独断的映画感想文:放浪記
日記:2008年5月某日
映画「放浪記」を見る.
1962年.監督:成瀬巳喜男.
出演:高峰秀子(林ふみ子),田中絹代(母・きし),宝田明(福地貢),加東大介(安岡信雄),小林桂樹(藤山武士),草笛光子(日夏京子),仲谷昇(伊達春彦),伊藤雄之助(白坂五郎),多々良純 (田村),織田政雄(ふみ子の父),加藤武(上野山),文野明子(村野やす子),飯田蝶子(下宿屋の婆さん).
林芙美子の同名の小説の映画化.
行商人の両親に連れられ旅する少女.その少女が大人になって母と共に行商に歩く姿から映画はスタートする.
行商の成果は思わしくなく,母は故郷に帰り,娘ふみ子は職探しに次々失敗した挙げ句カフェの女給となる.
女給をしながら詩を書き童話を書くふみ子,カフェに来た詩人で俳優の伊達にその詩を評価され同棲するが,伊達には妻があり更に別の恋人京子がいた….
林芙美子の,カフェの女給,牛飯屋の女中,男との同棲,結婚を経て「放浪記」の出版で成功するまでの日々を中心とした物語.
何より驚くのは美人女優高峰秀子による林芙美子の造形であろう.
太く下がった眉,上目遣いのふてくされた表情,猫背で外股に歩くやや着崩した姿.その圧倒的な存在感はどうだろう.
その存在感があればこそ,カフェの女給でありながら横暴な客を罵倒してクビになり,日々の食事にも事欠きながら執筆活動をあくまでも続けるこの林芙美子という人物が,観客の胸に迫るのだろう.
助演の加藤大介,伊藤雄之助,多々良純等も懐かしい(皆故人となった).
映画のもう一つの楽しみはバックに流れる大正・昭和の唄である.
ふみ子が母からの手紙を読むシーンで流れる唄は「青葉茂れる櫻井の」.この唄は楠木正成が嫡子正行と今生の別れを告げる場の物語である.はてと思って聞いているうちに唄の後段ではたとその意味が判る.
後段のメロディに乗る2番の歌詞はこうだ.「いましはここまで来つれども,とくとく帰れ故郷へ」.ここで遠くに汽笛の音がぼーっと入る.
あるいはカフェで物思いにふけるふみ子のシーンで流れる「篭の鳥」,伊達と抱擁するシーンでの「ゴンドラの唄」,あるいは「さすらいの唄」等々,大正から昭和にかけてのこれらの歌曲が,何と効果的に使われていることだろう.
林芙美子という人物像を,優れた俳優陣を得てみごとに描いた見応えある映画.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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