独断的映画感想文:ノーカントリー
日記:2008年8月某日
映画「ノーカントリー」を見る.
2007年.監督:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン.
出演:トミー・リー・ジョーンズ(エド・トム・ベル保安官),ハビエル・バルデム(アントン・シガー),ジョシュ・ブローリン(ルウェリン・モス),ウディ・ハレルソン(カーソン・ウェルズ),ケリー・マクドナルド(カーラ・ジーン),ギャレット・ディラハント(ウェンデル),テス・ハーパー(ロレッタ・ベル),バリー・コービン(エリス),スティーヴン・ルート(ウェルズを雇う男),ロジャー・ボイス(エル・パソの保安官),ベス・グラント(カーラ・ジーンの母),アナ・リーダー(プールサイドの女).
冒頭,保安官補がボンベとエアガンを持った異相の男を逮捕する.その逮捕報告直後,保安官補は手錠のままの男に襲われ命を落とす.男アントン・シガーはパトカーを奪って姿を消した.
一方,ベトナム帰還兵のモスは,砂漠での狩猟中数台の車と多数の射殺死体を発見する.トラックの運転台には瀕死の男が未だ生きていて,水を欲しがっている.
車の荷台には大量の麻薬,近くの木陰に倒れていた男の傍らには200万ドルの現金の入った鞄.ヤクの取引がこじれて撃ち合いがあったらしい.モスはその200万ドルを持ち帰る.
その夜モスは再び出かけ,瀕死の男に水を飲ませようと現場に舞い戻る.しかし男は射殺されていた.待ち伏せていた車がモスを急追し,モスは辛くも逃れるが乗っていった車は押さえられてしまった.
時間の問題で身元の割れることを知ったモスは,妻カーラ・ジーンを実家へ帰し,自分は鞄を持ってモーテルに隠れることにする.
砂漠での殺害事件を扱った地元の保安官ベルは,見知ったモスの車を発見し,モスを保護しようとその行方を捜し始める.金とヤクを巡る両グループは互いに相争いながらモスの行方を追求し,その中でシガーは死体の山を築きながら着実にモスを追い詰めていく….
恐ろしい映画である.
映画は原作をかなり忠実に反映しているので,原作(コーマック・マッカーシー作「血と暴力の国」.原作と映画の原題は共に「NO COUNTRY FOR OLD MEN」)が恐ろしいのだが.
物語は当初サスペンスものかと思われるが,思いの他の展開を見せる.あたかも運命(その運命とはこの場合金とヤクだ)によって人々が死を迎え,その死の使いがアントン・シガーであるかのようだ.
そしてそれを見守り,物語を語っていくのが老保安官ベルであろうか.
原作の文体は極めて特徴的で(例えば会話体の表現に引用符を使わない),また作者は感情表現を行わず事実の描写だけで物語を書き進める.
その反映としてこの映画では,音楽は全編を通じ使われない.エンドタイトルの半ばになってようやく微かな音楽が流れるのみだ.
このように映画は強い緊張を維持して展開される.
不条理で理屈抜きの死をもたらす殺し屋シガーを演ずるハビエル・バルデムは圧倒的な存在感.つい先日見た「夜になるまえに」とは全く対照的な役を見事に演じている.
現代の運命劇とはこういうものかも知れないと思わせる,希有な作品.
なお,シガーが使用するエアガンは,原作によれば牛のと殺用のものである.保安官がカーラ・ジーンに話す「チャーリーの件」にそのことが触れられている.また,原題はイェーツの詩から取られており,「老人に(住むべき)国はない」という意味らしい(原作解説による).
★★★★☆(★5個が満点)
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コメント
こんにちは。
コメントありがとうございました。
ハビエル・バルデムは『コレラの時代の愛』では
主人公の少年(?)時代から老年までを
一人で演じ分けていて圧巻でした。
こちらも原作もの。
ノーベル賞作家ガルシア・マルケスです。
投稿: えい | 2008/08/15 12:00