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2006年12月に作成された記事

2006/12/30

独断的映画感想文:ニュー・ワールド

日記:2006年12月某日
映画「ニュー・ワールド」を見る.
2005年.監督:テレンス・マリック.
コリン・ファレル,クォリアンカ・キルヒャー,クリスチャン・ベール,クリストファー・プラマー.
1607年,ヴァージニア入植地に着いたイングランドの移民達.
乗員の中で囚人だったスミス大尉は,ニューポート船長の命令で現地人の王に交易を求める使者として奥地に向かう.捕らえられたスミスは殺されそうになるが,王女ポカホンタスの命乞いで救われ,集落に滞在することになる.
やがて二人は恋に落ちるが,春になったら立ち退くようにとの王の命令を持って,スミスは入植地の砦に戻る.折しも飢えに襲われていた入植地は,スミスをリーダーに選出し,その冬はポカホンタスからの食料援助もあって辛うじて越すことができた.
しかし春になっても立ち退かない入植者と原住民は衝突,入植者に食料と作物の種を与えていたポカホンタスは王に勘当される.スミスは失脚し,入植者はポカホンタスを捕らえ人質とした….
「シン・レッド・ライン」の監督テレンス・スタンプのこの作品は,前作同様美しい自然描写を多用した,独白中心の詩の様な作品.いささか冗長だが,ポカホンタスの魅力に惹かれて最後まで見た.
「ニュー・ワールド」というが,この映画はポカホンタスの生と死の記録と言った方がよい.スミスの視点を中心とした導入部はむしろ退屈である.
映画はポカホンタス伝説を詩的に描いたおとぎ話と言うべきだろう.クォリアンカ・キルヒャーにはその魅力がある.コリン・ファレルよりはクリスチャン・ベールの方が遙かに素敵.
ポカホンタス伝説は,アメリカ建国時のイギリス人にとって美しいロマンスであり,実際の彼女は聡明ではあったろうが,むしろ歴史に翻弄された存在であったと思われる.
★★★☆(★5個が満点)
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2006/12/28

独断的映画感想文:寝ずの番

日記:2006年12月某日
映画「寝ずの番」を見る.
2006年.監督:マキノ雅彦.
中井貴一,木村佳乃,木下ほうか,田中章,蛭子能収,高岡早紀,堺正章,笹野高史,岸辺一徳,長門裕之,富司純子.ああ疲れた.
津川雅彦の初監督作品.上方落語の大御所がいよいよ臨終という枕許,弟子が集まって泣いていると師匠が一言.師匠の最後の望みと弟子が奔走するが,それがとんだ聞き違いで….
その後通夜になるが身内だけの話はどんどん下ネタに移っていく.更に続いて一番弟子が急死,この人の通夜も同じ調子.おまけに師匠の奥さんが急死,その通夜もまたまた同じ.という果てしのない物語.
面白かったのは最初の通夜まで,師匠を担ぎ出してかんかんのうを泣き笑いしながら踊るくらいで,止めときゃ良かったのに.
後は飽きた.芸達者を揃えているけど,話のトーンがずっと同じで変化がない.正直言ってがっかりでした.
高岡早紀があえぎ声だけというのも気の毒な役.
監督と役者間の緊張感がなかったのでしょうか?
★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ナイロビの蜂

