独断的映画感想文:クィーン
日記:2007年は4月某日
映画「クイーン」見る.2006年.監督:スティーブン・フリアーズ.
ヘレン・ミレン,マイケル・シーン,ジェームズ・クロムウェル,ロジャー・アラム.
1997年,トニー・ブレアが総選挙に勝利し,王室廃止論者の妻を伴いエリザベス女王に謁見し,組閣の要請を受ける.
その直後,パリでダイアナ元皇太子妃が死去した.哀しみに沈む英国民,しかし民間人となった元皇太子妃に対しイギリス王室は公式には何のコメントも出さず,女王は世論の非難を浴びることになる.
ダイアナの死からその葬儀までの1週間を巡る,女王の苦悩の物語.
「全てを国民と国家に捧げる」と誓った女王の心中は,しかし穏やかではない.一民間人の死ではないか,やがて国民は冷静を取り戻す.そう信じていたのにどういうことだろう,自分は読み違えたのか.国民は変わってしまったのか?
この彼女の悩みに答えてくれるものは家族の中にはいない.
夫のエディンバラ公はダイアナを罵るだけだし,チャールズはダイアナへの弔意を示さないと王室は襲われると脅えている.この時96歳の皇太后も相談相手にはならない.
トニー・ブレアからは数回の電話で,弔意を示すよう要請が届く.その要請に応えるべきかどうか….
女王を演じたヘレン・ミレンの見応えある演技が素晴らしい.
似ている!というのも確かだが,その苦悩が女王の苦悩であるという難しい役を見事に演じて,たいしたものである.
映画は全体に神経が行き届いていて興味をそがれることがない.
女王の周辺の人々の,女王への敬愛と畏怖のそれぞれの表情,女王の君主としての厳しい顔と一女性としての疲れた顔が,よく描かれている.
終盤近く,領地に滞在中の女王の反対を押し切って王子達の気晴らしにとエディンバラ公達が鹿撃ちに出かける.後を単身追った女王のジープがエンコし,女王は川の畔でたった一人救援を待つ.
車に腰を掛け丘を見上げる女王の後ろ姿,微かに嗚咽が聞こえる.
その時対岸に,森の王と言えるほどの大鹿がたたずんで女王を見ていた.鹿に気付いた女王は微笑んで涙をぬぐい,逃げるようにと鹿に合図する.
このシーンが素敵である.
鹿は無事逃げおおせたかと思われたが,その後隣の領地の猟場で撃たれたと聞き,女王は急遽その屋敷を訪れる.小屋の天井から吊された大鹿,その首は切り落とされテーブルの上に置かれている.
その首に触れる女王の沈痛な表情が印象的である.その鹿は女王自身の象徴でもあろうか?
緊迫感みなぎるドラマ,実に映画らしい映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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