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2007年12月に作成された記事

2007/12/31

独断的映画感想文:天然コケッコー

日記:2007年12月某日
映画「天然コケッコー」を見る.7
2007年.監督:山下敦弘.
夏帆,岡田将生,夏川結衣,佐藤浩市,柳英里沙,藤村聖子.
山下監督の映画は「リアリズムの宿」「リンダリンダリンダ」(香椎由宇ちゃん,再度結婚おめでとう!)「松ヶ根乱射事件」以来4作目である.
島根県木村町(架空.ちなみに近隣には中居町,草彅町があるらしい)の小中学校.5
中2の右田そよは,この学校の最上級生.と言っても生徒は小学生を入れて全校で6人しかいない.今日は東京から転校生が来るというので,皆歓迎の支度にてんてこ舞い.
転校生はイケメンの男子大沢広海君で,そよは初めて同級生を持つことになる.こうして始まる学校の春夏秋冬とそよの成長の物語.
山下監督としてはまことに正攻法真っ向直球勝負の作品.
美しく移り変わる四季の風景が描写され,その中で初恋がゆったりと進む.6
主人公そよは純朴で優しく,面倒見がよいが世事に疎い.祭りの夜後輩たちのからかいで,お宅っぽい郵便局員の車で送ってもらうことになりかけても,只涙を流すことしかできない.東京に修学旅行に出かけたときは,人波に圧倒されそのまま流されそうになって,危うく大沢君に助け出される始末.
しかし学校には,1年生のさっちゃんの後に続く児童がいないのだ.子供がいなくなると廃校になるのだと大沢君が言う.
そよは「もうすぐ消えてなくなるかもしれんと思やあ、ささいなことが急に輝いて見えてきてしまう」と思うのだ.
学校だけではない.木村町のような農村も,今の農政のもとではもうしばらくしたら無くなってしまうだろう.
重く実った稲穂,青々と続く田んぼももうすぐ消えて無くなってしまうかも知れない.そう思えばその映像の何と輝いて見えることだろう.
そういうことを思わせる,美しい映画である.4_2
最後のカット,卒業式の後そよと広海君が教室で「ちゅう」をし,二人が教室を出る.その後,カメラは薄暗い教室をじっとなめていく.
やがてそのカメラが窓辺に寄っていくと明かりが射し桜の花びらが舞い込んできてカーテンが翻る.窓辺には校庭から教室を覗き込んでいるそよがいる.高校の制服を着たその姿は思いがけず大人っぽい.背景の校庭には花見の支度をしている後輩や先生,家族たちがいる.1
この長回しのワンカットが印象的.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:ブラッド・ダイヤモンド

日記:2007年12月某日
映画「ブラッド・ダイヤモンド」を見る.Blooddiamond5
2006年.監督:エドワード・ズウィック.
レオナルド・ディカプリオ,ジェニファー・コネリー,ジャイモン・フンスー.
シェラレオネで漁師をしているソロモンは息子のディアが自慢,頭が良く何時かは医者になると思っている.ところがある日,村を反政府組織RUFが急襲,妻子は逃がすもののソロモンは捕らえられ,ダイアモンド採掘場で強制労働を強いられる.
ソロモンは採掘中,巨大なピンクのダイアの原石を手にするが,折からの政府軍の急襲に紛れ,そのダイアを秘密の場所に隠して投降する.
一方ダイア密輸業者の元傭兵ダニーは,密輸に失敗し逮捕される.獄中でソロモンがダイア原石を見つけた話を聞き,保釈後ソロモン釈放を手配,家族との再会を条件にダイアの隠し場所に案内するよう迫る.Blooddiamond4
一方ダイア密輸の情報取得に接近してきたジャーナリストのマディーには,情報を与える代わりにダイア採掘場所への足の便を提供するよう持ちかける….Blooddiamond3
こういう設定で始まるダイア争奪戦のアクションドラマ.
立場の違う3人の人間関係を絡めながらRUF,政府軍,白人私兵軍のダイア争奪戦とその中での主人公たちの行動を描く監督の手腕はなかなかのもの.
また,映画に登場する反政府組織の略奪や住民の手足切断の暴行,少年兵の育成などと密輸ダイアの関係は,衝撃的である.
映画としてはしっかりした映画だと思う.またディカプリオ,ジャイモン・フンスーの演技は素晴らしい.ディカプリオはすっかり悪人役が板に付いてきた.
但し違和感を持つ部分もいくつかある.
アクション映画だからしょうがないとは言え,ソロモンと誘拐されて少年兵にされていた息子の脱出シーンではダニーが銃を撃ちまくり,RUFやその他の少年兵がばたばたと打ち倒される.ダニーがソロモンの息子を守り他の少年兵を撃ちまくるのは,結局ダイアが欲しい一心なのだから,そこには何の正当性・妥当性もない.
またラストシーンでソロモンが,ダイア密輸の証人として背広を着て白人の委員会に拍手で迎えられる場面にも違和感がある.Blooddiamond1
合法ダイアが成り立っている根拠は,欧州列強によるアフリカの帝国主義的支配の結果である.アフリカの惨状に欧州列強が,後に米ソ両大国が果たした役割を思えば,こんなシーンは蛇足としか思えない.
独断と偏見と判りつつどうも釈然としない.Blooddiamond2
★★★☆(★5個が満点)
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2007/12/30

