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2007年5月に作成された記事

2007/05/30

独断的映画感想文:スケアクロウ

日記:2007年5月某日
映画「スケアクロウ」を見る.
Photo
1973年.監督:ジェリー・シャッツバーグ.
ジーン・ハックマン,アル・パチーノ,ドロシー・トリスタン,アン・ウェッジワース.
ネタバレあります.
アメリカン・ニュー・シネマの傑作.
6年の刑期を勤めたマックスはピッツバーグで洗車屋を開業しようと旅をしている.デトロイトに身重の妻を残し5年間船に乗り組んでいたライオネルは,子供へのプレゼントを持って故郷を目指している.
ヒッチハイク仲間として知り合った二人は相棒となり,デトロイトに寄ってからピッツバーグで2人で洗車屋を開業しようということになる,そこから始まるロード・ムービー.
大男マックスはまじめな男だが自分本位で,かっとなると喧嘩を止められない.ライオネルは小柄な優男,争うくらいなら道化を演じようというひょうきん者.
その二人がコンビを組んでまずはマックスの妹コリーの家に立ち寄る….
男の友情と人生の哀歓を描いた映画だが,その切り口は独特のものだ.
この映画を印象づけるのは,その開幕シーン.
鉛色にどんより曇った空をバックに,奇妙に明るい冬枯れた丘を男が歩いて降りてくる.こちら側は道路らしく,その手前にある鉄条網を苦労してくぐり抜ける男.
このシーンで既に観客はこれから始まるドラマの予感に捉えられるだろう.
アンバランスな二人の出会いと育まれる友情,ヒッチハイク(何故か乗せてくれるのは年寄りばかりだ)と貨車でのうらぶれた旅路.不安と宙ぶらりんな感じを緊張感をもって維持していくこのロードムービーの,何と素晴らしいことだろう.
終盤,錯乱して倒れたライオネルに寄り添うマックスの真情に,涙を禁じ得ない.
この30年以上前の映画が今なお持つ現代性は,極めて印象的だ.
映画らしい映画.★★★★(★5個が満点)
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2007/05/26

独断的映画感想文:黄色い涙

日記:2007年5月某日
映画「黄色い涙」を見る.
2007年.監督犬童一心.原作永島慎二.
二宮和也,松本潤,香椎由宇,韓英恵,田畑智子,山本浩二.
僕の生まれ育った阿佐ヶ谷を舞台に,永島慎二の原作で送る60年代青年ゲージツ家群像の物語.
1963年,東京オリンピックの前の年,漫画家村岡栄介は富山に住む母親を東京の病院に入院させるため一芝居打つことにする.周辺の知り合い3人を頼んで医者に扮してもらい,何とか母親を大学病院に入院させることに成功する.
その3人とはその場で分かれたのだが,数ヶ月のうちにその3人,小説家志望の竜三,歌手志望の章一,画家志望の圭はいずれも栄介の居候として同居することとなる.
ともすれば自堕落な日々を送ってしまう4人だが,一時まとまった金ができたのをきっかけに生活を立て直し,一夏を自分たちのゲージツに思いっきり没入しようと誓い合うのだった….
物語はその夏の顛末を中心に,行きつけの食堂の娘時江,栄介の昔の恋人かおるとのロマンスを挟み展開する.
昭和貧乏青春ものとしては,なかなか良くできています.バーチャルの阿佐ヶ谷は実物とは全く別物だが,昭和の雰囲気はでていました(もっとも映画に出てきたオデヲン座はきれいすぎる.当時は映画を見ていたら足下にドブネズミが出てきて,一緒に映画を見ていたのを思い出す).
俳優としては二宮一也が相変わらず良い出来,意外と良かったのは松本潤の米屋.なかなか実直な感じが出ていて好感を持った.他には「リアリズムの宿」の山本浩二と「誰も知らない」の韓英恵に久しぶりに会えたのがうれしかった.
アコースティックギター中心の音楽と,公害蔓延前の東京らしい透明な空気を表現したカメラが素敵.
全体としては,栄介を除いてこのゲージツ家志望者達は「涙」を流すほどのことをしたのだろうか?という疑問は残る.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/05/21

