独断的映画感想文:怒りの葡萄
日記:2007年は4月某日
映画「怒りの葡萄」を見る.
1940年.監督:ジョン・フォード.
ヘンリー・フォンダ,ジェーン・ダーウェル,ジョン・キャラダイン.
ジョン・スタインベックの小説の映画化.
オクラホマの小作農ジョード家は,砂嵐の襲来による不作と,機械化によるトラクターの導入のため農地を追われ,一家を挙げて「蜜と乳の国」カリフォルニアを目指すことになる.殺人容疑で服役し仮釈放となったトム・ジョードは,牧師のケイシーと共に一家に合流する.
途中祖父と祖母を病気で失った一家はようやくカリフォルニアに着くが,彼らを待っていたのは職を求める農民と地元住民のいさかい,農場主の暴力と搾取だった.農民の組織化を試みたケイシーは襲撃され撲殺され,その犯人をトムは殺してしまう….
ジョン・フォードにオスカーをもたらし,ヘンリー・フォンダの評価を不動のものにしたこの社会派ドラマを,一度は見たいと思っていた.しかしいざ見始めるとその結末を見るのが辛い.
この原作を僕は高校生の時に読み,その悲劇的な結末に深い衝撃を受けたからだ.
しかし映画は原作ほどの悲劇的な結末は取らず,未来への希望を暗示して終わった.果たしてこれで良かったのかどうか,気持ちは揺れ動く.
映画はカリフォルニアの地元住民の,流入農民への排撃や,農場主らの暴力と陰謀・スト破りを使った搾取等を余すことなく描く一方で,連邦政府の農業施策を好意的に描くが,これはジョン・フォードのニュー・ディール政策支持の姿勢が鮮明だったかららしい.
だいたい,その監督の姿勢は今の視点から見れば,ほとんど左翼的と言っても良いくらいで,これにオスカーを捧げたハリウッドの姿勢も含め,冷戦前のアメリカのある点での自由さを感じさせる.
俳優ではやはりヘンリー・フォンダが良い.ただ,その押さえた演技が良すぎて(?),トム・ジョードがかっとなりやすくそのため人も殺してしまったという事実が,今ひとつ飲み込みにくい.
監督と共にオスカーを取った(助演女優賞),ジェーン・ダーウェルも素晴らしい.アメリカ中西部の肝っ玉母さんの面目躍如の演技である.
牧師をしくじって放浪者となり,最後は農民の組織者として殺されたケイシーを演じたジョン・キャラダインも好きである.その息子デヴィッド・キャラダインが後に「ウディ・ガスリー/わが心のふるさと」(1976)に主演し,同じように貧乏人の組織者を演じていたのを思い出す.
最後にもう一人の名優は,この一家を乗せて2000キロを旅したおんぼろトラック.名前はよく判らないが,このトラックの存在感,名演技(前輪が浮いてひっくり返りそうになったときのスリルはなかなかのものだった)を賞賛したい.
見て良かった映画.
しかしこの映画に描かれた人々はその後どうなったのだろう.食い詰めた農業労働者の群れは,また暴力と搾取で手を汚した農場主達は?
★★★★(★5個が満点)
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コメント
この映画「怒りの葡萄」は、文豪ジョン・スタインベックのピューリッツァー賞受賞の小説を、ジョン・フォードが監督した作品だ。
凶作と資本主義の歪みの中で、たくましく生きるアメリカ農民の姿を描き、アメリカ映画の新境地を開いた、社会派リアリズム・ドラマの名作だと思う。
名カメラマン、グレッグ・トーランドによる際立ったモノクロ映像と、ジョン・フォード監督ならではの力強いタッチで、1930年代のアメリカの小作農の惨状を、見事に浮き彫りにしている。
仮出所で刑務所を出て、4年ぶりに故郷のオクラホマの農場に帰ってきた、ヘンリー・フォンダ扮するトム・ジョード。
そこで彼が見たのは、荒れ果てた大地と飢えに苦しむ農民たちの姿だった。
久し振りに再会したトムの家族も同じ有様だったが、母親のマアのたくましさのおかげで、貧しいながらも元気でいた。
だが、土地はすでに人手にわたっていた。そこで、ジョード一家は、オンボロ車でカリフォルニアへと向かう。
だが、希望の土地カリフォルニアで彼らを待っていたのは--------。
トムに洗礼を授けた、元説教師のジョン・キャラダイン扮するケイシーは「自分達はただ一生懸命素直に生きたいと思っているだけなんだ」と、みんなに説く。
そして彼が、暴徒に殺された後は、トムがその気持ちを引き継いでいくことになる。
最初に殺されたケイシーは、いわばキリストであり、そうして、その教えを守っていくキリストの使徒を演じたのがトムではないかという気がします。
この映画は、未曽有の不況の時代において、キリストに対するひとつの気持ちのすがりまでも描いた作品だと思う。
投稿: オーウェン | 2024/11/04 14:53