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2006年11月に作成された記事

2006/11/28

独断的映画感想文:花よりもなほ

日記:2006年11月某日
映画「花よりもなほ」を見る.
2006年.監督:是枝裕和.
岡田准一,宮沢りえ,香川照之,古田新太,浅野忠信,田畑智子,その他お笑い連中.
時は元禄,浅野内匠頭の刃傷後仇討ちを果たさない赤穂の浪人に,巷の風当たりは強い.
青木宗左右衛門は剣術の道場主であった父が碁の諍いから斬られて死んだため,仇討ちを果たすべく3年前に江戸に出てきて長屋住まい.同じ長屋の貞四郎は,敵の人相書に似た人物を捜し出してきては宗左右衛門から駄賃を稼いでいる.
宗左右衛門は足は速いが剣術はからっきし弱く,敵の討てるめどは立たない.敵は実は近くに住み,士分を離れて妻子を養っていることも判っている.
このままではどうにもならない宗左右衛門だが,自宅で寺子屋を開き子供を教えているうちに考えも変わってきた模様,やがて考えついた奇想天外な策は….
楽しい時代人情劇というのは,久しぶりである.
一方で長屋暮らしのリアルさはなかなかのものだが(黒沢映画の「赤ひげ」を思い出す様な),他方コメディの抜ける様な楽天性が優れていて,このバランスが何とも言えない.
ほのぼのと温かいテンポの良いドラマが楽しめる.
その他お笑い連中の活躍も見てのお楽しみ.こういう映画は好きである.
俳優では古田新太が最高.宮沢りえは言うに及ばず.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:嫌われ松子の一生

日記:2006年11月某日
映画「嫌われ松子の一生」を見る.
2006年.監督:中島哲也.
中谷美紀,瑛太,伊勢谷友介,香川照之,市川実日子,黒沢あすか,柄本明,柴咲コウ,ゴリその他大勢.
何とも大変な映画である.
芸達者の俳優をきら星の様に使い,凝りに凝った音楽とCGで作り込んだ素敵な音楽映画.オペレッタという名称が一番近いだろうか.
昭和22年福岡県に生まれた川尻松子,歌が上手で明るい中学教師だった彼女の,ふとした事件をきっかけに教師をクビになり,家を飛び出し,売れない作家と同棲して作家は自殺,そのライバルの作家の愛人となって捨てられ,ソープ嬢になり,そこをクビになり,拾われた男が若い子に乗り換えたため男を殺害…という壮絶な生涯を描く.
松子の一生は転落の一途なのだが,映画は明るく楽しい.特に魅力的なのは音楽シーンだろう.
磐井デパートの屋上のシーン,舞台で3人娘の歌謡ショーが繰り広げられる中,兄を呼び出し金の無心をする松子.作家との同棲生活を聞かれ「幸せよ」と答える松子の台詞にかぶせて「うそ,うそ,うそ」と唄のリフレインが響く.
こういう映画の楽しさは,「ムーラン・ルージュ」や「シカゴ」にも似たところがある.豪華な配役がどこで誰の役で出てくるかというのも,楽しみの1つ.
★★★☆(★5個が満点)
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2006/11/19

独断的映画感想文:ファイヤーウォール

日記:2006年11月某日
映画「ファイヤーウォール」を見る.
2006年.監督:リチャード・ロンクレイン.
ハリソン・フォード,ポール・ベタニー,ヴァージニア・マドセン.
ジャックはセキュリティ・システムの専門家,現在は銀行のセキュリティ部門の責任者となっている.
大邸宅に住みヨットと高級車を持つ生活.銀行は合併問題を抱えていて,ジャックは相手のセキュリティ担当者と意見が衝突している.
その最中,友人ハリーの紹介で現れた起業家のビルと会食をする.ところがその帰途ビルが彼の車に乗り込んでくる.ジャックの家族は既にビルの手下4人に襲われ監禁されており,ビルはジャックを脅迫して銀行の金をセキュリティを破って送金させようというのだ.
ここからジャック とビルとの知力を尽くした戦いが始まるが,ジャック の反抗の試みはことごとくビルに見破られ,ジャックはやむなく1億ドルの送金を違法に行う羽目になる….
物語の展開は息つく暇もなく,アクションの行方は予断を許さない.あっという間に最後まで見てしまう映画.

