独断的映画感想文:記憶の棘
日記:2007年11月某日
映画「記憶の棘」を見る.
2004年.監督:ジョナサン・グレイザー.
ニコール・キッドマン,キャメロン・ブライト,ローレン・バコール,ダニー・ヒューストン.
ネタバレあります,注意!!
冒頭,ジョギング中の男の長回し,声がしゃべっている.「妻が死んだ翌日に窓辺に小鳥が来て,私よ,アナよ,と言ったらとりあえず信じて一緒に暮らします」などと言っている.
やがて陸橋の下でうずくまり倒れる男の影.
映画はその10年後からスタートする.
突然の心臓発作で夫ショーンを失ったアナは,この3年ずっとプロポーズを続けてきたジョゼフと婚約をした.そのジョゼフを交えて母親の誕生日を家族で祝う席に訪ねてきた見知らぬ少年ショーンは,自分がアナの夫ショーンだと言い,「ジョゼフと結婚してはいけない」と言う.
最初は取り合わなかったアナだが,自分と夫しか知らないはずのことを知っている少年に,次第に心を動かされていく.やがてジョゼフとの間の葛藤に苦しみながら,アナは少年が夫の生まれ変わりかも知れないという思いを深めていくのだった….
転生―生まれ変わりということを前提に進んでいく物語なのだが,間で意外な事実が明かされたり,その結果話が大きく逆の方向に進み始めたり,更に最後の場面で不可解とも思えるアナの行動で映画が終了することで,この映画の評価は様々に揺れている.
最終局面,アナはジョゼフとの結婚式を挙げているのだが,その光景に重ねて少年の声が流れる.
それは少年からアナに宛てた手紙のようで,自分のその後の生活に触れ,アナとは別の人生でまた会おうと結んでいる.その直後の最後の場面で,アナは花嫁衣装のまま荒れる海に向かって身を投じようとするのだ.
そこで唐突に映画は終わる.
アナは何故結婚式の途中からその人生を終えようとしたのか.
アナはやはり最終的に少年が夫の生まれ変わりだと確信したのではないだろうか.それが何故かは判らない,何か特有の言葉遣いだったり言い回しによってかも知れない.
しかし少年が事実夫の生まれ変わりだったとしても,死んだ夫がそのまま現れたわけではない.夫の生まれ変わりである少年をもってしても,アナが失ったものを埋めることはやはり出来ない,そうアナは悟ったのではないか.
その喪失感,絶望は,少年が夫の生まれ変わりだと確信することによって却って深まったかも知れない.
その揺れ動くアナを演じたニコール・キッドマンの美しさが際だつ映画である.
他の女優が演じたらこの映画は成功しなかったかも知れない.特に,少年が夫の生まれ変わりかも知れないと思いつつコンサートで音楽を聴くアナの,変化していく表情を追うアップの長回しは見応えあり.
ミュージックビデオ出身の監督らしく,音楽の使い方も上手である.
ニコール・キッドマンファンはご覧あれ.
★★★☆(★5個が満点)
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コメント
TBありがとう。
はい、ニコール命です(笑)
あの、劇場での、表情の変化だけをとらえた長回しは、映画のひとつのテキストになりえますね。
投稿: kimion20002000 | 2007/11/07 23:51