日記:2006年12月某日
映画「ナイロビの蜂」を見る.
2005年.監督:フェルナンド・メイレレス.原作:ジョン・ル・カレ.音楽:アルベルト・イグレシアス.
レイフ・ファインズ,レイチェル・ワイズ,ビル・ナイ,ユベール・クンデ,ダニー・ヒューストン.
重い映画だが見始めたら止められない.
原作者ジョン・ル・カレの映画は,1965年,リチャード・バートンの「寒い国から帰ってきたスパイ」を見た覚えがある.細かい筋は殆ど忘れたが,最後の静まりかえったベルリンの壁に響く銃声が,印象的だった.
ケニア駐在の外交官ジャスティンは,中庸でガーデニングが好きな大人しい男.妻のテッサは情熱的で正義感強く,ケニアでは医療ボランティアの仕事に奔走している.
そのテッサが黒人医師アーノルドと共にトゥルカナ湖に出掛けた数日後,突然彼女と運転手の死が知らされる.黒人医師との不義さえ噂される中,ジャスティンは彼女の死の謎を追うようになる.
彼女は,スラムで医療援助に参加している製薬会社が,人体実験をしているという疑惑を追究していたらしい.思えば,上役の代読という冴えない講演会で,その内容に激しい非難を浴びせてきたのがテッサだった.聴衆が彼女を無視して帰った後,ジャスティンは彼女に声をかける…というラブストーリーを織り込んだ,社会派サスペンスドラマ.
アフリカを暗黒大陸に追い込んだ西欧社会が,今なおアフリカに対し行っている激しい収奪を告発する内容となっている.
監督は「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス,この映画でもざらついた色調の映像,手持ちカメラで激しくぶれる急テンポなカメラが印象的だ.
ジャスティンが,死んだテッサへの愛情をその死因を追究する中でいっそう強め,ついには一外交官の身分を捨ててテッサへの愛に殉じる行為が,そのまま製薬会社とイギリス外交を告発することになる.
その過程を,赤茶けたトタン屋根のスラム,ゴミや廃棄物の中で暮らすスラムの人々,ひからびた湖,うってかわって美しい空から見たアフリカ等の画面を交え,力業で描いていく力量はさすがだと思う.
レイチェル・ワイズがアカデミー助演女優賞を取ったが,むしろレイフ・ファインズの演技が素晴らしい.
アフリカ民族音楽と伝統的映画音楽を見事に配置したアルベルト・イグレシアスの音楽も素敵.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:M:i:III

日記:2006年12月某日
映画「M:i:III」を見る.
2006年.監督:J.J.エイブラムス.
トム・クルーズ,フィリップ・シーモア・ホフマン,ヴィング・レイムス,マギー・Q,ローレンス・フィッシュバーン,ミシュル・モナハン.
「スパイ大作戦」の第3作目.
主人公イーサンは,エージェントとしての第1線活動から教官に退き,ジュリアとの結婚を目前にしている.そこに後輩リンジーが拉致誘拐され救出作戦に参加せよとの司令が来る.
決死の救出作戦にもかかわらずリンジーは殺され,イーサンたちのチームはその犯人デイヴィアンの逮捕にヴァチカンに向かう.見事デイヴィアンの身柄を確保したかと思ったら,何とミサイルを装備したジェット機と武装ヘリという軍隊も吃驚の部隊に急襲され,デイヴィアンは奪還される.
その直後ジュリアが誘拐され,イーサンはデイヴィアンのために「ラビット・フット」を手に入れるよう強要される.組織からは違法捜査の疑いで追われ,敵に捕まり脳に爆弾を埋められ,ジュリアを人質に脅迫されるイーサンの,絶体絶命の状況.さあここからどうなるのか…?
いやあアクションに次ぐアクション,43歳のトム・クルーズが走ること走ること,それもジョギング・ペースではなく全力疾走.
映画全体としてもテンポは速く,不必要なことはもちろん必要な説明もどんどん省く思い切りの良さ.
ラビット・フットって結局何だったか,それをどうやって手に入れたのか,何故ヴァチカンから上海に飛ぶのか,何故デイヴィアンはラビット・フットが手に入らないと言って怒ったのか,全く判らないまま,というより判らないことに気付く間もなく映画はアクションシーンを重ねます.
あまりの目まぐるしさに終わったことにも気がつかないかも知れません.
深く考えないと,楽しめます.
★★★(★5個が満点)
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2006/12/18

