独断的映画感想文:風の前奏曲
日記:2007年5月某日
映画「風の前奏曲」を見る.
2004年,タイ.
監督:イッティスーントーン・ウィチャイラック.
アドゥン・ドゥンヤラット,アヌチット・サバンボン,アラティー・タンマハープラーン,ナロンリット・トーサガー.
タイ民族音楽の木琴楽器,ラナートの名奏者ソーン・シラババンレーンの一生を描く音楽映画.
ある晴れた午後,蝶を追う幼児.その蝶はラナートの上に留まる.惹かれるようにばちを取り上げラナートを弾いてみるその子が,やがて長じてラナートの第一人者となるソーンだ.
映画はソーンの青年時代と1930年代の晩年を交互に描いて物語を進めていく.
青年時代のソーンは天賦の才と父の指導で競演会では次々にライバルに打ち勝ち,やがて王族のお抱え楽団の奏者となる.しかしライバルの楽団のラナート奏者クンインは素晴らしい技巧の持ち主で,彼との勝負に一度は敗れたソーンは絶望の淵に落ち込む….
一方1930年代,列強包囲下のアジアで近代化を急ぐ軍部は民族音楽を否定,民族音楽の公演を制限するという極端な文化政策をとった.それに抗し命を削ってラナートを演奏するソーン師には,さすがの軍部も手が出せない….
音楽を中心とした夢のような物語だが,歴史の非情な動きの中で,しかし音楽はこれほどの力も持つのだと納得させる映画でもある.
晩年のソーン師を描く部分で,同じ音楽院の若手ピアニストがピアノを搬入し,ソーン師に何か弾いてみなさいと言われるシーンがある.
恐る恐るジャズを弾くピアニスト,するとソーン師はラナートの前に座り,ピアノに合わせて即興のコラボレーションをする.ほっとして演奏を続けるピアニストに微笑みかけて共演するソーン師.このシーンはソーン師の音楽に対するスタンスを描いて印象的だった.
音楽と映像の美しさが素敵な映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
ほんやら堂さん こんにちは。TBありがとうございます。
ミュージカルとは違う音楽映画というジャンルがあると思いますが、この映画はその音楽映画の中で10本の指に入る傑作だと思います。
神業のような超絶技巧を駆使した演奏バトルの場面も純粋に音楽を楽しむピアノと共演する場面も、それぞれに素晴らしい。タイ映画がこれだけの水準の映画を作れるということは驚きですが、日本・韓国・中国だけではないアジア映画全体のレベルが上がってきていることをうれしく思います。
投稿: ゴブリン | 2007/05/20 12:28