独断的映画感想文:フラガール

日記:2007年5月某日
映画「フラガール」を見る.
2006年.監督:李相日.
松雪泰子,豊川悦司,蒼井優,山崎静代,岸部一徳,富司純子.
1960年代,石炭の時代が終わる頃,常磐炭坑でも閉山と人員整理が進行し,組合と会社側は激しく対立している.
会社は湧き出る温泉を使ったレジャー施設を計画,その施設「常磐ハワイアンセンター」で踊るフラダンサーを,炭鉱労働者の子女から募集する.
親友の早苗に誘われ説明会に来た紀美子,しかしヘソ出しルックで踊ると知って残った応募者はたったの4人だった.
一方教師として雇われた元SKDの平山まどかは気の短い情熱家,たった3ヶ月で素人を仕込んで欲しいと聞き,やる気がいまいち出ない.生徒と教師の気持ちがすれ違ったまま練習が始まる.紀美子の母親は娘のダンサー志望に猛反対,紀美子は家出をする羽目になる….
こうしてスタートする初代フラダンサー達のサクセスストーリー.
すすけた炭住の息を呑む俯瞰図が印象的だ.その中から集まってきた少女達が必死に練習に励む.
炭鉱労働者のプライドを持って生きているために,その少女達を敵視せざるを得ない大人達.最初は反対しながら,娘の猛練習見事な踊りを見て,ついには娘の側に立つ母親.
映画はその一人一人に温かい視線を注ぐ.
極めてオーソドックスな(べたとも言う)展開ながら丁寧な作りで,きっちり泣かせる映画である.
中盤,解雇された父親がダンサーの娘を張り飛ばしたのにぶち切れ,まどかが男風呂に殴り込み,風呂桶に飛び込んで父親の首を締め上げるシーンの痛快さ.落盤事故で父親が遭難したと聞きながら,大きな身体を縮めてぽろぽろと涙をこぼして「わたし踊る」と言う小百合(南海キャンディーズの静ちゃん)の健気さ.
そして最後のダンスシーン,すすけた炭住と対照的な,目を見張る明るい衣装の踊り子達が素晴らしい.蒼井優のソロシーンも凄いが,全員のかけ声と一致した動きがここまでの道を思い起こさせる群舞シーンも素敵.
見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
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2007/05/20

独断的映画感想文:プラダを着た悪魔

日記:2007年5月某日
映画「プラダを着た悪魔」を見る.
2006年.監督:デヴィッド・フランケル.
メリル・ストリープ,アン・ハサウェイ,エミリー・ブラント,スタンリー・トゥッチ,エイドリアン・グレニアー.
大学を卒業した仲良し4人,一人は写真家,一人は証券アナリスト,一人はシェフを目指し残る一人はジャーナリストを目指す.
そのアンドレアは,たまたま紹介されたファッション専門誌「ランウェイ」の面接に受かってしまう.ファッションを目指すものなら目の色を変える編集長ミランダのアシスタントがその仕事,しかしアンドレアはファッションに全く疎い.ださいセーター姿で仕事に出た彼女を待っていたのは,ミランダの鬼のような仕事ぶりだった.
しかし只のワンマンではなく真のカリスマであるミランダとの仕事のおもしろさと,等身大のつきあいを求めるシェフ志望の恋人,仕事のできるようになっていく中でアンドレアはその葛藤に悩むのだが….
ちょっと変わった味のラブコメ,たれ眼の可愛いアン・ハサウェイと貫禄たっぷりのメリル・ストリープの応酬が見応えある映画である.
仕事を束ねる位置にこういうカリスマ的な人物が座ることはままあることで,そういう人と過不足なく仕事をすることはなかなかスリリングなことであろう.一方人は誰しも自分の意志で仕事をしたい,自分の仕事の主人公になりたいという欲求を持つ.そして仕事のためには親兄弟恋人をも犠牲にして良いのかという根本的な選択もある.
この映画ではこういうポイントを巡っての登場人物達のやりとりが面白い.それぞれの言い分はそれなりの正当性はあるが絶対的ではない.観客にはそれが判っているから,この映画の登場人物への共感もリアルになるのだろう.
テンポも良く,俳優も良い(ナイジェル役のスタンリー・トゥッチが魅力的).楽しめる映画である.
★★★★(★5個が満点)
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2007/05/19

