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2007年9月に作成された記事

2007/09/27

独断的映画感想文:ファイナル・カット

日記:2007年9月某日
映画「ファイナル・カット」を見る.Finalcut2
2004年.監督:オマー・ナイーム.
ロビン・ウィリアムス,ミラ・ソルヴィノ,ジム・カヴィーゼル.
一人ビー玉で遊んでいる男の子ルイス.同年齢と見える子アランが現れ,二人は遊び始める.
やがて二人は廃棄された工場へ入り込む.ここで遊ぶと叱られるというルイス,しかしアランは工場の深い竪穴の上に渡された板を渡ってみせる.
ルイスに「来いよ」と呼びかけるアラン,ルイスは恐る恐る板を渡り始め,途中で恐怖に駆られジャンプし穴の縁に掴まるが,そのまま力尽きて落ちてしまう.
アランは穴の底に降りてみるが,ルイスは血の海に横たわり動かない.そのまま現場を立ち去るアラン,旅行中の両親と共にその街を去り,二度と戻ってくることはなかった….
このような記憶を持つアラン・ハックマンはゾーイ・チップの編集者だ.
ゾーイ・チップとは,胎児の時に脳に埋め込まれ,そのまま人の一生の映像と音声を記録し続けるチップのことである.その人の死後チップは取り出され追悼上映会が行われるが,その追悼用の資料を編集するのが,ゾーイチップ編集者の仕事である.Finalcut1
追悼上映会については,故人の真の姿を覆い隠す偽善だとして反対者も多い.実際アランも,チップに記録されている故人の不道徳な行いや秘密の行為をカットし,遺族の望む美しい思い出のみをつないでいくのだ.
ところがある故人の編集を引き受けたところ,その故人の社会的悪行を暴こうというグループから,チップの提供を執拗に迫られる.そのチップの編集中,アランはあの少年ルイスが成長したとしか思えない人物を見いだし,動揺する….
このSF映画はこういう仕掛けなのだが,映画としてはこの仕掛けが実は全てで,そこからどういうドラマが展開するかというと殆ど話が拡がらない.
この映画の致命的欠点は,仕掛けがもろSFなのに,ドラマが全くSF的ではないという点だ.
冒頭の少年時代の記憶のエピソードも,結局記録と記憶は食い違うという只それだけのことで終わる.
そもそもこういうチップがあれば,その使い道を巡っていくらでも話はSF的に組み立てられそうだが,追悼上映会を開くほかには何もないようでがっかりする.
エンディングも中途半端,もう終わっちゃうのかと思ってしまいました.ロビン・ウィリアムズはちゃんとやっているんですがね.Finalcut4
残念ながら★★☆.監督にはもう少しがんばれ!!と言いたい.
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2007/09/21

