独断的映画感想文:男たちの大和/YAMATO
日記:2006年8月某日
映画「男たちの大和/YAMATO」を見る.
2005年.監督:佐藤純彌.
反町隆史,中村獅童,鈴木京香,松山ケンイチ,長島一茂,蒼井優,寺島しのぶ,仲代達也.
子供の頃から軍艦といえば「戦艦大和」である.別に軍事少年だった訳ではないが,軍艦は好きだったし何と言っても大和は強く美しい.
しかも沖縄特攻での悲劇的な最後は,吉田満の「戦艦大和ノ最後」に詳しい.このほとんど散文詩といっても良いほどの名著は,中学時代に通読した.
その印象が,まだ胸の奥底にそのまま残っている.そういう僕にとって,この映画は是非見たい映画だった.
映画は東シナ海に眠る戦艦大和の海中の映像,そこから引き上げられた遺品を見入る女性の姿から始まる.女性は大和生き残りの内田二曹の娘,内田真貴子.昨年亡くなった父の供養の為,大和の沈没海域に行きたいと言う.
枕崎漁協の神尾も大和の生き残り水兵で,内田の部下だった.神尾は漁船で15時間はかかるというその海域に,真貴子と向かう.神尾の胸中に,大和に乗り組んだ自分の姿が蘇る….
世界最大の戦艦大和に乗り組んだ水兵神尾達同期は,様々な部署に配属され,内田二曹,森脇二曹らに鍛えられる.戦局は悪化の一路を辿り,レイテ海戦で壊滅的打撃を受けた連合艦隊は,沖縄戦の開始を受け,大和に片道のみの燃料を積んで海上特攻に出撃させる….
大和の最後の死闘シーンは凄惨ながら感動的である.
この映画にとって主人公は,やはりその圧倒的な偉容の大和であったのだ.その大和が襲い来る航空機の爆撃・雷撃により,将兵の必死の戦闘にも拘わらず破壊されていく.
軍艦という鉄の構造物が,爆撃・雷撃で破壊されるとき,それを守備している生身の人間がどんな死に方をするか,映画はその一端を表現し得ていると思う.
これが「戦艦大和ノ最後」で吉田満が表現したことだったのではないか?その事実そのものが,感銘的で悲劇的である.
一方映画の人間のドラマはいま一つであった.
「男たちの」大和と言う割には男たちのドラマはほとんど無い.母親や家族との別れは涙を禁じ得ないが,その主人公達はまだ少年同様の水兵達だ.
反町隆史や中村獅童は良い演技をしているが,与えられたドラマはあまりに短い.
まして語り部としての仲代達也や鈴木京香の位置づけは,設定そのものに無理がある.
老漁師神尾は既に79歳,真貴子はどう考えても50歳以上と思われる.語り部としてはなんぼ何でも老齢過ぎるのではないだろうか.もう少し別の設定は考えられないものだろうか?こんな無理矢理の語り部を設定するより,もっと大和自身にその悲劇を語らせる方が良かったのではないかと思う.
大和のセットは素晴らしく,CGもまずまずではあったが,欲を言えば機関の音や高速航行中の振動等の,大和の息遣いと言うべきものがあればもっと良かった.
久石譲の音楽は,肩に力の入った詠嘆調で冒頭から最後まで一本調子,好きになれなかった.
期待が大きかっただけに注文も多かった映画,でも★★★☆(★5個が満点).
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コメント
TBありがとう。
吉田満さんのご著書は宝物を読むようでした。彼はとてもリアリストでかつリベラリストであったと思います。
投稿: kimion20002000 | 2006/08/19 00:27