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2006/10/21

独断的映画感想文:日曜日には鼠を殺せ

日記:2006年10月某日
映画「日曜日には鼠を殺せ」を見る.
1964年.監督:フレッド・ジンネマン.
グレゴリー・ペック,アンソニー・クイン,オマー・シャリフ.
僕は映画少年ではなかった.初めて映画を一人で見たのは14歳ではなかったかと思う.
その代わり僕はラジオ少年だった.病気がちだった子供の頃は昼間のラジオ番組を,元気になった中学生の頃からは深夜のラジオ番組を.
洋楽専門だった僕が聞いていたのは,僅かなポップスを除けば,カンツォーネや映画音楽が多かった.この映画は,その奇妙な題名と共に,その独特なテーマ音楽で記憶に残っている.
モーリス・ジャールのこの作品は2つのテーマからなり,第1のテーマは哀愁に満ちた民謡調のもの.第2のテーマは行進曲風の明るいものだ.そして音楽はこの2つの対照的なテーマを対位法のように組み合わせて展開していく.
このサウンドトラックは長く僕の記憶にとどまっていたが,映画そのものは今日まで見ることが無かった.
スペイン内戦が終了したとき,フランスに亡命した多くの人民戦線兵士の中に,マヌエルがいた.20年が経ち,スペインからマヌエルの戦友の息子,パコがやってくる.父が警察の拷問で死亡したというパコは,警察署長への復讐をマヌエルに頼み込む.
その20年,年に数回はスペインに越境しゲリラを行ってきたマヌエルだが,ここしばらくはそれもせず,無為に日々を送っている.マヌエルはパコの依頼に応じようとはしなかった.
折しも故郷ではマヌエルの母親が重病になる.警察署長は彼女を強制的に病院に収容し,その病状がマヌエルに伝わるよう手配をして,病院のまわりに包囲網をしく.
母親は唯一訪れる神父に「罠があるから来るな」との伝言を託し,息絶える.署長はその死を隠し,密告者カルロスを送ってマヌエルに帰郷を勧めさせる.一方若く誠実な神父は,ルルドへの巡礼の途中マヌエルを訪れ,母親の伝言を渡そうとする….
物語はこの署長とマヌエル,神父の3者を巡るドラマとなって展開し,これにカルロスの正体やパコの活躍がからんで進行していく.
マヌエルは元来荒々しい兵士だったようで,内戦ではファシスト側だった教会の神父(その辺の事情は「蝶の舌」に描かれている)を信用せず,暴力的に母親の言葉の真偽を確かめようとする.政治的には中立を標榜する神父は,地上の法(母の死を口外するなという警察署長の指示)を守るか神の法を守るかという問題に直面するが,マヌエルの手荒な扱いにもかかわらず,亡き母親の依頼を忠実に果たそうとする.
署長は宿敵マヌエル射殺のためには手段を選ばない俗物だが,病気の奥さんには頭があがらない.マヌエルと署長の二人は,共に頑固な宿敵同士として対立しており,人格的な甲乙は映画の上ではつけられていないようだ.
署長が精悍で自信に溢れた顔つきなのに比べ,マヌエルは憔悴した様子.マヌエルは,亡命後20年間の無為な生活に屈託し,また老いを迎えて衰えた自分の力に苦悩しているのだ.
しかしそのマヌエルが,最終局面で母の死を知りつつ故郷に戻ると決断した段階で,憑き物が落ちたように明るい自信に満ちた表情になる.国境近くの酒場の娘を見る目も力に溢れている.その娘に手を振り,国境の山を越えて出かけていくのだ.
モーリス・ジャールのテーマは,そういうマヌエルを象徴しているようにも聞こえる.
映画は決して重苦しくなく,白黒の陰影溢れる映像にもかかわらず雰囲気は明るい.見て損はない映画.
★★★★(★5個が満点)
映画の邦題は原作名に依っているが,原作名は「(安息日である)日曜日に鼠を殺したので(猫は月曜日に吊された)」という意味らしい.本来は日曜日には鼠を殺してはいけなかったという趣旨のようだ.
映画の原題は「蒼ざめた馬を見よ」,黙示録の有名な言葉で,馬は黄泉の使者を表す.こっちが邦題だったらずいぶん雰囲気は変わっていたでしょうね.
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コメント

コメントありがとうございました。TBはうまく入らなかったようです。ココログ同士なのにうまくいきませんね。こちらからのTBも入ったかどうか。

僕も高校生の時映画の主題曲を集めた2枚組みレコードを買いましたが、この映画の主題曲は載っていませんでしたね。そんな有名な曲だったのかなあ。山を越えてスペインに向かうシーンで流れていた軽快な曲のことでしょうか。

白黒映画の特性を活かした陰影に富んだ画面が印象的でしたね。確かに、全体に暗く陰鬱な感じでした。やや不満は感じましたが、ジンネマン監督の代表作の1つでしょう。死を覚悟しつつ故郷に向かうグレゴリー・ペックの姿が悲痛でした。

投稿: ゴブリン | 2006/10/22 14:32

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1964年 アメリカ 監督:フレッド・ジンネマン 原作:エメリック・プレスバーガ [続きを読む]

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