独断的映画感想文:夜になるまえに
日記:2008年8月某日
映画「夜になるまえに」を見る.
2000年.監督:ジュリアン・シュナーベル(つい最近「潜水服は蝶の夢を見る」を見た).
出演:ハビエル・バルデム(レイナルド・アレナス),オリヴィエ・マルティネス,アンドレア・ディ・ステファノ,ジョニー・デップ,ショーン・ペン.
冒頭森を幼児を抱えて歩く女(彼の母だ).次の画面ではその幼児が真っ裸でコーラの瓶をいじって遊んでいる.
彼が遊んでいるのは村の広場に四角形に掘られた穴の底だ(何とも象徴的なシーン).
キューバの作家レイナルド・アレナスの子供時代である.映画はこの作家レイナルドの一生を描く.
1943年生まれのレイナルドは詩を書く多感な少年へと成長する.祖父は詩作を許さなかったので彼は家を出,1959年,折しもバチスタ政権との対決に入っていた反乱軍に身を投じようとするが,革命は程なく成功する.
革命の熱気の中で成長した彼は作家を志し,図書館で働きながらチャンスを待つ.
少年時代から早熟な彼は自分が女性では満足できないことを知っていて,この頃長きにわたる恋人となるぺぺと付き合うようになる.ぺぺの世話で本格的に創作に没頭するようになった彼は,やがてコンクールで次点となり作家デビューを果たす.
先輩作家レサマ・リマの指導で力をつけるが,その頃革命政権はゲイや反体制作家の取り締まりを強化,作家の転向が相次ぎ,レイナルド自身も些細な事件をきっかけに逮捕投獄され転向を迫られる….
この映画の魅力は数々あるが,最大のものは何といっても映像の魅力だろう.
冒頭のキューバの森の美しさ,またレイナルドが父親にあった場面から続く滝が奔流になり海の怒濤に連なる水の映像の素晴らしさ,しかもそれぞれのシーンが只美しいだけではなくいかにも象徴的であることが,映画の魅力を押し広げている.
俳優ではハビエル・バルデムの演技が素晴らしい.この人は本当に2004年に「海を飛ぶ夢」でラモンを演じた人と同一人物なのだろうか??若々しく自信に満ちたゲイの青年から亡命後,病のために面変わりした初老(?)の姿まで,その存在感は圧倒的だ.
見応えのある映画.
映画の最後の場面はあのキューバの村の四角い穴の底,真っ裸の幼児が泣き叫んでいる….
★★★★(★5個が満点)
コメント