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2007年10月に作成された記事

2007/10/25

独断的映画感想文:サマリア

日記:2007年10月某日
映画「サマリア」を見る.3
2004年.監督:キム・ギドク.
クァク・チミン,ソ・ミンジョン,イ・オル.
「バスミルダ」「サマリア」「ソナタ」の3章からなる映画.
チェヨンとヨジンは高校1年同士の親友,二人でヨーロッパ旅行に行く金を貯めるため,チェヨンはインターネットを使った売春をしている.
ヨジンは身体を売ることに反対だが,実際は相手に電話をかけたり,見張りをしたりするのはヨジンの役目だ.警察の踏み込みをかいくぐって,二人は売春を続ける.
バスミルダは,自分を買った男達を仏教徒に改宗させたという古代のインドの娼婦の名前,チェヨンは自分はバスミルダだと言う.
ある日遂に警察がホテルで男といるチェヨンの部屋に踏み込む.チェヨンは窓から身を躍らせた….
続く「サマリア」では,残されたヨジンが,その罪を贖うため,チェヨンが寝た男達を呼び出してベッドを共にし,支払われたお金を返していく.
ところがその現場を父が目撃してしまった.早くに母が亡くなった後,父一人で育ててきたヨジン,刑事である父は,ヨジンを追い,ヨジンと寝た男達に復讐を果たしていく….
その結末が「ソナタ」で描かれる.4
こういう映画だが,題名から僕は宗教色の強い象徴的な映画を予想していた.そして映画は確かにその様な映画だと思うのだが,僕が個人的に期待していたのと微妙に食い違うところがあって,それがこの映画にもう一つ共感できないところなのだろうと思う(その点でこのレビューはまことに独断的なものである).
例えばチェヨンが窓から転落したシーン.
何故チェヨンは窓から飛び降りたのか.客を幸せにする,まさにバスミルダとしての存在だったチェヨン,しかし警察に捕まれば只の犯罪者として断罪される.
それは地上に堕ちた天使に他ならない,というのがあのシーンだったのだろうか?
また,「ソナタ」でヨジンが目が覚めると乗っている車は川の中に立ち往生しているというシーン.それは罪を清めるためのバプティスマ(洗礼)として描かれているのだろうか?5
そうであるなら,その描き方は僕にとってはやや説明的に過ぎる.
映画の扱っている題材自体には共感できるし,望遠を使った映像の美しさは素晴らしいが,その辺りが腑に落ちないまま残った映画だった.
★★★(★5個が満点)
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2007/10/22

独断的映画感想文:ただ、君を愛してる

日記:2007年10月某日
映画「ただ、君を愛してる」を見る.13
2006年.監督:新城毅彦.
玉木宏,宮崎あおい,黒木メイサ.
写真家を目指す瀬川誠人のもとに,学生時代に別れたきりの里中静流から,N.Y.で写真の個展を開くので来て欲しいという手紙が届く.
N.Y.に降り立った誠人はそのギャラリーを訪ねながら,静流と初めて会った日々を思い出す.
人見知りで入学式にも出ずにいた誠人が出会った静流は,眼鏡をかけ髪はザンバラ,スモックを着た少女のような女学生だった.15
気の置けない友人としてのつき合いが始まるが,静流の思いと裏腹に誠人は静流を恋愛の対象とは思えなかった.誠人はクラスの人気者,美貌で才気に満ちたみゆきに片思いしていたのだ.12
それでも誠人は自分の趣味である写真を静流にも教え,大学の裏の美しい池のある森に二人忍び込んでは写真を撮る日が続く….
広末涼子・松田龍平で撮られた「恋愛寫眞」(2003年)を基にしたアナザーストーリー.
美しい映画である.
緑の森で二人,青い鳥を追ってカメラに収めようとするシーンなど,現実感の希薄な夢のような展開が続くが,大学生の青春ロマンスなんて実際そういうものだろう.14
でも恋愛そのものの展開は充分にリアルなのではないか?宮崎あおいと玉木宏,黒木メイサの形作るこの時空間は,恋愛が必要とする条件を十分に満たした時空間だと言える.
そこで紡がれる物語は,引き裂けば血の出るリアルなものだし,結ばれなかった恋愛の喪失感には涙を禁じ得ない.
何と言っても宮崎あおいが素敵だ(僕は宮崎あおいファンです).
童女の身体と少女の感受性,そして大人の勇気を持った静流というキャラクターは,宮崎あおいが演じるのにまさに相応しい.04
映画の終盤,静流の個展を観客は誠人と共に見ることになる.そこで明らかにされる静流の人生とそれを見て涙する誠人のシーンは,深く心に残るだろう.
宮崎あおいファンは見て損は無し.09
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:あかね空

