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2007年6月に作成された記事

2007/06/28

独断的映画感想文:拝啓天皇陛下様

日記:2007年6月某日
映画「拝啓天皇陛下様」を見る.
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1963年.監督:野村芳太郎.渥美清,長門裕之,左幸子,中村メイ子,高千穂ひづる,藤山寛美.
昭和10年に徴兵検査に合格,入営した棟田は,奇妙な同年兵山田正助と知り合う.親を早くに亡くし苦労して育った正助にとって3度のメシが食える軍隊は天国のようなものだった.
そんな彼を不憫に思った中隊長は,教員出身の初年兵をつけて彼に識字教育を施す.
そんなある日,彼らの部隊は演習の途中で偶然天皇と行き会い,山田はその温和な表情に魅了されるのだった.2年経って除隊する二人だが,やがて戦争の激化と共に徴兵され再会する….
その後の終戦・戦後を通じた二人の人生を描く映画.
反戦でも好戦でもない,正義でも悪でもない庶民の二人が戦争と軍隊に巻き込まれ,上官には威張られて何とか復員して暮らしていく人生.
戦争の時代に生きた彼らを描くこの映画は,出来の良い映画である.渥美清のとぼけた演技は何とも味がある,若い長門裕之も良い.藤山寛美は短い出演シーンながら最高の出来である.映画としては名作の一つであろう.
それでも僕はこの映画を楽しむことが出来なかった.それは一体何故か.
一つには戦争と軍隊を舞台にした喜劇という設定そのものが,受け入れられないのかも知れない.僕の戦争ドラマの原点は,フランキー堺の「私は貝になりたい」であり,戦争小説の原点は「人間の條件」である.戦争に喜劇を受け入れる下地はないというのが正直なところだ.
もう一つは,年のせいもあるかも知れないが,戦争という状態の怖さがイヤなのだ.
戦争は,それまでの娑婆の日常の力関係が全く逆転する事態だ.社会の中で若い者,声の大きいもの,目の吊り上がったものが幅をきかす.実直なもの,経験豊かなもの,落ち着いたものが力を失い,はったり,無謀,猪突猛進者が取って代わる.
そういう状況で自分がどうなるかがあまりにも明らかで,それが映画を楽しめない理由なのだ.
そして今の社会の状況は,そういう感覚をより鮮明にするのではないだろうか.
★★★(★5個が満点)
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2007/06/18

独断的映画感想文:父親たちの星条旗

日記:2007年6月某日
映画「父親たちの星条旗」を見る.
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2006年.監督:クリント・イーストウッド.
ライアン・フィリップ,ジェシー・ブラッドフォード,アダム・ビーチ,バリー・ペッパー.
太平洋戦争の最大の激戦地の一つ硫黄島,この島から配信された,有名な6人の兵士による星条旗掲揚写真を巡る物語.
終戦後復員し葬儀屋で成功したジョン・“ドク”・ブラッドリーは,病に倒れ死の床にあった.息子のジェイムズは,父がほとんど語らなかったその硫黄島での体験を調べ始める.
硫黄島での戦闘は凄惨を極めた.小隊の衛生兵“ドク”は偶然,擂鉢山制圧後山頂にアメリカ国旗を立てた6人の兵士の一員となる.
そのとき撮られた写真は全米に配信され,アメリカ国民を熱狂させた.財務省はその6人を召還し,国債販売の一大キャンペーンを張ろうと画策する.
その6人の兵士は誰かが調査され,兵士レイニーは,決して自分の名前を出すなと懇願したネイティブ・アメリカンのアイラの名前を含め6名の名前を上申する.そのうちの1名は誤って別人の名が伝えられたが,当局は委細構わず公表し,生存していたレイニー,“ドク”,アイラの3人が国債キャンペーンのため召還され全国を巡回することになる….
映画は写真に写っていたがために「英雄」ともてはやされた3人の兵士のその後の行動と,硫黄島での戦闘を交互に描きながら6人の兵士のその後を追っていく.
硫黄島の戦闘は凄絶である.
戦闘で個々の兵士はその命を落としていく.しかし軍という組織の長にとっては,また国家という組織の一員にとっては,兵士とは数あるいは機能に過ぎない.
個々の兵士にとっては,戦死したその家族が受ける栄誉を含め6人が誰であるかは,かけがえもなく重要な事実だ.ところが軍の上層部や財務省にとっては兵士が誰であるかには何の意味もない.問題はその兵士が国債販売に役立つかどうかだけである.
戦争では常に,国家の命を受けて戦場に赴き死んでいく兵士達と,戦争を利用して財をなし名誉をつかむ,国家の周辺にいるひとかたまりの人々が存在するのだ.この映画はその狭間に放り込まれた兵士達の,困惑に満ちたその後の人生を描いたと言える.
只,戦争とは凝縮された平時に過ぎず,その意味で今僕たちが抱える困難は,この映画の描く困難と本質で変わるものではない.
映画は語り手が誰で,その視点がどこにあるかについて分かり難いところがあるが,その意図は十分に示されていると思う.緊張感の維持された映画らしい映画.
2部作を通して言えば,「硫黄島からの手紙」の方にテーマとその説明の明快性で,分がありそうだ.
★★★★(★5個が満点)
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2007/06/13

