独断的映画感想文:武士の一分
日記:2007年6月某日
映画「武士の一分」を見る.
2006年.監督:山田洋次.
木村拓哉,壇れい,笹野高史,桃井かおり,緒方拳,板東三津五郎.
山田洋次の藤沢周平作品第3弾.
三十石取りの武士三村新之丞は,剣も使える秀才だが,仕事はお毒味役で張り合いがない.早くに隠居して庶民の子供のため,その一人一人の個性にあった剣の指導をする道場を開きたいと思っている.
ところがある日新之丞は貝の毒に当たって倒れ,高熱を発する.毒味役の本分は果たしながら,妻加代の献身的な看病にもかかわらず,このことがもとで彼は失明してしまう.
絶望のうちに暮らす新之丞だが,幸い禄高は安堵され生涯養生と決まった.
ある日叔母のおしゃべりで,妻加代が茶屋のあたりで目撃されたことを知り,新之丞は下男徳平に加代の後をつけさせる.加代は寺参りの後,待合い茶屋に入っていった….
前2作と同様,下級武士の日常生活が物語の中心となる地味な時代劇である.
その日常の書き込み方はしっかりしたもの.主人公が失明したため,外に出歩くこともなく,家とその庭の描写が中心だが,蛍を飛ばしたり蛙の鳴き声が入ったり,風景描写も手抜かりがない.
俳優では壇れいと笹野高史が良かった.
壇れいの古風な顔立ちと押さえた演技は時代劇に良く合っている.
笹野高史の演技は絶品と言いたい.とぼけた味や動作の間の取り方など,一つ一つがツボにはまっている.先代から仕えているという老僕徳平の,新之丞に対する距離感や状況に応じた態度の変化,その中で一貫して繰り返される「呼んだかの?」という応答のおかしさや哀しさが絶妙である.
木村拓哉は最初元気なときの新之丞の演技には,時代劇の中でそこだけが現代みたいな違和感があった.
しかし失明し絶望に陥ってからの制約ある状況下での演技は,良く演出に従い見応えがあった.また殺陣での体の切れには,やはり素晴らしいものがある.
決闘シーン以外は淡々と進む映画だが緊張感は維持され,最後のエピローグでそれがほどける.その結末にはやはり泣かされてしまった.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
ほんやら堂さん 今晩は。TB&コメントありがとうございます。
この映画のDVDが出てから僕の「武士の一分」レビューへのアクセスが一気に増えました。アクセス解析を見ると壁紙が目当てで、パッと見てすぐ他に移って行っているようですが、それだけ多くの人がこの映画に関心を持っているということでしょう。
おそらく普段時代劇など見ない若い人たちが、キムタクも出ているしDVDなら借りてみようと思ったのでしょうね。この映画のキムタクは見事に監督の期待に応えました。たとえキムタク目当てでも、若い人たちがこの映画を通じて時代劇や山田監督に少しでも関心を持ってくれたのならうれしい限りです。
投稿: ゴブリン | 2007/06/15 00:45
ほんやら堂さん、またまたお邪魔してるですよ(笑)。
原作と映画の乖離は仕方がない事だと日頃肝に銘じてるですが、
如何せん、それが藤沢作品となると心中穏やかならず(苦笑)。
やっぱり原作の見事な締め括りが頭にあるので、
「んきゃぁぁー!!」思っちゃった次第。
まぁ、仕方がないんですがね・・・。
投稿: カゴメ | 2007/07/16 16:05
カゴメ様
コメント大歓迎です.
藤沢作品への並々ならぬ思い入れ,同感です.
「蝉しぐれ」で残念な思いをしたのが思い出されますね.TVドラマの方がよほど良かった.
でも山田監督にはもっと撮って欲しいと思っています.
投稿: ほんやら堂 | 2007/07/16 19:25