日記:2007年10月某日
映画「あかね空」を見る.Photo
2006年.監督:浜本正機.
内野聖陽,中谷美紀,中村梅雀,勝村政信,石橋蓮司.
豆腐屋相州屋は,ふとしたことから一人息子の正吉を永代橋の雑踏で見失い,そのまま正吉は帰ってこなかった.
それから20年後,京都から江戸に出て来た永吉は,深川蛤町の長屋で,同じ長屋のおふみ等の助けを得て豆腐屋「京や」を開く.
京風の豆腐はなかなか江戸の人々に受け入れられないが,同業の相州屋,ぼて振りの豆腐屋嘉次郎等の助けを得て,京やの豆腐は次第に売れ行きを伸ばしていく.おふみと永吉が祝言を挙げた日,相州屋は病のため永眠する….Photo_2
豆腐屋京やの親子を巡る人情話.
題材も良いし俳優も揃っているしと思って期待してみたが,もう一息の映画である.
他国から出てきた実直な職人が家族を得てのれんを守り,子供に家業を伝えていくという,映画が描こうとしたことは話としては判るのだが.原作から脚本に移る時点での整理が今ひとつということか.
個人的には内野聖陽のキャスティングが気になった.きりっとした内野聖陽には,京男永吉の京言葉はどうも似合わない.二役を務める顔役傳蔵の方がむしろ似合っているが,傳蔵ももう少し恐ろしい男でないとという気がする.Photo_3
後半重要な役割を果たす栄太郎・悟郎・おきみの京やの兄弟も俳優陣の力はもう一つ.
もう一つ江戸の街を再現するCGがいささか安っぽいところも気になる.特に冒頭の永代橋は,まるでアルミサッシでできている様な印象で,この段階でいささかがっかり.
原作を読み期待が高かっただけに,あと一息が望まれた映画でした.
★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:300<スリーハンドレッド>

日記:2007年10月某日
映画「300<スリーハンドレッド>」を見る.3
2007年.監督:ザック・スナイダー.
ジェラルド・バトラー,レナ・ヘディ,デヴィッド・ウェンハム,ドミニク・ウェスト.
紀元前480年.クセルクセス1世率いるペルシャ軍100万はギリシャを侵略,スパルタにも服従を要求する使節が到着する.
スパルタ王レオニダスはこれを拒否,カルネイアの祭りの宗教的禁忌のために出兵を拒否した評議会に抗して手兵の300でペルシャ軍を迎え撃つ.テルモピュライの隘路に布陣して大軍を迎え撃ったスパルタ軍は,素晴らしい軍事能力で敵を圧倒するのだが….
「ペルシャ戦争」の名で知られるギリシャ対ペルシャの故事による映画だが,史劇と思うと大外れ.
これは人気アメリカン・コミックの映画化で,制作は「シン・シティ」を作ったフランク・ミラーである.8
アメコミ流の美学と,ギリシャ=自由のために戦う=欧米側,ペルシャ=蛮族=テロリスト側という価値観が気にならない人には,娯楽大作といえよう.
映画は,戦闘シーンに入れば映像の魅力にあっという間に時間がたつ.しかし「ロード・オブ・ザ・リング」の様な精神性の描写や心理描写には欠ける嫌いがある.後に残るものはない映画.2
戦闘では手足飛び首が落ち血しぶきが舞うので,女性は連れて行かない方がよい.
★★★(★5個が満点)
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2007/10/15