独断的映画感想文:砂の器

日記:2007年9月某日
映画「砂の器」を見る.
1974年.監督:野村芳太郎.0
丹波哲郎,加藤剛,森田健作,島田陽子,山口果林,加藤嘉,笠智衆,松山省二,内藤武敏,佐分利信,緒方拳,渥美清.
松本清張原作の傑作推理小説の映画化.一部ネタバレあります.
昭和46年,蒲田操車場で男性の殴殺死体が発見される.遺留品から被害者はその夜,あるバーで人と会っていたことが判るが,その身許も会った相手も判らない.
只,会話が東北弁風だったことと,「カメダ」という固有名詞が聞こえたことが判明する.
捜査本部の今西,吉村両刑事がそのカメダは人名ではなく地名ではないかと,秋田県の亀田に降り立つところから映画はスタートする….
ところで映画の前半は,そういっては何ですがあまり大したことはない.
とにかくやたら刑事が出張する映画で,その日本各地の映像は美しいし,テンポも悪くない.悪いのは脚本だろうか(橋本忍さん・山田洋次さんご免なさい).
冒頭のシーン, 秋田県亀田での捜査は延々と続くが,実はこの亀田は全くの見当違いなのである.原作も同様の記述だが,原作は小説だからこの無駄に終わる捜査の章はそれなりに意味があるが,映画になってみるとこの亀田のシーンは如何にも冗長である.
そして決定的な点は,身許の明らかになった被害者の身辺捜査から浮かび上がった,被害者が親身に世話をした少年本浦秀夫と,大阪空襲で両親を失い一人生き残った少年和賀英良が,実は同一人物だという証明がなされていない.
今西刑事はどうやって和賀英良にたどり着いたのだろうか.
その他にも突っ込みたい点はいくつかあるが,全体としてもたもたした前半の捜査ぶりが,和賀英良逮捕に向けた合同捜査会議に結実する展開には,かなりの唐突感がある.
しかしそんなことは実はどうでも良いのだ.3
映画開始後1時間半で始まる合同捜査会議,並行して和賀英良渾身の新作,交響曲「宿命」の演奏会場が俯瞰される.
三々五々集まる聴衆,リハーサルが終わり演奏開始を待つ楽団員.捜査会議では次々と証拠が挙げられ犯人の証明が読み上げられる.
やがてその殺人の動機につながる和賀英良の生い立ちを,今西刑事が説明する.演奏会場で始まる「宿命」の演奏,画面には和賀英良の少年時代,父と二人放浪巡礼の旅に出るため出生の地に別れを告げる姿が映し出される.
ここで映画の主客は完全に入れ替わり,以後映画は和賀英良(本浦秀夫)父子の放浪の旅と交響曲「宿命」の演奏を,捜査会議での今西刑事の説明を背景として描いていく.
その放浪の映像は哀切きわまりなく,そして美しい.映画後半の大半を占めて描かれる放浪の旅と「宿命」の演奏,この構想を得たことは何と素晴らしいことだろう.これぞ映画という感動を持たずにいられない.
俳優では加藤嘉が文句なしに素晴らしい.
病魔に冒され殆どワンフレーズの台詞しか発しないにも拘わらず,その演技はストレートに観客の胸を打つ.
他にも懐かしい俳優がきら星のようだ.見て損はなし.4
★★★★(★5個が満点)
蛇足:捜査会議で「順風満帆」を「じゅんぷうまんぽ」と発言したのは内藤武敏だったろうか.
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2007/09/19

独断的映画感想文:蒲田行進曲

日記:2007年9月某日
映画「蒲田行進曲」を見る.14
1982年.監督:深作欽二.
松阪慶子,平田満,風間杜夫,原田大二郎,蟹江敬三,岡本麗,汐路章,萩原流行,清川虹子.
つかこうへい原作・脚本の傑作舞台劇の映画化.
売れっ子俳優銀四郎は芝居がくさいのと激情に走るのが欠点.その銀ちゃんに憧れる大部屋俳優ヤスのぼろアパートに,銀ちゃんが落ち目の女優小夏を連れ込む.
気立ての良い小夏だが,会社から身辺整理を命じられた銀ちゃんは,妊娠した小夏をヤスに押しつけるために連れてきたのだ.20
実は小夏の大ファンだったヤスは銀ちゃんの言うことならと引き受けるが,その目の前で銀ちゃんは小夏を抱いてしまう.それでもヤスは小夏のために,スタントまがいの切られ役殺され役を志願し稼ぐのだった.
折しも銀ちゃんが撮影中の新撰組映画では,クライマックスの39段の階段落ちをやる役者が決まらず,映画は暗礁に乗り上げていた….
という訳で展開する映画の映画.
つかこうへい特有の容赦のない機関銃のような台詞の洪水と,体当たりの芝居,テンポの良いドラマの展開が,パワー溢れる画面となって観客を圧倒する.
芝居であることを巧みに利用した場面の転換やどんでん返しの楽しさも充分.
何より観客は,冒頭の東映京都撮影所の俯瞰図から撮影現場に降りてくる一連の描写で,あっと言う間に映画に引き込まれて行くであろう.21
筋立ての展開の緩急も自在で,ヤスの真情に打たれた小夏が,ぼろアパートで無理矢理ヤスにプロポーズを言わせた次の画面では,もうヤスの故郷の駅で小旗を掲げた群衆が待ちかまえ,跨線橋の上ではブラスバンドが「蒲田行進曲」を演奏している.
階段落ちの前夜,ヤスが不安と銀四郎への複雑な思いから小夏を相手に大荒れした後,小声で小夏への思いと苦しい胸の裡を語る場面では,涙を禁じ得ない.
とにかく泣いて笑って手を叩く,映画ってこうでなくっちゃ.文句なしの傑作,一見の価値あり.
ところで,「東映京都撮影所」が舞台なのに何で「蒲田行進曲」なの?22
★★★★☆(★5個が満点)
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2007/09/18