独断的映画感想文:松ヶ根乱射事件

日記:2007年12月某日
映画「松ヶ根乱射事件」を見る.1
2006年.監督:山下敦弘.
新井浩文,山中崇,川越美和,木村祐一,三浦友和,キムラ緑子,烏丸せつ子.
山下監督の映画は「リアリズムの宿」「リンダリンダリンダ」(香椎由宇ちゃん,結婚おめでとう!)以来3作目である.
一面の雪の中,赤いコートの女が仰向けに倒れている.足跡は一つもない.
そこにとことこと小学生が通りかかる.女の傍らにうずくまる小学生….
次のシーン,女は死体検案の為裸で解剖台の上に横たわっている.新井浩文の巡査光太郎が覗き込んで「生きてるようです」.5
このようにスタートするダークコメディ.
松ヶ根は片田舎の平穏な村,くそ真面目な巡査光太郎,双子の兄光は姉夫婦が経営する実家の畜産業をいい加減に手伝っている.父は口先だけの不実な男で愛人宅に転げ込んでいる.
息を吹き返した女には連れがいて,やがてこの二人が松ヶ根に何をしに来たかが明らかになる….
冒頭のシーンは「ファーゴ」を思い起こさせるが,やることなすことうまくいかず物事がどんどん悪い方に転がっていった「ファーゴ」に,この映画も似てなくもない.
但しこの映画では日本の田舎の閉塞性とよどんだ不快感が,個性豊かな闖入者のおかげであからさまになっていくという展開である.4
だいたいこの村は異様に好色な村である(それとも日本の田舎って皆こうなのかしら).冒頭のシーンでも小学生は倒れている女をさわりまくるし,床屋の2階では娘が客を取っているし,バス停ではじいさまが女高生にパンツを下ろさせている.2
光太郎の父親のだらしなさも印象的,この人は愛人宅(床屋)に転げ込んだ挙げ句その娘に手を出して妊娠させ,実家に舞い戻ってくる.その上光太郎の見合に出てきて偉そうに畜産業の仕事の厳しさを物語ったり息子に説教したりする.
そのいやらしさはいっそ痛快なほどである.演じた三浦友和は絶品.
不快感といらいらの挙げ句にフィナーレの乱射事件となるのだがこれもまた絶品で….ここは見てのお楽しみ.
この映画の味は,物語の不快といらいらの展開を,とぼけたくすくすで描いているあたりか.山下ワールドらしい映画.
★★★★(★5個が満点)
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2007/12/28

