独断的映画感想文:拝啓天皇陛下様
日記:2007年6月某日
映画「拝啓天皇陛下様」を見る.
1963年.監督:野村芳太郎.渥美清,長門裕之,左幸子,中村メイ子,高千穂ひづる,藤山寛美.
昭和10年に徴兵検査に合格,入営した棟田は,奇妙な同年兵山田正助と知り合う.親を早くに亡くし苦労して育った正助にとって3度のメシが食える軍隊は天国のようなものだった.
そんな彼を不憫に思った中隊長は,教員出身の初年兵をつけて彼に識字教育を施す.
そんなある日,彼らの部隊は演習の途中で偶然天皇と行き会い,山田はその温和な表情に魅了されるのだった.2年経って除隊する二人だが,やがて戦争の激化と共に徴兵され再会する….
その後の終戦・戦後を通じた二人の人生を描く映画.
反戦でも好戦でもない,正義でも悪でもない庶民の二人が戦争と軍隊に巻き込まれ,上官には威張られて何とか復員して暮らしていく人生.
戦争の時代に生きた彼らを描くこの映画は,出来の良い映画である.渥美清のとぼけた演技は何とも味がある,若い長門裕之も良い.藤山寛美は短い出演シーンながら最高の出来である.映画としては名作の一つであろう.
それでも僕はこの映画を楽しむことが出来なかった.それは一体何故か.
一つには戦争と軍隊を舞台にした喜劇という設定そのものが,受け入れられないのかも知れない.僕の戦争ドラマの原点は,フランキー堺の「私は貝になりたい」であり,戦争小説の原点は「人間の條件」である.戦争に喜劇を受け入れる下地はないというのが正直なところだ.
もう一つは,年のせいもあるかも知れないが,戦争という状態の怖さがイヤなのだ.
戦争は,それまでの娑婆の日常の力関係が全く逆転する事態だ.社会の中で若い者,声の大きいもの,目の吊り上がったものが幅をきかす.実直なもの,経験豊かなもの,落ち着いたものが力を失い,はったり,無謀,猪突猛進者が取って代わる.
そういう状況で自分がどうなるかがあまりにも明らかで,それが映画を楽しめない理由なのだ.
そして今の社会の状況は,そういう感覚をより鮮明にするのではないだろうか.
★★★(★5個が満点)
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