独断的映画感想文:暗いところで待ち合わせ

日記:2007年10月某日
映画「暗いところで待ち合わせ」を見る.3
2006年.監督:天眼大介.
田中麗奈,チェン・ボーリン,井川遥,宮地真緒.
窓のカーテンを開け朝日を浴びるミチル,駅のホームからその窓を見上げるアキヒロ.
駅のホームを見下ろす一軒家に住むミチルは,交通事故が原因で失明している.母は幼いときに家を出,今は父と二人暮らし.
ところがある日,その父は急死する.ミチルは父が残した保険金を頼りに慣れ親しんだ家で一人暮らしを始める.
ところがある日駅で松永という男の転落死事件が起こり,殺人容疑者のアキヒロがミチルの家に逃げ込む.アキヒロはミチルに気付かれぬよう細心の注意を払い,二人の奇妙な共同生活が始まる.2
ミチルの唯一の友人カズエは,買い物に散歩にミチルを連れ出すが,一人で出かけたり外に働きかけたりしようとしないミチルに,苛立ちを覚えている.
一方,アキヒロは中国人を母に持ち,日本語が不自由で,職場の先輩松永にこっぴどく苛められていたことが判ってくる.
ある日,ミチルの家に近所に住むハルミが訪れる.洗濯物が飛んできたと言って届けに来たハルミは,近くのレストランで働くウェイトレスだった….1
この辺りから解決に向けて動き始めるサスペンスだが,映画には突っ込まれそうな点がいっぱいある.
まず何より設定がむちゃくちゃである.何としても盲目の娘の一人暮らしという設定を実現するためとは言え,母は家を出父は急死,しかも母は葬式に来ても娘には会おうとしない.その辺の事情は一切説明無し.
アキヒロがミチルに気付かれずに家に侵入するシーンももう一つ納得しがたい.
しかしそういう点はあまり気にならない.
田中麗奈演ずるミチルのキャラクターの魅力が素敵なのだ(僕は田中麗奈ファンです).童顔を生かした引っ込み思案だが強情な盲目の少女(と言っても恐らく18か19歳だろう)役,この何ともいたいけな少女が座敷ぼっこの様なアキヒロと過ごす暮らしもなかなか興味深い.
踏み台から転落したところをアキヒロに助けられ,遂に何ものかの存在を知るミチル.そのミチルが平然と2人分の食事を作り,沈黙のままうれしそうに二人食事するシーンも印象的だ.
終盤の事件の解決シーンや,ラストシーンも良い線行っていると思う.
田中麗奈ファンは見て損は無し.
但し,冒頭の窓辺のシーンのセットの作りはもう少し何とかならなかったのか.盲目のミチルがたった一人でもそこで暮らしたいと思った愛着のある家の窓辺が,こんなちゃちなものだとは.映画の値打ちがこれでいっぺんに下がってしまう.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/10/14

独断的映画感想文:善き人のためのソナタ

日記:2007年10月某日
映画「善き人のためのソナタ」を見る.2
2006年.監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク.
ウルリッヒ・ミューエ,マルティナ・ゲデック,セバスチャン・コッホ,ウルリッヒ・トゥクール,トマス・ティーマ.
東ドイツ・ベルリン・1985年.社会主義体制下の東独ではシュタージと呼ばれる秘密警察が,巨費をかけて監視と密告のシステムを整備し,運営していた.
シュタージのヴィースラー大尉は社会主義体制に忠実なまじめななベテラン捜査官.
ある日反体制の疑いのある劇作家ドライマンと,その恋人クリスタの盗聴監視を行う様命令される.ヴィースラーはドライマンのアパートにマイクを仕掛け,昼夜分かたぬ徹底的な監視を開始する.
しかし彼らの芸術への真摯な態度や愛情表現にヴィースラーの心は動いていく.
7年間の公的活動禁止の果てに自殺した演出家イェルスカの死を知った夜,ドライマンはクリスタと共に,深い哀悼を込めてピアノ曲「善き人のためのソナタ」を演奏する.それを盗聴するヴィースラーの目に涙が浮かぶ….4_3
映画はイェルスカの死をきっかけに西側への働きかけを行おうとするドライマンたちとそれを知ったヴィースラーの行動,シュタージの追究を軸にサスペンスフルな展開となる.
暗く重い題材を扱った長尺の映画だが,最後まで全くだれることなく一気に見た.
映画全体に緊張感が維持されている上,ヴィースラー,クリスタ,ドライマンという登場人物がそれぞれに魅力がある.人間の強さだけではなく弱さも含めて描いた映画の物語には納得させられる.
特に俳優ではヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエが出色のでき.
この人は本人がこういう監視の対象にされた経験があるという.謹厳実直なヴィースラーが無表情に坦々と任務をこなしながら,いつか芸術家をかばいつつシュタージとの間で辻褄合わせに苦悩していく姿を見事に演じている.
最後のシーン,僅かに明るい目をして口元がゆるむヴィースラーの表情が,そしてその台詞が,素晴らしい.6_2
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:サッド ヴァケイション

