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2007年1月に作成された記事

2007/01/29

独断的映画感想文:インサイド・マン

日記:2007年1月某日
映画「インサイド・マン」を見る.
2006年.監督:スパイク・リー.
デンゼル・ワシントン,クライブ・オーエン,ジョディ・フォスター,クリストファー・プラマー,ウィレム・デフォー.
最初にクライブ・オーエンがアップで映って,観客に謎々を出す.閉ざされた空間にいるけど刑務所じゃない等と言う.
映画が始まると車で飛ばす覆面4人組,マンハッタン信託銀行に横付けすると,ペンキ職人を装ってどんどん入っていく.そしてあっと言う間のホールド・アップ,手際よく人質をとりまとめ全員に同じパーカーと覆面をつけさせる.無論犯人も同じ格好に着替える.
という訳で誰が犯人で誰が人質やら誰にも判らない.犯人はジャンボジェットでの逃亡を要求して立て籠もる.
一方警察は交渉人に2人の黒人刑事を送り込み,事件の解決を図る.
ところが犯人もなかなかの頭脳派,そもそも犯人の目的が良く分からない.膠着状態に陥ったかに見えたとき,犯人は人質の一人を公然と射殺する.交渉人は降ろされ警察は強行突破を決意,SWATが突入するのだが….
そうそうたるキャストである.スパイク・リー監督である.その割にはこのだるい展開はどうしたのでしょう.
どうもこの映画は理が先に立っているような気がする.
この後警察は人質と犯人の区別がつかずみすみす全員を釈放せざるを得なくなる.おまけに開けっ放しの金庫からは全く金は盗まれておらず,残された銃はモデルガン.一体犯人は何が目的だったのか?
映画はこの謎を解いてみせるのに夢中であるが,どうも話しが理が先に立って説明的なのだ.
この映画に決定的に欠けているのは「パッション」ではないか.感情を揺さぶる何かが,この映画には欠けているように思える.
終わってみれば全ては説明されへーと感心する結末にはなっているんだけど,何というか気の抜けたコーラを飲んだというか,生ぬるいビールを飲んだというか,のびた蕎麦を食べたというか,一昨日のわさびを使ったというか(もう止めます).
惜しいってとこで★★★(★5個が満点)
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2007/01/28

独断的映画感想文:ジャーヘッド

日記:2007年1月某日
映画「ジャーヘッド」を見る.
2005年.監督:サム・メンディス.
ジェイク・ギレンホール,ジェイミー・フォックス,クリス・クーパー,ピーター・サースガード,ルーカス・ブラック.
海兵隊員アンソニー・スオフォードの原作による湾岸戦争を巡る実録もの.戦争と軍隊のある面をリアルに描いた作品である.
ある面というのは,兵士は如何に作られるか,ということだ.
兵士とはコマである.望ましい兵士像とは従って,命令に忠実に疑問を持たず,言われたとおり(できれば熱烈なる敵愾心を持って)敵弾の飛び交う中に飛び出していって敵を殺してくるものである.
そういう兵士を如何に作るかがこの映画の前半,そうやって作られた兵士が戦場でどのようになるかがこの映画の後半.
ジャーヘッドとはラバのこと,俗語で海兵隊員のことであるが,直訳すればビン頭である.そのビンの中は空っぽということだろうか.
僕が子供の頃はまだ,先の大戦中の日本軍の内実が社会の記憶として生々しかった.内務班と呼ばれる兵舎の日常では,上官による暴行虐待侮辱いじめが横行していた.
僕が子供の頃最も怖れていたのは,何時か軍隊が復活して徴兵されたとき,上官として僕の生殺与奪の権力を握る人がどういう人になるか分からないということだった.
体力に恵まれず運動神経は無きに等しかった僕は,いずれにしろ弱兵にしかなれない.そういう存在が兵の上官である上等兵や下士官からどんな目に遭わされるかは,子供の僕にとっても明白であった.
小中学生のいじめが今話題になっているが,これは先の大戦が終わるまで全ての召集された兵が直面していた問題と同質に思える.この映画を見て,子供の頃の記憶が,上記のように蘇った.
戦闘シーンはなく,いわゆる戦争物とは一線を画すが,戦争と兵士についての,ある視点を示す映画である.
★★★★(★5個が満点)
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2007/01/15

