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2007年3月に作成された記事

2007/03/26

独断的映画感想文:コーラス

日記:2007年3月某日
映画「コーラス」を見る.
2004年.監督:クリストフ・バラティエ.
ジェラール・ジュニョ,ジャン=バティスト・モニエ,ジャック・ペラン,フランソワ・ベルレアン,マリー・ビュネル.
母を失い故郷に戻った名指揮者ピエール.雨の中訪ねてきた訪問者は,50年前寄宿学校「池の底」で一緒だったペピノだった.
再会を喜ぶピエールに,ペピノは彼らに音楽を教えてくれた教師マチューの日記を見せる.ここから始まる,マチューが育てた寄宿舎の合唱団の物語.
寄宿学校「池の底」には,社会に見放されたこども達が集められていたが,校長のラシャンは物欲と名誉欲に駆られこども達を顧みない冷淡な男だった.すさんだこども達に心を痛めたマチューは,合唱を教えることにする.紆余曲折はありながら,こども達は歌に魅せられ,中でもピエールの美しいボーイ・ソプラノは素晴らしかった….
映画の視線は優しい.いたずらや悪事に走るすさんだこども達の描き方も優しく,校長を描くその視線さえ優しい.おとぎ話と言えばその通りなのだが,それでもこの映画の視線の優しさには,心が癒される.
それにしても,合唱というものに何故これほど感動するのだろう?それぞれの顔をしたこども達が,それぞれのやり方で歌うその声が,指揮者の身振りで一つの歌になっていく.そのことが呼ぶ素晴らしい感動.
この映画はその感動をしみじみと味わえる.
音楽教師マチューを演じるジェラール・ジュニョが味があってよろしい.校長を演じたのは,何と昨日見た「トランスポーター2」でのー天気なフランス人警部を演じていたフランソワ・ベルレアンである.彼もなかなか素敵.
音楽の好きな方には一見の価値ある佳作である.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:トランスポーター2

日記:2007年3月某日
映画「トランスポーター2」を見る.
2005年.監督:ルイ・レテリエ.
ジェイソン・ステイサム,アレッサンドロ・ガスマン,アンバー・ヴァレッタ,ケイト・ノタ.
依頼されたブツを確実に届けるトランスポーター,フランクは沈着冷静で凄腕のドライバー,しかも武術がめちゃくちゃ強い.
今回もプロローグで強盗を完膚なきまでに叩きのめし1秒の遅れもなしに指定場所に到着.ところが今回の依頼品は6歳のジャック,フランクはジャックの学校への送り迎えを担当しているのだ.
ジャックは乗り込んでくるなり「なぞなぞしよう」と満面笑顔で,フランクにはすっかりなついている.強面のフランクがクールになぞなぞに応じているシーンは微笑ましい.
ところがジャックの父は麻薬撲滅国際会議のホスト役,このためジャックを誘拐しようと謎の女殺し屋が襲ってくる.
幾度もの危機をかいくぐってジャックを守るフランクだが,ついにジャックは敵の手に奪われてしまう.敵の真の目的は如何に,ジャック奪回の方策は?
というわけですが,この映画,細かいことはどうでもいいのです.後半エンディングに向けてつじつまを合わせようという段階でも,あまりそのことに気を使っていないみたい.荒唐無稽のきわみと言って良い.
とにかくジェイソン・ステイサムのクールな魅力とカーチェイス,アクションを楽しめばいいのです.その点に関しては(特に車の激しい動きについては)堪能できる.
88分と短いが,アクションに飽きるということはないし最後まで一気に見てしまう.研ナオ子を筋骨たくましくしたような女殺し屋もかっこ良かった.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:スタンドアップ