独断的映画感想文:パプリカ

日記:2007年12月某日
映画「パプリカ」を見る.Paprika6_1024
2006年.監督:今敏.音楽:平沢進.
筒井康隆原作のSFサイコサスペンス.
精神医療研究所に勤める千葉敦子は,同僚の時田浩作と共にサイコセラピー機器を開発している.一方彼女は,少女「パプリカ」に変身してその機器を使った夢治療も極秘に行っていた.3
ある日彼らが開発した未完成のサイコセラピー機器DCミニが盗まれる.それ以降精神医療研究所のスタッフが精神攻撃を受け発狂する事態が続き,理事長乾はサイコセラピー機器の開発使用を中断すると指示するが,事態はどんどん悪化していって….
何ともきれいなアニメである.僕はアニメはほとんど見ないが,この前の「鉄コン筋クリート」といい今回の「パプリカ」といい,実にきれいだ.日本のアニメ技術は本当に凄い.
致命的なのはアニメがきれいすぎて夢と現実の区別がつかないこと.
原作は夢・狂気・現実の三つどもえの混乱を描いているが,それら相互の関係は明確に識別されている.原作の最後の何でもありの大混乱に至るまでには,長く周到な助走が仕込まれているのだ.
アニメにあっては現実もきれい夢もきれい狂気もきれいというわけで,それら相互の緊張感がいささか感じられない.
パプリカは可愛く千葉敦子は美しいが,惜しいことである.4
但し音楽は素晴らしい.おもちゃ箱をひっくり返したような化け物が道をやってくる行進のシーンが繰り返されるが,このシーンは音楽の迫力によって実に魅力的なものになっている(いくつか音楽を欠いた同様のシーンもあるが,そこにはそれほど魅力は感じない).1
全体としては面白く見たが,やはり筒井作品の映画化には力足りず.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/12/24

独断的映画感想文:樹の海

日記:2007年12月某日
映画「樹の海」を見る.5
2004年.監督:瀧本智行.
萩原聖人,井川遥,池内博之,津田寛治,塩見三省,小嶺麗奈,小山田サユリ.
富士の樹海を巡る4つのエピソードからなる映画.
サラ金の取り立て屋池内博之は,追い込みをかけていた女小峰麗奈が,青木ヶ原の樹海で足のねんざで歩けなくなったとの本人からの連絡を受け,携帯を手に樹海に分け入る.
一方,探偵塩見三省は樹海で自殺した小山田サユリの遺留品の写真に,彼女と一緒に写っていたサラリーマン津田寛治を突きとめ,新橋の飲み屋で話を聞く.4
駅の売店に勤める井川遥は,以前ストーカーとしてその家庭を破壊したサラリーマンの男と遭遇するが,男が自分に気づきもしないことにショックを受け,樹海で自殺を図る.
暴力団にはめられて公金横領をした萩原聖人は,口封じのために半死半生の目に遭わされ樹海に捨てられるが,樹海から出ることも出来ず彷徨するうちに,自殺志願者田村泰二郎の自殺現場に行き会う.
これらのエピソードは少しずつ重なり合いながら,時間軸をずらして展開していく.
映画では,実際に死んでしまった2名を除けば,自殺志願者たち(殺されかけた萩原クンを含む)は皆,何とか生き延びていくようである.総じて映画に出てくる人たちは良い人ばかり(サラ金の兄ちゃん含む),強いて言えばストーカー中に愛人の奥さんを流産させた井川遥が一番悪人か.3
というわけで思ったより怖い映画じゃなくってちょっとがっかり,かといって人間愛に勇気が湧くほどのこともなかった.ほのぼの映画ってところでしょうか.
エンドロールに流れる「遠い世界に」は懐かしかった(けど,オリジナルの方が好き).
1
ところで萩原聖人は半殺しの目に遭わされて洞穴からはいずり出てきたときは,ダウンタウンの浜田雅刀かと思いました.そっちに似ていた.
★★★☆(★5個が満点)
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2007/12/17