独断的映画感想文:風の前奏曲

日記:2007年5月某日
映画「風の前奏曲」を見る.
2004年,タイ.
監督:イッティスーントーン・ウィチャイラック.
アドゥン・ドゥンヤラット,アヌチット・サバンボン,アラティー・タンマハープラーン,ナロンリット・トーサガー.
タイ民族音楽の木琴楽器,ラナートの名奏者ソーン・シラババンレーンの一生を描く音楽映画.
ある晴れた午後,蝶を追う幼児.その蝶はラナートの上に留まる.惹かれるようにばちを取り上げラナートを弾いてみるその子が,やがて長じてラナートの第一人者となるソーンだ.
映画はソーンの青年時代と1930年代の晩年を交互に描いて物語を進めていく.
青年時代のソーンは天賦の才と父の指導で競演会では次々にライバルに打ち勝ち,やがて王族のお抱え楽団の奏者となる.しかしライバルの楽団のラナート奏者クンインは素晴らしい技巧の持ち主で,彼との勝負に一度は敗れたソーンは絶望の淵に落ち込む….
一方1930年代,列強包囲下のアジアで近代化を急ぐ軍部は民族音楽を否定,民族音楽の公演を制限するという極端な文化政策をとった.それに抗し命を削ってラナートを演奏するソーン師には,さすがの軍部も手が出せない….
音楽を中心とした夢のような物語だが,歴史の非情な動きの中で,しかし音楽はこれほどの力も持つのだと納得させる映画でもある.
晩年のソーン師を描く部分で,同じ音楽院の若手ピアニストがピアノを搬入し,ソーン師に何か弾いてみなさいと言われるシーンがある.
恐る恐るジャズを弾くピアニスト,するとソーン師はラナートの前に座り,ピアノに合わせて即興のコラボレーションをする.ほっとして演奏を続けるピアニストに微笑みかけて共演するソーン師.このシーンはソーン師の音楽に対するスタンスを描いて印象的だった.
音楽と映像の美しさが素敵な映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:リアリズムの宿

日記:2007年5月某日
映画「リアリズムの宿」を見る.
2003年.監督:山下淳弘.
長塚圭史,山本浩司,尾野真千子.
つげよしはるの 原作をとぼけた味で映画化したコメディ.
ある田舎の駅で待ち合わせた初対面の二人,方や売れない映画監督木下,此方同じく脚本家坪井.共通の友人,俳優の舟木が来ないまま二人は宿を探して歩き始める.
最初の晩は露天風呂の民宿に泊まったが,その露天風呂は風呂桶が只戸外にあるだけという変な宿.ここから始まる二人の次第に調子のおかしくなるロードムービー.
翌日意味もなく寒風吹きすさぶ海岸にいた二人の前に,パンツ一枚の女性が走り込んでくる.泳いでいたら荷物も服も皆流されたと言う若い女を助け,少し高揚して旅を続ける二人,しかし舟木は姿を現さない….
ということでやや不条理に旅を続ける二人,舟木は現れずそのうち若い女は忽然と姿を消す.金は尽き,泊まる旅館のレベルは落ちる一方,この旅は何故続くのかどう終わるのか?
という映画ですが,まことにとぼけた味と絶妙の間でだれるところがない.
世界的な重大問題を扱っているわけでなく,悲恋でもスペクタクルでもなく,ヒューマンドラマでもなく(ないとも言い切れないか?),来ない友人を待ちながら次第にドツボにはまっていく暇な青年二人.監督は公然と童貞だと言い,脚本家は女と6年同棲したと言う.そのことをお互いにくさしながら青臭い議論やとりとめもないおしゃべりで旅は続く.
こんな時期が誰の人生にもあった筈だが,横から見ていると何ともおかしい,という感じを得られる映画である.
「萌えの朱雀」でデビューし,同じ監督の最新作「殯りの森」に主演している尾野真千子の存在感が面白い.阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史は達者,木下役の山本浩二は,どこか僕の身内にそっくりなところがあって親しみが湧く.
映画らしい映画,見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/05/10

