« 2006年8月 | トップページ | 2006年10月 »

2006年9月に作成された記事

2006/09/20

独断的映画感想文:アメリカ,家族のいる風景

日記:2006年9月某日
映画「アメリカ,家族のいる風景」を見る.
2005年.監督:ヴィム・ヴェンダース.
脚本:サム・シェパード.サム・シェパード,ジェシカ・ラング,ティム・ロス,ガブリエル・マン,サラ・ポーリー.
西部劇スター,ハワードは突然,撮影中のロケ地を抜け出し姿を消す.カウボーイ姿のまま馬で脱出した彼は,途中からレンタ・カー,更にバスに乗り換え,カードも携帯も捨て去り,30年音信不通だった母親のもとネヴァダ州エルコに帰る.
彼女は温かく迎えるが,親の家に帰ってもいつも通り酒で大騒ぎ,警察のやっかいになる彼だった.母親はそのハワードに,昔彼の子供を産んだという女性から電話があったという話を,初めてする.ハワードは早速昔のロケ地,モンタナ州ビュートに向かう.
一方母親を亡くした娘スカイは,その火葬した杯を壺に収め,母の故郷ビュートに向かう.
ビュートでハワードは昔付き合ったドリーンを見つけ出し,息子アールと会うことになる.アールは激しく動揺し,ハワードを拒絶するのだった.
一方ハワードをロケ地に連れ戻すべく,サターが彼を追跡し,ビュートに迫っていた.
アールとの関係はどうなるのか,スカイとは何者か,サターはハワードを捉えるのか….
ヴィム・ヴェンダースを見るのは5本目だが,コダカラー的な黄色がかった色彩,ざらついた色調,アナログ的なピントの甘い画像と,相変わらずその映像は印象的である.
T=ボーン・バーネットの音楽も効果的に使われている.
この映画は,それぞれ自分の拠り所を求める人々が,家族というキーワードを軸に再生していく物語だと思うのだが,各々の抱える寂しさ・満たされなさは(それは追跡者サターも含めて),直感的に伝わってくる.
演じる俳優がいずれも素敵.
大好きなサム・シェパードは言うに及ばず,ジェシカ・ラングもティム・ロスも期待通り.スカイを演じるサラ・ポーリーは「死ぬまでにしたい10のこと」以来だが,その存在感は素晴らしい.
息子アールを演じるオダギリ・ジョー似のガブリエル・マンはロックシンガー役だが,その自演の歌も含め印象的.
見た後気分が良くなる映画.一見の価値あり.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (2)

2006/09/18

独断的映画感想文:ある子供

日記:2006年9月某日
映画「ある子供」を見る.
2005年.監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ,リュック・ダルデンヌ.
ジェレミー・レニエ,デボラ・フランソワ,オリヴィエ・グルメ.
ダルデンヌ兄弟の作品は「息子のまなざし」以来だが,今回の作品も不思議な魅力だ.
手持ちカメラの映像,音楽は一切無しは,「息子のまなざし」と同様.
20歳のブリュノの彼女は18歳のソニア,二人の間にジミーという赤ちゃんが生まれたところから物語は始まる.ブリュノは街頭で小銭をねだったり,少年と組んでひったくりをし盗品をさばいたりしてその日を暮らす.
ブリュノには父としての自覚もないが,さりとて冷酷な訳でもない,関心がないだけなのだ.
そのブリュノが人に教えられ,赤ちゃんを人身売買組織に売り払ってしまう.ソニアにそのことを話し,大枚の金を「二人のものだ」と見せるブリュノ,「赤ん坊はまた作ればいい」とも言う.ソニアはものも言えず卒倒し,ブリュノは自分のしでかしたことの重大さに気付く….
ブリュノはとんでもないアホである.
しかし映画のブリュノに注ぐ視点は決して冷たくない.ブリュノだってヤクをやる訳で無し,酒に溺れる訳で無し,女にだらしがない訳でもない.ソニアとじゃれ合う姿はほほえましいものだ.
しかしどうしてこういうブリュノになってしまったのだろう.その説明は一切無いが,ソニアにアパートを叩き出されても母親の家に行くこともできない様子を見ると(母親は男と住んでいるらしい),その状況の一端は伺うことができる.
ブリュノは決して悪党ではない.しかしこのあと二人はどうなるのだろう?映画は最後に希望の一筋を示して終わるが,彼らの未来は困難に満ちているだろう.
緊張感高く,映画に引き込まれ最後まで一気に見る.
英語名が“THE CHILD”であるから,邦題の「ある子供」はおかしい.「子供」で良いのではないか.この「子供」とは言うまでもなくブリュノのことである.
★★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (2)