日記:2007年10月某日
映画「サッド ヴァケイション」を見る.9
2007年.監督:青山真治.
浅野忠信,石田えり,宮崎あおい,板谷由夏,中村嘉葏雄,オダギリジョー,光石研,斉藤陽一郎,辻香緒里,とよた真帆.
この映画は,同じ監督が11年前に撮った「Helpless」,7年前に撮った「EUREKAユリイカ」と北九州3部作をなす作品という位置づけだという.
深夜の海岸,中国からの密航者の手引きをしている健次,船内で父親を亡くした少年アチュンを,健次は連れ帰って一緒に暮らす.その部屋には今は亡き友人安男の妹で知的障害のあるユリも一緒に住んでいた.
ある日,密航を取り仕切る中国マフィアから呼び出され,痛めつけられたうえ,いつかアチュンは取り返すと言われた健次は,小倉に移り住む.5
そこで代行ドライバーとして働くうちホステス椎名冴子と知り合い,二人は愛し合う様になる.
若戸大橋の見える街にある間宮運送は,社長の間宮が流れ者ややくざに追われるものを寮に受け入れ,仕事を共にしていた.バスジャック事件の生き残り梢もそこで働き始める.
ある日間宮を代行で送ってきた健次は,そこで間宮の妻千代子を見かけるが,千代子はかって5歳の自分を捨てて家を出た実の母だった.
千代子の勧めに従い,ユリとアチュンを連れて間宮運送に移り住んだ健次,しかし健次は「どんなことをしてもあの女を不幸にしてやる」という,復讐心に燃えていた….7
重層的で豊かな物語性がこの映画の大きな魅力である.その物語の始まりは「Helpless」・「EUREKAユリイカ」にあるのだが,その繋がりは途中で唐突に現れ2人でしゃべりまくる健次の友人で梢の従兄弟の秋彦と,梢の親代わりという茂雄の会話で明らかになる(この二人の北九州の方言と雰囲気丸出しの漫才の様な会話は,聞き取りにくいが傑作だ).
また,物語の軸が間宮社長と千代子の夫婦関係,健次と千代子の親子関係にあって,それは社会の現実の中で苦闘する男たちと,したたかにその底に母性の根を張る女たちの物語として展開していくことも次第に見えてくる.
暴力と血が応酬されるが,映画の後味は悪くない.男女・親子を巡る物語は,結局神話・寓話の様な結末となったからだろうか.
空撮やフラッシュバックも入れた映像は美しく,挿入される音楽も素晴らしい.8
千代子というキャラクターは,あまりにしたたかで身勝手にも見えたが,一人,息子の部屋で無垢の着物を着て端座しているシーンで,千代子の別の側面を知ることになった.終盤で健次に告げられる新しい事実も衝撃的で,監督が映画に施した仕掛けも中々にしたたかである.
長尺ながら一気に見た.他の脇役陣も辣腕揃いで一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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2007/10/10