独断的映画感想文:いつか晴れた日に

日記:2007年5月某日
映画「いつか晴れた日に」を見る.
1995年.監督:アン・リー.
エマ・トンプソン(脚本も),アラン・リックマン,ケイト・ウィンスレット,ヒュー・グラント,グレッグ・ワイズ.
英国の女流作家ジェーン・オースティンが1811年に書いた「分別と多感」の映画化,彼女の映画は「プライドと偏見」以来である.
19世紀のイギリス,イングランドはサセックス州のダッシュウッド家は当主が病死,妻と3人の娘は法の定めにより異母兄に全てを相続され,屋敷を出る羽目になる.
当主は死の床に異母兄を呼び3人の娘の庇護を懇願したが,異母兄の妻(血も涙もないハゲタカと描かれる)の反対でそれは実現しなかった.僅かな年金で暮らすことになった親子4人は,従兄弟のジョン卿の離れに落ち着く.
困難な状況の中で家族を支える老嬢に近いエリノア,真の恋を求める多感な情熱家マリアンヌ,海賊ごっこが大好きな末娘マーガレット.彼女たちを巡りジョン卿の旧友ブランドン大佐,異母兄の義弟エドワード,お向かいの当主ウィロビーが入れ替わり現れては恋の物語が展開する….と言う「プライドと偏見」と同工異曲の映画.
男系相続主義のため大変な目に遭うこの姉妹達だが,かといって使用人を使い自分でやることと言えばお茶を入れることくらい,恋にうつつを抜かして一喜一憂している,と見ることも出来る.
一方ではこの娘達の運命に胸を躍らせ,恋の物語の行方に夢中になる.僕の中にはこの相反する立場が混在しているようだ.
映像は美しく,物語のテンポも落ち着いていて好ましい.
特にエマ・トンプソンが良い.
長い物語の果てに,突然の運命の変遷により愛する男と結ばれるのだと判った瞬間,嗚咽にむせぶエリノア.それまで自分を隠し続けた彼女を爆発的な感情の波がとらえ,泣きやむことが出来ない.そのシーンのエマ・トンプソンは胸を打つ.
その後の大団円で一安心.見て損はなし.
★★★★(★5つで満点)
ところでDVDに収録されているエマ・トンプソンのゴールデン・グローブ賞での脚本賞受賞演説は一見の価値あり(脚本賞を取ったのは女優エマ・トンプソンだが,他にノミネートされていた中にはティム・ロビンスもいるのに吃驚).もしこの受賞をジェーン・オースティンが見たらと言う設定で,自身を含めたスタッフを茶化すという演説である.まことに才人である.
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2007/05/06

独断的映画感想文:神童

日記:2007年5月某日
映画「神童」を見る.
2006年.監督:荻生田宏治.
成海璃子,松山ケンイチ,甲本雅裕,手塚理美,キムラ緑子,柄本明,吉田日出子.
原作はさそうあきらのコミック.
言葉を覚えるより先に楽譜が読めピアノが弾けた神童・成瀬うた,早くに父を失い13歳になった彼女は,周囲の期待や母親の英才教育に圧迫感を感じているらしい.
音大を目指している浪人菊名和音は実家の八百屋の2階でピアノの練習にいそしむが,今度受験に失敗したら後がない.
音楽が好きだがテクニック的にはからっきしの和音は,ひょんなことからうたと巡り会い,その指導を仰ぐことになる.物語は和音の受験の顛末,うたと和音の交流,和音のピアニストとしての生きる道,うたの父の死の謎とうたの苦悩を巡って展開していく….
音楽映画は好きです,特にピアノものは.
その点から言ってこの映画も十分楽しめた.うたの耳は過敏すぎるほどだし,和音もピアノはへたくそだが耳は良い.その二人が主人公だから,映画は全体に物静かで音に配慮が行き届いている.その点が好ましい.
また,主演の二人が良い.松山ケンイチは昨年からの1年足らずの間にこれで6本目の映画を見ているが,いずれも異なった役を見事に演じている.成海璃子は初見だが眼に力があって素晴らしい(あと八百屋のおばさんにもはまりました).
原作を読んでいないので何ともいえないところだが,構成としては,クライマックスのコンサートシーンに至る筋書きには無理があるし,エピローグが意味するものはちょっと判り難い.
しかしこの映画のモチーフにもなっている,うたの「大丈夫,わたしは音楽だから」という台詞はなかなかに印象的だった.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

