態のキャッシュが,当局の摘発を受けどん底に落ち込んでから,如何に立ち直ってジューンとのゴールインを目指していくかを(それは1968年のことだ),ドキュメント風に語っていく.
印象的だったのは,メンフィスでのオーディションのシーン.
バンドは唯一の持ち歌のゴスペルをぎごちなく歌う.スタジオの担当者が途中で遮って,そんな歌はみんなが歌うしゴスペルは売れない,と言う.
「事故にあって後1時間で死ぬ.その時,最後に歌う歌は何だ?君がこの世で生きたことを,ただ1曲で,皆に伝えたい,そういう歌はないのか?」
レコーディング・スタジオの1職員がこういうことを言うのだ.しかもそれに対してジョニーが言う.「軍にいたとき作った曲があるんだが…」
スタジオの担当者も担当者だが,ジョニーもジョニーなのだ.このやりとりはなかなかにスリリング.
その後ロックスターとして順風満帆なようで,ジョニーの胸には大きな穴が空いている.家庭を守る妻ヴィヴィアンは極めて常識的な女性,一方ツアーの同行にはあの憧れのジューンがいるのだ.いつしかジューンに恋いこがれるジョニー,その胸の苦しさ.ジューンに愛を告白しつつ,しかしそれが成就することはない.
そしてジョニーは薬で破滅する.
その破滅したジョニーを世話するジューン.彼女は親族と共にジョニーの山荘に滞在し,彼の看護をする.親族はライフルで売人を追い払うことまでするのだ.献身的とはこういうことを言うのだろう.
そして映画のクライマックスは,1968年オンタリオでのコンサート.このときの出来事には涙を禁じ得ない.
映画を通して印象的なのは,ジョニーとジューンの純愛と言っていいような深い友情・愛情と,アメリカン・ロックの奥の深い魅力である.
映画で流れる歌の歌詞1つ1つに共感を覚える.こんな素晴らしいロックを生み出す国が,どうして嘘をついてまで他国に攻め入るのか.映画はこのジョニーの苦悩と栄光を描いて満足度高し,エンドタイトルのバックに流れる本人達のデュエット曲以外は,ホアキン・フェニックス,リース・ウィザースプーンが歌っているというのも素晴らしい.
★★★★(★5個が満点)
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