独断的映画感想文:守護神

日記:2007年10月某日
映画「守護神」を見る.1
2006年.監督:アンドリュー・デイヴィス.
ケヴィン・コスナー,アシュトン・カッチャー,メリッサ・サージミラー,ボニー・ブラムレット.
ベン・ランドールは既に200人以上を救命したといわれる合衆国沿岸警備隊(USCG)のレスキュー・スイマー,アラスカ沿岸のコーディアックを基地としている.
映画の冒頭,大時化の海上に漂う男女にヘリコプターが近づく.
ヘリから海中に飛び込むベン,漂流者に近づくと女性からバスケットに乗せて救出しようと声をかける.ところがバスケットが近づくと自分が先に乗ろうと妻を押しのける夫,ベンは夫にパンチを食わせるが妻は海中に没してしまう.
夫を先にバスケットで吊り上げ,ベンは妻を追って海中深く潜水,妻を捉えてヘリコプター上に吊り上げる.機上で直ちに心マッサージを試み,ようやく息を吹き返す妻.無事帰還して家に帰ったベンを待っていたのは,自分の妻が家財をまとめて出て行く姿だった….
ベンはこの後出動した遭難船舶の救援で,思いがけぬアクシデントからチーム全員を失い,心身に深い傷を負う.彼の身を案じた指令ハドレーは,ベンにレスキュー隊員の養成校「Aスクール」の期限付き教官就任を命じる.
現場叩き上げのベンはAスクールの教官達と当初は衝突するが,圧倒的な指導力で彼らを信服させ,30人のクラスの18週にわたる課程を指導していく….
そのクラスの俊英ジェイクは高校の水泳チャンピオンだったが,大学の誘いを蹴ってUSCGに志願した変わり種,しかし何故かチームにとけ込もうとしない男だった.3
映画はジェイクを中心としたクラスの卒業までの成長の物語と,卒業してベンと同じコーディアックに赴任したジェイクの活躍を描く.
ところで僕はケヴィン・コスナーが好きである.
もちろん,「ポストマン」等の目を覆うような失敗作を作ったことも重々承知しているが,俳優としての彼は好きだ.この映画でもその渋さと男っぽさが存分に発揮されている.
またこの映画の絵造りも素晴らしい.
上記の冒頭のシーンでも,俯瞰される大荒れの波立つ大海原からベンが苦闘する救難シーンへのつなぎがスムースで,こっちの絵はプールだろうなと理屈では判っていても映画の魔術に取り込まれてしまう.
ストーリーもオーソドックスといえばその通りだが,ベテランとフレッシュマンの双方の視線が交錯する展開と,両者がそれぞれ抱えるトラウマの描写も印象的.
救難者の抱く苦悩というテーマはこの映画の最後まで貫かれており,ラストのベンが夜の海面に落ちていくシーンは,宗教的な荘厳ささえ感じられた.4
また,ベンの妻との関係も(人ごとでなく)胸を打たれる.終盤,久しぶりに妻を訪ねて自ら別れを告げ,しかし別れ際に彼女の髪に顔を埋めるシーンは,心に残った.
もう少しテンポアップして全体の尺を縮めたらもっと良かったかも知れない.
酒場のママで登場するボニー・ブラムレットの歌,エンドロールでのブライアン・アダムスの歌も渋い.見て損はない映画.
ところで冒頭のシーンは二重の意味で終盤の伏線になっているので,お忘れ無きよう.
★★★★(★5つが満点)
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2007/10/06