しかしこの映画には大きな問題がある.
この被害者であってかつ最後には勝利者となる(ハッピーエンドですから)ジャックは,どういう人間なのか?普通こういう映画では多少なりとも主人公の人となりが伺える展開があって,その正しく平安な生活が,悪党によって一挙に破滅に瀕せられるというのが常道だった.
ところがこの映画ではジャックがどういう人物か良く判らない.
大邸宅に住み忙しく働いている,社内に敵がいる,あまり美人でない秘書(失礼)が居る,子供につべこべと指示を出す,奥さんとはうまくいっているが恐妻家らしい,といった事実関係が述べられるが,彼が誠実な人なのか優しい人なのか,勇気のある人なのかどうかは判らない.ひょっとしたら卑劣で冷酷,2枚舌を使う裏切り者かも知れないのだ.
現に(ここからはネタばらし,未見の人は読まないで),一味の手下4人のうち2人は首領のビルに殺されるが,残り2人はジャックに殺されるのだ.ビルはもちろんジャックに殺される.ジャックは他に違法に送金もするし秘書は即刻首にするし(すべて犯人の指示だが),同僚を傷つけて銀行のシステムを破壊する.
こういう共感できない人物でも,主人公である限りはその行為に同意し,攻撃してきた一味を手段を選ばず殺害して良いのだろうか?そして一味を全滅させた挙げ句家族手に手を取ってハッピーエンドとなって良いのだろうか.
テロとの戦いをするアメリカとはまさに,こういう人々の構成する社会ではないのだろうか.この映画は,このような疑問を観客に抱かせる.
その意味で,この映画はエンタテインメントとして理屈抜きに楽しめない面がある.
映画の後味は悪い.その他にハリソン・フォードの老化もエンタテインメントとしては受け入れがたい.付け加えれば「ファイヤーウォール」という3流映画にふさわしい邦題も致命的.
★★★(★5個が満点)
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2006/11/09

独断的映画感想文:かもめ食堂

日記:2006年11月某日
映画「かもめ食堂」を見る.
2005年.監督:荻上直子.
小林聡美,片桐はいり,もたいまさこ,ヤルッコ・ニエミ.
フィンランドはヘルシンキの街中にある「かもめ食堂」.サチエが一人で始めたこの食堂は,まだ客が来たことがない.この食堂は普通の日本食を出す食堂で,メインメニューはおにぎり(サチエによれば日本のソウルフードだ).
ある日日本アニメお宅のトンミ少年がやってきて物語は動き始める.彼は栄えある来店第1号お客として,永年コーヒー無料資格を獲得,以来毎日この店に入り浸り.
やがて何という目的もなくフィンランドに来たミドリ,両親の介護を終え旅行先のヘルシンキで荷物の紛失したマサコが,次々と店に無料従業員として居着く.次第に店には固定客がついて…という話.
エピソードはいろいろあるけれど,これ以外に特にドラマはありません.
しかしこの映画は気分が良い.
店がまず魅力的.朝から厨房に日が射し込むなんて,何という気持ちの良い食堂でしょう.
その厨房で手際よく,しかししっかりと作られる平凡な日本料理.ついファーストフードと言いたくなる「おにぎり」を,ソウルフードと言って作りまた食べるサチエの態度.
日本と全く別な時間の流れるこの国での日本食堂は,実に魅力に溢れている.
サチエ自身の魅力もまた素晴らしい.何事にも動じない,温かくかつ毅然としたその態度も好ましいが,厨房で立ち働くときの身のこなしがまた見ていて気持ちが良い.塩鮭を網の上で焼いているときの箸の持ち方と左手の添え方,揚げたてのトンカツをサックサックと包丁で切り,その包丁をさっと翻してトンカツの下に差し込んでお皿に盛りつけるきびきびとした動き.
身のこなしにリズムがあり無駄がなく,これを見ているだけで気分が良い.
食事を作ることの楽しさ大事さ,それを(気の置けない人達と)食べるときの幸福感・満足感・充実感.画面からはそのことがひしひしと伝わってくる.
映画はこのかもめ食堂がヘルシンキの街の人達で満席になる場面がクライマックスなのだが,如何にもそのことはこの映画のクライマックスにふさわしいと,観客は自然に納得することだろう.
もたいまさこ,片桐はいりも素敵.このお二人については,例え舞台がヘルシンキでも期待が裏切られることはありません(小林聡美は期待を大きく上回ります).
見て損はないほのぼの映画.人が一人も死ななくても,映画は撮れるのだ.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ジャケット

