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2007年11月に作成された記事

2007/11/27

独断的映画感想文:春夏秋冬そして春

日記:2007年11月某日
映画「春夏秋冬そして春」を見る.1
2003年.監督:キム・ギドク.
オ・ヨンス,キム・ジョンホ,ソ・ジェギョン,キム・ヨンミン,ハ・ヨジン.ネタバレあります!!
とある山の中の湖,湖岸に仁王門がある.
その門を開けると船着き場があり,湖の中央に一棟のお堂がある.
春,そのお堂には老僧と小坊主が住み暮らしている.いたずら者の小坊主は,ある日ヘビや蛙をいじめて殺してしまう.老僧は小坊主に諭し「おまえは一生その業を背負って暮らすことになる」と言う.
夏,17歳になった小坊主は,病気祈祷のためにお堂に泊まり込んだ少女と恋に落ち,かって蛙をいじめた川の畔で少女と結ばれる.そのことは老僧の知るところとなり,少女はお堂を去ることになるが,少年僧もその後を追ってお堂を後にする.2
秋,更に十数年後,老僧は一人飄然と暮らしているが,そのもとにかっての少年僧が,裏切った妻の相手を殺して逃げ込んでくる.老僧は追ってきた警官を説得し,お堂の床に般若心経を書いて男にそれを刻ませる.翌日男は般若心経を刻みきり,怒りを収めて連行されていった.3
冬,更にそれから月日が経ち,老境となった男は誰も住む人のいないお堂に戻ってくる.仏に祈りひたすら心身を鍛える男,ある日子供を抱いた女がお堂を訪れる.女は子供を置いて夜中にお堂を去ろうとするが,氷の穴に落ちて命を絶つ.それを知った男は,かってヘビをいじめたときのように自分の身体に石を結びつけ,寺の秘仏を抱えて湖を見下ろす山頂を目指す.山頂でひたすら祈りを捧げる男.6
やがて老僧となった男は,小坊主となった子供と共に,お堂で春を迎えるのだった.
映画の構成は明快で,起承転結エピローグ,物語は始まったところで終わる.
その構成で映画が輪廻の一つの表れを描いていることも,明らかだろう.
この舞台となる湖上のお堂と仁王門,それを取り巻く山並みの四季の美しさは,この映画の成功の決定的な要因である.俗世界と隔絶されたこの象徴的な空間,映画冒頭のこの風景を見ただけで,観客は深く映画に引き込まれるだろう.
観客はそれ以降,美しく変化していくその湖上の風景と,題名に暗示される輪廻の物語の展開をひたすら見ていくことになる.
春夏秋冬のそれぞれの章で主人公を演じる俳優は全く別人なのだが,寓意性がはっきりしているので,それが同一人物であることは明らかである.
極めて映画らしい映画,安心して美しい画面に見入ることが出来る.4
★★★★(★5個が満点)
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2007/11/26

独断的映画感想文:街の灯

日記:2007年11月某日
映画「街の灯」を見る.2
1931年.監督・制作・脚本・作曲・主演:チャールズ・チャップリン.ヴァージニア・チェリル.
不景気な世の中,ルンペン暮らしのチャーリーはあてもなく街をさすらう.
その街角で花を売っている娘に一目惚れし,なけなしの金を出し花を買う.
娘は盲目で,チャーリーのことを大金持ちと誤解した様子.チャーリーはその娘のために何とか金を稼ごうと奮闘するが….
あまりにも有名なチャップリンの傑作.
映画の物語は夢のようだ.
そもそもこういう「ルンペン」は,今の世の中に存在しないだろう.そのルンペンと(例え貧しく盲目であっても)美しい娘の恋なのだから.
撮影は固定カメラを使ったフレームイン・フレームアウト,今時の映画の撮り方に比べれば,舞台劇かテレビドラマのような撮影だ.
トーキーが始まっていたにも拘わらずあえて無声映画的演出を採用したことも,この映画の特徴だろう.
しかしこの映画の魅力は,そういう枠組みにも拘わらず,あるいはそういう枠組みだからこそ色あせなかった,ギャグネタの積み重ねにある.3
お約束の山高帽をかぶりステッキを持ち,白塗りの顔にチョビ髭と眼だけが際だつ扮装.その扮装で次から次へとエネルギッシュに展開されるギャグ,有名なボクシングシーンや二人で何度も波止場から海に落ちては這い上がるシーン,ダンスホールの滑る床の上でのどたばたシーン,そのギャグネタは,チャップリンの類い希な演技力により未だに新鮮だ.
明快なロマンスの軸の回りにギャグの数々を積み上げ,最後の最後にロマンスが成就するシーン,この映画で初めて大写しにされたチャップリンの恥ずかしげな笑顔が素晴らしい.1
その時,観客はチャップリンの魔法で,いつかこの夢物語の虜になったことに気付くだろう.
映画の楽しさを教えてくれる一つの記念碑.
★★★★☆(★5個が満点)
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2007/11/16

