独断的映画感想文:17歳の風景 少年は何を見たのか
日記:2008年6月某日
映画「17歳の風景 少年は何を見たのか」を見る.
2005年.監督:若松孝二.
出演: 柄本佑(少年),針生一郎(老人),関えつ子(老婆),小林かおり,井端珠里.
冒頭,波打ち際に置かれた自転車.車輪は砂に埋もれかけており,荒々しい波が浜辺に押し寄せる.
画面は冬の富士山に移り,その麓から自転車で駆け下りる少年.少年は東京の繁華街を抜け,ひたすら自転車をこいでやがて冬の日本海に出る.
後は海岸に沿って北上する少年.
少年は母親を殺してきたらしい.それを示唆する新聞記事,その話題を喋り合う,大学生風のラーメン屋の客3人.画面はしかしそれ以外は,ただ自転車をこぎ続ける少年を追っていくのみ.
雪の中雨の中もひたすら少年はこぎ続ける.
途上のエピソードは2つだけ.
信越線青梅川駅の待合室で出会った老人は,自分の終戦時19歳だった戦争体験を語って聞かせる.雪に埋もれた集落で足をくじいて動けなくなっていた老女は,強制連行されてから在日として過ごしてきた自分の人生を語り,朝鮮の歌を延々と歌って聴かせる.
やがて転倒して自転車も大破し,それでもそれを抱え上げて海岸に沿って進む少年.海の向こうに彼が見たものは…?
まだあどけなさの残る少年,しかしじろっと睨むと人一人殺してきた凄みのある顔だ.彼がどこに向かって何を目的に自転車をこぐのか,何の説明もない.
しかし少年のこぎ方は尋常ではない.前のめりになって憑かれた様に一心不乱にこぐ.
バックに聞こえる,ギター伴奏のみの激しい叫びの様な歌.
時に少年は道路を離れ,砂浜の波打ち際を疾走する.その姿を望遠でとらえる映像は,あたかも荒波に向かって突撃する様な迫力で,少年の悲しみと絶望の深さが胸にしみる.
映画全体が緊張感を持って表現する少年のその有り様を,観客はどう受け止めればいいのだろう.
映画にしかできないものを見ることが出来る,映画らしい映画.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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