独断的映画感想文:ステイ

日記:2007年1月某日
映画「ステイ」を見る.
2005年.監督:マーク・フォースター.
ユアン・マクレガー,ナオミ・ワッツ,ライアン・ゴズリング.
多忙な精神科医サムのもとに予約を無視して飛び込んできたヘンリー,3日後の自分の21歳の誕生日に死ぬと言う.別れ際に「今日は雹が降る」と予告するヘンリー,果たしてその言葉通り雹が降ってくる.
これはどういうことか?サムの恋人ライラは彼のもと患者で,自殺未遂の経験がある.彼女もヘンリーに興味を持つが,やがて彼らの日常に奇妙なことが起こり始める….
いやあネタ晴らしをせずにこの映画を紹介するのは並大抵ではありませんや.
この映画,確かに映像には魅力がある.
只,ラストシーンで一気に謎が解き明かされるまでは(全然解き明かされとらんと言う説も一方であるが),どんどんおかしくなっていく物語と謎の積み上がりに,いささか疲れてしまう.
僕は途中から二重人格ものかしらと思っていたのだが(前それで完全に騙されたことがあった),この映画はそうではありません.でもラストシーンがお気にいるかどうかはあなた次第.そうかと言うかなーんだと言うか,評価は分かれるだろう.
ナオミ・ワッツは相変わらず魅力的.
なお,ラストシーンを見てもはて?という人のために,懇切丁寧なネタ晴らしが公式サイトにあります.キーワードを入れればそれが見れるという,そのキーワードは映画の始めと終わりの舞台となる,ニューヨークのさる大きな橋の名前です.
でも映画見る前に見ちゃうと本当につまんなくなっちゃいますからね.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/01/14

独断的映画感想文:硫黄島からの手紙

日記:2007年1月某日
映画「硫黄島からの手紙」を見る.
2006年.監督:クリント・イーストウッド.
原作:栗林忠道(吉田津由子編).脚本:アイリス・ヤマシタ.音楽:クリント・イーストウッド.
渡辺謙,二宮和也,伊原剛志,加瀬亮,中村獅童,裕木奈江.
硫黄島を巡る戦記物の同監督による2部作のうちの日本編.
太平洋戦争末期,制海権制空権を失い孤立した硫黄島に迫る米機動部隊.
大本営は守備隊司令長官に栗林中将を任命する.しかし僅かな守備隊にもかかわらず海軍と陸軍の指揮系統は独立し,かつ栗林の指示に従わないという有様だった.
栗林は地下に縦横に陣地を築き,持久戦を目指すがその真意はなかなか将兵に伝わらない.合理的かつ温情もある栗林の指揮は,慕うものも集めるが,軍の本来にそぐわぬものとして嫌悪するものも多い.
その状態のまま米機動部隊との決戦の日を迎え,硫黄島は砲火に覆われる….
物語は栗林・バロン西等の一群と陸海両軍の頑迷な官僚群との葛藤を,一兵士西郷の目を通して描く.
この物語をクリント・イーストウッドが映画にしたのは幸いだったと思う(もちろん日本人がこれを制作できなかったことは残念だが.そしてそれは現在の日本が相変わらず閉塞的な官僚天国であることと関係していることで,すぐれて現代的な問題ではあるのだが.).
クリント・イーストウッドは前作「ミリオン・ダラー・ベイビー」でもそうだったが,この映画でも絶望的状況下での人間の人間らしさとは何かを描いている.
スリバチ山の守備隊は劣勢に追い込まれるや,栗林の指示に反して全軍自決の命令を発する.一方バロン西の指揮する連隊は,西中佐の指示により奮戦した後,元山の司令部を目指すことになる.
前者では兵は絶望と悲嘆のうちに自死を強制され,後者では負傷した西と別れるに当たり,全兵士は西に敬意を表し勇気を持って司令部への道を切り開くことになる.
同じ困難な状況で,この違いはどういうことか.敬意を払われるべきはどちらか.戦争という究極的な状況で露呈されるこの両者の違いを,どのように考えるべきだろうか.
映画は日本映画と見てもほとんど違和感のないすぐれた出来上がりである.小銃をライフルと呼んだり,菊のご紋のある小銃に足をかけて自死するという,若干の瑕疵はあったが,そんなことは些細なこと.
渡辺謙,二宮和也,伊原剛志が皆良かった.加瀬亮の存在感も素晴らしい.
戦争は避けるべきだし避けられるものと信じたい.しかし相手のあることだから万が一戦争となったときに,勇気と誇りを持って戦うことはどのようにしたら可能なのだろうか.
★★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:初恋

