独断的映画感想文:リアリズムの宿
日記:2007年5月某日
映画「リアリズムの宿」を見る.
2003年.監督:山下淳弘.
長塚圭史,山本浩司,尾野真千子.
つげよしはるの 原作をとぼけた味で映画化したコメディ.
ある田舎の駅で待ち合わせた初対面の二人,方や売れない映画監督木下,此方同じく脚本家坪井.共通の友人,俳優の舟木が来ないまま二人は宿を探して歩き始める.
最初の晩は露天風呂の民宿に泊まったが,その露天風呂は風呂桶が只戸外にあるだけという変な宿.ここから始まる二人の次第に調子のおかしくなるロードムービー.
翌日意味もなく寒風吹きすさぶ海岸にいた二人の前に,パンツ一枚の女性が走り込んでくる.泳いでいたら荷物も服も皆流されたと言う若い女を助け,少し高揚して旅を続ける二人,しかし舟木は姿を現さない….
ということでやや不条理に旅を続ける二人,舟木は現れずそのうち若い女は忽然と姿を消す.金は尽き,泊まる旅館のレベルは落ちる一方,この旅は何故続くのかどう終わるのか?
という映画ですが,まことにとぼけた味と絶妙の間でだれるところがない.
世界的な重大問題を扱っているわけでなく,悲恋でもスペクタクルでもなく,ヒューマンドラマでもなく(ないとも言い切れないか?),来ない友人を待ちながら次第にドツボにはまっていく暇な青年二人.監督は公然と童貞だと言い,脚本家は女と6年同棲したと言う.そのことをお互いにくさしながら青臭い議論やとりとめもないおしゃべりで旅は続く.
こんな時期が誰の人生にもあった筈だが,横から見ていると何ともおかしい,という感じを得られる映画である.
「萌えの朱雀」でデビューし,同じ監督の最新作「殯りの森」に主演している尾野真千子の存在感が面白い.阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史は達者,木下役の山本浩二は,どこか僕の身内にそっくりなところがあって親しみが湧く.
映画らしい映画,見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
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コメント
ほんやら堂さん こんにちは。TBありがとうございます。
このところ個人的に忙しくてご無沙汰していました。「リアリズムの宿」をご覧になったのですね。何とも不思議な味わいの映画ですよね。つげ義春の原作も独特の文学的香りを持った漫画ですが、この映画は原作とは違った味付けにしているところが成功した一番の要因だと思います。
「ゴドーを待ちながら」をもじった「船木を待ちながら」のような展開にしたこと、原作の持っている物寂しさやそこはかとなく感じる滑稽さをクスクス笑いに変え、原作とはまた違ったシュールなひねりを盛り込んでいると思います。
実に特異な作風で、日本映画の幅の広さを感じさせます。同時に世界に冠たる日本の漫画の土壌の深さ、広さが元にあり、手塚治虫や宮崎駿だけではない日本の文化的土壌の豊かさを感じます。
投稿: ゴブリン | 2007/05/19 12:49