2006/09/17

独断的映画感想文:シリアナ

日記:2006年9月某日
映画「シリアナ」を見る.
2005年.監督:スティーブン・ギャガン.
ジョージ・クルーニー,マット・デイモン,アマンダ・ピート,ジェフリー・ライト,クリストファー・プラマー,ウィリアム・ハート.
シリアナは中東の小国の名前らしい.
CIAのエージェント・ボブは中東専門,ミサイルの取引に介入し,購入したテロリストを爆殺するが,一基のミサイルの行方を見失う.この事件を機に現場を離れようとしたボブに,新たな指令が下る.
辣腕弁護士のベネットは,上司からコネックス社とキリーン社の合併問題に違法性がないかを調べるよう,指示を受ける.コネックス社はシリアナの採油権を中国に奪われ,カザフスタンの採油権を取得したキリーン社と合併しようとしていた.
スイスのジュネーブでデリバティブの営業をしているブライアンは,シリアナの国王の開いたパーティーに家族ぐるみで招かれ,息子を事故で失う.しかし,それをきっかけに開明派の王位継承者ナシール王子の経済顧問に抜擢される.
コネックス社の撤退で仕事を失ったパキスタンの出稼ぎ労働者ワシームは,アルバイト程度の仕事にしかありつけず,神学校でのイスラム原理主義の講義に心を傾けていく.
この全く別々の物語が並行して進む前半は極めて複雑で,特にボブとベネットを巡る物語は,登場人物の人間関係が複雑で,理解することは極めて困難である.
その割には物語の骨格と終幕は,現に今アメリカが世界中でやっていることそのままなので,意外感も何もない.緻密に描かれた緊張感のある良い映画だが,面白くはない.
むしろ,アメリカがこの映画を作り,その内容にも拘わらずアカデミー賞を与えたということそのものに,意外感と興味を持つのだ.映画そのものよりむしろ,現実のやりきれなさに衝撃を受ける.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (2)

2006/09/03

独断的映画感想文:親切なクムジャさん

日記:2006年9月3日(日)
映画「親切なクムジャさん」を見る.
2005年.監督:パク・チャヌク.
イ・ヨンエ,チェ・ミンシク.
幼児誘拐殺人事件の犯人として,13年の服役を経て出獄したクムジャ.服役中は弱きを助け強くをくじく(魔女と呼ばれた獄舎のボスを,巧みに殺害)「親切なクムジャさん」として,服役仲間に慕われる.
出獄後は,自分に罪を着せた真犯人への復讐の道を,ただ一筋に突き進むその復讐劇の一部始終.監督の復讐3部作の掉尾を飾る作品.
前作「オールド・ボーイ」に続いてチェ・ミンシクが出演,しかし何と言ってもこの作品はクムジャ役のイ・ヨンエが凄い.
「チャングムの誓い」で日本でもお馴染みのこの正統派美人女優が,親切で献身的な天使の顔と,復讐に燃える鬼の顔を見事に演じ分ける.
映画は前半全体像がわかりにくいし,リアルさがある一方で漫画的な演出もあるこの監督の演出に,とまどう点も多い.しかし後半的が絞られてくると,女優の魅力に引き込まれる.イ・ヨンエファンは一見の価値あり.
韓国映画はこれが3本目である.だいぶ慣れてきたけど,まだしんどい点はあるような.
★★★(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (6)

独断的映画感想文:僕と未来とブエノスアイレス

日記:2006年9月某日
映画「僕と未来とブエノスアイレス」を見る.
2004年.監督:ダニエル・ブルマン.
ダニエル・エンドレール,アドリアーナ・アイゼンベルグ,ホルヘ・デリア,ロシタ・ロンドネール,ディエゴ・コロル.
ブエノスアイレスにあるユダヤ人商店街,ガレリア.アリエルはここで母の営むランジェリーショップを手伝う青年である.
兄のジョセフは輸入雑貨の卸をしているが商売は思わしくない.アリエルは商店街のインターネットショップのリタと恋仲だが,幼なじみだったエステラとは最近別れたばかりだ.
アリエルは将来への漠然とした不安から,祖父母の出身地ポーランドの国籍を取得して,ヨーロッパに渡ろうと考えている.その為に必要な書類をもらいに祖母のもとを訪れ,祖母のポーランドへの複雑な思いを知ることになる.
アリエルは離婚した両親の離婚証明書を見にラビのもとも訪れる.父は第4次中東戦争に応じてイスラエルに渡ったと聞いていたのだが,意外にも離婚の日付は中東戦争勃発の前,アリエルの生まれた日より更に前だった.
やがて商店街には決済通貨の変更という問題が持ち上がり,ドルとペソどちらで決済するかを決めるため,代表選手が出て荷物運びレースをすることになる.そのお祭りの様なレースの最中に,ガレリアに忽然と父親が現れる.その右腕は失われていた….
ほのぼのとした商店街を舞台に展開する,親子の葛藤,青年の自立の物語.
アリエルは,本当にいい年した男がこんな事でどうするんだと思わせる,だらだらと日を送る男だが,映画がそのアリエルに注ぐ視点は,決して冷たくない.
彼は巻き毛の天使の様な少年だった(と母が言う).建築科に進学して挫折したが,しかし人物をデッサンするとなかなかうまい.老人の多いガレリアで,時には進んで仕事を引き受ける.
そのアリエルは,妻子を置いてイスラエルに行ったまま帰ってこない父親に,強い反感を持っている.この父親の問題が何とかなれば,彼の人生も変わってくるだろうと,観客にも思えてくるのだ.そして父親の登場.
後に温かい気持ちを残す映画である.映画のテンポは良く,時に哀愁漂うユダヤ歌謡をまじえた音楽もなかなか良い.母親役のアドリアーナ・アイゼンベルグは,表情が豊かで実に魅力的.
兄ジョセフが言う,ポーランド系ユダヤジョークがおかしかった.落ちの最後は「そこにナチが来て皆殺し」.恐らくすべてのジョークの後に,これが付くのだろう.
ただ,手持ちカメラでぶれが多い上,アップが多用され画面の動きの激しいカメラは,好きになれなかった.目が回り船酔いする.
★★★☆(★5個が満点)
人気blogランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (3)

« 2006年8月 | トップページ | 2006年10月 »