日記:2007年1月某日
映画「初恋」を見る.
206年.監督:塙幸成.
宮崎あおい,小出恵介,宮崎将,小峯麗奈,柄本佑,藤村俊二.
1968年12月に発生した3億円事件の「真相」を描く,青春映画.
小さいとき父を亡くし,兄を連れて家出した母に捨てられたみすずは,以後叔母の家に引き取られ孤独の中で成長する.ある日自分を訪ねてきた兄に渡されたマッチを手がかりに,ジャズ喫茶「B」に出入りするようになったみすずは,そこにたむろする青年達の中にようやく自分の居場所を見つけた.
やがて機動隊との衝突等で散り散りになる仲間達,その中東大生の岸がみすずに意外な提案をする.みすずはその提案を受け入れ,岸と共にその準備を始める….
この映画は60年代後半という特異な状況を背景としているが,60年代を描いた作品という訳ではない.また,3億円事件という特異な犯罪を題材にしているがクライム・ムービーという訳でもない.この映画は,名前通り,みすずという孤独な少女の初恋の物語なのだ.
僕とみすずは同い年である.だからみすずの気持ちが分かるというつもりは毛頭無いが,みすずが見ていたであろう景色は想像がつく.だが映画で展開する物語の緊張感は,今ひとつと言わざるを得ない.
それは恐らく60年代,3億円事件,青春映画というそれぞれの取り扱いがやや中途半端だったからではないか.3億円事件が60年代後半の政治状況に深く関連しているというのなら,その状況とジャズ喫茶「B」のメンバーのそれとの関わりを,もっと具体的に描くべきではなかったか?
宮崎あおいの演技には緊張感があったし他の俳優も悪くなかった.
ただし,60年代後半・新宿という特異な場を舞台として使うのであれば,それにふさわしい緊張感を観客は期待するであろう.
その期待にはやや届かずという感想.★★★☆(★5個で満点)
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独断的映画感想文:ククーシュカ ラップランドの妖精

日記:2007年1月某日
映画「ククーシュカ ラップランドの妖精」を見る.
2002年,ロシア.監督:アレクサンドル・ロゴシュキン.
アンニ=クリスティーナ・ユーソ,ヴィッレ・ハーバサロ,ヴクトル・ブィチコフ.
1944年,フィンランドとソ連は戦争中.反戦的態度のため,ドイツ軍服を着せられ岩場に鎖でつながれ狙撃の的として放置されたヴェイッコ(フィンランド兵も随分なことをするものである),何とか杭を引き抜いて脱出に成功する.
一方詩を書くのが好きなソ連軍大尉イワンは,これも密告を受け軍事法廷に連行される途中爆撃を受け,一人生き残る.
この二人が相前後してラップランドの湖岸に一人住まいしているアンニの家に転がり込む.アンニは4年前から夫が出征中のサーミ人,3人はお互いの言語が通じない.
アンニは親切にイワンの怪我を手当てし,ヴェイッコには道具を貸してやって鎖を外す手助けをし,二人に食事を振る舞って世話をする.
イワンはヴェイッコをドイツ兵と思って敵愾心を隠さないが,ヴェイッコは気さくにサウナを建ててイワンと一緒に入ったりする.そこに4年間禁欲していたアンニが入ってきて事態は一層ややこしくなる….
ククーシュカとはカッコーのことで,アンニの本名である.
サーミ人は本名を知られると呪いをかけられるといけないので,通称しか明かさない.この映画では大尉イワンも名前を聞かれて「クソ食らえ」と叫び返し,以来「クソクラ」と呼ばれることになる.一方イワンはヴェイッコを「ファシスト」と呼んでいる.という訳で全員が本名で呼ばれていないという,3人の奇妙な生活.
ラップランドは荒涼とした土地柄である.
そこでたくましく生きるアンニは生命と母性の象徴の様だ.彼女は死んだと思われたイワンを救い,また瀕死の重傷を負ったヴェイッコの魂を,太鼓と狼の遠吠えのまねで黄泉の国への途上から引き戻す.このアンニの象徴するものは,日本人である我々の感性からも,実に判りやすい.
戦争が終わり,二人はそれぞれ故国に帰っていく.アンニのもとには2人の子供.このラストシーンも明解.
一方の足を戦争という現実につけつつ,ロシア民話の様な物語で生命力を描くこの映画は,なかなかに味わい深い.ククーシュカ役のアンニが魅力的.
★★★★(★5個が満点)
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2007/01/02

独断的映画感想文:イーオン・フラックス

日記:2007年1月某日
映画「イーオン・フラックス」を見る.
2005年.監督:カリン・クサマ.
シャーリーズ・セロン,マートン・ソーカス,ジョニー・リー・ミラー,アメリア・ワーナー,フランシス・マクドーマンド,ピート・ポスルスウェイト,ソフィー・オコネドー.
2011年に人類はウィルスによって壊滅,治療薬によって生き残った1%の人々は,治療薬開発者グッドチャイルド家の統治下に,都市に立てこもって暮らす.その統治者トレバーに反対する組織モニカンは,最強の暗殺者イーオンに彼の暗殺を命じる….
前評判は散々,blogでも良く書いてあるものはほとんど無いという映画だが,思っていたよりは良かった.
そもそも僕はこの手のSFにはハードルが低い(極めて寛大).
イーオンとトレバーの間にはクローン越しに伝わった400年の因縁がある(言ってもうた),という設定だけで,ふんふんと身を乗り出してしまう.
まあ後はたわいもない展開だし,終わってみれば1時間半ちょいの作品だし,ということですが,シャーリーズ・セロンは見応えあり.予告編通りというか美貌とプロポーションはぴかいち,それにちゃんと演技もするし.
そういえばこの映画,かなりの実力派が揃っているのです.
夜遅く見た割には何とか寝ないで最後まで行きました.
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