独断的映画感想文:手紙

日記:2007年10月某日
映画「手紙」を見る.02
2006年.監督:生野慈朗.
山田孝之,玉山鉄二,沢尻エリカ,吹石一恵,尾上寛之,吹越満,杉浦直樹.
咲きほこる桜の下で手紙を読む青年.やがてバスが来て青年は乗り込む.
そのバスはリサイクル工場に行く通勤バス,青年は帽子を目深にかぶり,角の席に座る.
青年は武島直貴,兄剛志は弟の学費を稼ぐため身体をこわし,盗みに入った家で家人を殺し強盗殺人で無期懲役となり服役している.以来直貴は,殺人犯の弟として迫害を受け,アパートを追い出され仕事は首になり,今は働くこの工場の寮に住んでひっそりと生きている.
大学を諦めた彼は,お笑い芸人を目指し,中学時代からの親友寺尾祐輔と組んでコントの練習をしている.
食堂の賄いで働く白石由美子は直貴に好意を寄せるが,直貴は心を閉ざしたまま,兄から届く手紙で自分の素性がばれたことをきっかけに工場を辞める.06
やがて祐輔とのコンビは頭角を現し,二人は売れ始め,直貴はファンの一人中条朝美と付き合うようになる….
この後も物語は二転三転し,お笑いからも身を引かざるを得なくなった直貴は恋人も失い,由美子の献身的な愛に救われるのだが,結局直貴は兄との縁を切らざるを得ないと思い詰める.
兄弟のたった一つの絆である手紙が,弟を追い詰めその様な決心に至る過程には,胸が痛む.
犯罪とは,人の命を奪ってしまった犯罪とはそういうものなのだと,思い知らされる.
直貴の物語が展開していくのは,被害者の遺族が,実は自分と同じ時間を苦しんで生きてきたということを知った時だった.そこから映画のクライマックスが導かれる.
重いテーマを扱った映画だが,時間の経つのを忘れて最後まで一気に見た.
それは映画にいろいろ工夫がしてあるからだ.
一見直貴のキャラクターには合わない「お笑い」を持ち込んだことで,映画は,涙と苦悩の物語とは全く異なる軸を持つことが出来た.その軸がクライマックスでどう作用するかは,見てのお楽しみである.
玉山鉄二は,場面も台詞も少ないながら存在感溢れる演技,特にクライマックスでの終始無言の演技には感動する.08
山田孝之は,「電車男」より遙かに出来が良いと思う.全体に若い俳優陣がよく頑張った映画.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
蛇足:沢尻エリカが大阪弁をしゃべる理由は何だろう.原作は読んでいないが,物語の構成上大阪弁にこだわる理由は何もないと思える.少女の大阪弁のかわいらしさがまるで出ていないのは残念.
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2007/10/01

独断的映画感想文:ゲルマニウムの夜

日記:2007年9月某日
映画「ゲルマニウムの夜」を見る.01
2005年.監督:大森立嗣.
新井浩文,広田レオナ,早良めぐみ,大森南朋,石橋蓮司,佐藤慶.
降り積もる雪の中ひたすら歩く家畜の牛たち.それをバックにタイトルが出て映画は始まる.
冒頭,ラテン語を呟きながら聖書を読む修道院の小宮院長.カメラが引くと彼はズボンを履いていない.
隣に座る朧がひたすら院長の股間をしごいている.
朧は以前ここにいて,又最近舞い戻ってきたらしい.
彼は独房の様な個室に住み,修道院の畜産場で働いている.やり場のない怒りをものや犬に向かって爆発させる朧.
ある晩,修道院のアスピラント(尼僧志願者)である教子と巡り会った朧は,彼女によって初めて女性を知ることになる.自分は殺人者で強姦魔だとうそぶいていた朧は,実は童貞であった.09
しかしそれ以降も朧は尼僧テレジアを抱こうと迫り,また周囲の朋輩や先輩に容赦のない暴力をふるう.まるで「神への冒涜」を追求しているかの様だ….
映画の描く修道院は荒涼とした寒々しい世界だ.
欲望を穏やかに満たされる様な如何なるシーンも(例えば食事とか,団らんとか)映画は描かない.
その代わり描かれるのは,暴力と殺人,汚辱に満ちた背徳のセックスシーンだ.
この映画は見て楽しい映画ではないが,しかしその中に象徴的に描かれる幾つかのシーンは印象的だ.03
例えば肩に鉄パイプを背負いゴミ捨て場に立つ朧は,十字架上のキリストのようだし,朧が教子と出会う場面に挿入される教子が髪を洗うシーンは,聖母マリアを連想させる.04
役者では新井浩文が熱演である.
僕は生理的にこの人は苦手なのだが,この映画にはこの人しかいないと思わせるだけの演技だった.
見終わってから次々と想像力の広がる映画.極めて刺激的な,そして後に哀しさの残る映画である.14

少々グロテスクな映像を乗り越える必要はあるが.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ザ・ドライバー