独断的映画感想文:ドリームガールズ

日記:2007年11月某日
映画「ドリームガールズ」を見る.3
2006年.監督:ビル・コンドン.
ジェイミー・フォックス,ビヨンセ・ノウルズ,エディ・マーフィ,ジェニファー・ハドソン,ダニー・グローバー.
ブロードウェイの大ヒットミュージカルの映画化,監督は同じ趣向の映画「シカゴ」の脚本を書いた人でもある.
僕は「シカゴ」は駄目だったので,どうなるかと思ったがこの映画は良かった.
映画が始まる前から画面にはビートの効いたベースが響き始める.これでもう半分くらいは映画に引き込まれてしまう.
1960年代,活況のデトロイトで黒人アマチュアミュージッシャンのコンテストが開かれている.踊りながらコーラスを聴かせる男女のグループ,ギターを弾き歌うブルースシンガー.
遅刻して最後に登場した女性3人組のドリーメッツは,メインヴォーカル・エフィーの爆発的な歌唱力で会場の絶賛を浴びる.
居合わせた中古車販売業兼マネージャーのカーティスは,ドリーメッツを新進の歌手ジミー・アーリーのバックコーラスに売り込み成功,プロとしての彼女たちのキャリアがスタートする.2
やがてカーティスが中古車販売を売り払って本格的にマネージャに関わるや,彼らは黒人ラジオ局からメジャーに進出,全米ヒットを連発してスターダムにのし上がっていく….
と言う映画だが,無論単なるサクセスストーリーではなく,波瀾万丈別れと再会の物語でもあり,音楽的にはソウルフルなR&B系の音楽とコマーシャルなダンスナンバーの対比の物語でもある.4
この映画の魅力は楽曲の魅力とそれを歌い演じる俳優の魅力に尽きる.
とにかく冒頭からエンディングまで,殆ど音楽の途切れる間がない.次々に繰り出される楽曲は,R&Bからダンスナンバー,アップテンポのコーラスからしみじみとしたバラードまで,全く観客を退屈させずだれずに最後まで突っ走る.7
男優陣は既に折り紙付きの俳優達だが,小太りながら見事な歌唱力で爆発的なエネルギーを発揮するジェニファー・ハドソンが素晴らしい.一方,美貌だけかと思っていたビヨンセ・ノウルズの映画中盤のバラードも,素敵だった.
彼女らの最後のステージの情景は,ダイアナ・ロスとシュープリームスの最後のヒット「またいつの日にか」を思い出させて印象的である.
音楽映画はもとより好きだが,僕には駄目だった「シカゴ」と比べ,この映画にはあっと言う間に引き込まれ,泣いたり笑ったりしながら楽しんだ.
その違いは何だろうか?5
★★★★(★5個が満点)
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2007/11/12

