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2006/12/07

独断的映画感想文:ココシリ

日記:2006年12月某日
映画「ココシリ」を見る.
2004年.監督:ルー・チューアン.
デュオ・ブジエ,チャン・レイ,キィ・リャン,チャオ・シュエジジェン.
(ネタばれがあります.ご注意下さい)
海抜4700メートルのチベット高原ココシリでは,チベット・カモシカの密猟が横行している.100万頭を数えた生息数は,今や1万頭.密猟者は毛皮をヨーロッパに輸出しているのだ.
その密猟者に対し山岳パトロールが組織され,取り締まりに当たっている.折しも山岳パトロール員の射殺事件が発生,北京の新聞記者でチベット族出身のガイは,現地取材に赴き,隊長リータイに同行取材を許される.
10名程の隊員が密猟者を追って山に出動,ガイはそれに同行するのだが….
脚本・カメラとも丁寧な秀作である.美しく苛烈な自然は,観客を捉えて離さないだろう.
しかし映画で最も印象的なことは,その苛烈な自然の中での,命のはかなさである.
滅亡間近いカモシカたちを,密猟者が容赦なくマシンガンで皆殺しにしていく.密猟者はまた捕らえた山岳パトロールを一撃のもとに射殺する.山岳パトロールも,捕らえた容疑者を山の中で置き去りにする(食料も燃料もない,自力で山を下りられればおまえ達にもチャンスがある).
あまりにも厳しい自然の中で,人も動物も等しく命を落としていく.
密猟者とパトロールのどちらが正義かということさえ相対化されるかの様だ.その様子を淡々と描写するカメラが,心にしみる.
高山での逃走と追跡で,パトロール隊員が肺気腫をおこす.薬の注射を引き受ける,医者をしていたことがあるという捕まった方の青年.患者を麓の医者まで不眠不休で運転し送り届けた隊員リウは,恋人の村のホステスと一夜を共にする.その恋人に甘える少年の様な笑顔.翌朝,恋人が置いていったお守りと金を手に,食料燃料を満載して山中にとって返すリウ.しかし車がスタックし,一人で復旧しようとしたリウは流砂に落ち込む.
そのリウをアップで捉えるカメラ.
追跡して追いつめた密猟者に逆に包囲され,隊員が武装解除される.その隊員を無造作に撃ち殺す密猟者.しばらくのあいだ痙攣を続ける隊員.「まだ息がある」という声と共に,マシンガンの連射で息の根が止められる.高原に響く乾いた連射音.その一部始終を望遠で見守る長回しのカメラ.
生と死を深く考えさせる映画の表現力というものに,改めて感動する.中国映画侮り難し.
★★★★(★5個が満点)
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» ココシリ [銀の森のゴブリン]
2004年 中国 2006年6月公開 評価:★★★★★ 原題:可可西里 監督、 [続きを読む]

受信: 2006/12/09 22:31

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