独断的映画感想文:ロード・オブ・ウォー
日記:2006年8月某日
映画「ロード・オブ・ウォー」を見る.
2005年.監督:アンドリュー・ニコル.
ニコラス・ケイジ,イーサン・ホーク,ブリジット・モイナハン,イアン・ホルム,ジャレッド・レトー.
劇映画であるが,事実に基づくという点ではセミドキュメンタリーか.
ロシア移民でN.Y.のリトルオデッサに住むユーリーは,街で目撃したロシアマフィアの銃撃戦に触発され,武器商人の道を歩む.彼はこの方面の天才で,瞬く間に富を得,憧れのモデル嬢エヴァと結婚する.
その彼につきまとうインターポールの刑事バレンタインは論理明快な正義漢,幾度となくユーリーに煮え湯を飲まされるが,彼の執拗な追及で遂にユーリーは窮地に追い込まれることになる….
極めてシニカルな映画.見て楽しいエンタテインメントではない.
といって退屈する訳ではない,観客は引き込まれ最後まであっという間に見終わるだろう.
しかし何ともため息の出る映画である.死の商人の物語はいろいろと見聞きしてきたと思うけれど,これほどビジネスライクなキャラクターは初めて見たという気がする.
その血にまみれた仕事ゆえに妻子に去られ,両親に絶縁され,たった一人の弟を亡くしても,ユーリーはその仕事を止めようとはしない.駆け出しの頃にはくよくよと悩む一人の人間だった彼も,バレンタインに追い込まれる頃には人間性を失った無感動な男になっている.
映画を見ている観客は,どうしても主人公の立場に立つことになるから,その彼が当たり前に見えてくる.仕事の汚さに麻薬に逃避し,遂に身を滅ぼす弟のヴィタリーの方が人生の敗残者の様に見えてくる.正義漢バレンタインなど,まるで青臭い理屈を振り回す話の通じない警官の様に見えてくるのだ.
ユーリーが才覚と勇気でバレンタインを出し抜いて取引を成功させる様に,思わず喝采していたりする.
戦争とビジネスは度し難いものだ.
戦争は決してやってはいけないと言いながら,戦場での一瞬の栄光にあこがれる気持ちは,僕の中にもない訳ではない.ビジネスで成功することは,(女はどうだか判らないが)男にとって何物にも換えがたい歓びであることも確かだ.
とはいえ普通の人間は,戦争と妻子や親兄弟の間には厳然とした価値観の差を持つだろう.それでも世界からは戦争は無くならない.
この国だってほんの60年前にはまわり中に戦争を配っていた張本人だったのだ.しかし僕達は戦争をしなくても生きていけるやり方を,体得してきたのではなかったか?そのやり方をゴミの様に捨て去ろうと,今しつつあるのではないだろうか?
★★★☆(★5個が満点)
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コメント
TBありがとうございます。
ユーリーが当たり前で弟が弱虫の負け犬、バレンタインが青臭い理屈屋に見えてくるという指摘は確かにその通りだと思います。決して彼を肯定はしていませんが、そう思えるほどリアルに描いているということでしょうね。こういう映画を生み出せるアメリカという国の懐の深さには感心します。
「まわり中に戦争を配っていた」という表現、気に入りました。「平和ボケ」という言葉がしきりに使われる昨今、僕らは戦争をしない積極的な意味をもっと語るべきだと僕は思います。
投稿: ゴブリン | 2006/08/23 23:49
TB、感謝です♪
こうして見てみると、どうも戦争が無くなる事はなさそうですねぇぇ。
最近のニュースを見てたら、
暴力団が擲弾筒付きの自動小銃なんかを密輸入してたという報道がされてました。
その並べられた武器の中には当然のに様に、あのAK47が…。
戦争は決して遠い海の向こうの事ではないですね。
投稿: カゴメ | 2006/08/24 18:54