独断的映画感想文:ランド・オブ・プレンティ
日記:2006年6月某日
映画「ランド・オブ・プレンティ」を見る.
2004年.監督:ヴィム・ヴェンダース.
ミシェル・ウィリアムズ,ジョン・ディール,ウェンデル・ピアース.
9/11から2年後のロス・アンジェルス,この街で監視活動を続けるポールはベトナム帰還兵.
彼はアメリカに攻撃をしかけるテロリストと対決する為,嘗ての部下と組んで車にビデオ機材や集音マイクを積み込み,L.A.を巡回しているのだ.
妄想に支配されているとしか思えない彼の行動だが,彼にしてみればブッシュの言うことを真に受けているに過ぎない.
同じ時,ラナは2年住んだパレスチナを離れ,L.A.に降り立つ.彼女は母を亡くし,牧師の父と別れて伯父ポールの住むL.A.にやってきたのだ.幼いとき別れたポールと再会し,母の手紙をポールに届けるのが,彼女の目的だ.
教会の伝道所でボランティアをしながら伯父を捜すラナ,一方ポールは街頭で見かけたアラブ人を(不審なのはターバンを巻いて箱を持っているというただそれだけのことだ)追跡していた.
このアラブ人ハッサン・アフメッドが突然襲われ殺された事件で,ラナとポールは再会する.二人はハッサンの身許を確かめに旅に出ることになる….
9/11の傷跡を温かい眼で追ったドラマ.
この映画では,何と言ってもポールとラナの取り合わせが絶妙である.
アメリカを一人で背負い守っているつもりのポール,一方アメリカで生まれながら育ったのはアフリカだというラナは,子供のように無心である.
情報通を自認してプロ同士の情報収集を続けるポール,しかしその偏見の入ったネットワークにはろくな情報が入ってこない.一方ラナは,あっさり警察を訪れ,教会のネットワークを使い,簡単にハッサンの実兄を捜し当ててしまう.
ポールはハッサンの死をテロリスト同士の内輪もめかと疑っていたのだが,ハッサンの実兄が極めて紳士的な好人物であることを知り,またハッサンを襲ったのが白人のホームレス狩りの若者だと知って,次第に自分の行動に自信を失っていくようだ.
ラナはポールに,パレスチナでは9/11のアタックを庶民が歓声を上げて喜んだことを語り,9/11の犠牲者達が,殺人をもってする復讐を望んでいるだろうかと問う.
映画の最後でグラウンド・ゼロを覗き込む二人.ポールは想像していたのと違って,ただの建設現場にしか見えないと言い,ラナは,黙って死者の言葉に耳を傾けようと言う.
エンドタイトルと共に流れる「この豊饒の地(ランド・オブ・プレンティ)に,真実の光が射しますように」という歌のリフレインが印象的である.
ポールはベトナム帰りの右翼だが,しかしその真摯さは,ラナという触媒を通じて,新たなアメリカの理解に彼を導くようだ.二人の最後の姿に,微かな9/11後のアメリカの希望を,見いだすことができるように思える.
そしてそれは,スーツを着てネクタイを締めた人々,テロとの戦いを叫ぶ人々,9/11後の経済の回復を訴えるだけの人々には,決して見いだせないものではないだろうか.
この監督の「パリ・テキサス」では,ライ・クーダーのスライド・ギターの音楽が圧倒的な魅力だったが,この映画でも冒頭から流れる押さえたバラード調の歌が素晴らしい.地味だが素晴らしい映画.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
TBありがとうございます。
この映画、僕も非常に感動しました。甘いという批判もあって、その点は否定できないとは思いますが、これはアメリカの強引な政策がもたらした犠牲者に対する鎮魂歌なのだと思います。
ラナを演じたミシェル・ウィリアムズのかわいらしさとご指摘のように音楽の素晴らしさも魅力でした。
投稿: ゴブリン | 2006/06/07 10:00