独断的映画感想文:ダビンチ・コード

日記:2006年12月某日
映画「ダビンチ・コード」を見る.
2006年.監督:ロン・ハワード.
トム・ハンクス,オドレイ・トトゥ,イアン・マッケラン,アルフレッド・モリナ,ジャン・レノ,ポール・ベタニー.
せかせかと謎解きがめまぐるしく展開する映画.それに引きづられて,登場人物がどういう人たちなのかが良く判らないまま.
少なくともラングドン,ソフィー,ファーシュ警部くらいはその人となりを判るようにするべきだったろう.
ラングドン・ソフィーの間にロマンスのかけらさえないのも,がっかり.まあ映画冒頭から終わるまで,二人とも着た切り雀で衣装替えはおろか食事シーンさえないひたすらの謎解き冒険旅行なので,ロマンスというわけにもいかないだろうが.
あの長編を映画化するには,別の切り取り方があったのではないか.
★★☆(★5個が満点)

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2006/12/17

独断的映画感想文:メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬

日記:2006年12月某日
映画「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」を見る.
2005年.監督:トミー・リー・ジョーンズ.
トミー・リー・ジョーンズ,バリー・ペッパー,ドワイト・ヨアカム,フリオ・セサール・セディージョ.
かなり変わった映画である.ネタばれありなのでご注意下さい.
メキシコ国境に近いテキサス州の街.ある日メルキアデス・エストラーダの死体が発見される.死体は銃で撃たれ,原野に埋められていた.
メルキアデスの親友だった老いた牧童ピートは,現場に落ちていた薬莢が国境警備隊のものであることを突き止め,警察に圧力をかける.やがて国境警備隊員マークが犯人だということを知ったピートは,マークを拉致監禁し,再度埋められていたメルキアデスの死体を掘り起こさせる.そして,生前メルキアデスが「俺が死んだら故郷のヒメネスに埋葬してくれ」と言っていた言葉通りに,馬にその死体を載せ,マークを連れて国境の南ヒメネスに向かう….
映画は前半,時間的順番がかなり混乱して展開されるので,筋が飲み込めるまでには相当時間がかかる.ピートと仲良く話している男が,前の画面で腐乱死体だったメルキアデスだとは,なかなか気がつかない.
しかしその話も落ち着いてロード・ムービーとなると,主題はかなりはっきりしてくる.
国境の両側とも荒涼とした原野だが,アメリカ側の街には何もない.人々はまずいコーヒーを飲みタバコを吸い,黙って不機嫌そうに暮らしているだけだ.シンシナティから移ってきたマークと妻ルー・アンの閉塞感が息詰まる様に描かれる.
一方国境の南は人々が人情豊かに暮らしている.黄昏に人々が集まるバーは何と気分が良さそうなのだろう.これ以上ないというほど調律の狂ったアップライトのピアノで,のどかに弾かれるショパンの「別れの曲」.
荒野で行き会った男達は,無料で肉を分けてくれる.彼らが見ていたTV番組はマークが自宅で見ていた番組と同じで,マークは自分の境遇の落差に思わず泣き出してしまうが,男達は酒を勧めマークをいたわってくれる.
ところでメルキアデスが言っていた美しい故郷ヒメネスは結局見つからない.彼が家族だと言って残した写真の登場人物も,メルキアデスとの関係を否定する.ではメルキアデスの故郷とはどこだったのか,一体メルキアデスとはどういう男だったのか.
彼が唯一残した馬をマークに与え,ピートはマークと別れる.アメリカとメキシコ.国境と人々.映画はこれらについての幾つかの宿題を観客に与えて終わっていく様だ.
この地方の荒涼たる風景を写すカメラが見事.
★★★★(★5個が満点)
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2006/12/07

