独断的映画感想文:ククーシュカ ラップランドの妖精
日記:2007年1月某日
映画「ククーシュカ ラップランドの妖精」を見る.
2002年,ロシア.監督:アレクサンドル・ロゴシュキン.
アンニ=クリスティーナ・ユーソ,ヴィッレ・ハーバサロ,ヴクトル・ブィチコフ.
1944年,フィンランドとソ連は戦争中.反戦的態度のため,ドイツ軍服を着せられ岩場に鎖でつながれ狙撃の的として放置されたヴェイッコ(フィンランド兵も随分なことをするものである),何とか杭を引き抜いて脱出に成功する.
一方詩を書くのが好きなソ連軍大尉イワンは,これも密告を受け軍事法廷に連行される途中爆撃を受け,一人生き残る.
この二人が相前後してラップランドの湖岸に一人住まいしているアンニの家に転がり込む.アンニは4年前から夫が出征中のサーミ人,3人はお互いの言語が通じない.
アンニは親切にイワンの怪我を手当てし,ヴェイッコには道具を貸してやって鎖を外す手助けをし,二人に食事を振る舞って世話をする.
イワンはヴェイッコをドイツ兵と思って敵愾心を隠さないが,ヴェイッコは気さくにサウナを建ててイワンと一緒に入ったりする.そこに4年間禁欲していたアンニが入ってきて事態は一層ややこしくなる….
ククーシュカとはカッコーのことで,アンニの本名である.
サーミ人は本名を知られると呪いをかけられるといけないので,通称しか明かさない.この映画では大尉イワンも名前を聞かれて「クソ食らえ」と叫び返し,以来「クソクラ」と呼ばれることになる.一方イワンはヴェイッコを「ファシスト」と呼んでいる.という訳で全員が本名で呼ばれていないという,3人の奇妙な生活.
ラップランドは荒涼とした土地柄である.
そこでたくましく生きるアンニは生命と母性の象徴の様だ.彼女は死んだと思われたイワンを救い,また瀕死の重傷を負ったヴェイッコの魂を,太鼓と狼の遠吠えのまねで黄泉の国への途上から引き戻す.このアンニの象徴するものは,日本人である我々の感性からも,実に判りやすい.
戦争が終わり,二人はそれぞれ故国に帰っていく.アンニのもとには2人の子供.このラストシーンも明解.
一方の足を戦争という現実につけつつ,ロシア民話の様な物語で生命力を描くこの映画は,なかなかに味わい深い.ククーシュカ役のアンニが魅力的.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
TBありがとうございました。
さきほど「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(昨日観ました)を読みに来たのですが、「ククーシュカ」を見落としておりました。
<一方の足を戦争という現実につけつつ,ロシア民話の様な物語で生命力を描くこの映画は,なかなかに味わい深い.>本当に寓意性に富み、味わい深い映画でしたね。アンニはどこか歌手のビョークに似ていて親しみが湧きます。巫女のように死者を黄泉の国から呼び戻すシーンは日本人にはよく分かりますね。サーミ人の見かけは西洋人より東洋人に近い感じなので、そういう意味でも親近感があります。重くなりがちなテーマを重くならずに描いた手腕には並々ならぬものを感じました。
投稿: ゴブリン | 2007/01/14 20:22