独断的映画感想文:今宵、フィッツジェラルド劇場で
日記:2008年6月某日
映画「今宵、フィッツジェラルド劇場で」を見る(ネタバレあります).
2006年.監督:ロバート・アルトマン.
出演:メリル・ストリープ(ヨランダ・ジョンソン),リリー・トムリン(ロンダ・ジョンソン),ギャリソン・キーラー(ギャリソン・キーラー),ケヴィン・クライン(ガイ・ノワール),リンジー・ローハン(ローラ・ジョンソン),ヴァージニア・マドセン(デンジャラス・ウーマン),ジョン・C・ライリー(レフティ),マーヤ・ルドルフ(モリー),ウディ・ハレルソン(ダスティ),トミー・リー・ジョーンズ(アックスマン),メアリールイーズ・バーク(ランチレディ),L・Q・ジョーンズ(チャック・エイカーズ).
アメリカはミネソタのフィッツジェラルド劇場.そこで毎週土曜の夜行われていたラジオ番組の「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の公開中継が,その夜最終回を迎える.
いつものように司会のギャリソン・キーラーが進める番組,フォークやカントリー&ウェスタン,ゴスペルの歌手達がコントやトークをはさみながら演奏を披露する.
楽屋には謎のブロンドの美女が現れ,番組の終わる頃には劇場を買い取ったアックスマンが姿を見せる.その中でいつものように賑やかに楽しく番組を進めるスタッフや出演者達の群像劇.
この映画が気に入った最大のポイントは,演奏される音楽である.それは,僕がアメリカを嫌いになる前(つまり,ロバート・F・ケネディが暗殺される前)に耳に親しんだ,懐かしいフォークやカントリーナンバーの雰囲気をそのまま持っている曲達なのだ.
それを歌う俳優やコメディアン達の芸達者なことには感心するしかない.
メリル・ストリープとリリー・トムリンのハーモニーなど立派なものである.最も芸達者と見られるケヴィン・クラインが1曲も歌わないのは,さぞ本人が辛かったのではないか.
一人で歌い,MCをやり,即興でコマーシャルを歌い語る実在の人物ギャリソン・キーラーを,本人が演じているのも素晴らしい.
舞台には擬音専門の江戸家猫八みたいなスタッフもいて,彼を困らせようとメリル・ストリープ達が話の中に次々と奇想天外なもの(オランウータン,電気ノコギリetc)を出しては,その都度その音や鳴き声がちゃんと聞こえてくるというシーンには大笑いしてしまう.
楽屋に来た謎の美女は実は死の天使で,老齢の出演者をお迎えに来たのだが,彼女の存在も映画のテイストの一つ.
エピローグでスタッフや出演者が元劇場のお向かいにある食堂に集まっていると,この美女が入ってくる.ぎょっとして振り返る一同,ケヴィン・クラインが動揺して指を細かく動かすのが,「今度は誰が死ぬんだ,あいつか?こいつか?」と言っているようでこれも大笑い.
何とも言えぬ味のあるロバート・アルトマンの遺作.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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コメント
TBありがとう。
みんな芸達者でしたね。
でも、僕も、江戸屋猫八みたいな擬音の親父が、一番、好きでした(笑)
投稿: kimion20002000 | 2008/06/22 01:13
kimion20002000様
コメント有り難うございました.
擬音の親父良かったですね.更にその親父を皆でいじるそのいじり方が面白かった.
本当に皆芸達者.ケヴィン・クラインが1曲も歌わず踊らずなんて気の毒なことです.
投稿: ほんやら堂 | 2008/06/23 22:34
TB&コメントありがとうございました。このところ猛烈に忙しかったもので、返事が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
この映画は昨年のマイ・ベストテンでも上位に入れています。本当に楽しくまた味わい深い映画でしたね。
なんといっても音楽がいい。そしてそれを演奏し歌う役者たちがまたいい。これがアルトマンの遺作になったのが今更ながら惜しまれます。
そうそう、「江戸家猫八みたいなスタッフ」という例えには笑ってしまいました。
投稿: ゴブリン | 2008/06/25 02:05
こんばんは、TBありがとうございました。
まるで、一つの時代が終わっていくかのような感慨を残す、良作でしたね。
あの死の天使の存在がまたちょっと不思議な感じを与えて、あれも味わいの一つなんですよね。
「老人の死は悲劇ではない」
この一文、良かったですね。
投稿: とらねこ | 2008/07/06 18:37