独断的映画感想文:龍馬暗殺

日記:2007年6月某日
映画「龍馬暗殺」を見る.
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1974年.監督:黒木和雄.
原田芳雄,石橋蓮司,中川梨絵,松田優作,桃井かおり.
60年代後期から70年代前半にいたる大学紛争,ベトナム反戦運動の余燼まだくすぶる1974年に制作されたこの作品,坂本龍馬の暗殺直前の3日間を描きながら,この年代の雰囲気を何となく感じさせる.
スタッフには黒田征太郎,野坂昭如,浅井慎平等の映画界以外からの時代の寵児が参加している.
物語は,龍馬が海援隊の常宿「酢屋」から「近江屋」の蔵に身を隠す引っ越しシーンから始まる.
龍馬は佐幕派からはもちろん,薩摩藩からも命を狙われており,陸援隊中では薩摩との関係から龍馬を切るよう中岡慎太郎が詰め寄られる始末である.それを知らぬげに,龍馬は隠れ家の墓地をはさんで向かいの2階に住む囲われもの,幡とねんごろになる.
その弟右太は薩摩藩邸に出入りするフリーランスの殺し屋,龍馬をつけ狙うが龍馬の度量に翻弄され,いつしか彼を慕うようになる.
映画は主にこの4人を中心に薩摩,長州と陸援隊との政治的緊張,街中のええじゃないかの群舞を絡めて進行する….
若々しい原田芳雄,石橋蓮司が新鮮だ.映画出演2年目の松田優作も懐かしい.桃井かおりも若いが全く初々しくないのが彼女らしい.
映画は緊張感溢れる展開と,原田芳雄の機関銃のような土佐弁の弁舌,思わぬところで差し挟まれるユーモアで観客を自在に扱う.
しかしこの映画の最大の魅力は,幕末の大政奉還直後の政治的緊張の中で語られる龍馬の(架空の)戦略であろう.暗殺の直前,中岡慎太郎に龍馬は,薩長が倒幕に成功した後その政権を襲って次の段階の維新を実現するため,平民の子弟からなる新しい海援隊を組織するのだと打ち明ける.中岡には陸援隊の親薩摩派を切って隊を把握し,自分に合流せよと迫る.今夜半にはその活動のために出立しようと語り合う.
その直後に二人は殺されるのだ.
つまりこの映画が描いているのは,果たされなかった革命の挽歌ということになるのではないか.
33年前に見た時の新鮮な印象が未だに蘇る名作である.
★★★★☆(★5個が満点)
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2007/06/10

独断的映画感想文:パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド

日記:2007年6月某日
映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」を見る.
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2007年.監督:ゴア・ヴァービンスキー.
ジョニー・デップ,キーラ・ナイトレイ,オーランド・ブルーム,チョウ・ユンファ,ジェフリー・ラッシュ,ナオミ・ハリス,キース・リチャーズ.
複雑怪奇な登場人物相関と物語構成が悩みの種の本シリーズもついに完結編.
前作で深海の悪霊ことデイヴィー・ジョーンズの心臓を手中にし,彼を支配することに成功したベケット卿は海賊への圧力を強める.対抗する海賊は9人の海賊長による評議会を開こうとするが,その9人の一人ジャック・スパロウが前回最後でこの世とあの世の間,デイヴィー・ジョーンズの墓場に落ち込んでいることが判り,バルボッサ船長に率いられたおなじみの面々がその救出に向かおうとする.
映画はその船と船員を手に入れるため,シンガポールの海賊,サオ・フェンの本拠に潜入するバルボッサ,エリザベスらの戦いからスタートする….
というのが大状況だが,相変わらず全体の筋はつかめない.
前回,何故バルボッサ船長が復活したのかも判らなかったし,この冒頭のシーンにしても,何故エリザベスの横の桶の中から縛り上げられたウィル・ターナーが引き上げられたのか判らなかった.
しかしまあそういうことはどうでも宜しい.この170分の長尺の中で,細かなことはどうでも良くなってしまう.
それにだいたい海賊たちの約束や盟約は実にいい加減でしょっちゅう破られるから,それをいちいち追っていてもしょうがない.
それよりこのディズニー的胸躍る冒険活劇の豪華絢爛さはどうだろう.まさに理屈抜きの面白さである.
終盤延々と戦われる海賊連合のブラック・パール号とデイヴィー・ジョーンズ・東インド会社連合軍のフライイング・ダッチマン号の大渦巻きを隔てた死闘,両船にロープで飛び移る海賊たち,ジャック・スパロウとデイヴィー・ジョーンズのお約束の帆桁上でのチャンバラ,まさに息をのみ血湧き肉躍る.映画ってこうでなくっちゃ!!
大満足の★★★★(★5個が満点).
しかしこの映画は見る前に腹ごしらえをし,おトイレも済まして行きましょう.
最後に一言,ジャック船長の父親役で出たキース・リチャーズの貫禄とギター・プレイに敬礼!
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2007/06/09