独断的映画感想文:ココシリ

日記:2006年12月某日
映画「ココシリ」を見る.
2004年.監督:ルー・チューアン.
デュオ・ブジエ,チャン・レイ,キィ・リャン,チャオ・シュエジジェン.
(ネタばれがあります.ご注意下さい)
海抜4700メートルのチベット高原ココシリでは,チベット・カモシカの密猟が横行している.100万頭を数えた生息数は,今や1万頭.密猟者は毛皮をヨーロッパに輸出しているのだ.
その密猟者に対し山岳パトロールが組織され,取り締まりに当たっている.折しも山岳パトロール員の射殺事件が発生,北京の新聞記者でチベット族出身のガイは,現地取材に赴き,隊長リータイに同行取材を許される.
10名程の隊員が密猟者を追って山に出動,ガイはそれに同行するのだが….
脚本・カメラとも丁寧な秀作である.美しく苛烈な自然は,観客を捉えて離さないだろう.
しかし映画で最も印象的なことは,その苛烈な自然の中での,命のはかなさである.
滅亡間近いカモシカたちを,密猟者が容赦なくマシンガンで皆殺しにしていく.密猟者はまた捕らえた山岳パトロールを一撃のもとに射殺する.山岳パトロールも,捕らえた容疑者を山の中で置き去りにする(食料も燃料もない,自力で山を下りられればおまえ達にもチャンスがある).
あまりにも厳しい自然の中で,人も動物も等しく命を落としていく.
密猟者とパトロールのどちらが正義かということさえ相対化されるかの様だ.その様子を淡々と描写するカメラが,心にしみる.
高山での逃走と追跡で,パトロール隊員が肺気腫をおこす.薬の注射を引き受ける,医者をしていたことがあるという捕まった方の青年.患者を麓の医者まで不眠不休で運転し送り届けた隊員リウは,恋人の村のホステスと一夜を共にする.その恋人に甘える少年の様な笑顔.翌朝,恋人が置いていったお守りと金を手に,食料燃料を満載して山中にとって返すリウ.しかし車がスタックし,一人で復旧しようとしたリウは流砂に落ち込む.
そのリウをアップで捉えるカメラ.
追跡して追いつめた密猟者に逆に包囲され,隊員が武装解除される.その隊員を無造作に撃ち殺す密猟者.しばらくのあいだ痙攣を続ける隊員.「まだ息がある」という声と共に,マシンガンの連射で息の根が止められる.高原に響く乾いた連射音.その一部始終を望遠で見守る長回しのカメラ.
生と死を深く考えさせる映画の表現力というものに,改めて感動する.中国映画侮り難し.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:PROMISE

日記:2006年12月某日
映画「PROMISE」を見る.
2005年.監督:チェン・カイコー.
真田広之,チャン・ドンゴン,セシリア・チャン,ニコラス・ツェー.
とある国の昔の物語.
戦場で孤児となった傾城の前に女神が現れ,衣食に不自由なく皆にかしずかれる一生を送れる代わりに,真実の愛は得られないという誓いを受け入れるかと聞く.幼い傾城はその誓いを受け入れる.
20年後,比類なき武勇の将軍光明は,ある戦いで超人的な走力を持つ雪国出身の男昆崙を奴隷として得る.折しも傾城を妃とした国王の城を,無歓公爵が包囲し,光明将軍は救援のために単騎昆崙を連れて赴くことになった.これより傾城を巡る光明将軍,昆崙,無歓公爵の運命に操られた戦いが始まることになる….
チェン・カイコー監督の大叙事詩ファンタジーだが,僕にとってはいささか奇妙な味の映画だった.
このアジアンファンタジーはまず荒唐無稽であるのは当然なのだが,荒唐無稽さは(少なくとも前半では)かなり漫画チックである.「少林サッカー」は予告編しか見たことがないが,あの感じに近いのじゃないかと思わせる.
CGの使い方も夢幻的と言うよりは漫画的.
映像も「HERO」や「LOVERS」のような美しさは期待できない.
しかし黒衣の刺客鬼狼が登場し,主人公4人の物語が本格的になるあたりから,次第に映画に引き込まれる.
俳優では無歓公爵を演じたニコラス・ツェーが良い.只の無慈悲な貴族ではなく,この男も運命に操られる一人だったということが見えてくると,その魅力が引き立ってくる.
この映画は,制作側の意図とプロモーション側の意図が微妙にずれた印象を与える映画だ.両者が綱引きをした結果がこの映画なのかも知れない.その辺がちょっと惜しい映画.
★★☆(★5個が満点)
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