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2006/08/19

独断的映画感想文:ミュンヘン

日記:2006年8月某日
映画「ミュンヘン」を見る.
2005年.監督:スティーブン・スピルバーグ.
エリック・バナ,ダニエル・クレイグ,キアラン・ハインズ,マチュー・カソヴィッツ,ハンス・ジシュラー,マリ=ジョゼ・クローズ.
重い映画である.
イスラエルとパレスチナの問題について,何かを言える立場ではないが,個人的にはシオニズムは支持しない.パレスチナの戦闘グループがテロリストであると言うならば,イスラエルはテロ国家であろう.イスラエル建国はパレスチナからの土地の簒奪であるが,アメリカがネイティブアメリカンに今更土地を返す筈がないのと同じ意味で,現実は変えられないと思う.
しかしではどうしたらパレスチナ問題が解決するのかと言えば,皆目見当がつかない.ただ暴力の連鎖を止め,これ以上の簒奪を止め,失われた命への鎮魂を願うばかりである.
スティーブン・スピルバーグはこの映画のイントロダクションで,この映画は何かを主張するものではないが,見終わったとき観客はイスラエルに対する共感を持つだろうか,と問いかけている.
1972年のミュンヘンオリンピック,選手村のイスラエル選手団宿舎をパレスチナゲリラ「黒い9月」が襲撃,選手を人質にとって立てこもる.事件は,ドイツ警察との銃撃戦で「黒い9月」と人質の全員が死亡するという,最悪の結果に終わった.
イスラエル首相ゴルダ・メイアは直ちに報復のためパレスチナキャンプを爆撃,数十人のパレスチナ人を殺害した後更にモサドに命じ,パレスチナゲリラ(「黒い9月」と限定しない)の幹部11人の暗殺を指示する.
5人の暗殺チームはモサドの軍籍を抹消され,豊富な資金を与えられて仕事に取りかかる.
リーダーのアヴナーは情報屋ルイに巨額の金を支払い,パレスチナゲリラの居場所を突き止めては一人一人殺していく.映画はその過程を丁寧に追っていく.
最初の殺しは素人同然だった.しかし次第にチームワークもとれ,暗殺はうまく進んでいく.しかしいつか彼らの心に疑問が湧いてくる.「ユダヤ人は高潔でなくてはならない.子供の頃からそう聞かされてきた.俺たちのやっていることは高潔だろうか?」そしてそのころ,彼らの存在は次第に知られてきて….
この5人のチームの物語は典型的なテロリストの物語である.彼ら自身の悩みもまさに,「敵と同じ事」をしていて一体どうなるのだろうという点にある.
スピルバーグはこの経過をリアルに淡々と描き,その事実の重さを描写していく.事実の重さをそのまま描き切れたという点で,スピルバーグの仕事は納得のいくものであった.
エンタテインメントではないが(映画の長尺さもそのことを示している),見るべき映画と思う.
ジョン・ウィリアムスの沈痛でしかし抑制の効いた音楽も心に残る.
ただ,この映画でイスラエルへの共感を持つことは,最後までできなかった.
★★★★(★5個が満点)
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コメント

 TB&コメントありがとうございました。
 僕もこの映画の基本的主張そのものには共感できます。テロにテロで報いることにテロリスト自身が疑問を持ち始める。それが「高潔な」行為なのか?これが真の解決になるのか?こういう姿勢を貫いていることには共感できます。
 ただ、暗殺行為をリアルに見せるあまりにそちらのほうに重点が移ってしまって、テーマとのバランスが悪いと感じました。リアルな描写力はさすがにスピルバーグでよく出来ているのですが、そのため却ってテーマが後ろに押しやられてしまっていると感じたのです。
 ボスニア、アフガニスタン、イラク、中東。世界に紛争の火種は尽きません。このままではいけないという強い思いが込められているのは確かで、そこに「ランド・オブ・プレンティ」との共通点を感じます。もっとバランスがよければ傑作になったのに、という残念な思いが残ってしまいました。

投稿: ゴブリン | 2006/08/19 18:06

すいませ~ん。
既に反映されているのに、同じ記事が何度もTBされてくるんですが、どうなってますか~? 一応ダブリ分は削除しておきましたが。

投稿: umikarahajimaru | 2006/09/07 03:17

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