独断的映画感想文:ナイロビの蜂
日記:2006年12月某日
映画「ナイロビの蜂」を見る.
2005年.監督:フェルナンド・メイレレス.原作:ジョン・ル・カレ.音楽:アルベルト・イグレシアス.
レイフ・ファインズ,レイチェル・ワイズ,ビル・ナイ,ユベール・クンデ,ダニー・ヒューストン.
重い映画だが見始めたら止められない.
原作者ジョン・ル・カレの映画は,1965年,リチャード・バートンの「寒い国から帰ってきたスパイ」を見た覚えがある.細かい筋は殆ど忘れたが,最後の静まりかえったベルリンの壁に響く銃声が,印象的だった.
ケニア駐在の外交官ジャスティンは,中庸でガーデニングが好きな大人しい男.妻のテッサは情熱的で正義感強く,ケニアでは医療ボランティアの仕事に奔走している.
そのテッサが黒人医師アーノルドと共にトゥルカナ湖に出掛けた数日後,突然彼女と運転手の死が知らされる.黒人医師との不義さえ噂される中,ジャスティンは彼女の死の謎を追うようになる.
彼女は,スラムで医療援助に参加している製薬会社が,人体実験をしているという疑惑を追究していたらしい.思えば,上役の代読という冴えない講演会で,その内容に激しい非難を浴びせてきたのがテッサだった.聴衆が彼女を無視して帰った後,ジャスティンは彼女に声をかける…というラブストーリーを織り込んだ,社会派サスペンスドラマ.
アフリカを暗黒大陸に追い込んだ西欧社会が,今なおアフリカに対し行っている激しい収奪を告発する内容となっている.
監督は「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス,この映画でもざらついた色調の映像,手持ちカメラで激しくぶれる急テンポなカメラが印象的だ.
ジャスティンが,死んだテッサへの愛情をその死因を追究する中でいっそう強め,ついには一外交官の身分を捨ててテッサへの愛に殉じる行為が,そのまま製薬会社とイギリス外交を告発することになる.
その過程を,赤茶けたトタン屋根のスラム,ゴミや廃棄物の中で暮らすスラムの人々,ひからびた湖,うってかわって美しい空から見たアフリカ等の画面を交え,力業で描いていく力量はさすがだと思う.
レイチェル・ワイズがアカデミー助演女優賞を取ったが,むしろレイフ・ファインズの演技が素晴らしい.
アフリカ民族音楽と伝統的映画音楽を見事に配置したアルベルト・イグレシアスの音楽も素敵.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
TBありがとうございました。
力作でしたね。サスペンス仕立てですのでぐいぐい引き込まれます。それにしても「ロード・オブ・ウォー」や「ホテル・ルワンダ」など、悲惨な面ばかり描かれるアフリカ。どこの国も問題は抱えているわけですが、アフリカほど深刻で、また集中しているところはないでしょう。「暗黒大陸」という言葉はとっくに使われなくなりましたが、アフリカの闇はいまだ深い。
投稿: ゴブリン | 2006/12/29 12:24