独断的映画感想文:手紙
日記:2007年10月某日
映画「手紙」を見る.
2006年.監督:生野慈朗.
山田孝之,玉山鉄二,沢尻エリカ,吹石一恵,尾上寛之,吹越満,杉浦直樹.
咲きほこる桜の下で手紙を読む青年.やがてバスが来て青年は乗り込む.
そのバスはリサイクル工場に行く通勤バス,青年は帽子を目深にかぶり,角の席に座る.
青年は武島直貴,兄剛志は弟の学費を稼ぐため身体をこわし,盗みに入った家で家人を殺し強盗殺人で無期懲役となり服役している.以来直貴は,殺人犯の弟として迫害を受け,アパートを追い出され仕事は首になり,今は働くこの工場の寮に住んでひっそりと生きている.
大学を諦めた彼は,お笑い芸人を目指し,中学時代からの親友寺尾祐輔と組んでコントの練習をしている.
食堂の賄いで働く白石由美子は直貴に好意を寄せるが,直貴は心を閉ざしたまま,兄から届く手紙で自分の素性がばれたことをきっかけに工場を辞める.
やがて祐輔とのコンビは頭角を現し,二人は売れ始め,直貴はファンの一人中条朝美と付き合うようになる….
この後も物語は二転三転し,お笑いからも身を引かざるを得なくなった直貴は恋人も失い,由美子の献身的な愛に救われるのだが,結局直貴は兄との縁を切らざるを得ないと思い詰める.
兄弟のたった一つの絆である手紙が,弟を追い詰めその様な決心に至る過程には,胸が痛む.
犯罪とは,人の命を奪ってしまった犯罪とはそういうものなのだと,思い知らされる.
直貴の物語が展開していくのは,被害者の遺族が,実は自分と同じ時間を苦しんで生きてきたということを知った時だった.そこから映画のクライマックスが導かれる.
重いテーマを扱った映画だが,時間の経つのを忘れて最後まで一気に見た.
それは映画にいろいろ工夫がしてあるからだ.
一見直貴のキャラクターには合わない「お笑い」を持ち込んだことで,映画は,涙と苦悩の物語とは全く異なる軸を持つことが出来た.その軸がクライマックスでどう作用するかは,見てのお楽しみである.
玉山鉄二は,場面も台詞も少ないながら存在感溢れる演技,特にクライマックスでの終始無言の演技には感動する.
山田孝之は,「電車男」より遙かに出来が良いと思う.全体に若い俳優陣がよく頑張った映画.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
蛇足:沢尻エリカが大阪弁をしゃべる理由は何だろう.原作は読んでいないが,物語の構成上大阪弁にこだわる理由は何もないと思える.少女の大阪弁のかわいらしさがまるで出ていないのは残念.
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コメント
TBありがとう。
こういう重いテーマをきちんとエンタテイメントに仕上げたところは、褒めてもいいと思う。
投稿: kimion20002000 | 2007/10/16 00:43