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2006/10/03

独断的映画感想文:耳に残るは君の歌声

日記:2006年10月某日
映画「耳に残るは君の歌声」を見る.
2000年.監督:サリー・ポッター.
クリスティーナ・リッチ,ジョニー・デップ,ケイト・ブランシェット,ジョン・タートゥーロ,ハリー・ディーン・スタントン.
この映画は音楽映画と言って良い.
冒頭流れるのは,主人公の父親が歌うテノールのアリアで,これが映画の邦題である,ビゼーの歌劇「真珠採り」のアリア「耳に残るは君の歌声」である.
只この曲は,メロディとしては日本では「真珠採りのタンゴ」として有名であろう.その点では邦題の付け方はいささか強引だが(原題は「泣いた男」),まあそんなことはどうでも宜しい.
この美しい歌曲にまず心を動かされる.
舞台はロシアの貧しいユダヤ人村,フィゲレ(小鳥)と名付けられた可愛い娘を残し,父親はアメリカに出稼ぎに行く.その直後村は暴徒に襲われ焼き払われる.
アメリカに出稼ぎに行く若者に託され辛くも脱出した主人公は,孤児としてイギリスに上陸,スーザンと名付けられてロンドンで養子に出される.英語が話せず,「ジプシー」とはやされていじめられる毎日,しかしある日故郷の村でも見ていたジプシーの一団が外を通りかかる.
彼らを見送るうち,知らずに口をついて出る故郷の歌,その美しい歌声を認められ,彼女は歌のレッスンを受けるようになる.
成人した彼女は,歌で世に出ようと,フランスに渡りパリで踊り子の世界に入るが,そこで知り合ったローラとルームメイトになり,彼女と共にパールマン・オペラ劇場に出演するようになる.ローラは主役を演じるイタリア人ダンテと恋仲になるが,スーザンは舞台に出る馬を操るジプシー,チェーザーに心惹かれるのだった.
折しもナチスドイツはポーランドに侵攻し,やがて英仏との間に戦端が開かれる….
この怒濤のスケールの物語を,映画は96分で終わらせてしまう.96分でこの2組の男女の恋愛物語を語りきり,更に,スーザンと父親の再会まで描いてしまうのだ.
この点で映画は極めて窮屈でバランスの悪いものになっている.
特に最終局面,2組の男女の物語に決着がついたあとは,どう考えてもエピローグである.スーザンは結局父と巡り会うのだが,その過程で映画はなお新しい局面を幾つか描くのだが,それはどれも中途半端と言わざるを得ない.
それにしても音楽の力は素晴らしい.
映画は,中盤のパリを舞台とする,音楽に満ちた緊張感あるドラマが素晴らしかった.ヴェルディ,プッチーニ,ビゼーのオペラ,ジプシー楽団の哀愁に満ちたメロディが,心に残る.
但し,スーザンの歌声はドラマの中心となるものなのにひどくお粗末.インタビューではクリスチーナ・リッチは「口ぱく」だったと言っているが,このへたくそな歌は吹き替えだったのだろうか.もう少し何とかならなかったかね.
ハリー・ディーン・スタントンはやはり良かった.
惜しい作品.★★★☆(★5個が満点)
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