日記:2007年5月某日
映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を見る.
2007年.監督:松岡錠司.
オダギリジョー,樹木希林,内田也哉子,小林薫,松たか子,その他大勢.
リリー・フランキーのベストセラーの映画化.
1960年代,型破りな父と別れ,主人公まー君を連れて小倉から筑豊の実家に戻った母.まー君は時々は父親と過ごしながら,母のおいしい料理と漬け物を食べ,やんちゃな中学生に育っていく.
炭坑の町に嫌気が差したまー君は,高校は大分の美術系の高校に進み大学は東京の美大に進む.パートしながら仕送りしてくれるオカンに済まないと思いつつも怠惰な学生生活のあげく,留年しての卒業,さらに就職もできずお金の無心を重ねるまー君だった….
やがて母を東京に迎え東京タワーの下で共に暮らすというご存知の物語.
原作は家族全員が涙し,樹木希林のオカンとオダギリジョーの主人公というキャスティングにいやが上でも高まった期待だったが,結果はやや期待はずれ.
映画館ではここ彼処から涙をすする気配がしてきたのだから,これは僕の独断と偏見によるのは無論なのだが,泣けませんでした.
泣けなかった最大の原因は,多分おかしくなかったからである.
そもそも父親がまるで普通人である.最初の「アヴァンギャルド」なシーンこそむちゃくちゃであるが,後は大人しいもの,僅かに電話で怒鳴り倒したシーンがある程度で,これではなぜオカンがこの人と別れ・かつ離れられずにずっと一人で暮らしてきたか,よく判らない.オトンはもっと恐ろしく破天荒でめちゃくちゃおかしな人であろう.
オカンの姉妹のおばちゃん達だってそうである.大勢のきら星のような俳優を使った登場人物に紛れてその存在感が薄かったが,この九州のおばちゃん達こそオカンの強烈なバックアップ軍団で,この4姉妹の破天荒さも物語の太い軸だったはずである.
その辺の印象が薄かったことが,物語の起伏を平板にしてしまったように思える.
樹木希林,オダギリジョーの演技はまずまず,松たか子はやはりうまい.
でも往年の松竹母もの映画(といっても知る人は少なかろう,三益愛子・有馬稲子等が出ておりました)みたいになってしまったのは残念.
主人公は自他共にマザコンを認めているが,そのマザコンは只のマザコンではあるまいに.
★★☆(★5個が満点)
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2007/05/02

独断的映画感想文:クィーン

日記:2007年は4月某日
映画「クイーン」見る.2006年.監督:スティーブン・フリアーズ.
ヘレン・ミレン,マイケル・シーン,ジェームズ・クロムウェル,ロジャー・アラム.
1997年,トニー・ブレアが総選挙に勝利し,王室廃止論者の妻を伴いエリザベス女王に謁見し,組閣の要請を受ける.
その直後,パリでダイアナ元皇太子妃が死去した.哀しみに沈む英国民,しかし民間人となった元皇太子妃に対しイギリス王室は公式には何のコメントも出さず,女王は世論の非難を浴びることになる.
ダイアナの死からその葬儀までの1週間を巡る,女王の苦悩の物語.
「全てを国民と国家に捧げる」と誓った女王の心中は,しかし穏やかではない.一民間人の死ではないか,やがて国民は冷静を取り戻す.そう信じていたのにどういうことだろう,自分は読み違えたのか.国民は変わってしまったのか?
この彼女の悩みに答えてくれるものは家族の中にはいない.
夫のエディンバラ公はダイアナを罵るだけだし,チャールズはダイアナへの弔意を示さないと王室は襲われると脅えている.この時96歳の皇太后も相談相手にはならない.
トニー・ブレアからは数回の電話で,弔意を示すよう要請が届く.その要請に応えるべきかどうか….
女王を演じたヘレン・ミレンの見応えある演技が素晴らしい.
似ている!というのも確かだが,その苦悩が女王の苦悩であるという難しい役を見事に演じて,たいしたものである.
映画は全体に神経が行き届いていて興味をそがれることがない.
女王の周辺の人々の,女王への敬愛と畏怖のそれぞれの表情,女王の君主としての厳しい顔と一女性としての疲れた顔が,よく描かれている.
終盤近く,領地に滞在中の女王の反対を押し切って王子達の気晴らしにとエディンバラ公達が鹿撃ちに出かける.後を単身追った女王のジープがエンコし,女王は川の畔でたった一人救援を待つ.
車に腰を掛け丘を見上げる女王の後ろ姿,微かに嗚咽が聞こえる.
その時対岸に,森の王と言えるほどの大鹿がたたずんで女王を見ていた.鹿に気付いた女王は微笑んで涙をぬぐい,逃げるようにと鹿に合図する.
このシーンが素敵である.
鹿は無事逃げおおせたかと思われたが,その後隣の領地の猟場で撃たれたと聞き,女王は急遽その屋敷を訪れる.小屋の天井から吊された大鹿,その首は切り落とされテーブルの上に置かれている.
その首に触れる女王の沈痛な表情が印象的である.その鹿は女王自身の象徴でもあろうか?
緊迫感みなぎるドラマ,実に映画らしい映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ゆれる

