独断的映画感想文:龍馬暗殺
日記:2007年6月某日
映画「龍馬暗殺」を見る.
1974年.監督:黒木和雄.
原田芳雄,石橋蓮司,中川梨絵,松田優作,桃井かおり.
60年代後期から70年代前半にいたる大学紛争,ベトナム反戦運動の余燼まだくすぶる1974年に制作されたこの作品,坂本龍馬の暗殺直前の3日間を描きながら,この年代の雰囲気を何となく感じさせる.
スタッフには黒田征太郎,野坂昭如,浅井慎平等の映画界以外からの時代の寵児が参加している.
物語は,龍馬が海援隊の常宿「酢屋」から「近江屋」の蔵に身を隠す引っ越しシーンから始まる.
龍馬は佐幕派からはもちろん,薩摩藩からも命を狙われており,陸援隊中では薩摩との関係から龍馬を切るよう中岡慎太郎が詰め寄られる始末である.それを知らぬげに,龍馬は隠れ家の墓地をはさんで向かいの2階に住む囲われもの,幡とねんごろになる.
その弟右太は薩摩藩邸に出入りするフリーランスの殺し屋,龍馬をつけ狙うが龍馬の度量に翻弄され,いつしか彼を慕うようになる.
映画は主にこの4人を中心に薩摩,長州と陸援隊との政治的緊張,街中のええじゃないかの群舞を絡めて進行する….
若々しい原田芳雄,石橋蓮司が新鮮だ.映画出演2年目の松田優作も懐かしい.桃井かおりも若いが全く初々しくないのが彼女らしい.
映画は緊張感溢れる展開と,原田芳雄の機関銃のような土佐弁の弁舌,思わぬところで差し挟まれるユーモアで観客を自在に扱う.
しかしこの映画の最大の魅力は,幕末の大政奉還直後の政治的緊張の中で語られる龍馬の(架空の)戦略であろう.暗殺の直前,中岡慎太郎に龍馬は,薩長が倒幕に成功した後その政権を襲って次の段階の維新を実現するため,平民の子弟からなる新しい海援隊を組織するのだと打ち明ける.中岡には陸援隊の親薩摩派を切って隊を把握し,自分に合流せよと迫る.今夜半にはその活動のために出立しようと語り合う.
その直後に二人は殺されるのだ.
つまりこの映画が描いているのは,果たされなかった革命の挽歌ということになるのではないか.
33年前に見た時の新鮮な印象が未だに蘇る名作である.
★★★★☆(★5個が満点)
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