独断的映画感想文:血の婚礼

日記:2007年9月某日
映画「血の婚礼」を見る.3
1981年.監督:カルロス・サウラ.
アントニオ・ガデス,クリスチーナ・オイヨス,ファン・アントニオ・ヒメネス.
カルロス・サウラ監督が,アントニオ・ガデスの舞踊団と組んで撮影した3部作の最初の作品.65分の小品には,後にカルロス・サウラを特徴付けるいくつかのモチーフを見て取ることが出来る.
ダンススタジオの楽屋を準備するスタッフ,やがてその楽屋に舞踊団の一行ががやがやとやってくる.
荷物を解いて化粧箱を出し,メイクを始めるダンサー,ギターの音あわせも始まる.化粧台の鏡に家族の写真やマリア像を挟み込む人.
ガデスが挟み込んだ写真は,若い日に旅回りをしていた一座の写真だ.
カメラが楽屋の人々の表情を捉え,それにガデスの若い日を語る独白が重なる.
やがてスタジオに現れるガデス,一人息を呑むように美しい身体の動きで,流れるような踊りを見せる.その後に続きダンサー達が現れる.2
いくつかの動きを集団でレッスンした後,通しのドレス・リハーサルを行うとのガデスの指示で,皆支度にかかる.
ここまでが前半,後半は通しリハーサルの形で描かれる「血の婚礼」の本番.
婚礼の朝を迎えた花婿とその母,しかし花嫁は妻子ある男との愛を諦めることが出来ない.婚礼が始まり,皆の祝福の中,しかし遂に花嫁は男とその場から逃げ出す.後を追う花婿,やがて追いついた花婿と男との間での決闘が始まる….
ギター演奏と歌と踊りのみで描かれるこの舞踊劇は,しかし素晴らしい緊張感の持続で観客を魅了して離さない.4
当代随一のスペイン舞踊家によって演じられる,愛と誇りに命をかける男と女の美しさ.間奏曲のように挿入される,マリソルのアカペラの子守歌にも心を打たれる.
ドキュメントに近い作品だが,強い印象を与える映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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2007/09/17