日記:2007年9月某日
映画「ザ・ドライバー」を見る.2
1978年.監督:ウォルター・ヒル.
ライアン・オニール,イザベル・アジャーニ,ブルース・ダーン.
地下駐車場の車に近寄り,ロックを外して,エンジンを直結でかける(今の車ではできませんな)ライアン・オニール,ザ・ドライバー.
彼は犯罪者の逃走を請け負う凄腕のドライブ・テクニシャンなのだ.
彼は車をカジノの裏口に着けじっと待つ.カジノでカード賭博に興じるイザベル・アジャーニ,ザ・プレイヤー.彼女がゲームを終えて出てくると,すれ違いに強盗団が現金を奪い,ザ・ドライバーの待つ車に飛び込んで逃亡を図る.後ろを振り返ったザ・ドライバーと目が合うザ・プレイヤー.4
一方警察官としてはちょっといかれた指揮官であるブルース・ダーン,ザ・デテクティブ.3
彼の指揮で多数のパトカーが強盗団の後を追うが,すさまじいカー・チェイスの挙げ句全パトカーがお釈迦となってザ・ドライバーは悠々と逃亡する….
という設定で始まるザ・ドライバーとザ・デテクティブの戦い,ザ・プレイヤーは刺身のつま程度の位置づけ.
映画そのものは激しいカーチェイスがメインで,今で言えばリュック・ベッソン制作の「TAXi」ってところですね.
ライアン・オニールが何と言っても格好いい.イザベル・アジャーニはきれいなだけ,もう一つその役割がよく判らん.ブルース・ダーンはもう少し賢いと良かったけど.
でもとにかく痛快,最後まで一気に見る.
★★★☆(★5個で満点)
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無言館訪問

日記:2007年9月某日
曇り空.上田で新幹線を降り,上田電鉄別所線に乗り換えて塩田町で下りる.ここからは徒歩.
塩田町の駅から2.3キロ,溜め池の岸辺を抜け,コスモスの花咲く道をトンボと共に歩くと,無言館が上田盆地を見下ろす山の中腹に立っている.20070417141421325
打ちっ放しのコンクリートの壁に「無言館」の文字.中に入ると暗めの照明の中に,傷ついた絵達がひっそりと陳列されている.
無言館(戦没画学生慰霊美術館)は窪島誠一郎氏により、信濃デッサン館の分館として平成9年に開館した美術館.第二次世界大戦中、志半ばで戦場に散った画学生たちの残した絵画や作品、イーゼルなどの愛用品を収蔵、展示している(上田市のHPより).
遺族に守られてきた画は,やむを得ない事情により傷ついたものが多い.Photo_3
しかしここに陳列された絵たちから受ける印象は,普通の美術館より遙かに濃密で衝撃的である.
それはこの絵たちが持つ物語が,悲劇的ではあるが豊かで訴える力を持つからだ.
ここに集められた絵の作者は,戦争中に画学生となり応召し,戦死・戦病死した人たちだ.それぞれの絵は,作者が若くして戦争に命を奪われたという共通の悲劇を持つだけでなく,その各々の物語を見る人に語りかける.Photo_4
召集令状を受け取ってから出征までに書き上げられた故郷の景色の絵,その幼いときから慣れ親しんだ木立の風景は何と輝いていることだろう.Mugonkansono5
同じく応召直前に描かれた祖母の肖像の持つ緊張感と愛情あふれるタッチも印象的だ.Photo
貧しい農家出身の作者が描いた,現実にはあり得なかった豊かな家族団らんの風景は,残った家族にどういう想いをもたらしたのだろう.
特に印象に残ったのは,中村万平の「霜子」という妻の裸婦像.Photo_2
これも激しく傷んでいるが,そこにあふれる生命力と妻への想いは素晴らしい.しかし作者の応召後妻は亡くなり,その後作者も戦死する.後に残ったこの絵から受け取るものは,途中で断ち切られた物語の悲劇性である.
一方,戦時中にもかかわらず若い画学生たちの残した作品の,明るくモダンで夢にあふれていることにも胸を打たれる.
戦争と芸術は相容れることはできない.その戦争に巻き込まれて命を落とした芸術家たちの無念さを,無言館は静かに鎮魂している様だ.
戦争では,無論芸術家だけではなく多くの国民が命を落とした.そしてその戦争を支持し,始めたのも他ならない我々国民であることを,忘れてはならない.

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