日記:2006年11月某日
映画「ジャケット」を見る.
2005年.監督:ジョン・メイバリー.
エイドリアン・ブロディ,キーラ・ナイトレイ,クリス・クリストファーソン,ジェニファー・ジェイソン・リー.
「ジャケット」とは精神科病棟で使う拘束着のことである.
ジャックは湾岸戦争で頭部に瀕死の重傷を負い,後遺症として記憶障害がある.帰国したが身寄りのない彼は,とある田舎道で車のエンジントラブルで立ち往生している母子と出会う.故障を直してやり,女の子ジャッキーと仲良くなったが,酩酊していた母親は彼を罵ってそのまま走り去る.
その後ヒッチハイクした彼は犯罪に巻き込まれ,警官殺しの疑いで精神病院に送られ,記憶障害の治療を命じられる.精神病院で彼は,主治医ベッカー医師により,死体ロッカーの中に数時間閉じこめられるという違法な治療を受ける.
真っ暗な閉空間の中で瞬間的に蘇る,地獄のような過去のシーン.ところが彼はその中で15年後の世界に飛び込むことになる.そこで出会った成人したジャッキー.ジャッキーは彼が14年前に死亡したと言う.
彼の死の真相は何か.彼自身思い出せない警官殺しの真相は何か,ジャックとジャッキーの運命は?
途中までの展開は退屈,多用されるフラッシュバックの映像にも疲れるし,話の筋の展開にともすればおいて行かれる.主人公の状況は絶望的で,未来の光景は只夢を見ているかのようだ.
しかしジャッキーが活躍し始める後半になると話は動き始め,テンポも上がりミステリーらしくなってくる.
しかし,絶望的状況下のニヒルな主人公の退屈なドラマが,タイムマシンものという設定がはっきりして希望が見え始め主人公が活動し始めると,不思議なことにドラマとしては底が浅くなってくるのが残念だ.
不条理な状況が説明がついてきてしまうことで,そういう印象を持つのだろうか?
キーラ・ナイトレイは相変わらず魅力的だし(濃い化粧が「キング・アーサー」でのグイネヴィア姫を思い出させる),クリス・クリストファーソンはいつもの様に見応えがあるが,映画としては今ひとつ.
★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:序の舞

日記:2006年11月某日
映画「序の舞」を見る.
1984年.監督:中島貞夫.
名取裕子,風間杜夫,佐藤慶,岡田茉莉子,三田村邦彦,高峰三枝子,水沢アキ.
宮尾登美子の名作の映画化.
上村松園という画家の絵と宮尾登美子の小説の魅力が圧倒的なので,それに付け加えるものは余りない.
映画は基本的に良くできていると思う.脚本も小説の味をそれなりに出している.
ただ小説のピークでもあり画家の最高傑作でもある「序の舞」という絵の由来に何も触れないというのは,なんぼなんでもおかしいだろう.映画の題名の意味がないではないか.
只,それとは別にこの映画の魅力は,名取裕子と岡田茉莉子という2人の女優の,それぞれの一番良い時期の演技を見られるということだろう.佐藤慶もまだ元気で,あの特有のイヤらしさが味わえる.
★★★☆(★5個が満点)
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