独断的映画感想文:16ブロック

日記:2007年9月某日
映画「16ブロック」を見る.1
2006年.監督:リチャード・ドナー.
ブルース・ウィリス,モス・デフ,デヴィッド・モース,ジェナ・スターン.
映画の冒頭,男の声で遺言めいた独白が続く.
男はジャック・モーズリー.さえない壮年のNYPD刑事,メタボ体質でアル中,現在二日酔いである.
夜勤明け帰ろうとしたところに証人エディ護送の指示を受ける.拘置所で受け取り,僅か16ブロック,1マイル先の裁判所への護送.
渋々受けたジャックだが,途中酒屋で停車,店を出るとエディに銃を向けている男がいる.ジャックは反射的にその男を射殺する.
救援を呼び立て籠もったバーに現れた同僚フランク,しかしフランクは意外な事実を語る.エディは警官汚職の証人で,証言によりフランクはじめ大勢の警官が告発される.ジャックも一時参加していた汚職組織が暴かれる.エディの口は封じなければならないと.
シナリオ通りエディの手にジャックの銃を持たせ,エディを射殺しようとする警官たち.ジャックの取った行動は…?
というわけで題名通り16ブロック向こうの裁判所までのジャックとエディの逃避行の物語.筋立ては2転3転し,先行きは予断を許さない.163
それにしてもこれがブルース・ウィリスかと思う冒頭のジャック・モーズリー,腹はメタボで目の下には宿酔の隈,表情も老人の様な無気力さ.それがエディを襲った犯人を反射的に射殺した瞬間から変わっていく.
エンタテインメントとして十分面白いドラマ,エピローグのウィリスののどかな顔が良い.
今回のウィリスは,いろんな面で親近感が湧く僕であった.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:さくらん

日記:2007年9月某日
映画「さくらん」を見る.4
2007年.監督:蜷川実花.
土屋アンナ,木村佳乃,菅野美穂,安藤政信,市川左団次.
人気コミックの原作を写真家蜷川実花が監督した,吉原花魁もの.
かむろで売られてきたきよ葉が,そのとんがった性格のまま先輩遊女の粧ひに仕込まれ成長し,日暮と名乗って花魁高尾と向こうを張って人気を競うにいたる物語.
筋立てはコミックものなのでジェットコースター的な展開が特徴だが,土屋アンナの演じる日暮はそれなりに魅力的.
ドラマよりは,赤を基調とした派手派手しい吉原の世界の映像美や,椎名林檎の音楽がむしろ中心となる映画である.市川左団次が特別出演の割においしいシーンを演じていたのには,笑ってしまう.7
★★★☆(★5個が満点)
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2007/09/06

独断的映画感想文:いつか読書する日

日記:2007年9月某日
映画「いつか読書する日」を見る.
1
2004年.監督:緒方明(「独立少年合唱団」以来である).
田中裕子,岸部一徳,仁科亜季子,渡辺美佐子,左右田一平.
映画の冒頭,未明の街を自転車でひたすら下っていく大場美奈子.牛乳屋の前で自転車を止めると,今度は荷台に牛乳を積んだ軽トラックに乗り込む.
街角でトラックを降りると,バッグに牛乳を詰め込み,段々の坂の路地を駆け上がっていく.次々に配達を終え,最後の家に登る入り口で「よしっ」と掛け声をかけると長い長い石段をひたすら駆け上がる.
そのてっぺんにある家は高梨槐多の家だ.その妻容子は病魔に冒され余命幾ばくもない.2
6時5分に届く牛乳の瓶の音で夫に声をかけ,槐多は起き出して一日が始まる.
牛乳配達を終えた美奈子は帰宅して朝食を摂り,今度はまた自転車でスーパーマーケットに出勤する.同じ頃市電で市役所の児童課に出勤する槐多.
美奈子の自転車を市電が追い越していくが,二人は決して目を合わせることはない.
この二人は高校の同級生だった.お互いに好き同士だった.4
ある日美奈子の母親は,男と自転車の相乗り中に交通事故で死ぬ.その男は画家で,槐多の父親だった.
その数年前に事故で父を亡くしていた美奈子は天涯孤独となる.母の親友で作家の皆川敏子を親代わりとし,30年間ひたすら牛乳を配達し,スーパーで働いてこの街で暮らしてきた.
ある日スーパーで少年が万引きをして捕まる.その少年が槐多が担当してる少年と知っていた美奈子の通報で,槐多はその少年の家を訪れ,保護者遺棄とDVの状況を確認する.一方,容子はある日美奈子を呼び寄せ,自分が死んだら槐多と付き合って欲しいと訴える….
寡黙と無表情では定評のある二人のベテランを配して描く,生と死,老いと病,そして恋の物語.5
映画の半ばで観客は美奈子と槐多が,お互いを激しく意識していることを知る.
その淡々と30年も続いている日常生活にも拘わらず,不本意に中断した恋は消えることなく燃え続けているのだ.
その恋は今や,50歳という年齢で目の当たりにする老いや病の中で動き始めている.自分には恵まれなかった子供に対する槐多の想いも,観客の前に示される.ラベルのボレロのように繰り返し繰り返し描かれる日常は,容子の死を転機に激しく動き出すのだ.
そしてその思いもかけない結末を観客は知ることになる.
台詞ではなく,ふとした仕草や僅かな目の動きで人の気持ちを表現していく,日本映画らしい映画.エピローグの美奈子の表情に救われる,後味の良い映画である.6
池辺晋一郎の音楽も,この映画によく合って好ましい.
蛇足:舞台の架空の街西東市のロケ地は,長崎である.この坂だらけの街にも,敬礼!
★★★★☆(★5個が満点)
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2007/09/02