日記:2007年3月某日
映画「スタンドアップ」を見る.
2005年.監督:ニキ・カーロ.
シャーリーズ・セロン,フランシス・マクドーマンド,ショーン・ビーン,リチャード・ジェンキンス,シシー・スペイセク.
夫の家庭内暴力に我慢できず,ジョージーは2人の子供を連れて家を出,実家に帰る.高校時代に男性遍歴があり,長男サミーの父親もわからないというジョージーを,父ハンクは受け入れなかった.
ジョージーは友人グローリーの紹介で父と同じ鉱山で働くことになる.初めて自分で稼ぎ自立を目指した彼女だったが,少数派の女性従業員への男性従業員のセクハラ・嫌がらせは激しいものだった….
1988年に起きた,全米初の集団セクハラ訴訟の実話に基づく映画.この後彼女はレイプされかけ,会社を訴えて法廷闘争に入る.3人以上の原告が集まれば集団訴訟を認めようという裁判所に,ジョージーは果たして仲間を集められるのか.彼女の「男性遍歴」が地域のうわさにもなり,子供のいじめにまで発展する中,長男はジョージーを嫌い,女性従業員も彼女に同調しない….
この映画は家族再生の物語でもある.この手の映画が今アメリカ映画にやたら多いと思えるのは気のせいか.
俳優としては友人夫婦役のフランシス・マクドーマンドとショーン・ビーン,両親役のリチャード・ジェンキンス,シシー・スペイセクがともに良い.
それまで娘には厳しさ一点張りだった父ハンクが,組合の集会で野次を浴びる娘をかばい,「共に働き仲間と思ってきたが,今この場で誇りに思えるのは,この娘だけだ」と宣言するくだりは感銘的だ.
主演のシャーリーズ・セロン自身,母親が家庭内暴力の激しい父親を射殺したという経験を持つ.この美貌の女優が社会派ドラマをよく演ずるのには,そのような事情もあるのか.
最後の法廷シーン,ジョージーを支持して原告の名乗りをあげる人の中に,実際にこの訴訟を戦った2名の元原告が混じっているのも興味深い.
しっかりしたつくりの映画.挿入されるボブ・ディランの歌も素敵.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/03/22

独断的映画感想文:ヘヴン

日記:2007年3月某日
映画「ヘヴン」を見る.
2002年.監督:トム・ティクヴァ.
ケイト・ブランシェット,ジョヴァンニ・リビシ,レモ・ジローネ.
高層ビルの一室を訪れ時限爆弾を仕掛ける女フィリッパ.しかしその爆弾は掃除夫の手でゴミと共に運ばれ,エレベーターの中で爆発してしまう.
憲兵隊はフィリッパを逮捕,英語でしか応答しないフィリッパの通訳を,若い憲兵フィリッポが勤める.二人の運命の出会いである.
フィリッパは英語の教師,自分の夫や教え子を死に追いやった麻薬ディーラーの爆殺を計ったのだが,結果として無関係な市民4人を殺してしまった.その事実を知って失神するフィリッパ,一方憲兵隊は組織的テロリストの疑いをもって彼女を尋問するが,麻薬ディーラーに通じる憲兵隊の高官はフィリッパをどう始末するか思案していた….
という設定で始まるが基本的にフィリッパとフィリッポの盲目的恋愛の顛末である.
映像も音楽も美しく,特に後半のトスカナ地方の風景は素晴らしい.最初の設定はむちゃくちゃだと思うが,その後のケイト・ブランシェットの演技は見応えあり.
ところで僕が一番印象的だったのは逃避行下の息子に呼び出されたフィリッポの父親の態度である.
彼は引退した憲兵で,息子の勤めを心から誇りにしていた.その息子が取調中のテロリストと共に逃亡したのだ.その心中は如何ばかりだろう.
普通日本人の我々から見れば,何はともあれ息子を女から引き離し,説得して自首させ,あわよくば女を密告して捕まえよう,等という展開になりそうなところ.
しかしこの父親はフィリッパにただ「息子を愛しているのか?」と聞くのだ.「息子はあなたを愛している」とも言う.まるでそのこと以外に大事なことは何もないかのようだ.彼女が「愛している」と答えると父親は烈しく息子を抱きしめ,別れを告げて去っていく.既に二人が死を決意していることを悟ったのだ.この息子に対する盲目的共感が感銘的である.
いろいろ突っ込もうと思えば突っ込める映画だが,この父親の態度に免じて★★★☆(★5個が満点)
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2007/03/09