独断的映画感想文:鉄コン筋クリート

日記:2007年11月某日
映画「鉄コン筋クリート」を見る.1
2006年.監督:マイケル・アリアス.
声の出演:二宮和也,蒼井優,伊勢谷友介,宮藤官九郎,本木雅弘,田中泯.
松本大洋原作のコミックの映画化.
宝町にちんぴら二人組が乗り込んでくる.宝町を仕切る「ネコ」と呼ばれる少年を倒すためだ.
街で出会った子供シロと話をしていると突然クロという少年に襲われる.シロとクロこそがこの街を仕切る「ネコ」だったのだ.
宝町中を駆けめぐって戦う二組の少年達,遂に侵入者はこてんぱんにのされてしまう….
義理と人情とやくざの街宝町は,おもちゃ箱をひっくり返したようなアジア的混沌の街,クロとシロは兄弟のようにしてこの街に住むストリートチルドレンだ.
ある日この街に古手のやくざ「ネズミ」が子分を連れて舞い戻ってくる.3
更に恐るべき3人の殺し屋を連れ「ヘビ」が乗り込んでくる.彼らは宝町を地上げし,ここにレジャーランドを作ろうという計画のもとに動き出す.
街を守るためネズミの子分木村に戦いを挑んだクロは,その事務所に単身乗り込んで木村を袋だたきにしてしまうが,ヘビの指令を受けた殺し屋に襲われシロは瀕死の重傷を負う….
ためらわずに暴力をふるう存在ではあるが,純粋無垢な天使でもあるシロとシロを守るために命をかけるクロ.彼らと対決するが義理と人情も持ち合わせる旧式のやくざネズミ,金のために機械的に人を殺していく現代やくざのヘビ.
暴力を軸に展開されるこの3者の物語は緊張感溢れ,シロとクロの結びつきには涙を禁じ得ない.2
完成度の高い独特のイメージで綴るユニークなアニメ映画である.
声優の二宮和也と蒼井優の出来も素晴らしい.
冒頭のまるで「ウエストサイド・ストーリー」の出だしを思わせる2組の少年達の争闘からエンディングまで,一気に見て満足感深し.
一件の価値ある映画.★★★★☆(★5個が満点)4
蛇足:ところで「鉄コン筋クリート」とは,僕の記憶では1959年に毎日小学生新聞に連載が始まった園山俊二の漫画「がんばれゴンベ」に出てきた言葉である.主人公の猿ゴンベがグロッキーになるとき発する叫びが「テッコンキンクリート」だった.漢字交じりになったのがいつからだかは知らない.
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2007/11/10

独断的映画感想文:オリヲン座からの招待状

日記:2007年11月某日
映画「オリヲン座からの招待状」を見る.Orion4
2007年.監督:三枝健記.
宮沢りえ,加瀬亮,宇崎竜童,田口トモロヲ,樋口可南子,原田芳雄,中原ひとみ.
浅田次郎原作の短編小説の映画化.
良枝のもとにオリヲン座が閉館するという手紙が来る.カフェテリアで待つ良枝のテーブルに祐次が現れる.
二人は昔子供の頃,近くの映画館オリヲン座に入りびたっていた仲だった.今は離婚寸前の夫婦である.
そのオリヲン座の閉館上映に一緒に行こうと良枝が誘う.祐次は僕は行かないと言って去っていく.
京都西陣の一角にあるオリヲン座は,館主で映写技師の松蔵と妻トヨの夫婦二人で切り回す小さな映画館だった.
ある日この街にたどり着いた留吉は,松蔵に弟子入りを願い出て許される.以来留吉はオリヲン座に住み込んで映写技師の修行に励む.
松蔵が肺を病んで急死した後,留吉はトヨを助けてオリヲン座を支えるが,二人の関係を疑う世間の陰口でオリヲン座の客足は遠のき,更にテレビの台頭で映画館の経営は更に苦しくなる….Orion3
昭和30年代を映画館の盛衰を通じて描く映画だが,映画が数本撮れそうな配役の割にはスカのような映画である.
その最大の原因はドラマがないことだ.
冒頭留吉が転がり込んでくる.松蔵が死ぬ.トヨと留吉が追い詰められる.ここまでは起承転結の「起承」である.
ここからどうドラマは展開していくのか.
と思うと次のシーン,オリヲン座は平然と営業を続けている.留吉は映写室におりトヨはピーナツを売っている.二人はさして不自由のない生活を送っている(らしい).
これではなーんだ,ということになるではないか.
ここからは話は良枝と祐次の子供時代の話に焦点が移るのだが,それはただ親に縁の薄かった同士の,二人の子供時代の話というだけで,これもなーんだという感じである.
浅田次郎は手練手管の限りを尽くして,読者を感動させよう泣かせようという作家である.
そういう作者の短編を2時間の映画の脚本にしたときの無理が,あちこちに出ているのではないか.
終盤,オリヲン座の閉館上映での留吉(原田芳雄)の挨拶はさすがだと感動した.宮沢りえ,加瀬亮,樋口可南子いずれも演技は期待通りである.宮沢りえが公園で一人自転車を乗り回すロングショットのシーンは素敵だ.Orion1
にもかかわらず,ドラマの展開が物足りないのは,期待を裏切られた感じで実に残念である.
追伸:上原ひろみの音楽は素敵だった!!
★★☆(★5個が満点)
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2007/11/07