独断的映画感想文:武士の一分

日記:2007年6月某日
映画「武士の一分」を見る.
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2006年.監督:山田洋次.
木村拓哉,壇れい,笹野高史,桃井かおり,緒方拳,板東三津五郎.
山田洋次の藤沢周平作品第3弾.
三十石取りの武士三村新之丞は,剣も使える秀才だが,仕事はお毒味役で張り合いがない.早くに隠居して庶民の子供のため,その一人一人の個性にあった剣の指導をする道場を開きたいと思っている.
ところがある日新之丞は貝の毒に当たって倒れ,高熱を発する.毒味役の本分は果たしながら,妻加代の献身的な看病にもかかわらず,このことがもとで彼は失明してしまう.
絶望のうちに暮らす新之丞だが,幸い禄高は安堵され生涯養生と決まった.
ある日叔母のおしゃべりで,妻加代が茶屋のあたりで目撃されたことを知り,新之丞は下男徳平に加代の後をつけさせる.加代は寺参りの後,待合い茶屋に入っていった….
前2作と同様,下級武士の日常生活が物語の中心となる地味な時代劇である.
その日常の書き込み方はしっかりしたもの.主人公が失明したため,外に出歩くこともなく,家とその庭の描写が中心だが,蛍を飛ばしたり蛙の鳴き声が入ったり,風景描写も手抜かりがない.
俳優では壇れいと笹野高史が良かった.
壇れいの古風な顔立ちと押さえた演技は時代劇に良く合っている.
笹野高史の演技は絶品と言いたい.とぼけた味や動作の間の取り方など,一つ一つがツボにはまっている.先代から仕えているという老僕徳平の,新之丞に対する距離感や状況に応じた態度の変化,その中で一貫して繰り返される「呼んだかの?」という応答のおかしさや哀しさが絶妙である.
木村拓哉は最初元気なときの新之丞の演技には,時代劇の中でそこだけが現代みたいな違和感があった.
しかし失明し絶望に陥ってからの制約ある状況下での演技は,良く演出に従い見応えがあった.また殺陣での体の切れには,やはり素晴らしいものがある.
決闘シーン以外は淡々と進む映画だが緊張感は維持され,最後のエピローグでそれがほどける.その結末にはやはり泣かされてしまった.
★★★★(★5個が満点)
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2007/06/02

独断的映画感想文:最後の怪獣

日記:2007年6月某日
映画「最後の怪獣」を見る.
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6月3日:すみだリバーサイドホール上映会.
2007年.監督・脚本:高橋明大.
柳沢茂樹,いせゆみこ,足立智充,上村聡,社城貴司,笠木泉,関寛之,松永大輔,持山優美.
PFFアワード2007一次審査通過作品.
幼いときのDV(家庭内暴力)のために深いトラウマを負っている丸岡修二,今,鞠子とつきあっている彼は結婚を考え始めている.
新しい生活のためにも自分のトラウマを解決しようと考えた彼は,密かにDV経験者の集団セラピーに参加,そこで月岡という青年と知り合う.そのセラピーの「夢を語る」というセッションで,修二は自分が怪獣となって両親を踏みつぶすという繰り返し見る夢を語るのだった.
事態は平穏に進みやがて鞠子にプロポーズしようとしたとき,修二は鞠子が懐妊したことを知る.DV経験者は自らもDVを行う可能性がある「怪獣」なのだと主張する月岡,それに激しく反発しながら修二は「子供」をどうするのか,深刻な選択に直面するのだった….
この地味なモノクロ作品は,しかし,映画の作り出す物語の深さと豊かさを存分に味わわせてくれる.
坦々と進む前半に比べ,中盤の静かな展開,そして後半の衝撃的な展開,この後半に作り込められた爆発的なエネルギーに観客は深い感動を覚えるであろう.
そして迎える癒し感あふれるエピローグ,エピローグとはかくありたいものだ.
明快なメッセージを込めた73分の映画だった.一見の価値あり!
(身内の映画のため点数はつけませんが,おすすめです)

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