独断的映画感想文:BOBBY
日記:2008年3月某日
映画「BOBBY」を見る.
2006年.監督:エミリオ・エステヴェス.
出演:アンソニー・ホプキンス(ジョン・ケイシー),デミ・ムーア(ヴァージニア・ファロン), シャロン・ストーン(ミリアム・エバース),ハリー・ベラフォンテ(ネルソン),ジョイ・ブライアント(パトリシア),ニック・キャノン(ドウェイン),エミリオ・エステヴェス(ティム・ファロン),ローレンス・フィッシュバーン(エドワード・ロビンソン),ブライアン・ジェラティ(ジミー),ヘザー・グレアム(アンジェラ),ヘレン・ハント(サマンサ),ジョシュア・ジャクソン(ウェイド・バックリー),デヴィッド・クラムホルツ(フィル),アシュトン・カッチャー(フィッシャー),シャイア・ラブーフ(クーパー),リンジー・ローハン(ダイアン),ウィリアム・H・メイシー(ポール・エバース),スヴェトラーナ・メトキナ(レンカ・ヤナチェック),フレディ・ロドリゲス(ホセ),マーティン・シーン(ジャック・スティーブンス),クリスチャン・スレイター(ティモンズ),ジェイコブ・バルガス(ミゲル),メアリー・エリザベス・ウィンステッド(スーザン),イライジャ・ウッド(ウィリアム・エイバリー).
BOBBYの愛称で親しまれたロバート・F・ケネディの暗殺当日の,アンバサダー・ホテルを舞台とした群像劇(いわゆる「グランド・ホテル」形式.冒頭,引退したホテルマンが「『グランド・ホテル』という映画を見たことあるかい?」という会話を交わす場面がある).
1968年の状況を語る画面を随所に挟みながら,民主党大統領選挙対策本部の置かれたこのホテルの支配人,厨房従業員,カフェテリアのウェイトレス,美容室の係員,選対本部の人々,宿泊者,ショーに出ている歌手,結婚式を挙げようというカップル,取材を狙うチェコのレポーター等の,この日一日のエピソードが次々に描かれる.
1968年という年はアメリカでまた世界で,政治的に極めて先鋭化した年であった.アメリカでは4月4日,テネシー州メンフィスで公民権運動指導者マーチン・ルーサー・キングJR牧師が射殺された.
泥沼化しつつあったヴェトナム戦争に対し,民主党では左派のユージン・マッカーシーが大統領選立候補を表明して旋風を巻き起こし,更にロバート・F・ケネディ(RFK)がヴェトナム反戦綱領を掲げて立候補,6月のカリフォルニア州予備選挙が注目を集めていた.
映画はこの日の早朝,ホテルの火災警報が誤作動したシーンから始まる.登場人物は次々に現れ,その悩みや抱えた状況が描写されていく.
メキシコ人への差別を愚痴る厨房従業員,ヴェトナム前線送りを避けるために形式的な結婚をしようという若いカップル,選挙運動をさぼってLSDでトリップする若者,警察の選挙介入に怒る黒人選対職員.
一方,ホテルの中で浮気に走るカップルや,人気の低下におびえる歌手の表情,老夫婦の葛藤と和解も描かれる.
やがて夕闇が迫り選挙結果が入り始め,ホテルには訪問客があふれ始める….
中盤に至るまで各エピソードに登場する人々がどういう繋がりを持つのかが判らずに進行するので,緊張感が途切れかける面もあったが,終盤,選挙運動の勝利の報告,それに続く衝撃的な結末の中,決定的なシーンでその繋がりは明らかになる.
このシーンのもたらす重層的歴史的な悲劇性,喪失感は圧倒的である.
観客はこのシーンを見ながら,RFKが殺されたことの計り知れない大きさ,彼が生きていたらあり得たかも知れない別の可能性に思いをいたすことになるだろう.
エピローグのRFKの演説も心にしみいる.
随所に挟まれるこの頃のロック・フォークの名曲も懐かしい.サイモンとガーファンクルの名曲「サウンド・オブ・サイレンス」のシーンでは涙を禁じ得なかった.
一見の価値ある映画.★★★★(★5個が満点)
個人的経験を言えば,JFK,マーチン・ルーサー・キングJR牧師,RFKと続いた暗殺は,僕に『金と暴力ですべてを解決する国アメリカ』という抜きがたい印象を植え付けた.特にRFKの暗殺で受けた衝撃は決定的であって,その衝撃は今もありありと蘇る.
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