独断的映画感想文:記憶の棘

日記:2007年11月某日
映画「記憶の棘」を見る.
2004年.監督:ジョナサン・グレイザー.
ニコール・キッドマン,キャメロン・ブライト,ローレン・バコール,ダニー・ヒューストン.
ネタバレあります,注意!!
冒頭,ジョギング中の男の長回し,声がしゃべっている.「妻が死んだ翌日に窓辺に小鳥が来て,私よ,アナよ,と言ったらとりあえず信じて一緒に暮らします」などと言っている.
やがて陸橋の下でうずくまり倒れる男の影.5
映画はその10年後からスタートする.
突然の心臓発作で夫ショーンを失ったアナは,この3年ずっとプロポーズを続けてきたジョゼフと婚約をした.そのジョゼフを交えて母親の誕生日を家族で祝う席に訪ねてきた見知らぬ少年ショーンは,自分がアナの夫ショーンだと言い,「ジョゼフと結婚してはいけない」と言う.2
最初は取り合わなかったアナだが,自分と夫しか知らないはずのことを知っている少年に,次第に心を動かされていく.やがてジョゼフとの間の葛藤に苦しみながら,アナは少年が夫の生まれ変わりかも知れないという思いを深めていくのだった….
転生―生まれ変わりということを前提に進んでいく物語なのだが,間で意外な事実が明かされたり,その結果話が大きく逆の方向に進み始めたり,更に最後の場面で不可解とも思えるアナの行動で映画が終了することで,この映画の評価は様々に揺れている.
最終局面,アナはジョゼフとの結婚式を挙げているのだが,その光景に重ねて少年の声が流れる.
それは少年からアナに宛てた手紙のようで,自分のその後の生活に触れ,アナとは別の人生でまた会おうと結んでいる.その直後の最後の場面で,アナは花嫁衣装のまま荒れる海に向かって身を投じようとするのだ.
そこで唐突に映画は終わる.
アナは何故結婚式の途中からその人生を終えようとしたのか.
アナはやはり最終的に少年が夫の生まれ変わりだと確信したのではないだろうか.それが何故かは判らない,何か特有の言葉遣いだったり言い回しによってかも知れない.
しかし少年が事実夫の生まれ変わりだったとしても,死んだ夫がそのまま現れたわけではない.夫の生まれ変わりである少年をもってしても,アナが失ったものを埋めることはやはり出来ない,そうアナは悟ったのではないか.
その喪失感,絶望は,少年が夫の生まれ変わりだと確信することによって却って深まったかも知れない.
その揺れ動くアナを演じたニコール・キッドマンの美しさが際だつ映画である.3
他の女優が演じたらこの映画は成功しなかったかも知れない.特に,少年が夫の生まれ変わりかも知れないと思いつつコンサートで音楽を聴くアナの,変化していく表情を追うアップの長回しは見応えあり.
ミュージックビデオ出身の監督らしく,音楽の使い方も上手である.
ニコール・キッドマンファンはご覧あれ.
★★★☆(★5個が満点)
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