独断的映画感想文:ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム

日記:2007年2月某日
映画「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホームNo.1」を見る.
2005年.監督:マーティン・スコセッシ.
ボブ・ディラン,ジョーン・バエズ,ピート・シガー,アレン・ギンズバーグ,ミッチ・ミラー,スーズ・ロトロ.
1941年生まれのボブ・ディランが62年にデビューし「風に吹かれて」でブレイクし,プロテストソングのカリスマとなりながらフォークロックに移行していくまでの第1部である.
「フリー・ホィリーン」の表紙でディランとのツーショットを披露している当時の恋人,スーズ・ロトロが画面でインタビューに答えているが,未だ若々しく愛らしい素敵な人だ.
ジョーン・バエズはニューポート・フォーク・フェスティバルでディランをフォークファンに紹介した人だが,そのディランを見る目は恋するものの目だ.
印象的なのは,ディランを認めコロンビアとして契約したのが,あのミッチ・ミラーだということだ.また「風に吹かれて」をヒットさせたLAのプロデューサーは,PP&M(ピーター・ポール&マリー)をユニットとして売り出した辣腕家アルバート・グロスマンだが,この曲の反戦性などは意に介せず,数多くのベテラン歌手に提供して歌わせた.
「この曲はいけると思った.金のにおいがした」と彼自身が述べている.60年代アメリカの若くしたたかで勢いのある状況を,彷彿とさせる.
これに比べれば政府の脅しに震え上がって「イムジン川」を発売禁止にした東芝EMIの音楽業は,児戯に等しいと思える.
映画としては画面はオーソドックス,インタビューと当時のフィルムで丹念にボブ・ディランとその周辺を描いているが,長尺を飽きることなく見せるマーティン・スコセッシの腕は確か.

日記:2007年3月某日(レンタルの都合で分割して見る羽目になった)
映画「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホームNo.2」を見る.
No.1に加え,アル・クーパー,マイク・ブルームフィールド,ピーター・ヤロー等.
後半にいたってこのドキュメントの狙いが明らかになってくる.
スコセッシは,ディランがロックに転向しての大ヒット「ライク・ア・ローリング・ストーン」に如何に到達し,世の中が如何にそれに追随できなかったかを描こうとしているかのようだ.
映画は前半60年代の音楽状況に多くのシーンを割いたのに対し,後半はその時代の政治状況を描写する.
暗殺直前のジョン・F・ケネディ,63年公民権運動のピーク・ワシントン大行進におけるキング牧師の「I have a Dream」演説,若々しいロバート・F・ケネディ(みんな殺されてしまった).
この行進にはもちろんボブ・ディランもジョーン・バエズもPP&Mも参加していた(何とあのチャールトン・ヘストンさえ参加していたのだ).
これらの状況を背景にしながら,ディランは1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルで衝撃のロック・デビューを果たす.
アコースティック・ギターによるプロテストソングを期待して集まった聴衆に,ディランはすさまじい大音響のハードロック「ライク・ア・ローリング・ストーン」を浴びせかける.聴衆は困惑しやがて怒り出す.舞台の裏ではフォークの神様ピート・シガーが,斧でPA装置のケーブルを断ち切ろうとして取り押さえられた,と本人が語る.
演奏終了後の大ブーイングにうろたえたPP&Mのピーター・ヤローが「ボブは今アコースティック・ギターを取りに行っているんです!」と叫ぶのに湧き上がる歓声.現れたディランが一人で歌ったのが,名曲「It’s all over now,baby blue(全ては終わった,憂鬱なベイビー)」だったのは,何という皮肉だろうか.
それ以降のディランの演奏活動は,戦争と言っても良いほどのバッシングとの戦いだった.
「ライク・ア・ローリング・ストーン」をヒットさせた一員となった名ロック・ミュージシャン,アル・クーパーは,何が起こるか判らない日々に脅え,ダラスでのコンサートが迫った日にバンドを抜けてしまう.代わりにバックを勤めたミュージシャン達が後にザ・バンドとなり,スコセッシの名作「ラスト・ワルツ」でその解散コンサートを記録されることになる.
映画は66年のイギリス・ツアーまでを紹介して終わるが,その直後ディランはバイク事故を起こすことになる.映画は,ひたすら詩人でありミュージシャンであり続けようとしたディランをまっすぐに描き,その充実感に感動すること多し.
最後に近く,かってのパートナーであるジョーン・バエズが,ディランの曲を,彼の声色を真似ながらアコースティックで歌うシーンが印象的だった.
すぐれたドキュメント映画としても,60年代を描く一級の映像資料としても,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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2007/03/02