独断的映画感想文:山椒大夫

日記:2007年9月某日
映画「山椒大夫」を見る.
1954年.監督:溝口健二.02
田中絹代,花柳喜章,香川京子,進藤栄太郎,河野秋武,浪花千栄子,毛利菊江,津川雅彦(厨子王の子役).
「西鶴一代女」「雨月物語」に続き,ヴェネツィア国際映画祭3年連続入賞を果たした映画.
平正氏は領民に情けをかけ,朝廷の怒りを買い筑紫の国に流される.
数年後,妻玉木はその子安寿と厨子王を連れ,侍女姥竹と共に筑紫に向かう途中越後で人買いに騙され,姥竹は死に玉木は佐渡に売られ遊女となる.03
安寿と厨子王は丹後の荘園を管理する山椒大夫に売られ,奴婢としてこき使われ10年の月日が流れた.
玉木は繰り返し脱走を図ったためにその足の筋を断ち切られ,それでも朋輩の助けを借りては島の絶壁に上がり,本土を望んで声の限りに安寿と厨子王の名を呼ぶ.04
山椒大夫の荘園で成長した安寿と厨子王は,ある日死にかけた老女を山に捨てに行く様命じられる.山で安寿は自分たちの名を呼ぶ不思議な声を耳にし,兄厨子王に脱走を勧め,一人逃れて母と自分を救ってくれと懇願する.
厨子王はその勧めに従って脱走するが,安寿は兄の行方を責められ白状することを恐れ,入水して命を絶った….06
この2時間を超える映画は時のたつことを意識させない.最初から最後まで一息に見てしまう.
何と言ってもカメラワークが素晴らしい.この時代ズームがなかったということだが,こちらに接近してくる(ズームを使うとそうなる)のではなく,こちらから近づいていく形になるアップや,長回しの中,微かに動きながら微妙に位置を変えていくカメラの動きが,自然で美しい.
特に印象に残るシーンは,水辺のすすき野を行く親子たちのシーン,人買いに引き裂かれる海岸のシーン,安寿の入水のシーン,母子再会のシーンだろうか.01_2
シーン一つ一つが入魂の画として,目に焼き付く様だ.
脚本としては,原作と違い厨子王が兄なので,妹を置いて兄が逃亡したという形となったことや,国守に任ぜられた後の厨子王の行動等に多少の違和感があるが,後者については1954年という時代の,今の我々からは想像できない反映があるのかも知れない.
映画芸術の一つの頂点として,一見の価値ある映画である.
★★★★☆(★5個が満点)07
ところで,田中絹代は溝口監督から,撮影中肉食を禁じられ,菜食を指示されその通りにしたそうだ.
撮影が終わった夜,京都の町に出てビフテキを食べたところ,翌日のアフレコで監督のOKが出ない.監督からは「何か食べたでしょう」といわれ,「厨子王」という一言にOKが出るまで5時間かかったそうである.
戸板康二の「新ちょっといい話」に載っている挿話.

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