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2006/09/03

独断的映画感想文:僕と未来とブエノスアイレス

日記:2006年9月某日
映画「僕と未来とブエノスアイレス」を見る.
2004年.監督:ダニエル・ブルマン.
ダニエル・エンドレール,アドリアーナ・アイゼンベルグ,ホルヘ・デリア,ロシタ・ロンドネール,ディエゴ・コロル.
ブエノスアイレスにあるユダヤ人商店街,ガレリア.アリエルはここで母の営むランジェリーショップを手伝う青年である.
兄のジョセフは輸入雑貨の卸をしているが商売は思わしくない.アリエルは商店街のインターネットショップのリタと恋仲だが,幼なじみだったエステラとは最近別れたばかりだ.
アリエルは将来への漠然とした不安から,祖父母の出身地ポーランドの国籍を取得して,ヨーロッパに渡ろうと考えている.その為に必要な書類をもらいに祖母のもとを訪れ,祖母のポーランドへの複雑な思いを知ることになる.
アリエルは離婚した両親の離婚証明書を見にラビのもとも訪れる.父は第4次中東戦争に応じてイスラエルに渡ったと聞いていたのだが,意外にも離婚の日付は中東戦争勃発の前,アリエルの生まれた日より更に前だった.
やがて商店街には決済通貨の変更という問題が持ち上がり,ドルとペソどちらで決済するかを決めるため,代表選手が出て荷物運びレースをすることになる.そのお祭りの様なレースの最中に,ガレリアに忽然と父親が現れる.その右腕は失われていた….
ほのぼのとした商店街を舞台に展開する,親子の葛藤,青年の自立の物語.
アリエルは,本当にいい年した男がこんな事でどうするんだと思わせる,だらだらと日を送る男だが,映画がそのアリエルに注ぐ視点は,決して冷たくない.
彼は巻き毛の天使の様な少年だった(と母が言う).建築科に進学して挫折したが,しかし人物をデッサンするとなかなかうまい.老人の多いガレリアで,時には進んで仕事を引き受ける.
そのアリエルは,妻子を置いてイスラエルに行ったまま帰ってこない父親に,強い反感を持っている.この父親の問題が何とかなれば,彼の人生も変わってくるだろうと,観客にも思えてくるのだ.そして父親の登場.
後に温かい気持ちを残す映画である.映画のテンポは良く,時に哀愁漂うユダヤ歌謡をまじえた音楽もなかなか良い.母親役のアドリアーナ・アイゼンベルグは,表情が豊かで実に魅力的.
兄ジョセフが言う,ポーランド系ユダヤジョークがおかしかった.落ちの最後は「そこにナチが来て皆殺し」.恐らくすべてのジョークの後に,これが付くのだろう.
ただ,手持ちカメラでぶれが多い上,アップが多用され画面の動きの激しいカメラは,好きになれなかった.目が回り船酔いする.
★★★☆(★5個が満点)
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コメント

 TBありがとうございました。
 そうそう、あのジョークは可笑しかったですね。アリエルの母親が店を開けっ放しにして美容院に行っていて、客が来ると頭にカーラーをつけたまま対応したり、商店街での日常の描写が秀逸でした。

投稿: ゴブリン | 2006/09/03 21:15

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ダニエル・エンドレール、アドリアーナ・アイゼンベルグ主演 アルゼンチン映画批評家協会賞 2005 助演女優賞 ベルリン国際映画祭 2004 最優秀男優賞、審査員大賞 レリダ・ラテンアメリカ映画祭 2004 最優秀作品賞、 最優秀監督賞、最優秀脚本賞 獲得 ブエノスアイレスの母親の経営する下着店を手伝っているアリエル そこは色々な人々が営む店があるガレリアです アリエルの一家はユダヤ人で父親はアリエルの小さな時にイスラエルへ 行ってしまい、母親は夫と電話で話す事しかありません アリエルは父... [続きを読む]

受信: 2006/09/05 12:35

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