独断的映画感想文:ニライカナイからの手紙

日記:2007年3月某日
映画「ニライカナイからの手紙」を見る.
2005年.監督:熊澤尚人.音楽:中西長谷雄.
蒼井優,南果歩,平良進,金井勇太.
蒼井優の初主演映画.
安里風希の父はカメラマンだったが早くに亡くなった.母は風希が7歳の時に別れたきりだ.
風希は,郵便局長である祖父と竹富島の村の人々に包まれ,成長した.母親からは風希の誕生日ごとに1通の手紙が来て彼女を励ます.
成長した風希はカメラマンを目指し,祖父の反対を押し切って東京の写真家の住み込みアシスタントとなる.厳しい仕事の毎日,母の手紙の消印局を訪ねても,母の住所を知ることはできない.
しかし母の手紙にあった「20歳の誕生日に会って全ての事情を話す」という言葉を頼りに,風希は自分の写真を撮り始める….
美しい映画である.
沖縄竹富島の海と草原と空.ピアノを中心とした音楽も心地よい.
子役も良かったが14歳から20歳を演じた蒼井優が素晴らしい.よくある筋立てながら,蒼井の演じる風希の喜びと悲しみを,観客は我が身のこととして映画に引き込まれるだろう.
竹富島の人々も素晴らしい.
最終局面,哀しみにうちひしがれた風希の下へ,島の人々が次々に現れる.ささやかな贈り物を手に彼女を訪れ,声をかけその身体にそっと触れ,挨拶をして帰っていく.何時までも続くその人々の列.
僕は風希の哀しみそのものより,むしろこの場面の島の人々の人情に深い感動を覚えた.
ところでこの映画をめちゃくちゃにしているのは,郵政のコマーシャルである.
沖縄でも東京でもところを選ばず,執拗に画面に現れる郵政の職員・ゆうパックの映像.
映画の山場で,平良進のおじいにかける郵便局長前田吟の「手紙を配るのが我々の仕事じゃないですか」という,取って付けたような場違いの浮いた台詞.
どうしてこういうことをするのだろう.
竹富島の船着き場には,円筒型の古いポストがある.きらめく海を背にしたそのポストの映像は,夢のように美しい.この映像で観客は皆,手紙や郵便のことを,懐かしく思い出すだろう.
郵政官僚にはそれでは不充分だったのだろうか?
映画を食い物にするな.という訳で差し引き★★(★5個で満点)
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独断的映画感想文:ヴァイブレータ

日記:2007年2月某日
映画「ヴァイブレータ」を見る.
2003年.監督:廣木隆一.
寺島しのぶ,大森南朋.
寺島しのぶの初主演映画.
雪の夜のコンビニ,ワインを買いに来た早川玲.彼女はフリーのルポライターだが,頭の中で響く「声」の存在に悩まされている.
とりとめもない独白のようなその声と共に店内を巡る彼女,そこへ長靴を履いた金髪の男岡部希寿が入ってくる.彼女と目が合い,買い物をして出しなに彼女のヒップを触っていく,その男の後を彼女は追う.
岡部はフリーの長距離トラック運転手だった.そのトラックに乗り込み,彼女は男と一夜を共にする.翌朝男のトラックに彼女は同乗し,新潟へ走る….という訳で始まるロードムービー.
彼女は頭の中の声に悩まされ不眠や食べ吐きを繰り返している.男は中学も満足に出ていない,その後はホテトルのマネジャーやシャブの運搬等をし,今は足を洗ってトラックを運転していると言う.かりかりにささくれ立っている彼女を,不思議な優しさで包んでくれる男.
この映画は主演の二人が良い.特に寺島しのぶの表情が素敵.
男にしがみついて眠っている顔は童女のようだ.かと思うと呆然と遠くを見る中年女のような疲れた顔.
僕はしたことがないから判らないけれど,こういう人との「行きずりの恋」なら,この男のように優しくなれるのかも知れない.
95分の作品だが映画らしい映画.
★★★☆(★5個が満点)
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