日記:2007年は4月某日
映画「ゆれる」を見る.2006年.監督:西川美和.
オダギリジョー,香川照之,伊武雅刀,新井浩文,木村祐一,真木よう子.
都会で写真家として成功した弟は、母親の一周忌で帰郷する.家業を手伝っている律儀者の兄は温かく迎えてくれるが,父親は故郷を捨てた弟に頑なである.
兄のスタンドで働いている智恵子は昔の弟の恋人だった.弟は彼女と一夜を共にする.
翌日,兄弟は彼女と3人で川釣りに行き,兄と智恵子が川に架かった吊り橋を渡っていたとき、智恵子は転落死する.橋の上から呆然と見下ろす動転した兄,弟は目撃した内容を隠し,何も見なかったと説明する.
事故だと思われた一件は,しかし兄が自分が突き落としたと自白したことから、殺人事件として展開することになる….
「藪の中」に似て関係者の証言が交錯する中で明らかにされる兄弟・家族の葛藤が,この映画のメインである.その葛藤は都会に出てうまくやったものと,田舎に残って律儀に家を守ってきたものとの葛藤でもあり(父親とその弟がすでにそうだった),智恵子を巡る兄弟の葛藤でもある.
それを巡って「ゆれる」心を演じる,オダギリジョーと香川照之.二人の主張は時により状況により変わっていく.
その交錯が「藪の中」状態なのだが,芥川の「藪の中」を映画化した黒澤の「羅生門」では相矛盾する証言がそれぞれに映像として示され,そのどれが真実なのか誰も判らない.
一方この「揺れる」ではいくつか示される事件の映像のうち,最後に示される弟の回想シーンが真実なのだという印象を,観客に与えてしまうのではないだろうか.ただそうなると兄と弟の人物評価は黒白が決定的になり,監督の意図したものと変わってくるかもしれない.
この映画にはそういう疑問点があった.しかしそれでも,香川照之・オダギリジョーの両俳優を見るだけで満足感高し.
また,カメラ(高瀬比呂志)がなかなか良く,これも見応えあり.
保守的な僕の目から見ると斬新な映像が多い(切りかけのトマトのアップとか,窓をノックしようとして途中で止まった白い腕とか)ことが印象的だった.
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独断的映画感想文:単騎、千里を走る。

日記:2007年は4月某日
映画「単騎、千里を走る。」を見る.
2005年.監督:チャン・イーモウ(降旗康男).
高倉健,寺島しのぶ,リー・ジャーミン,チューリン,ヤン・ジャンボー.
チャン・イーモウ監督が「君よ憤怒の河を渡れ」以来の憧れである高倉健を起用した,日中友好人間ドラマ.日本版は監督の意向で,降旗康男が担当している.
ある事件をきっかけに息子と疎遠となり,故郷の漁村に引っ込んだ高田剛一のもとへ,息子の妻から電話がかかる.息子健一が末期ガンで入院中というのだ.
病院に見舞いに行くが,息子は頑なに会おうとはしない.
息子のために何かをしてやれないかと思った剛一は,息子が中国取材の折,翌年撮影に行くことを俳優と約束した仮面劇「単騎、千里を走る。」を,息子に代わって撮影してこようと決意する.
ところが何とか中国に渡り目的の町麗江市へ行ったが,俳優リー・ジャーミンは罪を犯して刑務所に入っているという.剛一は刑務所に行ってその撮影を何とかしたいと言うが,通訳は無理だと行って帰ってしまう.あきらめきれず剛一はガイドのチューリンを雇い、自分の思いを担当官に訴え何とか許可を取り付ける.
ところがいざリー・ジャーミンの撮影をしようとすると、俳優は8年前に生まれたまだ見ぬ息子に会いたいと言って泣き、撮影ができない.剛一は息子のいる石塔村に行って息子を連れてこようと決意する….
とここまで書いて判るかもしれないが,ストーリーはむちゃくちゃである.まずなぜ剛一が中国に行って撮影をしなければならないかがよく判らない.その後の艱難辛苦を剛一が鉄の意志で突破していくのは良いとして,その過程で剛一が通訳を振り回しガイドを走らせ,関係者一同に迷惑の限りをかけて目的を完遂しようとするのは,見ているこちらが身の縮む思いをするほどである.
中国の山村の素朴な人々のあふれる友好精神は素晴らしいし,刑務所長のあふれる好意は頼もしいが,何とも現実感がない.父子の葛藤も説得力に乏しいものだ.
雲南省の映像は美しいし,俳優の息子ヤンヤンとのエピソードは印象的だが,映画全体としてはどうも受け入れがたい.また,日本版での海辺の風景描写が、もう少し何とかならなかっただろうか.
ところでメイキングは素晴らしい.本編より感動的かもしれない.
★★(★5個が満点)
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