独断的映画感想文:メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
日記:2006年12月某日
映画「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」を見る.
2005年.監督:トミー・リー・ジョーンズ.
トミー・リー・ジョーンズ,バリー・ペッパー,ドワイト・ヨアカム,フリオ・セサール・セディージョ.
かなり変わった映画である.ネタばれありなのでご注意下さい.
メキシコ国境に近いテキサス州の街.ある日メルキアデス・エストラーダの死体が発見される.死体は銃で撃たれ,原野に埋められていた.
メルキアデスの親友だった老いた牧童ピートは,現場に落ちていた薬莢が国境警備隊のものであることを突き止め,警察に圧力をかける.やがて国境警備隊員マークが犯人だということを知ったピートは,マークを拉致監禁し,再度埋められていたメルキアデスの死体を掘り起こさせる.そして,生前メルキアデスが「俺が死んだら故郷のヒメネスに埋葬してくれ」と言っていた言葉通りに,馬にその死体を載せ,マークを連れて国境の南ヒメネスに向かう….
映画は前半,時間的順番がかなり混乱して展開されるので,筋が飲み込めるまでには相当時間がかかる.ピートと仲良く話している男が,前の画面で腐乱死体だったメルキアデスだとは,なかなか気がつかない.
しかしその話も落ち着いてロード・ムービーとなると,主題はかなりはっきりしてくる.
国境の両側とも荒涼とした原野だが,アメリカ側の街には何もない.人々はまずいコーヒーを飲みタバコを吸い,黙って不機嫌そうに暮らしているだけだ.シンシナティから移ってきたマークと妻ルー・アンの閉塞感が息詰まる様に描かれる.
一方国境の南は人々が人情豊かに暮らしている.黄昏に人々が集まるバーは何と気分が良さそうなのだろう.これ以上ないというほど調律の狂ったアップライトのピアノで,のどかに弾かれるショパンの「別れの曲」.
荒野で行き会った男達は,無料で肉を分けてくれる.彼らが見ていたTV番組はマークが自宅で見ていた番組と同じで,マークは自分の境遇の落差に思わず泣き出してしまうが,男達は酒を勧めマークをいたわってくれる.
ところでメルキアデスが言っていた美しい故郷ヒメネスは結局見つからない.彼が家族だと言って残した写真の登場人物も,メルキアデスとの関係を否定する.ではメルキアデスの故郷とはどこだったのか,一体メルキアデスとはどういう男だったのか.
彼が唯一残した馬をマークに与え,ピートはマークと別れる.アメリカとメキシコ.国境と人々.映画はこれらについての幾つかの宿題を観客に与えて終わっていく様だ.
この地方の荒涼たる風景を写すカメラが見事.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
TBありがとうございます。
あのラストは謎めいていていろいろと考えさせられます。それにしても確かに変わった映画ですね。日々腐乱して行く死体との旅。こんなロードムービーは過去になかったと思います。しかしそれでいて深く心に残る映画でした。大作が不振だったアメリカ映画の中で、一際ユニークな光を放っています。
投稿: ゴブリン | 2006/12/18 01:45
TB有難うございました。
こちらからのお返しが入らないようですので、URLをペタッと貼り付けさせてください。
http://okapi.at.webry.info/200705/article_22.html
結局人間は孤独なのだ、ということがじわりと浮かび上がってくる作品のように思いました。主人公のメルキアデスに対する友情は孤独がベースとなっていたでしょう。国境の扱いも意味深長でしたね。
30年ほど前サム・ペキンパーが作った「ガルシアの首」という作品は、生首を持って旅する物語でした。
投稿: オカピー | 2007/05/22 16:21