独断的映画感想文:あなたになら言える秘密のこと

日記:2007年12月某日
映画「あなたになら言える秘密のこと」を見る.3
2005年.監督・脚本:イザベル・コイシェ.
サラ・ポーリー,ティム・ロビンス,ハビエル・カマラ,ジュリー・クリスティー.
工場で労働者として黙々と毎日働くハンナ,誰とも口をきかずその生活は禁欲的で,ときおりの夜,年配の女性インゲに電話をかけるが話をすることはない.
ところが全く休暇を取らないハンナは,半ば強制的に工場から休暇を取らされ,とある街に出かけることになる.
食事を取っていた食堂で看護師を捜しているという話を耳にし,ハンナはその仕事に応募する.仕事は海上に隔絶された石油掘削基地で,事故のため火傷を負った患者ジョゼフの看護をすることだった.
ジョゼフは火傷と同時に角膜を痛め一時的に失明している.
自分のことをほとんど話さず(最初は名前さえ名乗らない)無口に看護を続けるハンナに対し,ジョゼフは絶えず言葉をかけ続ける.やがて僅かに心を開いていくハンナ.
ハンナは曲者揃いの職場の男たちとも徐々に不思議なバランスを得ていく.しかし,ジョゼフとハンナには,深い心の傷があった….4
中盤までは動きに乏しく,何度も居眠りをしかけた.
言うとネタバレになるが,ある理由から彼女の生い立ちや出身地,彼女が本当に看護師なのかなどという背景には一切触れないので,物語の展開は限定され退屈である.
しかしある日,ジョゼフは彼がその火傷を負うに至った理由を暗示する,自分の秘密を物語る.ジョゼフの居室を使っているハンナには,部屋で見た写真や携帯に残った伝言から,何が起こったかは明瞭に判っただろう.
翌日,今度はハンナが自身の秘密を語り始める.一度話し始めるともう止めることはできず,堰を切ったように最後まで物語るハンナ,そして彼女は自分の身体に残されたその証をジョゼフに示す.無言で彼女を抱きしめるジョゼフ….2_2
翌日ジョゼフはヘリコプターで病院に搬送された.ヘリを降りた時点でハンナは姿を消す.
ジグソーのコマが全て填め込まれたこの時,映画は時間的空間的に奥行きのある舞台であったことが明らかになり,観客はその舞台の暗く深いことを強く印象づけられるだろう.
世界には今もこういうことが起こっている,それに思い及ばなかった自分自身のうかつさが,心に残る映画だった.
ティム・ロビンスははまり役.サラ・ポーリーはこういう難しい役にもかかわらず魅力的である.
冒頭から時々入るナレーションがある.そのナレーションの主が誰であるかは映画のエピローグで明らかにされるが,そのことも余韻となって印象深かった.1
★★★☆(★5個が満点)
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2007/12/15

独断的映画感想文:眉山-びざん-

日記:2007年12月某日
映画「眉山-びざん-」を見る.5
2007年.監督:犬童一心.
松嶋菜々子,大沢たかお,宮本信子,円城寺あや子,山田達夫,金子賢,夏八木勲.
旅行会社の中堅として多忙を極める河野咲子に,故郷徳島から母が入院したとの知らせが届く.急ぎ帰郷した咲子だが,母は相変わらずの勝ち気で病院スタッフをきりきり舞いさせていた.
咲子の父は亡くなったと聞かされていたが,実は妻子ある人でまだ健在ということが判る.病院の小児科医寺沢大介と親しくなる一方,母との葛藤に悩む咲子だったが….4
さだまさし原作の家族関係再生ドラマ.
この前の「解夏」もそうだったが,さだまさしは感動させよう泣かせようという目的で映画に仕掛けをつぎ込んでくる.
「解夏」の場合はベーチェット病だったが今回は「献体」であった.
医学生育成のためには人々の知らない献体という制度があるのだ,献体は大変なことなのだ,と映画の後半で主張がなされているが,全く余計なことである.僕は仕事柄献体や医学部の献体に対する慰霊祭についてはいささか知っているが,この映画で描かれていることとは随分違うと思う.
映画自体は不倫をした母とその結果生まれた子の母子の葛藤,父との出会いという古めかしいテーマで描かれている.
全体としては出来は悪くない.クライマックスの父と母の邂逅のシーンでは涙を禁じ得なかった.山田辰夫と円城寺あやの演技には感動した.2
しかし,宮本信子演じる母親の,ところ嫌わず啖呵を切りまくるキャラクターには我慢できないし,松嶋菜々子のキャラクターも浮いている.
クライマックスの阿波踊りの映像の処理や特に音響の処理には不満が残る.祭りの現場の音響は,もっと腹に響く興奮をかき立てる音響でなくっては.
それから敢えて言えば,こういう古典的な日本映画を見て満足したくない.映画はどんどん変わっていかなければ.こんな中途半端な「そこそこ」としか言いようのない映画を,日本の中堅監督はどうして撮るのだろう.
独断と偏見とは思いつつ腹が立って★☆(★5個が満点)
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2007/12/08

