独断的映画感想文:おくりびと
日記:2008年9月某日
映画「おくりびと」を見る.
2008年.監督:滝田洋二郎.
出演:本木雅弘(小林大悟),広末涼子(小林美香),山崎努(佐々木生栄),余貴美子(上村百合子),吉行和子(山下ツヤ子),笹野高史(平田正吉), 杉本哲太,峰岸徹,山田辰夫,橘ユキコ.
チェロ奏者小林大悟は,楽団があっけなく解散してプロの演奏者の道を諦め,故郷山形の実家に戻る.
父親は大悟が6歳の頃出奔したまま,母親は2年前に急死した.新妻美香とともに実家の廃業したスナックに落ち着いた大悟.「旅のお手伝い」という広告を見て就職したのは,納棺師という死体を清めて納棺する仕事だった.
その仕事の実情を妻に言えないまま働き始めた大悟だが,経験と共に納棺師の仕事に自信と誇りを持つようになる.
ところが妻は彼の仕事を知り,実家に帰ってしまった….
特異な世界を描いた映画だが,脚本がよく練られていて感動的な作品となった.
闘病でやつれ果てた遺体を生前の美しい姿に化粧して家族に感謝されるシークエンスや,大悟自身の父との葛藤を巡るいくつかのシークエンスは涙を誘うが,その合間に笑いを誘うエピソードが挟まれるその塩梅が絶妙で,130分とやや長尺ながら時のたつのを忘れてしまう.
俳優では本木雅弘が良い.
死者に対する誠意あふれる所作も好感が持てたし,穏やかな仕種のあいだに一瞬爆発する激情など,その演技は印象的.
山崎努は昔から大好きな俳優で,この映画でも期待通りの好演.その他余貴美子,笹野高史,吉行和子などベテランの好演に混じっての広末涼子は健闘ながらもいっぱいいっぱいの感じ.あと一つ表情があれば…という印象.
久石譲の音楽も素晴らしい.劇中たびたび流れる穏やかなモチーフは死(と旅立ち)のテーマと思われるのだが,エンドロールで流れる音楽は,その死のテーマに続いて生のテーマが爆発的に展開されまた死のテーマに戻っていくという,この映画の構造を象徴的に示したものとなっている(エンドロールは最後まで見ましょう).
ロケ地の庄内平野の光景も素晴らしい.近年,藤沢周平原作の映画で目に馴染んだ庄内の美しい風景は,この映画の背景として誠に相応しく感じられる.
生と死,挫折と再生のドラマとして,暖かさと勇気を得られる映画.見て損はなし.
★★★★☆(★5個が満点)
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