独断的映画感想文:蒼き狼 地果て海尽きるまで

日記:2007年12月某日
映画「蒼き狼 地果て海尽きるまで」を見る.3
2006年.監督:澤井信一郎.
反町隆史,菊川怜,若村麻由美,Ara,松山ケンイチ,保坂尚希.
若き日のチンギス・ハンがモンゴルを統一するまでの物語を,よく知られたエピソードで綴っている.
モンゴルを舞台に大勢のエキストラを動員し,騎馬軍団の激突するスペクタクルシーンを撮る,そのこと自体は大変な作業である.
その作業を破綻無く成功させ,それなりにまとまった映画を作り上げた努力は賞賛に値する,と思う.そこは角川映画の偉いところであろう.
しかし角川映画のまずいところはそれが目的になってしまうところではないか.
本末転倒,只大草原を疾駆する騎馬軍団のスペクタクルシーンを撮りたいが為にこの映画を作ったように見えてしまう.この映画には,日本人である角川が日本人的感覚で,モンゴルの草原まで出かけて日本映画を撮ってきたということが,あまりにはっきり出ているようだ.
とにかくモンゴルの大平原に日本人の役者は似合わない(役者かどうか疑わしいキャストも中にはいるが.松山ケンイチが良かったが出番はあまりに僅かだった).1
天空の草原のナンサ」に描かれる自然の厳しさ,「ココシリ」に描かれるような命の儚さは角川映画に期待する方が無理だろうが,松方弘樹や津川雅彦がお笑い芸人のような役をお笑い芸人のような演技で演じるのを見ると,つくづく角川さんは変わらないなと思う.
大スペクタクルという映画ならではの魔法を見せてくれるが,その物語は何も印象に残らない.2
愛憎半ばするというと大げさだが,好きと嫌いの入り交じる映画である.
★☆(★5個が満点)
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2007/12/02

独断的映画感想文:仕立て屋の恋

日記:2007年12月某日
映画「仕立て屋の恋」を見る.7
1989年.監督:パトリス・ルコント.
ミシェル・ブラン,サンドリーヌ・ボネール,リュック・テュイリエ.
空き地で若い女性の絞殺死体が発見された.刑事は近所を聞き込み,皆に嫌われている仕立て屋,イールを尋問する.
イールは端正な顔をした小柄な男.黙々と服を仕立てているが,ロシア系で何故か嫌われ者,アパートの悪ガキが平気で彼にものを投げつけたりする.
イールの方も回りへの嫌悪を隠さない.刑事は彼を容疑者として,たびたび尋問に訪れる.
そのイールは自宅の窓辺から,向かいのアパートの女をのぞき見している.2
その女アリスは,エミールという青年と婚約中だ.毎夜自室の明かりを消し,音楽をかけながらじっと向かいの窓を見下ろすイール.
ある嵐の夜,稲妻の光でアリスはイールの覗きに気づく.1
アリスは何故かイールに近づき,彼を昼食に誘うのだった….3
映画は途中まで,得体の知れないイール氏と周囲との関係が判然とせず退屈に思えた.
ところがある時点から物語が動き出す.ミステリーとロマンスとサスペンスが一体となって終幕まで一気になだれ込む.この展開が素晴らしい.
原作はメグレ警視シリーズで有名なジョルジュ・シムノン,さすがです.
終盤のどんでん返しもすごいが,ラスト前の主観ショット(イール氏の目から見た流れゆく光景),イール氏の台詞「僕は君を恨んでないよ.死ぬほどせつないだけだ」,それぞれが印象に焼き付く.6
80分と短い映画だが,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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